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34 連絡
しおりを挟むーー ルウ ーー
みんなの魔力が戻り行動範囲が広がった。
城、街、研究所、森。
城にはまだ僕達の代わりはいないらしい。
街には相変わらず騎士団がいるし、研究所に協力しているという魔族もまだ現れない。
ところがある日、レトとアレスから研究所のエイダンがいなくなったと報告があった。
研究所へ行くと騒ぎになっていて、どうやら魔族がなかなか研究所に来ないことに痺れを切らして魔獣を捕らえに一人で森へ行ったのだろう、ということらしい。
魔道具をいくつか持って夜中に出たから気がつくのが遅れた……
けれどもこれはいい機会だ。
「殺そう」
みんなも頷く。
森で迷って死んでしまったように見せかけることができれば余計な騒ぎにもならないし警戒もされずにこれまで通り動く事ができる。
今まではハルを一人にすることはなかったけれど、みんなで探せばすぐに見つかるだろう……
殺してすぐに戻ろう、そう思って森へ入ったのだが……考えが甘かった。
エイダンは魔道具を使って僕達が思っていたよりも早く移動していたようだ。
それに魔獣のいるこの森ではエイダンの魔力を探ることも難しかった。
日が傾いてきても見つけることができなかったが、研究所にもまだ戻っていないということだったので一度家に帰ることにした。
ハル…………
家に帰り思わず頭を抱えてしまった。
「何でアイツがここにいるのよ」
ロゼッタが僕を睨みミアは怯えている。
「ハルは森へ行ったのか」
彼だけでこの家に辿り着けるとも思えない、とアレスが推察する。
「ハ、ハル……が連れてきたってこ、こと?」
レトの言う通り……そうなのだろう……
「ハルは大丈夫?」
グレンが心配する……
エイダンがどういう人間でどの様な魔族の特色を持っているのかがわからないからなんとも言えない。
「どうせ森で倒れているのを拾ったんだろ? ルシエルのことも拾ったらしいしな」
とライオスが呆れ気味に言う。
おそらくそうなのだろう。
「僕が様子を見てくる」
みんなの家は見えていないからそちらで待機してもらう。
ハル……エイダンと知り合ってしまった……
だが、もう会うこともないだろう。
まずはどのような状況なのかを把握しなければ。
家の中に入ると二人の話し声が聞こえてくる。
僕のハルと僕達の家で二人きりになるなんて許せない。
イライラしながらも話を聞いているとどうやらエイダンの魔道具の魔力が残りわずかとなってしまっているようだ。
しばらく研究所でのエイダンを見ていたが、何かに夢中になると周りが見えなくなるあの性格では帰れなくなるのも納得できる。
それに……おそらく彼の僅かな魔力でも魔石に補充することはできるのだろう。
ただ、時間はかかりそうだ。
移動できるようになるまで安全な場所にいたい、ということか。
優しいハルはうちへ来るよう言ったのだろう。
結界は張っているが……ハルから手を差し伸べた……
彼がハルを傷付けることはないかもしれないが僕達の家にいることが許せない。
それどころか……泊まるだと……
彼が風呂に向かいハルが一人になったが……今夜はこのまま姿を見せない方がいいのかもしれない。
ハルは嘘が下手だ……視線や態度に出てしまう。
僕がいるのにいないふりをすることは出来ないだろう。
今夜はこのまま様子を…………
「ルウ……」
見えていないのに名前を呼ばれ驚いてハルを見ると泣いている……
「ハル……」
すぐにハルに僕が見えるようにする。
ハルを抱き締めると少し震えていた。
僕が帰って来ないから不安になったのか……
なんて……愛おしいのだ……
ハルが僕を見上げて姿を消していたのかと聞くので知らない人がいるから、と答えておく。
ハルは勝手に連れてきたことを謝るけれど、僕はそんなハルに救われた。
だからハルが変わる必要はない。
僕が周りを変えていく。
ハルはハルのまま……そのままで……
側にいると伝えて僕の魔力を込めた魔石を嵌めたネックレスをハルに着けてあげた。
今夜は隣の家で寝るとハルには言ったが姿を消してこのままハルの側にいよう。
エイダンが風呂から戻って来るとハルは彼を暖炉の前に座らせた。
まさか髪を乾かしてやるつもりではないだろうな……と不安になったがハルはちゃんと髪を乾かすように、と言っただけだった。
お風呂上がりのお茶をいれて、暖炉の前に座っているエイダンの前に置くとハルも風呂へ向かった。
僕も風呂へ行ってハルと一緒に入りたかったが一人になったエイダンの様子を見ることにした。
エイダンは暖炉の前で鞄の中身を出し始めた。
移動用の魔道具、方位を示す魔道具、連絡用の魔道具、簡易的な結界の張れる魔道具……貴族にしか手に入らないような高価な物から街で使われているようなものまで乱雑に鞄に入っていた。
その中にあったマカラシャの複製品……
魔獣を見つけたら嵌めて連れ帰る気だったのだろう。
エイダンがそれを手に取りジッと見つめる。
「ハル……」
なぜそれを見ながらハルの名前を呟く……
魔力の無い人間に嵌めたところで意味がないことは彼が一番よくわかっているはずだ。
「いや……首輪の方が……」
ただ一生外せなくなる……だけ……で…………
コイツッ!!
どういうつもりだ?
マカラシャを嵌められたとしてもハルは外せる、そうわかっていても腹立たしい。
「楽しそうだね」
ハルが風呂から出てきた。
「そうかな?」
マカラシャの複製品をそっと鞄にしまいながらエイダンがハルを見る。
「うん、笑っていたよ」
お茶を持ってハルもエイダンの隣に座る。近くないか?
「うわぁ、魔道具をたくさん持っているんだね」
これは何? と無邪気に聞くハルが可愛い。
聞いている相手は気に入らないが。
「移動用の魔道具だよ。短距離で低空だけれど浮くことができるから普通に歩くよりも長距離の移動ができるんだ」
「ん? 短距離で長距離?」
ハル……少しのぼせているのか……
「簡単に言うと歩幅が大きくなるんだよ」
あぁ! と納得するハルをクスクスと笑いながら見つめるエイダン。
そんなエイダンをハルも見つめ……首を傾げる。
「どうかした?」
「今一瞬……」
何でもない、アハハ、と笑うハル……何だ?
「この魔道具が使えなくなってしまったのね」
うん、と頷くエイダン。
「直せるとは思うのだけれど、数日はかかるかもしれない」
エイダンの魔力ではそれくらいかかるだろうな。
ハルがキョロキョロと視線を走らせる。
僕を探しているのか…………そして隣の家の方に手を合わせる。
何をしているのだ? エイダンもそう思っているような表情だ。
まさか……
「直るまでここにいるといいよ」
言ってしまった……
「いいのか?」
「うん、まさか森に放り出すわけにもいかないしね」
そんな奴、放り出しても大丈夫だ。
「ありがとう、ハル。助かるよ」
困ったときはお互い様、と笑うハルに
「そうだ、これを持っていて」
と魔道具を一つ渡す。
「? なに? これ」
ハルが受け取りながら聞くと
「もう一つ同じものを私が持っているから、これで離れていても声が聞ける」
連絡用の魔道具だ。
「えっ、すごい!」
そう言って驚いた後に小さな声で何かを呟くハル。
「ハルが困っているときは助けるから。もちろん困っていなくても連絡は取りたいけれど」
ありがとう、と嬉しそうなハル……友達ができたと思っていそうだ……
それから二人はお茶を飲みながら魔道具の話をしていた。
ハルが髪が乾いているか確認して
「そろそろ寝るね、エイダンも今日は疲れた……」
エイダンがハルの肩にもたれ
「エイダン?」
ハルが戸惑っている間にエイダンの頭はハルの太ももの上に……
「寝ている……」
寝ているふりかもしれない……
ハルが本当に一人なのか確かめるために。
「眠れないって言っていたのに……」
そうだ、そいつは眠らない。
「お茶がよかったのかな……って言っている場合じゃない」
ハルが手を伸ばしてクッションを掴む。
「この体勢はまずいっ、足が痺れる……」
足が痺れる……ハル……それ以外に気にすることはないのか……
人の頭って重いっ、といいながら自分の太ももとクッションを入れ替えるハル。
それからエイダンに布団をかけてお休みなさい、とそっと声をかけてからハルも寝室へ向かった。
しばらくエイダンの様子を伺っていたが寝息を立てて本当に眠っているようだった。
出しっぱなしになっている魔道具を一つ手に取る。
移動用の魔道具だ。
空になった魔石が僕の魔力で満たされていく。
これ以外の帰るために必要な魔道具は問題なさそうだから明日の朝にはここを出ていけるだろう。
ハルの目の届かないところで殺す。
そう思っていた翌朝……
エイダンは自分が眠っていたことと魔道具の魔石に魔力が満たされていることに驚いていた。
ハルはよくわからないけれど帰れるならよかったね、と言い喜んでいた。
二人は朝食をとり、エイダンは荷造りをして外へ出る。
「もしかしたらこのお茶がよかったのかも。私のオリジナルブレンド」
はい、とハルが茶葉を渡す。
「また眠れるといいね」
そう言って微笑むハルに少し恥ずかしそうな顔をするエイダン。何だその顔は。
「無事に家に着いたら連絡してね、心配だから」
ハル…………
「あぁ、必ずするよ」
そう言って嬉しそうに微笑むエイダンの瞳が一瞬、金色に見えた……ハルも少しだけ首を傾げていたからそう見えたのだろう。
エイダンはハルの頭を撫で、髪に触れてから礼を言い森の中へと消えて行った。
こうして僕は……僕達はエイダンを殺すことができなくなった……今回は。
連絡がこないとハルがいつまでもエイダンの心配をする。
そんなの……許せないだろう?
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