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25 研究所
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ローガンが男を見つめため息をつく。
「研究は進んでいるのだな」
エイダンを睨みながらローガンがそう聞くと
「進んではいますが、魔獣は魔族ほど魔力がないので両足に複製品とはいえマカラシャを嵌めるとすぐに死んでしまうのです」
悲しそうに俯きながら話を続ける。
「だから片足に嵌めているのですが、魔獣から城で使う量の魔力を集めるとなるとかなりの数が必要になりますよ。そんな数を集めるのに魔族が協力してくれるかもわからないですし」
もし集められたとしても管理が大変ですねぇ……とエイダンが腕を組み考えている。
「長生きをさせる必要はないだろう。さっさと魔力を搾り取って処分してしまえばいい」
ローガンの言葉に驚くエイダン。
「ローガン様っ、どのような命も粗末にされるべきではありませんっ」
実験をしておいて何を言っているのか。
ローガンも同じように思ったのか固まっている。
「それにただでさえ数が少ないとされている魔獣をそのように扱っては貴重な魔力源が失われてしまいますよ」
かなり難しいとは思いますが魔獣を繁殖させる実験もしなければいけないですね……大人しい動物と魔獣を掛け合わせたら……やはり魔力の弱い大人しい魔獣ができるのでしょうか、それとも魔力を持たない凶暴な動物ができるのでしょうか……
あぁ、あのいなくなってしまった個体が惜しい……
ブツブツと一人言を始めたエイダンにどうしたらいいかわからない様子のローガン。
「と、とにかく、魔力を集めなければならないのだ。どうにかして、大人でもいいから魔族に複製品を嵌められないのか」
その言葉にエイダンが我に返りローガンを見つめる。
「それは……かなり先の話になるかと。今の複製品では魔族に嵌めるとマカラシャの方がすぐに壊れてしまうでしょう」
だだし……と微笑み
「魔力の弱い魔族や子供には嵌められるかも知れませんね」
このエイダンという男、最初に見たときから思っていたが……微かに魔力を感じる。
ここには魔族も来るとわかっていたから念のため魔力ごと気配を消していたが……相手の魔力を感じられるのは城に閉じ込められていた僕達七人だけかもしれない。
ある程度魔力のある魔族ならば、相手の魔力がどの程度なのか分かるものなのかどうなのか……わからなかったから念のため気配を消していたが……
マカラシャで常に自分の魔力を吸われている感覚と、僕がみんなに教えた体内に魔力を残しておく方法で魔力操作が上達していた。
だからわかるようになっただけで他の魔族にはできないことなのかもしれない。
それにみんなも相手の魔力がわかるようになったのは城に来てからだと言っていた。
自分達の魔力を少なく見せたり気配を完全に消したりすることもできるのかと、お互い試したりしているうちにそれもできるようになった。
魔力の少ない者ならばそういったこともできないだろうから、おそらく人間に対してそうするように姿を消すだけでこのエイダンという男にも僕の存在を感知されることはないだろう。
それにしてもこの男……こんなことを言うということは周りの人間には隠しているのか……
祖父母の代かそれ以前に魔族と交わりがあったか……
本人は人間として生きているようだが……彼の本質はどうだろうか。
「……では、完成したら郊外に住んでいる魔族に協力してもらおう」
協力か……都合のいい言葉だ。
実際はただ使い潰すつもりだろう。
「それから今度ここに魔族が来たら、魔獣の他にまた子供を売って欲しいと伝えておいてくれ。今度は新しい実験もするから多目に頼むと」
魔族の子供ならば成長と共に魔力も増えるし魔獣よりは効率がいいということか。また僕達のような子供を……
そして成長して魔力の増えた子供に複製品のマカラシャを両足につけ、それが耐えられなくなったなら……
おそらく殺してしまうのだろう……
もしかしたら身体の自由を何らかの方法で奪い魔力だけを搾り取れるようにするかもしれない……
どちらにしろこれから売られる子供は僕達よりも悲惨な目にあいそうだ。
「一月以内にはマカラシャを作れるだけ作っておくように。魔獣や魔族の子供の数が用意できてもマカラシャがなければ意味がないからな」
寝ている暇などないほど事態はひっ迫していると思って欲しい、とローガンが二人を見て言う。
「では、大量に作らなければ。これから忙しくなりますね」
エイダンがどこか嬉しそうにローガンに微笑む。
メイソンは忙しいのは嫌だ、と複雑な表情でブツブツと言っている。
「万が一、本物のマカラシャが見つかったとしても研究は続けてもらうのだから……とにかく、今は急いで欲しい」
頼んだぞ、と言いローガン達は帰って行き、僕はもうしばらく残って様子をみることにした。
研究所の中には他にも人間が三人ほどいたけれどほとんどメイソンとエイダンの雑用係という感じだった。
「エイダン、完成しているものは何本だったかな」
「メイソン様、十四本ですよ。ちょうど城にあったものと同じ本数でしたが魔獣が一体いなくなりましたから……今は十三本ですね」
一体あと何本作らなければならないのか……と肩を落とすメイソンとは反対に
「次に魔族の方が来るまでに、とにかくたくさん作っておかなければ。私達は所詮入れ物を作っているだけに過ぎないのですから」
と真面目に語りだすエイダン。
「本物のマカラシャ……あんな完璧なものを一体どうやって造り出したのか……作った方々は殺されてしまい、作り方を記したものも残されていない……いつか私の手で完成させてみたいものです」
それまでの練習だと思って頑張りますよ私は、と微笑むエイダンに、お前さんはただ眠れないだけだろう、と呆れるメイソン。
「それに、さっきローガン様と話していて思ったのですが、フフッ……魔獣と動物を掛け合わせることと、魔族と人間を掛け合わせること、どちらが簡単なのでしょうね?」
メイソンがやれやれ、とため息をつく。
「自分の身を守るためにも、あまり人の道から外れたことをするのではないぞ。魔族の執着心は多方面に向くらしいからな」
愛、復讐、哀れみ……様々な感情から生まれる執着心や考え方、生き物以外の物への執着心まで、我々では理解できない部分も多い、と。
「だからなのかは分からないが、マカラシャはあのように作られたのではないかな」
嵌められたら死ぬまで外せない……そうでもしないと縛り付けておけない……
「そうですね……、製作には魔族も関わっていましたから」
メイソンが頷き
「とにかく今は複製品の製作を急がなければ。魔族がこの辺りにしばらく留まってくれるといいのだか……彼らが一体どこで何をしているのかは見当もつかないからな」
それから、とメイソンが続ける。
「念のため今回のこと……マカラシャを嵌めた魔族の子供達に逃げられてしまったことはまだここへ来る魔族に悟られることがないように気を付けなければいけないよ」
わかっています……と呟いたエイダンは奥の部屋へこもり、雑用係の一人にお茶を二人分入れるように頼んでからメイソンも同じ部屋へ入って行った。
作業部屋なのだろう。
あの部屋から研究の全てを消してしまえばこれ以上作業が進むこともないのかもしれないが……研究所とは果たしてここだけなのだろうか。
それに、協力している魔族のことも気になる。
騒ぎを起こせば警戒され隠れられてしまうだろう。
一度持ち帰ってみんなにも話してみるか……
マカラシャを嵌められて生きたまま外せたのは僕達七人だけだ。
何をしても外せなくて壊すことは不可能だと思っていたマカラシャは……外せたら案外簡単に消すことができた。
ハルが外してくれた……ハルに会いたい。
早くハルと僕の家に帰りたい。
やはりここの事はみんなも話して、また後で様子を見に来よう。
僕はハルを迎えに急いで街へ向かった。
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