2 / 251
2
しおりを挟むさっきまで、真っ暗で何も聞こえず感じもしなかったのに、突然強い風が吹き、纏めていた髪がほどけた。
髪が長く量も多いので無理やり纏めて留めていたが、とうとう長年愛用していた髪留めが壊れてしまった。
星が散りばめられたようなデザインで気に入っていたのに
何処かへ飛ばされてしまった。悲しい。
纏めていた髪は直毛なのでほどけても真っ直ぐサラサラ。
仕事終りにもかかわらずシャンプーのいい匂いがするなぁと呑気に思ってしまったのは驚き過ぎて現実逃避という悪い癖が出てしまったから。
けれど、次の瞬間視界が開けて私は頭をフル回転させなければならなくなった。
それと同時に着地した感覚があったのに何故か高いところにいる。
真っ暗から夜の月明かりの明るさになった。
そして、気がついた。
私の周りの空気? がダイヤモンドダストのように細かくキラキラしている。
でも、そんなことに構っていられないこの状況。
「ひぇっ」 記念すべき一言目。
ここどこ!? 周りを見渡すと塔? というかお城!? の屋根が下に見える。
どうやらこのお城のような建物の一番高い三角屋根のてっぺんにつま先立ちしているようだ。
なんで!? まずい! 風が強いしバランスが取れない! 落ちる!!
と思った瞬間私は走り出した。 ダッシュだ。
結局バランスを崩して1歩を踏み出してしまった。
こうなったら走るしかない。
あまりのスピードに足がついていけず転びそうになりながら必死に足を動かした。
どちらにしろ屋根がどこまでも続いているわけはなく終わりが見えてくる。
このスピードでは止まることはできないし屋根の端にしがみつくこともできない。
だから屋根が途切れる瞬間、私は跳んだ。
それはもう走り幅跳びの選手がごとくスピードを利用して踏切ってできるだけ、遠くへ!
気持ちいい!! 空中を3歩くらい歩けた手応えがあった!
なぜそうしたのか、どうしようもない状況の中現実から目を背けつつ足掻いた結果、ただ落ちて行くのが怖かったのだ。
人生で一番の大ジャンプを披露したその後、奇跡なんて起こるはずもなく私は私の周りのキラキラと共に頭から落下していくのだった。
異世界ならそろそろ神様とかお助けキャラが登場してもいいんじゃないかなぁ……とか思いながら。
確実に死んでしまう高さからの落下なのに気絶できるわけでもなかった。
未だにどうにかならないかと考えながら落ちていると、バルコニーが見えてきた。
大怪我はするけど助かるかもしれない。
でも、人生一番の大ジャンプのお陰でぶつかることはなさそう。どちらが良かったのかわからない。
バルコニーに人が出てくるのが見えた。
落ちる私を見てしまうのは相当怖いのでは……
トラウマになってしまうのではないかと、いろいろ考えてしまう。
助けを求めることよりも如何に相手を怖がらせないかを考えてしまう。
自分の状況はさておき、人の事を思いやれる大人なのだ私は。
しかし……これはかなりのホラーだ。
どうしよう、どうしようもないけどどうしよう……
バルコニーにいる人物と目が合った。
その瞬間、私は満面の笑みを浮かべて小さく手を振った。
そして落ちていく。
何か……王子っぽかった。
一瞬でもわかるおロイヤルなオーラのあるイケメンだった。
驚いた顔をしていたけど大丈夫だったかな……少しでも怖くないようにと思ってとっさに笑って手を振ってみたけどそれはそれで怖かったかも。
しかし王子って。このお城風な建物とかやっぱり異世界なの?それともタイムトリップしてしまって時代が違うの?それなら何故日本では……殿ではないのか……考えている間も落下中である。
とにかく、人生最後に目があったのがあんなイケメンで良かった。
生きているのか死んでいるのかもよくわからないけど、きっと地面に着いたら終わりだろう。
そう覚悟を決めた時また強い風が吹いた。
目をつぶると一瞬の浮遊感の後、地面に座り込んでいた。
恐る恐る目を開けるとさっきまでとは全然違う景色。
転落死は免れたようだけど……森。
お城は? 王子は? 鞄斜め掛けしておいて良かった。偉いぞ自分!
振り出しに戻るようだが、一旦落ち着こう。
どうやってかわからないけれど森に移動したみたい。
私の周りのキラキラもここにきてから徐々に消えていった。
神様説明プリーズ。神様じゃなくてもいい。
誰かわかる人ぉ――――――――――!
5
お気に入りに追加
1,173
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
私、異世界で監禁されました!?
星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。
暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。
『ここ、どこ?』
声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。
今、全ての歯車が動き出す。
片翼シリーズ第一弾の作品です。
続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ!
溺愛は結構後半です。
なろうでも公開してます。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
最強の英雄は幼馴染を守りたい
なつめ猫
ファンタジー
異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。
そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる