七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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29 二人の時間

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 ーー ルウ ーー


 ハルが午前中、薬草を採りに出掛けている間にみんなに城と研究所での事を話す。

「しばらくは研究に協力していると言う魔族に気を付けた方がいい。この大きな家も見えないようにしておく」

もしかしたら以前からここに家がある事を知っているかもしれないからハルの家の方をそうするわけにはいかない。

あるはずのものがなくなっていたら……魔族が近くにいると勘づかれてしまうかもしれない。

「しばらくは大きな動きはなさそうだけれど、その間にマカラシャの研究が進められていると思うと気持ち悪いわね」

ロゼッタの言うことはもっともだが

「協力している魔族がどの程度の魔力量で、どのくらいいるのか……人間側はまだ僕達が城からいなくなった事を魔族に話す気はないようだがそれを知ったらどう動くのか……」

みんなが考え込む。

「俺達の魔力が回復したらこっちから仕掛けてもいいんじゃないか? みんな魔力量はその辺の魔族よりは多いだろう?」

そもそも魔力量が少なかったらマカラシャを嵌められて何年も生きられないからな、とライオスが言う。

「魔力量では私達が有利かもしれないけれど、向こうに頭のキレる者がいたらあっという間に不利になってしまうかもしれないよ」

まだ相手の情報が少なすぎる。

「私達はずっと城のあの部屋に閉じ込められていたからね。情報を集めている間にもう少し外の生活に馴れておいてもいいと思うよ」

とアレスがみんなに話す。

「歴史は繰り返される……」

グレンがポツリと呟き

「マカラシャの複製に関わった者は、魔族も人間もみんな殺すの?」

と確認する。

「当然だろ」

ライオスが答えてみんなが頷く。

「ハルには知られないように。心配をかけたくはないし、ハルはこんなこと知らなくていい」

僕が思っていることを伝えると、これにもみんなが頷く。

「ハルが……街で人間と話をしているとき、楽しそうだったから……」

僕達は人間を殺すことはなんとも思わないけれど、僕達が人間を殺す事をハルが知ったら悲しむだろう……

「ところでみんな、ハルは僕のだと言ったよね」

そうだったか? とライオスが言いみんなが顔を見合わせる。

「僕は最近ハルと二人の時間が減って少しイライラしている」

そんなことを言われても、とみんながまた顔を見合わせる。

「ま、まぁまぁ。ハ、ハルはな、なにか言っているの?」

レトになだめるようにそうきかれたけれど、ハルは……僕みたいにイライラしたりはしない。

「別に……なにも」

むしろみんながいて楽しそうだ……

「そ、そっか。ハルはち、治癒魔法が効かないし、しばらくはみ、みんなで見守るのはどうかな……」

僕のハル……でもわかっている。
そのためにみんなを連れてきたのは僕だ。

「そうだね、どちらにしろ魔力が回復するまではもう少しここで暮らすことになるし、研究所のことでルシエルが家を空けることもあるだろう。研究に協力している魔族や魔獣のこともあるし」

アレスが私達もハルを守るから、と言いみんなもそうする、と頷く。

魔族は人間のように群れたりはしない。
誰かのためにそこに留まるのならそれはもう……

だが今は、ハルの生活を……ハルが笑って過ごせる日常を守れる存在は多いほどいい。

僕もある程度のことは目をつぶらなければならないのか……

「ルシエル、ハルに結界は張った?」

アレスにが確認するようにきいてきた。

治癒魔法の効かないハルには最初からケガや病気にならないようにすればいいと思ったが

「一応は張っているが結界はハルには絶対ではない。治癒魔法が効かなかったときもそうだったが……ハルを助けようとして使う魔法は効かないか……効きにくい気がする」

だから……結界を張ってはいるけれどその役目を果たすのかどうか……

例えば誰かからハルに投げられた石は当たらないかもしれないけれど、小屋や柵を直した時のように自ら負ってしまうようなケガは防げないかもしれない。

滑って川に落ちれば溺れるし、毒を盛られているのに気付かずにそれを口にしてしまえば死んでしまう。

僕達は人間が使う薬で治せないような病気やケガを治すことができるのに……ハルには何故それができないのかがわからない。

こことは違う……別の世界から来たからなのか……

そうだとしたらこのこと以外にも気を付けなければいけないことがあるのかもしれない。

そう思っていた矢先……

魔力を感じた。

外だ、みんなも気づいたようだ。
ハルも近くにいる。

慌てて外に出て様子を伺うとハルの姿が見えて……魔獣に追いかけられてっ……いるのか……?

とにかく急いでハルの側へ行きこれは何だと聞くと、以前足についていた金の輪……あのマカラシャの複製品を外した馬だと言う。

馬……これだ……これも気を付けなければいけない。

おそらくハルのいた世界とこの世界の動物は同じ姿をしている。

ハルが見たことがないという動物はほとんどが魔獣だろう。
ハルはそれを知らないからこの世界の動物だと思って近づく。

魔獣の中には攻撃的なものも多いのに……

そういえば以前ハルとみた本に載っていた魔獣は珍しいものばかりで……ハルはどこか物語を読んでいるような感じだった。

ハルが連れてきたこの魔獣……魔獣の中でも魔力量が多い。
ハルは大きな馬だと言っていたけれど、こいつはまだ大きくなる。

そしてあの本に描かれていたように角も生えてくるだろう。

それでもハルは……きっと可愛いと言うのだろうな。
想像をして思わず笑ってしまう。

それにしてもこの魔獣、ハルに名前まで付けてもらって……くっつき過ぎるのも気に入らない。

躾なければ。

ハルには薬草を置いてくるように言って、僕はアオと名付けられた魔獣を馬小屋へ連れていく。

ハルについていきたそうにしていたが僕がこっちだ、と言うと大人しくついてきた。

アオは……やはり魔獣にしては魔力が多いし賢そうだ。

僕の魔力をアオに流す。

どちらが上か、ハルは僕のだとわからせることと、しっかりと回復をさせてハルの盾となるようにするためだ。

「ハルを危険な目にあわせるなよ」

「ブルルッ」

当然だとでも言うように首を振る。

それからみんなの家へ行きキッチンにいるハルの隣に立つ。

「午後の狩りは僕が一緒に行くね」

ハルと二人の時間を増やしたくてそう言ったらみんなのおやつを作って一緒に食べると言う。

僕に食べて欲しい、と言うからいいかと思ったけれど……

ハルはみんなが大人だと話してもどうしても子供扱いしてしまうらしい。

そしてそれをみんなも心地よく思っているように見える。
僕もそうだったからわかる……

手の温かさ、優しく触れられる心地よさ、抱き締められたときの安心感、肌が触れたときの柔らかさ……これまで与えられたことのなかった感覚だ……ハルに出会うまでは。

みんなもそうだろう。

金が貰えるからとか、僕達に同情しているからそうしているのではなく、ハルがしたいからそうしている。

一緒に笑って、喜んで、僕のことを考えて、心配してくれて……

今まで優しい人間には会ったことがなかった。
無関心でいてくれる方が有り難かった。

それが今では……ハルの関心を引きたくて仕方がない。


僕は今……ハルとの時間が減って、イライラしているのだ…………

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