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 視界を妨げるモヤは城下町の辺りで消して、周りを見えるようにした。周りからはみえないけどね。

ノシュカトは、まだ怖いのか私に抱きついたままなんだけど……途中から怖がっているわけではないような気がしてきた。
飛ぶのは初めてだし何となく何かに掴まっていたい感じなんだろうな。また誰かと飛ぶことがあるかも知れないからなにかいい方法を考えておいた方がいいかも。

お城が近づいてくる。

まずは昨日と同じようにノバルトのいた部屋のバルコニーに降りるとノシュカトがようやく離してくれた。

まだ小雨が降っているので窓は閉まっている。中を覗いてみるとノバルトと目が合う。

だから何で!? まだ結界を解いてないんだけど!

こちらへ歩いて来る。今部屋には彼1人らしい。

窓が開く。

「トウカ、来てくれてありがとう。入って」

やっぱり彼も何かしらの能力を持っているのかな? よくわからなくて少しこわいよ……

部屋に入り2人の結界を解く。

ノバルトはノシュカトの姿を見ると……何か……何というかお兄ちゃんの顔になった。

「ノシュカト、無事帰って来てくれて良かった」

ノシュカトを抱きしめている。

「心配かけてすみません。ノヴァルト兄上」

本当に良かった。

すると今度はノバルトがこちらに来て私を抱きしめる。

「トウカ、本当にありがとう」

耳元で囁かないで欲しい。弱いんだって。

「無事に弟さんを連れてこられて良かったです。色々と説明をしたいので、急な事で申し訳ないのですが、本日はご家族皆様と騎士団長のオリバーはお城にいらっしゃいますか?」

「揃っているよ。トウカはオリバーとも知り合いなのだね。今日話ができるか確認しよう」

さすが話が早い。

私とノシュカトは一度執務室の奥の部屋に通される。ここは……ノバルトの寝室? にしては狭いような……

「ここはノヴァルト兄上の仮眠室のようなところだよ。使用人の誰かを呼んで両親ともう1人の兄上それからオリバーに予定の確認をして来てもらうんだ。だからこんなところで申し訳ないけれど少し隠れていてください」

「仮眠室……ですか。お仕事忙しいのですね。急に来てしまったのはこちらなので私はどこでも構いませんよ」

少ししてノバルトに呼ばれ執務室に戻る。

「今夜ならば皆時間を作れるそうだ……」

「では、私は一度家へ戻り夕食が終わる頃にまた伺います」

「……そうか夕食を一緒にと思ったが……部屋を用意するのでこのまま城で待っていてくれてもいいのだが」

「ありがとうございます。でも三毛猫さんとキツネさん達と一緒に家で食べてから参ります」

「わかった。ではその間、ノシュカトに何があったのか聞いておこう」

「はい。よろしくお願いします。それでは一度戻ります。昨日お邪魔した頃にまた伺います。ノシュカトもまた後でね」

窓を開けて結界を張る。雨はほとんど止んでいる。フワリと浮き、山の家へ向かう。

途中で日の光が差してくる。5日振りの明るさに植物達も喜んでいるよう。

この世界に来てからまだ1週間くらいしか経っていないのかぁ……

色々ありすぎじゃない? 結局王族と関わろうとしているし……でもわからないことだらけのこの世界で王族の後ろ楯を得られればこれ以上ない程心強い。

ただあの場所で静かに暮らしたいだけなんだけどね。
他の国があるなら旅行もしてみたいし。

まずは私の事を話さなければいけないけれど……この世界に魔法が無いのなら、私は「誰か」やどこかの「国」に肩入れするべきではないのかも知れない。

私自身が戦争の火種になりかねない。
そう考えるとやはり王族に関わるのはためらわれる。

けれど説明も無しに姿を消すとおそらくその瞬間から逃亡生活が始まるだろう……もう王子三兄弟には私が魔法を使うところを見られているのだから……

やっぱり腹を括るしかない。

万が一私を利用しようとするのならこの国を出ていく。

そんな事を考えていたらいつの間にか家に帰ってきていた。熊さんが遊びに来ている。


 ふぅ……


良かった……お城の夕食を断れて。

私は知っている。

異世界モノのたくさんの作者様こと神様が教えてくれた。

あのままあそこにいたら身ぐるみ剥がされ身体を数名のメイドに洗われマッサージを施されコルセットで締め上げられ動きにくいドレスを着せられてお化粧と髪をセットされ結局ご馳走を目の前にしてあまり食べられないことを……

私は三毛猫さん達と美味しくご飯を頂いて、自分の服でお城に向かうのだ。

「今日も外でみんなで食べようねぇ」

「ニャーン」

いそいそと東屋に夕食を運ぶ。
みんなでいただきますをして食べ始める。

「お城の人達に私の事を知ってもらうのは良いことなのかなぁ……」

「ニャウ?」

「もう行くしかないんだけどさ。どうなっても三毛猫さんはついてきてくれる?」 

「ニャン」

フフフッありがとう三毛猫さん。

でもやっぱり出来ればここを離れたくないなぁ。

そう思いながらもお城に行く準備をする。といっても特に何もないんだけど。

この世界に来る前に仕事で着ていた白いシフォンのブラウスに黒のフレアスカート、ストッキングにペタンコ靴、髪も特に何もしない。

異世界なんて突拍子もない話をするのだからこの格好の方がいいと思った。
スカートの丈だけ……膝下だけどこの世界では短いと思われそう……
まぁいいか。着るのは今夜この話をするときだけだし。

キツネさん達を撫で、行ってくるねと三毛猫さんをギュッと抱き締めて外に出る。

雨は止んでいる。


魔獣化してしまったコたちがいる。

ボロボロでずぶ濡れで余計に哀れにみえてしまう。

7体いる。可哀相に……近くまで行きみんなを包むようなイメージをする。

みんなの気持ちが流れてきてまた泣いてしまう。

ごめんね……キラキラと光に包まれ一瞬元の可愛い姿に戻ると光と共に消えていく。


それでも涙は止まらなくて、私は泣きながらお城へと向かった…………


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