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大切な人達はいる。

けれど、恋………………

顔が熱くなる。きっと顔が赤い。
そんな私を見てメアリが優しく微笑む。

「え……とメアリはいるの? 好きな人とかお付き合いをしている人……」

メアリがフフフッと笑い

「それじゃぁこのお話はノアが旅から帰ってきた時にまたしましょう。それまで自分の気持ちと向き合って整理してみるの」

本当の事を言うとね、とメアリが続ける。

「ノアを見ているといつも一人で頑張っているような……一人で頑張らなきゃいけないと気を張っているような気がして……もしも大切に思うような人がいるなら、それが恋ならその気持ちを大切にして欲しいの」

確かにこの世界に来たばかりの頃、私はこの世界に慣れることに必死だった。

この世界からも突然消えるかもしれないとか……もしかしたら……を考えるとキリがないのもわかっている。

この世界で生きていくと決めてもいるから初めの頃に比べたら肩の力はだいぶ抜けているはずだけれどメアリは心配してくれている。

「メアリ、ありがとう」

そう言うとメアリが優しく微笑む。

「お茶が冷めちゃうわ。ケーキも美味しそうよ」

ケーキを食べながらお城のお茶会に出るお菓子のお話やご令嬢やご令息、街の人達の流行りの服装や髪型のお話をした。

楽しい時間はあっという間に過ぎていき私達はお城の使用人棟へ戻った。

それから別の日に私はもう一度街へ行き、メアリが教えてくれた洋服屋さんでレクラス王国で着るための服を数着買った。

西へ向かう前に王妃様に街でもザイダイバに行ってみたいという人がたくさんいた事をお伝えして、ツアーを組んでみてはどうかと提案させてもらった。

ツアーの日程などをいろいろな人に提案してもらうのもいいと思うしいくつか旅行会社を作るのもいいかもしれない。

同じ日程の旅行者を集めて馬車を借りたり宿を取れば一人一人の負担を軽く出来るかもしれない。

リアザイアから旅行者を載せた馬車でザイダイバの物を買い付けて持って帰り、旅行者はザイダイバの馬車でリアザイアに帰り、ザイダイバの馬車はリアザイアの物を買い付けて帰るということもお互いの国で出来たりするかも。

王妃様は早速商人やこれから商売を始めようと考えている人達に話してみるわ、と言ってくれた。


それから改めて皆さんに行ってきます、とご挨拶をして山の家に帰りレクラス王国へ向かう準備を始める。と、言ってもいつも通りマジックバッグがあるしすぐに帰って来れるから着替えるくらいしか準備はない。

「三毛猫さん、一緒に行ってみる?」

「ニャン」

おぉ、一緒に来てくれるの?

三毛猫さんにもフライをかけて空からレクラス王国を目指す。

天気が良くて気持ちがいい。三毛猫さんもご機嫌だ。

レクラス王国の王都が見えてくる。

そろそろ降りて歩いてみようかと思い王都へ続く道を何気なく見てみる。少し離れたところに馬車が一台王都へ向かっているからその馬車が通り過ぎてから降りようかと考えていると……道の脇の草むらに何かが横たわっているように見えた。

気になって近づいて見ると……黒っぽい犬?

まさか馬車に跳ねられたりしてないよね……?

姿が見えないと怖がるかと思い草むらにかがみ私の結界だけ解いてからさらに近づいてみる。

三毛猫さんも足元をトコトコと歩いて黒いフワフワの毛に鼻を近づけている。

どうやら寝ているだけのようだけれどまだ子犬なのに親犬さんはどうしたのだろう? 周りを見回してもこの子しかいないみたい。

プ――…………プ――…………と寝息が聞こえてくる……

可愛いねぇ、無防備だねぇ……連れて帰ってもいいですか。

親犬さんもいないようだし誘拐にはならないはず……
それにしても全然起きない……

ここで私は今まで思っていたことをこの子を見ながら考える。

ネコはネコさん。だけど、イヌはイヌさんとはあまり言わないような気がする。

ネコちゃんと聞くことは多いけれどイヌちゃんとはあまり言わない。

だから私はとりあえずこう呼ぼうと思う。

「ワンさん」

「おい! 勝手に変な名前を付けるなっ」

「えっ!?」

後ろから声が聞こえて振り向くと男の子がいる……少し離れたところにはさっき見えた馬車がとまっている。

「その子の名前はクルクスだ。カッコいいだろう」

男の子は自慢げに言っているけれど……

名前を呼ばれてようやく起き上がったクルクスさんはぬいぐるみみたいにフワフワな毛とボタンみたいな目と鼻のカッコいいと言うより可愛い……コロって感じのワンさんだった。

それにしてもよその家の子だったか……残念。

とりあえず、

「カッコいいね」

と言うと男の子のご機嫌が少し良くなったみたい。

クルクスさんは私の足元にいる結界で姿の見えない三毛猫さんを不思議そうに探していて思わず微笑んでしまう。

「珍しいな、クルクスが自分から僕以外の人に近づくなんて……」

私じゃなくて三毛猫さんになんだけどなぁ……

「リアム様!」

男の子の後ろから……従者かな? 男性が二人現れた。
そうかなと思ったけれどやっぱり貴族か。

二人が現れたとたんクルクスさんが私の足元で唸り声をあげる。
本当にリアムという男の子にしか懐いていないのかもしれない。

唸っているクルクスさんを落ち着かせようとしゃがんで手を差し出してみる。

クルクスさんはクゥーーンと鳴いて大人しく撫でさせてくれた。
ふと三毛猫さんを見るとクルクスさんを……睨んでいる!?

……いつも私を助けてくれる三毛猫さん……
今もまた……その手を咬んだらどうなるかわかっているよニャァ? と聞こえて来そうな目をしている……

ありがとう三毛猫さん……でもほら、すごく怯えているし……震えているし……ね?

クルクスさんには三毛猫さんが見えていないから気配だけで余計に怖いのかも。

三毛猫さんをクルクスさんに見えるようにしなければ……良かれと思ってそうしたのに……クルクスさんは固まってしまった…………

「おぉっ……お前は何者だ? クルクスがリアム様以外に懐くなんて」

従者二人が驚いている。私もびっくりですよ、懐いているように見えるかな……
そして私は何者でもないのですよ。

「私はノアと申します。旅をしている者です。これからレクラス王国の王都へ行くところです」

ちなみにノアと言う名前は男女共に付けられる名前だとメアリに聞いたので今回もノアと名乗ることにした。

「そうか。私はアルバート、こちらはイーサン。私達はこちらにおられるダンストン伯爵家のご子息、リアム・ダンストン様にお仕えする者だ」

二人は視線を交わしてから私をみる。

「王都へはどれくらい滞在する予定なのだ? 宿は取ってあるのか?」

「どれくらい滞在するかも宿もまだ決めていませんが街で仕事を探すつもりです」

「リアム様、この者を雇ってはいかがですか? クルクスの世話が出来る者はそういないですよ」

クルクスさんのお世話が出来るのは嬉しいけれど、とりあえず街へ行ってみたい。
お断りして街へ行ってみよう。

「おいお前、うちで雇ってもいいぞ」

リアム様がそう言うけれど……生意気そうだな。

「お断りします。日が暮れる前に宿も決めたいのでこれで失礼いたします」

そう言うとリアム様は固まってしまった。
その隙に私は街へ向かって歩き出す。

「お、おい待てっ」

「おい小僧!」

私はこの言葉にホッとした。


良かった……ちゃんと男性に見えるみたい。


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