七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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26 みんなの家

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 騎士団長のイーライ様と別れて歩き続けていると顔の熱が引いていく。


イーライ様……女性に囲まれたときにさっきみたいなこともあるだろうに……

あんな容姿であんな反応をされたら勘違いする女性もいるのでは……なるほど……だからモテるのか。

と納得していると、

「ハル」

今度こそルウ。

「ルウ、用事は済んだ?」

他の人にはルウの姿は見えていないから小さな声で話しかける。

うん、と言いながら私が持っていた荷物を素早く袋に入れてくれるルウ。

「ハルも買い物は済んだ?」

そう聞きながら後ろから抱きついてくる。
ちょっと歩きにくいな。

「うん、帰ろうか」

ルウと二人で森の家に帰りながら今日の事を話す。

「ルウがいい肉や薬草をたくさん用意してくれたから結構いいお金になったよ。お陰でたくさん買い物ができた」

と笑うと、それは良かったと微笑むルウ。
その表情がすごく優しくて何だか……

「そ、そうだ、今日初めて行ったのだけれど、ミリアの雑貨屋っていうお店。お化粧品とかアクセサリーとかいろいろなものがあってね」

と話すとルウも嬉しそうに聞いてくれる。
聞き上手……

「見ているだけでも楽しかったよ。今度ロゼッタとミアも連れていきたいなぁ」

って……えぇ!? ルウが不機嫌そう……

「僕は……?」

え?

「次は僕が一緒に行く」

う……うん、でも

「いろいろなものが置いてあったけれど……女の子が好きそうなお店だったから……楽しいかなぁ」

ルウはつまらないかもよ……?

「ハルと一緒なら楽しい」

そう? それならいいけれど……
と話をしているうちに森の家に到着した。

イーライ様のことを話しそびれてしまったけれどまぁいいか。もう会うこともないと思うし。


う……わぁっ……家の隣に大きな家が建っている。


「家……立派」

とりあえず荷物を置こう、とルウに言われてようやく足が動く。
隣の大きな家を横目に自分の家に入ると子供達が全員暖炉の前に集まっていた。

「ただいま、みんな凄いね!」

あれっ! 隣の大きな家っ! と、隣の立派な家を見て興奮気味な私とは反対に落ち着いている子供達。

「……おかえりなさい」

早くみんなに買ってきたものを見せたいっ
そんな私の様子を察してか

「まずは食材をしまおうか」

ルウに困った子を見るような目で言われてしまった。
そうだね、そうしよう、と言いながらも全然落ち着かない私を見てクスクスと笑うルウ。

買ってきた食材をしまうのを手伝いながらニコニコと私の話しを聞いてくれるルウ。
本当に聞き上手。

ルウが話を聞いてくれたお陰で落ち着いてきた私はそのまま夕食を作ることにした。

今夜はクリームシチューとサラダとパン、それからフルーツにしよう。

ルウも手伝ってくれたから思っていたよりも早く出来上がった。
なんかルウの料理スキルが上がっているような……

子供達がいい匂い、と言ってキッチンに集まってきたのでご飯にしようか、と言って食事の準備を手伝ってもらう。

ララのお店のパンを出すと子供達も嬉しそう。
食事をしながら隣の大きな家のことを聞いてみる。

「みんなの家は完成したの?」

「あぁ、ちゃんと完成しているよ」

なぜかルウが答える……
子供達を見るとまぁ、完成はしているよ、という感じ。

「……そっか、布団とか必要そうなものを買ってきたから後でみんなの家に行ってもいいかな」

「そうだね、今夜からみんな向こうの家で寝るのだから」

……ルウもまだ中を見ていないよね……後でみんながちゃんと生活できるくらいできているか確認しよう。

食事を終えると後片付けをみんなが手伝ってくれた。

それから買ったものが入っている袋をルウが持って、みんなと一緒に隣の家へ移動した。

「わぁー、木のいい匂いがするっ」

新しい家の匂い。
まずは買ってきたみんなのスリッパを出して履いてから中に入る。

「グレンとアレスが設計をしたの!? 素敵なお家!」

いけない、また一人で盛り上がってしまう……
グレンとアレスの頭を凄いねぇ偉いねぇと言いながら撫でて落ち着きを取り戻す。

「設計図……みる?」

グレンが小さな声でそう言ってくれた。

「いいの? みたい!」

そう言うとクスクスと笑いながらアレスが設計図を広げる。

「この家は二階建てで今入ってきた正面の入り口がここ……」

家に入ってすぐに玄関ホールがあって正面に二階へ続く階段がある。

一階にはリビング、キッチン、お風呂、トイレ、それから応接室と寝室が三部屋。この一階の寝室はお客様用らしい。

お客様……来るかな……

それから二階には……二階にもトイレとお風呂!? 
もはやお屋敷……

みんなの部屋は二階で、寝室は八部屋……八部屋?
子供達は六人でルウも合わせて七人で住む家のはずだから多くない? 誰か来るとか?

そんな私の疑問を読み取ったのかアレスが

「ハルの部屋もあるよ。ハルの家は補強したとはいえ古いみたいだから念のためにね」

いい子達だ…………いい子達だっ!
家を建てるときに私のことも考えてくれたんだ……

「ありがとうっ……」

嬉しい、と二人を抱き締める。

って……ルウッ!?
めちゃくちゃ不機嫌そう……えーー……

「二階には書斎もある」

ルウの様子に気づいているのかいないのか、グレンが静かに呟く。

「あ、あの、正面からは見えていないけれど……こ、この家の裏手には薬草の保管とか研究に使える別館もあるんだよ」

ハルも使っていいからね、と遠慮がちに微笑むレト。
ありがとう、薬の作り方を教えてね、と微笑むと泣きそうな顔で笑ってくれた。

それからベッドに布団を敷いたりキッチンで食器を洗って収納したり、暖炉の前にラグを敷いたりしながら家の中を実際に見て回った。

一通り見て回りリビングへ戻ると

「ハル、そろそろ……」

社長、そろそろ、みたいな言い方でルウが声をかけてきた。

「そうだね、みんなお風呂に入って寝ないとね」

ルウはみんなは大人だと言うけれど……
何となく子供の姿のこの子達だけをこの大きな家に残していく不安のようなものがある。

「……お風呂で溺れたりしないかな……」

ルウが私の手を握り

「大丈夫だよ。魔力もあるし、魔族はそんな死に方はしない」

ルウが帰ろう、と私の手を引く。
みんなにまた来てもいいかな、と聞くとコクリと頷いてくれた。

ルウに連れていかれながら、ご飯作るから一緒に食べようね、おやつもまた作るからっ……

「ハル……隣なのだから……」

すぐに会えるでしょう? と少しあきれ気味なルウと不思議そうな顔の子供達。

そ……そうですね……

「また来るね」

と言い、今度は大人しくルウと自分達の家へ帰る。
家に戻りドアを閉めてから中を見回すと……静か……

引っ越しをしたのは子供達なのに私の方がホームシックみたいな気持ちになる。

「なんか……寂しいね……」

そう呟くとルウが私を抱き締めて頭を撫でる。
ルウの手……大きくて温かくて安心する……

「子供、作ろうか」

ん? ルウがサラリと凄いことを言ったような気がして見上げると琥珀色の瞳と目が合う。

「僕とハルの子供」

ルウが綺麗な顔で微笑む。聞き間違いじゃないみたい。

「ル……ルウっ……わかっているの?」

何を言っているのか……

「作り方? ハルは知らないの?」

え? ん? もしかして私が思っているようなことではないのかな。

「魔力で人形を作るとかそういうこと?」

それなら私には出来ないしわからないよ。

「違うよ」

ルウがクスクスと笑う。

「ハルと僕が裸で」

ストップ!! 慌ててルウの口を両手で塞ぐ。
それは私も知っている方……だね。

ルウ……つい最近まで反抗期真っ只中の子供だったのに……

大人のルウはカッコいいし、背の高さや逞しさ、手の大きさで男性を意識させられるけれど……

子供のルウがチラついてどうにも……慣れるのに少し時間がかかりそう。

というかルウはわかって言っているのかな……
私のことをそういう風に思って……?

ルウを見ると私に口を塞がれたまま首を傾げている。
ダメだ……よくわからない。

ルウが私の手にそっと触れて口から外すと

「さぁ、風呂に入ろう」

と……

「あ、うん。ルウ、先に入っちゃって」

私の手に触れていたルウの手に力が入る。

「ハル、一緒に入るよ」

さっきあんな話をしていたのに一緒になんて入れるかいっ! と突っ込みたいのを我慢して、

「あ、じゃぁ先に入っていて。私、少し荷物を整理したいから……」

と言っておく。

「後でいいよ」

よくない。

「女の子にはいろいろあるんだよ、ルウ」

困ったときの魔法の言葉。ルウが戸惑い首を傾げる。

「……そう……なのか?」

うん、と頷きどうにか先にお風呂に入ってもらう。
さて、私は渡し忘れた物があるから……


ドアを開けてもう一度隣の……みんなの家へ向かった。

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