上 下
125 / 251

125

しおりを挟む


 「エリアス陛下、無理なお願いを聞いてくださりありがとうございます」


きっと……嫌な思いもしたかもしれない。
温泉の街を作るためにたくさんの貴族や街の人達に会ったはずだし……

「シュゼットもいてくれたからね。それに案外皆見慣れるのも早かったよ」

そう言って微笑むエリアス陛下の頬には黒く変色した血管がツタのように浮いている。

皆さんが見慣れるのが早かったのはきっとエリアス陛下の人柄の良さも大きいと思うけれど……
その美しさから取っ付きにくそうな印象だけれどお話をすると気さくな感じもするし人の意見も立ち止まりしっかりと聞いてくれる。

だから今回の温泉の街づくりでエリアス陛下に関わった街の人達は好感度がかなり上がったに違いない。

シュゼット様も同行した際はいろいろと質問をしたり意見を交わしたりしたらしいのでこちらもちゃんと国民の事を考えてくれるいい王妃様になると印象付いた事だろう。

前まで流れていたわがまま令嬢という噂で植え付けられた先入観を払拭することができたと思う。

何よりエリアス陛下のお顔の事を全く気にせず陛下を見つめるシュゼット様の様子に……それだけで噂はデマだったと思ったに違いない。


各国からも招待客が集まりエリアス陛下の顔を見ては驚いたり気の毒そうな視線を向けられたりしていたらしいけれど、エリアス陛下は微笑み耐えてくれた。

シュゼット様にも辛い思いをさせてしまったと思う。

それでも私の願いを約束を守ってくれた……


結婚式当日。


女性達は朝早くから準備を始める。
私も例の如くフルコースで全身ピカピカ。
気持ちよくて後半はほとんど寝てしまっていた。

王妃様と選んだドレスは淡いミントグリーンのドレス。
コルセットはいつも通り締めすぎないようにお願いした。

三毛猫さんの前にリボンを並べると今回は赤いリボンを選んだので結んであげて撫でまわす。

三毛猫さんとリアザイアの皆さんの元へ行く。

ノックをしてお部屋へ入ると皆さん正装で……ゴージャスがゴージャスでゴージャスだ。
つまりゴージャス。これしか出てこない……

私……派手かなって思っていたけれど大丈夫だったみたい……
どうりでドレス選びからアクセサリー選びまでやたらと王妃様がアレもコレもといろいろ買おうとしていた訳だ。

ふと三毛猫さんを見るとリボンがよく見えるように胸を張っている。
皆さーん! うちの三毛猫さん誉めてあげて下さーい!

こんなに豪華なメンバーに1本のリボンを誉めてもらい満足げな三毛猫さん……愛おしい……


ノバルトがエスコートをしてくれて、移動しながらザックリと今日の流れを教えてくれる。

結婚式はお城で執り行われ、バルコニーからエリアス陛下とシュゼット様が国民に手を振りその後王都の大通りでパレードが行われるらしい。

他国からの王族も来ているので公の場では私はリアザイアの皆さんとは離れたところに紛れ込む。

結婚式に参列してから私と三毛猫さんは結界で姿を消してフワリとお城の上空まで飛んでいく。
天気がよくて気持ちがいい。

お城の外には国民がお祝いに集まりものすごい人。

三毛猫さんを撫でながら待っているとざわめきが拍手に代わる。

バルコニーを見るとエリアス陛下と王妃になられたシュゼット様が国民に手を振っている。
みんなに祝福されてお二人ともとても幸せそう。


さて、

「物語を現実のものにしようか」

「ニャン」


三毛猫さんを撫でて一緒にバルコニーまで飛んでいく。

そして私がお願いしたもう一つの事……


お二人が向かい合い優しく微笑みキスをする。


私はその瞬間ヒールをかける。

服や髪がキラキラとした光の粒と共にフワリ、と舞う。

お二人の美しさも相まって神秘的なその様子に国民や近くで見ていた他国の王族貴族達は息をのむ。

キラキラとした光の粒が風と共に消え全員がお二人に注目するとざわめきが広がり、やがて歓声に変わった。


エリアス陛下の呪いが解けたのだ。


真実の愛の口付け。
子供の頃、ほとんどの人が読み大人になっても好きな話の一つだと言う人がたくさんいるお話。

不思議なことに元の世界でも同じような物語はあった。
リアザイア王国から伝わり各国に拡がっていったというお話。

パレードが始まり馬車から国民に手を振るエリアス陛下に呪いの跡は一欠片も残ってはいない。

この現実を多くの人に見てもらうこと、他国のより地位の高い方々にこの現象を見てもらうことに意味があった。


これからこの国の……ザイダイバの印象は大きく変わる。


たくさんの人達が他国からも来るようになり風通しもよくなる。新しい商売を始める者や、様々な国の人達が集まり協力して新しい事業を始める者もいるかもしれない。

国が潤い、またたくさんの思惑が渦巻くようになるかもしれない。
けれど、この物語が……多くの人々が目の当たりにし現実に起こったこの奇跡が語り継がれていけばきっと大丈夫な気がする。

呪いさえ打ち破った大きな愛を、愛する力をもつお二人に愛されるこの国と民。


エリアス陛下とシュゼット王妃の物語はこれから世界へ拡がっていくだろう。



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

召喚幼女は魔王さま!〜ルルはかわいいなかまとへいわなせかいをめざしたい〜

白夢
ファンタジー
 マイペースな幼女が、魔物たちと一緒にほのぼのと平和な世界を取り戻す物語。完結。  ある洞窟の中で行われた、魔王召喚の儀にて。  ルルは魔王として、そこに召喚された巻き角の幼女。  しかし、その後まもなく、ルルを召喚した一団は、全滅してしまう。    一人取り残されたルルは、その後現れた魔物のジャックと共に、長い間二人きりで生活していた。  そんなある日、突然騒ぎ始めたジャックに誘われるがままにルルが洞窟から外を見ると、  ボロボロになった白いドラゴンが、森へと落ちていくところだった…… ーーー  大きなツノを持つモコモコの魔物、ジャック。  自称勇者に追われる、白いドラゴン。  ぽんぽん跳ねるぽよぽよスライムなど、楽しい仲間が色々います。    ファンタジーな世界で、可愛い頭脳派?幼女が、ちいさな仲間たちと人類を蹂躙し追放する、ほのぼの支配者シフトシナリオを目指しました。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...