七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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15 六人の子供

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 お父さん…… お母さん……


「「春」」

「お父さん、お母さん……わたし、死ぬのかな……」

あらあら、とお母さんが優しく私の頭を撫でる。

「辛いんだな、大丈夫だよ」

ほら、とお父さんがお湯に溶かした薬を飲ませてくれる。

「ゆずの味がする。おいしい」

「蜂蜜も入れたから少し甘いだろう?」

うん、と微笑む。

「熱が出るとおいしいお薬が飲めるね」

「熱がなければ母さんの美味しいご飯が食べられたんだぞ」

そうだった、

「わたし、早くなおす」

二人が笑いゆっくりお休み、と私を寝かしつける。


懐かしい……子供の頃の夢……


ゆっくりと目を開けると涙がこぼれる。

ここは……アパートの私の部屋。
一人暮らしをしてから初めて熱を出して仕事を休んだ。

携帯電話を見るとメールが何件か届いている。

職場の同僚達からはこっちのことは気にせずゆっくり休んでしっかり治してねと。

友達からは仕事帰りになるけれどアパートに寄るから欲しいものがあったらメールしておいてと。

みんな優しい……私の周りには優しい人が多い。

皆の迷惑になるから不調には気付かれないように振る舞っていたけれど、わずかな変化に気付いてくれた同僚。

病院へ行って家に帰って休んでと言い、私の仕事を引き受けてくれた。

病院へ寄ってからアパートに帰ると熱が上がり始めて本格的に動けなくなった。

帰してもらって良かった……

友達からは今週末、飲みに行くお店をどこにしようかとメールがあり、今の状態を説明すると仕事終わりにうちに寄ってくれると返事がきた。

こういうとき人の温かさが身に染みる……

何かあったときは私も周りに優しくできる人間でありたい……

薬は飲んだし友達が来てくれるまで少し……眠ろう……


目が覚めると……
一瞬どこにいるのかわからなかった。

ここは…………あぁ……全部夢だったのか…………

そうわかってもまだ混乱している……
なんだったかな……そう……森だ、森の家……

私熱を出して……

額を触ろうと手を動か……動かない…………
視線を動かすと……ルウ? ……違う……ルウより大きい……?

知らない人が私の手を握ったままベッドに突っ伏して寝ている……だ……誰だろう……?

ルウは!? ルウはどこ……?

落ち着け……とりあえず起こさないように手を引き抜こう。

ゆっくりと手を引くと……ギュッと握られた……

顔を上げてこちらを見る彼と目が合う。

う……わぁ…………綺麗な顔……それに琥珀色の瞳……

ルウが大人になったらこんな感じかなぁ……って、見とれている場合じゃない。

「あ……のル……っ」

喉がカラカラで咳き込んでしまった私を優しく起こして水を飲ませてくれた彼、悪い人ではなさそう……

そう思ったところで、以前ルウにすぐに人を信用するのはやめた方がいいと言われたことを思い出した。

「熱は……まだあるけれど、目が覚めて本当に良かった……」

私の額に手を当てて眉を下げながら安心したように微笑む彼は……やっぱりいい人なんじゃないかなぁ……

「あの……ルウは……男の子はどこですか」

そう聞きながら男性をみて……ふと思った、もしかして……

「……お父さん?」

ルウの……

「……誰が……お父さんだっ」

突っ込まれた……違う、私のじゃなくて

「ルウのお父さんですか?」

そっくりだし、きっとそうだ……あ、でもルウは本当の名前じゃないんだった……

「は……ぁ? あ、あぁ……そうか、ごめん。僕だよ、僕がルウだよ」

へぇ…………えっ!? ん?

混乱しているとノックが聞こえてドアが開く。
入ってきたのは子供達……子供達!?

一、二、三…………六人……

「みんな……返事をする前にドアを開けるなよ……」

ルウ……みたいな人が呆れている……
こ、これは……もしかして……

「ル……ウ? 私……何年寝たきりだったのかな……」

鏡を見るのが怖い……

「ごめん、ルウ。こんなにたくさん子供もいるのに私の面倒まで……そ、そうだっ……ルウの奥さんにも謝らないと」

本当にごめん、こんなことになるなんて……ジワリと涙が滲んでくる。

「パパ」
「お父さん」
「お父様」
「親父」
「父さん」
「父上」

側に近づいてきた子供達が一斉にルウをそう呼ぶ……
全員……バラバラだけど…………

「誰がっ……お前らせめて揃えろよ」

ルウがため息をつく。

「そ、その人、目が覚めたみたいだね……」

怯えながら……でも近づいてくる……泣きそうな男の子……何で!?

うっ……なんか頭がクラクラするっ……混乱して熱が上がったかな……

ルウが私を寝かせて布団をかける。

「ハル、まだ熱があるからもう少し寝ていて。目が覚めたら説明するから」

ありがとう、と言いたかったけれども瞼が重くてコクリと頷くことしかできなかった……


「人間って弱いのなー」

男の子の声……

「こ、この人は……特に……弱いのかも……」

泣きそうな男の子の声……

「治癒魔法だけ受けつけないのかな……人間の塗り薬は効いたみたいだけれど……」

また別の男の子の声……

「そんな話、聞いたことがない」

もう一人、男の子の声……

「そんなことより本当に外せるんでしょうね」

女の子だ……

「私……もう……もたないかも……」

弱々しい女の子の声……
何が? もたないって何? まるで死んでしまうと言っているようなその言葉が気になって無理矢理目を開ける。

「大……丈夫……?」

私の声に驚いて全員一斉にこちらを見る。
おぉ……みんな綺麗な金色の目……たしか魔族の特徴だったかな。

「ルシエルを呼んでくる」

男の子が一人、部屋から出ていく。
ルシエル……? 誰だろうと思っていると、まだ見慣れない大人の姿をしたルウが走ってきた。

「ハル、お粥を作ったから一緒に食べよう」

でも、と子供達を見ると

「食べながらちゃんと説明するから」

ルウが子供達を部屋から出して食事を運んできた。

「ルウ……ルシエルっていう名前なの?」

ルウに起こしてもらいながら聞くと少し困ったような顔をしたルウと目が合う。

「記憶が戻ったの?」

全部思い出したのかな……

「まずは食事にしよう」

ね? サラリとルウの綺麗な髪が揺れる。
大人になったルウに戸惑う……

「はい、あーん」

え……
お粥をすくい、私の口元に運ぶ……ルウ

「わ、私……自分で食べられ……ます」

何か急に恥ずかしくなる。

「どうしたの? ハル」

ルウが面白そうに笑う……だって……
大人のルウのカッコよさよ……

「ハルも僕にしてくれただろう? 恩返しをさせてよ」

……ルウが大人になっている……中身も……
もう……素直に口を開く。

「……美味しい」

良かった、と微笑み続けて食べさせてくれる。
お粥を食べ終えるとお茶もいれてくれた。

「ルウ……その身体……どうしたの?」

お茶を飲みながらそろそろいいかな、と思い聞いてみる。

「魔力が戻ったんだよ。魔族は魔力を使いすぎると身体が小さくなるんだ」

へぇ……あれ? でも

「ルウに年を聞いたとき……」

「僕は見た目通りの年齢だと言ったはずだよ。実際身体が小さくなると精神的にもそれくらいの年齢に引っ張られるからね」

それじゃぁ……

「今のルウが本当の……ルウ?」

うん、と頷くルウ。
そうなんだ……やっぱり魔力を使うことは負担になるんだ……

「あ、ルウの本当の名前。ルシエルって……」

これからはそう呼んだ方が……
そうなんだけれど……チラリとルウがこちらを見ながら

「ハルには今まで通り呼んで欲しい。ハルの付けてくれた名前、僕、好きなんだ」

かっっ…………可愛すぎかっ! 大人になってもっ

「ルシエルっていう名前も素敵だと思うけれど……ルウがそれでいいなら今まで通り呼ばせてもらおうかな」

嬉しいよ、と微笑む天使。

「それで……その……あの子達は……?」

ルウが頷き、あの子達はね、と話し始める。

「僕と同じだよ。今は子供の姿だけれど、実際は僕と同じくらいの年齢だよ」

ハルも同じくらいだよね、そう聞かれ、たぶんと頷く。

「あの子達……皆とはこの国、バルムヘルツ王国の城で一緒に暮らしていたんだ」

バルム……? お城で!?

「ル、ルウ……達はもしかして偉い人なの?」

子供のような聞き方をしてしまった……

「僕達は偉くなんてないよ。ただ、人間が使う魔道具のために魔力を提供していたんだよ。その代わりに城に住まわせてもらっていた感じかな」

そうなんだ……

「それじゃぁこの家にある魔道具もルウ達の魔力を使ってできたものかもしれないね」

凄く助かっている……とくに食料を新鮮なまま保存できるのは有難い。

「ありがとう」

そう伝えるとルウが嬉しそうに笑い私の頭を撫でる……なぜ……

「あのね、ハルにお願いがあるのだけれど……」

ルウが少し困った顔をしている。

なんだろう……


私にできることならもちろん何でもするよ…………

 
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