七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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28 アオ

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 みんなの家のキッチンを借りて朝食を作る。


「……ごめんね、ルウ。今朝、大きな声を出しちゃって……」

私の隣で朝食作りを手伝ってくれているルウをチラッとみる。
ん? とこちらをみるとサラリと揺れるルウの髪。

「気にしないで、ゆっくり慣れてくれればいいから」

と優しく微笑むルウ。

昨日は暖炉の前で寝てしまった私をベッドまで運んで、ルウもそのまま眠ってしまったらしい……また面倒をかけてしまった。

ルウもこっちの家のベッドでゆっくり寝られるはずだったのに……しっかりしないと。

「あのね、ルウ」

「いい匂いがする」

お腹空いた、と子供達がキッチンへやってきた。

「お皿はこれでいい?」

とカップやお皿を出してくれる。

「あ、うん。ありがとう」

なんとなく、みんなの雰囲気が柔らかくなったような気がする……嬉しい。

みんなで食事をしながら今日は何をするの? と聞くと

「ハルは何をするの?」

とルウに聞き返された。

「私はお肉と薬草をもう少し持っておきたいから、狩りと薬草採取をするつもりだよ」

そうか……とルウが少し考えて

「僕はこの家を僕達以外には見えないように結界を張るよ」

どうしてそんなことを?

「もし、ハルと僕の家を知っている誰かが訪ねて来たときに驚いてしまうだろう?」

そっか……そうだよね、いきなり隣にこんなに立派な家ができていたらビックリするね。

「わかった、お昼頃には戻るからご飯は一緒に食べようね」

みんなを見ると頷いてくれた。

みんなで後片付けをしてから、私は森へいく準備をしに家に戻ると言うとルウも一緒についてきた。

準備をして、それじゃぁ行ってくるね、と言うと

「ハル、気をつけて。あまり遠くへはいかないでね」

とルウに抱き締められた。

「……大袈裟だなぁ、いつも行っているところだし大丈夫だよ」

ルウの頭を撫でて

「子供達のこと、お願いね」

と、まるで家族のような言葉を残して家を後にした。

やっぱり寒くなると生えている薬草の種類が減ってくる。
街で売る薬草も選ばないといけないかな。
後でレトに相談してみよう。

そう考えながら森を歩いていると視界の端に何かが動いた気がした。

周りを見回すと……何もいない。

「気のせいかな」

と再び歩き出すとやっぱり何かの気配を感じる。

「ルウ?」

返事はない……
しばらく動かないで様子を見ていると

「ブルルル…………」

パカパカと近づいてきたのは私が金の輪を外した馬……?
ん? なんかあの時よりも大きく……たくましくなっているような……

ゆっくりと私の目の前に到着。

鼻先にそっと手を伸ばしてみるとスリスリしてきた。
撫で撫で……スリスリ……撫で撫で……スリスリ……

「可愛いっ! 人懐っこいねぇっ」

見た目は黒くてたてがみも長くて、人間でいうイケメンみたいな感じなのに甘えたなのかなぁ、可愛いなぁ。

「綺麗な毛並みだねぇ、たくましいねぇ、立派だねぇ、温かいねぇ」

とひとしきり褒めてから

「お家には帰れたの?」

ヨシヨシと撫でながら聞くけれどもちろん返事はない。

「それじゃぁ、気を付けて帰るんだよ」

最後に抱き締めてお別れをして歩き出す。
歩き出すと……少し離れてついてくる。

気が付かない振りをしてしばらく歩いていたけれどもついてくる。

もしかして帰るところがないのかな……

試しにチラリと後ろを見ると嬉しそうにパカパカ近づいてきた。

これはもう……

「うちに来る?」

思わずそう聞くと私の肩に顎を乗せて甘えてくる。
いいのかな……いいよね? 連れて帰ろう。

私がそう決めなくてもついてきてくれそう。
しばらく一緒に薬草を採りながら森を歩いてから家に向かった。

「ハルッ!」

少し慌てた様子のルウが外に出てきたから手を振る。

「ルウ、ただい」

ま? 目の前が真っ暗。
ルウが一瞬で目の前にきて私を抱き締める。

「ハル、お帰り」

ぎゅうっとしてから少し腕を緩めて

「これは何?」

と、馬を指差す……これってルウ……

「たぶん私が前に金の輪を外した馬だよ」

なんか大きくなっているけれど。

「馬…………」

ルウが呟く。

「……もしかしてお城の馬だったりする?」

ルウがジッと馬を……睨んでいる?

「違うよ……」

私を見て微笑むルウ。

「森にいる野生の馬だね」

野生……かなぁ? 人馴れしてそうだけれど。
あれ? でもルウには近寄らない……睨むからかなきっと。

「うちでお世話をしようと思うのだけれど……」

チラリとルウを見上げると少し驚いたように私を見つめてからため息をついて

「その為に小屋と柵を直したのだったね」

と言ってくれた。やった!

「名前を考えないと」

「馬でいいんじゃない?」

ルウ……

「馬はさすがに……うーん……アオ、はどうかな」

黒くて青っぽく見えるし、どう? と聞くとスリスリと顔を寄せてくる。

「フフフッ、気に入ってくれた? これからよろしくね」

と私も顔をスリスリするとルウが私とアオの間に割って入ってきた。

「ハル、そろそろ昼食の準備をしようか」

もうそんな時間か。

「そうだね、先にアオを馬小屋に案内して果物をあげてから行くね」

馬小屋に繋いだりするつもりはないし一応柵もあるけれど閉めきったりはしない。

森が庭のようなものだし、アオには帰る場所ができただけでこれまで通り自由に暮らして欲しいと思っている。

「それは僕がやっておくから、ハルは採ってきた薬草をしまっておいで」

そうだった、そうさせてもらおうかな。
私が思っている事をルウに伝えてアオを任せて家の前で分かれると

「ハル」

隣の家から出てきた子供達に呼び止められた。

「ただいま、薬草をしまったらお昼ご飯の仕度をするね」

そうだ、

「レト、後で薬草の整理を手伝ってくれないかな。売ってもいいものと残しておいた方がいいものを分けたいのだけれど」

レトが頷いて

「い、いいよ。あの……薬草を、全部あ、新しく作った別館にまとめてお、おくのはどうかな……」

いいの? 薬を作れる場所に薬草を置いておけるのは有難い。

「ありがとう、そうさせてもらうね」

レトの頭を撫でる。

「ハル、魔獣を飼うの?」

アレスが突然こんなことを聞いてきた。

「魔獣? 私、魔獣は見たことないよ」

元の世界では見たことのない動物はいたけれど、魔獣は一年もいるのに出くわしたことがない。
子供達が顔を見合わせてライオスが口を開く。

「じゃぁ、さっき連れてきたのはなんだよ」

さっき連れて……あぁ、

「馬だよ。アオって名前をつけたんだ。黒くて大きくて立派だよね。それにすごく人懐っこくて可愛いいんだよ」

後でみんなも会いに行こうね、と話す。

「魔獣は……見たことがない……?」

「立派で」

「人懐っこくて」

「可愛い」

「しかも名前も付けてるし……」

「…………」

みんながポツリポツリと呟く。

なに? と首を傾げると、ブフッとライオスが吹き出す。俺、もう無理、と言って笑っている。

他の子供達を見ると肩を震わせている。

「え? どうしたの? 私、何か変なこと言った?」

子供達の笑いのツボがわからない。まぁ、楽しそうだからいいのだけれど。

「ちょっ……ハル、しゃべらないでっ」

……ひどくない?
笑い続ける子供達はもはや苦しそう……

……箸が転んでもおかしいとはこのことか……そう言うには若すぎる気もするけれど。

ひとしきり笑って落ち着いたらみんなが私の家にある薬草を別館に運ぶのを手伝ってくれた。

初めて入ったけれど……広いなぁ。私の家と同じ平屋建てだけれども、こちらの方が広い。

中の作りはシンプルだけれど机や収納やいろいろな容器がたくさん置いてあって何だか学校の理科室みたい。

「と、とりあえず……ここにお、置いておこうかな」

うん、とレトが開けてくれた箱に薬草を入れておく。
薬草をしまったらみんなの家のキッチンへ向かった。

少しするとルウもキッチンへ来て手伝ってくれた。

「ハル、薬草は十分に集められた?」

食事の準備をしながらルウが聞いてきた。

「うん、アオも手伝ってくれた気がする。何となくだけれど薬草の生えている場所がわかるのかな」

ふぅん、と言い

「午後の狩りは僕が一緒に行くね」

そう?

「ルウが来るならあっという間に終わっちゃうね」

何せ魔法を使うから本当にあっという間。

「その分ハルと家でゆっくりできる」

とご機嫌なルウ。

「それならまたおやつを作ってみんなで食べようか」

クッキーでも焼いてみようかな。

「ハル、みんなに甘すぎない? 忘れているかもしれないけれど、彼らも大人なのだよ?」

と少しご機嫌斜めのルウ。
そう言われても見た目がねぇ……

「私も食べたいしルウにも食べて欲しい」

作りたい気分だし。

「僕に……うん、そっか」

とルウの機嫌が戻ったところで子供達が寄ってきて

「おやつを作るの? 私も作ってみたい」

とロゼッタがいうとみんなも作ってみたいと言う。

「それじゃぁ、狩りから戻ったらみんなでお菓子作りをしよう」

みんな嬉しそう。

一年前はここでの生活がこんなに賑やかになるとは思っていなかったけれど……変わったのはルウに出会ってから……

何となく嬉しくて、ルウにありがとう、と言うと聞こえなかったのか首を傾げる、けれど私が笑うとルウも笑う。


みんなもここでの生活を楽しいと思ってくれているといいな……

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