25 / 87
25 研究所
しおりを挟むーー ルウ ーー
ローガンが男を見つめため息をつく。
「研究は進んでいるのだな」
エイダンを睨みながらローガンがそう聞くと
「進んではいますが、魔獣は魔族ほど魔力がないので両足に複製品とはいえマカラシャを嵌めるとすぐに死んでしまうのです」
悲しそうに俯きながら話を続ける。
「だから片足に嵌めているのですが、魔獣から城で使う量の魔力を集めるとなるとかなりの数が必要になりますよ。そんな数を集めるのに魔族が協力してくれるかもわからないですし」
もし集められたとしても管理が大変ですねぇ……とエイダンが腕を組み考えている。
「長生きをさせる必要はないだろう。さっさと魔力を搾り取って処分してしまえばいい」
ローガンの言葉に驚くエイダン。
「ローガン様っ、どのような命も粗末にされるべきではありませんっ」
実験をしておいて何を言っているのか。
ローガンも同じように思ったのか固まっている。
「それにただでさえ数が少ないとされている魔獣をそのように扱っては貴重な魔力源が失われてしまいますよ」
かなり難しいとは思いますが魔獣を繁殖させる実験もしなければいけないですね……大人しい動物と魔獣を掛け合わせたら……やはり魔力の弱い大人しい魔獣ができるのでしょうか、それとも魔力を持たない凶暴な動物ができるのでしょうか……
あぁ、あのいなくなってしまった個体が惜しい……
ブツブツと一人言を始めたエイダンにどうしたらいいかわからない様子のローガン。
「と、とにかく、魔力を集めなければならないのだ。どうにかして、大人でもいいから魔族に複製品を嵌められないのか」
その言葉にエイダンが我に返りローガンを見つめる。
「それは……かなり先の話になるかと。今の複製品では魔族に嵌めるとマカラシャの方がすぐに壊れてしまうでしょう」
だだし……と微笑み
「魔力の弱い魔族や子供には嵌められるかも知れませんね」
このエイダンという男、最初に見たときから思っていたが……微かに魔力を感じる。
ここには魔族も来るとわかっていたから念のため魔力ごと気配を消していたが……相手の魔力を感じられるのは城に閉じ込められていた僕達七人だけかもしれない。
ある程度魔力のある魔族ならば、相手の魔力がどの程度なのか分かるものなのかどうなのか……わからなかったから念のため気配を消していたが……
マカラシャで常に自分の魔力を吸われている感覚と、僕がみんなに教えた体内に魔力を残しておく方法で魔力操作が上達していた。
だからわかるようになっただけで他の魔族にはできないことなのかもしれない。
それにみんなも相手の魔力がわかるようになったのは城に来てからだと言っていた。
自分達の魔力を少なく見せたり気配を完全に消したりすることもできるのかと、お互い試したりしているうちにそれもできるようになった。
魔力の少ない者ならばそういったこともできないだろうから、おそらく人間に対してそうするように姿を消すだけでこのエイダンという男にも僕の存在を感知されることはないだろう。
それにしてもこの男……こんなことを言うということは周りの人間には隠しているのか……
祖父母の代かそれ以前に魔族と交わりがあったか……
本人は人間として生きているようだが……彼の本質はどうだろうか。
「……では、完成したら郊外に住んでいる魔族に協力してもらおう」
協力か……都合のいい言葉だ。
実際はただ使い潰すつもりだろう。
「それから今度ここに魔族が来たら、魔獣の他にまた子供を売って欲しいと伝えておいてくれ。今度は新しい実験もするから多目に頼むと」
魔族の子供ならば成長と共に魔力も増えるし魔獣よりは効率がいいということか。また僕達のような子供を……
そして成長して魔力の増えた子供に複製品のマカラシャを両足につけ、それが耐えられなくなったなら……
おそらく殺してしまうのだろう……
もしかしたら身体の自由を何らかの方法で奪い魔力だけを搾り取れるようにするかもしれない……
どちらにしろこれから売られる子供は僕達よりも悲惨な目にあいそうだ。
「一月以内にはマカラシャを作れるだけ作っておくように。魔獣や魔族の子供の数が用意できてもマカラシャがなければ意味がないからな」
寝ている暇などないほど事態はひっ迫していると思って欲しい、とローガンが二人を見て言う。
「では、大量に作らなければ。これから忙しくなりますね」
エイダンがどこか嬉しそうにローガンに微笑む。
メイソンは忙しいのは嫌だ、と複雑な表情でブツブツと言っている。
「万が一、本物のマカラシャが見つかったとしても研究は続けてもらうのだから……とにかく、今は急いで欲しい」
頼んだぞ、と言いローガン達は帰って行き、僕はもうしばらく残って様子をみることにした。
研究所の中には他にも人間が三人ほどいたけれどほとんどメイソンとエイダンの雑用係という感じだった。
「エイダン、完成しているものは何本だったかな」
「メイソン様、十四本ですよ。ちょうど城にあったものと同じ本数でしたが魔獣が一体いなくなりましたから……今は十三本ですね」
一体あと何本作らなければならないのか……と肩を落とすメイソンとは反対に
「次に魔族の方が来るまでに、とにかくたくさん作っておかなければ。私達は所詮入れ物を作っているだけに過ぎないのですから」
と真面目に語りだすエイダン。
「本物のマカラシャ……あんな完璧なものを一体どうやって造り出したのか……作った方々は殺されてしまい、作り方を記したものも残されていない……いつか私の手で完成させてみたいものです」
それまでの練習だと思って頑張りますよ私は、と微笑むエイダンに、お前さんはただ眠れないだけだろう、と呆れるメイソン。
「それに、さっきローガン様と話していて思ったのですが、フフッ……魔獣と動物を掛け合わせることと、魔族と人間を掛け合わせること、どちらが簡単なのでしょうね?」
メイソンがやれやれ、とため息をつく。
「自分の身を守るためにも、あまり人の道から外れたことをするのではないぞ。魔族の執着心は多方面に向くらしいからな」
愛、復讐、哀れみ……様々な感情から生まれる執着心や考え方、生き物以外の物への執着心まで、我々では理解できない部分も多い、と。
「だからなのかは分からないが、マカラシャはあのように作られたのではないかな」
嵌められたら死ぬまで外せない……そうでもしないと縛り付けておけない……
「そうですね……、製作には魔族も関わっていましたから」
メイソンが頷き
「とにかく今は複製品の製作を急がなければ。魔族がこの辺りにしばらく留まってくれるといいのだか……彼らが一体どこで何をしているのかは見当もつかないからな」
それから、とメイソンが続ける。
「念のため今回のこと……マカラシャを嵌めた魔族の子供達に逃げられてしまったことはまだここへ来る魔族に悟られることがないように気を付けなければいけないよ」
わかっています……と呟いたエイダンは奥の部屋へこもり、雑用係の一人にお茶を二人分入れるように頼んでからメイソンも同じ部屋へ入って行った。
作業部屋なのだろう。
あの部屋から研究の全てを消してしまえばこれ以上作業が進むこともないのかもしれないが……研究所とは果たしてここだけなのだろうか。
それに、協力している魔族のことも気になる。
騒ぎを起こせば警戒され隠れられてしまうだろう。
一度持ち帰ってみんなにも話してみるか……
マカラシャを嵌められて生きたまま外せたのは僕達七人だけだ。
何をしても外せなくて壊すことは不可能だと思っていたマカラシャは……外せたら案外簡単に消すことができた。
ハルが外してくれた……ハルに会いたい。
早くハルと僕の家に帰りたい。
やはりここの事はみんなも話して、また後で様子を見に来よう。
僕はハルを迎えに急いで街へ向かった。
62
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜
橘しづき
恋愛
服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。 そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。
その額、三千万。
到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。
だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる