上 下
158 / 251

158

しおりを挟む


 三毛猫さんがトコトコと歩きだす。


後をついて歩いて行くとハリスさんにたどり着いた。
三毛猫さんっ! ありがとう!

「ハリスさん……」

「ノア、どうした?」

半泣きの私を見て戸惑うハリスさん……すみません……かくかくしかじか、とここまでの事を説明する。

「そうか……大変だったな。今日はもうクルクスの所へ行くか?」

でも……と言うと

「イアン様もいいと言っているし大丈夫だよ」

と微笑んでくれるハリスさん。泣いちゃいそう。

と、いう訳で三毛猫さんと寮の裏へ向かうとクルクスさんがテオにお手をしてテオがいいコだね、とクルクスさんを撫でている。

可愛い……

トマスは少し離れた所で横になっている。

私も混ぜてー、と近づいていくとクルクスさんが走ってきてくれた。

「クルクスさん!」

しゃがんでバッと腕をひろげるとクルクスさんは私の横を通りすぎて三毛猫さんの元へ……
テオが向こうを向いて肩を震わせている……珍しい……トマスは横になったまま笑い転げている。

ま……まぁいい……二人には見えていないけれど三毛猫さんとじゃれ合っている姿が可愛い。

それからお茶会が終わるまで三毛猫さんとクルクスさんとトマスとテオと一緒に過ごした。

お客様が帰ってからもう一度クルクスさんをトマスとテオにお願いして会場の片付けのお手伝いをしに行く。

アルとイーサンに会うと

「ノア、大変だったみたいだな」

と、気の毒そうに笑われた。

セオドアに会うと

「ノア、さすがだな」

と、普通に笑われた。

片付けが終わりクルクスさんをリアム様の元へ連れて行って寮へ戻ろうとした所でハリスさんとセドリックさんに声を掛けられた。

「ノア、お疲れ様。これを持っていくといい」

と、お菓子がたくさん入ったバスケットを渡された。

「焼き菓子は日持ちがするから一度にたくさん食べ過ぎないようにするのだよ」

セドリックさんに頭を撫でられる。子供じゃないのだけれど……

「ありがとうございます。友達と一緒にいただきます」

「友達?」

と、首をかしげるセドリックさん。

「はい。レクラス王国に着いた時からお世話になっている街の宿屋と服屋の友達です」

「それでは次の休みは街へ行くのかな」

「はい!」


という訳で休日、私はバスケットを持って街へと出てきた。
このお菓子を見たらマーサがすごく喜んでくれそう。想像すると頬が緩む。

鉄の鍵へ向かいながらお茶会でのご令嬢達の話を思い出す。

街の中にはやっぱり行方不明者の張り紙が多い……家族なのか恋人なのか道行く人に紙を見せて見たことはないかと必死に聞いて回っている人もいる……

旅行者だけではなく街の人もいなくなり始めた……と言っていた……一体何が……と考えながら歩いていると肩を掴まれた。
驚いて振り向くと

「ノアッ! マーサを見なかったか!?」

「ウィル!? どうしたの? マーサが……なに?」

嫌な感じがする……

「マーサがいないんだっどこにもいないんだよっ!」

「ウィル……痛い……落ち着いて」

肩を強く掴まれてそう言うとウィルは手を離し、すまない……と少し落ち着いてくれた。

「ウィル、マーサがどうしたの?」

ウィルを見るといつものふざけた感じはなく目の下には隈が……髭も少し伸びていてすごく必死な様子……

「マーサが……いないんだ……どこにも……ずっと探しているけど見つからないんだよ……」

そう言ってポロポロと泣き出してしまった。

ひとまず落ち着いて話せる場所を探してウィルを座らせる。
ちょっと待っていて、と言い屋台で飲み物を買って戻る。

バスケットのお菓子も食べさせて落ち着いてもらう。

「マーサがいないっていつから?」

聞くのが怖い……

「一週間前……いつも通り買い物に出たまま暗くなっても戻らない、とルークが俺の店に来て……」

一週間も……

「ルークはどこにいるの?」

「宿には客がいるから……おやじさんがなるべく仕事に出ている。おかみさんが……心労で体調を崩して……ルークもマーサを探しているけど宿やおかみさんのこともあるしおやじさんも年だし……」

「ウィルは? お店は大丈夫なの?」

「俺は……弟がいるから……大丈夫だ」

それじゃぁウィルはほとんど一人で……とにかくルークにも話を聞かなければ。

「ウィル、一緒にルークの所へ行こう」

ウィルには少し休んでもらわないと……

「あぁ……ノアッ……俺はどうしたら……」

そう言って再び泣き出してしまったウィルが落ち着くのを待ってから鉄の鍵へ向かう。

「ルーク……」

宿屋に入りルークを見つける。疲れている……眠れないのかウィルと同じように目の下に隈が……

「ノア……ウィル……」

「ルーク、ウィルから聞いた。マーサが……」

詳しく聞かせて欲しい、と言いその間ウィルにはソファーで休んでもらう。

「一週間前の午後マーサは買い出しに出たんだ。いつも行っているし日の出ている時間だからこんなことになるなんて……っ」

確かに、私が初めてこの街についてマーサに助けられた時も一人で買い出しをしていた帰りだった。

「帰りが遅いから荷物が増えて困っているのかも、と思って迎えにいったのにいつも通っている道にはいなくて……店の人に聞いたら買い物をして帰ったと言うし……」

マーサを見なかったか来た道を戻りながら尋ね歩いたが誰も見ていない……と。
まだ明るい時間に人通りの少なくない道で何かがあったとしたら誰も見ていないって……おかしい。

それにこれだけ行方不明者が出ているのに国は何か手を打たないのだろうか……

とにかく、マーサや行方不明になった人達を探さなければ。……でもどうやって……何でもいいから手がかりが欲しい。

明るい時間で人通りもある道で何かがあっても目撃者がいないという事は……マーサがいつもとは違う道を通ったか……人通りの少ない道へ自ら入って行ったか……どうしてそうしたかがわからないと進まない。

「マーサは出かける時に何か言っていなかった? どこかに寄るとか……」

ルークが首をふる。

「街にこれまでの行方不明者で見つかった人はいる?」

また首をふる。いないのか……これでは何もわからない。

「わかった。私も帰って旦那様方に聞いてみる。行方不明者の事は貴族の方々も調べているだろうから何か聞けるかもしれない」

そう言ってルークにバスケットを預けて宿を出る。
お屋敷へ戻りセオドアを探す。レクラス王国に着いてお城に滞在している時に何か聞いていないか確認するために。

セオドアを見つけて聞きたいことがある、と人のいない場所に連れていく。

三毛猫さんがどこからかトコトコとやって来て私の足元に座る。

セオドアがどうしたの? と驚いている。

「セオドア、レクラスのお城でこの国で行方不明になった人達の事を何か聞いていない?」

そう聞いた瞬間レオンから王族のセオドアに表情が変わった。

「何かあったのか?」

「友達が……この街に着いた時に私を助けてくれた宿屋の女の子が一週間前から帰っていないらしくて……」

「……この国で行方不明者が増えていることは知っている。国も調査はしていると言っていた」

「どこまでわかっているの? 行方不明者の居場所は?」

「トーカ、この国の事はこの国の者に任せた方がいい」

……そうかもしれないけれどジッとしていられない……

「……行方不明になった人達は生きている……?」

「……わからない……」

……そう………………結界を張る。

「トーカッ」


セオドアが呼ぶのを無視して私は三毛猫さんと一緒に飛び立った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...