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9 やっぱり家は落ち着く
しおりを挟む「ただいまー」
森の家に到着。
家に入るとルウが暖炉の薪に火をつけてくれる。
こんなこともできるのか……うちの子凄い。
街へ向かうとき火はつけたままで大丈夫、というルウに長時間家を空けるのは初めてだし……火事になったら嫌だからと消して出たのは私。
魔力というのはまだよくわからないけれど使えばやっぱり疲れるものなんじゃないかな……
「ルウ、今日はいろいろとありがとう」
そう言って頭を撫でてから抱き締める。
「……何してるの」
身動き一つせずにルウが聞いてくる。
「今日はたくさん魔力を使ってくれたでしょう?」
だから……
「こうしていれば私の中に残っているルウの魔力を返せるんじゃないかな」
どうだろう?
「…………」
無言! か、返せないのかな? いや……返せるから動かないのかな……? わからない。
少しすると買ってきたものを出す、と言われたのでルウを解放する。結局どっちだったのか……
「これ、着てみて。この靴も履いて」
ルウがうっすらとうんざりしたような表情を見せたような気がしたけれど気のせいだと思う。
買い物をしているときに試着もできなかったし全て私が選んでしまったから着てみて欲しかった。
「サイズは大丈夫だし全部ルウに似合っている」
よしよし、と大満足の私と無表情のルウ。
「これで寒くなっても温かく過ごせるね。ルウのお陰で毛布とフカフカのラグとクッションも買えたし」
さすがにこんなにかさ張るものは買えないだろうと思っていたけれどルウが袋に入るから大丈夫と言ってくれたから買えた。
さっそくラグとクッションは暖炉の前に置いて毛布は寝室へ。
ご機嫌な私と無表情のルウ。
「お腹空いたよね、すぐご飯の準備をするね」
思っていたよりも街での買い物を楽しんでしまったから少し早めの夕食だ。
今日は食材もたくさん買ったからいつもとは違うものも作れる。
ルウが近づいてきて手伝うと言ってくれたからテーブルを拭いてもらってお皿も出してもらう。
出来上がったものをお皿に盛り付けてテーブルに運んでもらい一緒に食事をする。
「ララさんもファルさんもティファナさんもいい人だったね、街も賑わっていたしいい国なのかな」
「…………」
「もう少し街の近くに住めるところはないかな、馬を飼えたらルウの魔力を使わなくても街へ買い物に行けるかも」
「…………」
「あ、でも私馬に乗ったことないや、ルウは馬に乗れる?」
「…………」
「空を飛べるなら必要ないか」
「…………」
「ルウの服も買ったし今度は姿を消さずに一緒に街を歩けるね」
「…………」
一人言じゃないんだけどな……
「……これ、おいしい。また食べたい」
……そっか……
「そっか、うん。また作るね」
思わず頬が緩む。
食後のお茶も一緒に飲んで後片付けをしようと立ち上がりながら
「お皿を洗っちゃうからルウは先にお風呂に入っていて」
そう言うとルウが私を見つめてくる。
無表情だから……何も読み取れない……
ん? と首を傾げる。
「手伝う」
そう? ありがとう、と言って手伝ってもらうことにしたけれど……何を考えているのかわからない……
脱衣所でさっさと服を脱ぐ私にまったく、と呆れているのか照れているのかため息をつくルウ。
一緒にお風呂に浸かり、やっぱりもう少し風呂釜は大きい方がいいね、と何となく呟く。
「二人で入るにしてもさ、足を伸ばしたり向かい合ったりできるしもっとゆっくりできる気がする」
お風呂っていくらくらいするのかなぁ、でもさすがに持って帰るとは言えないか……
そういえば
「ルウ、街へ行って何か思い出したことはある? 知っている人を見かけたとか」
何もいってくれないから聞いてみると少し考えてから首をふるルウ。
「そっかぁ、まぁ気長にいこうか」
ルウのことを心配して探している人がいると思うとのんびりもしていられないけれど……ルウを焦らせてしまうのはよくない気がする。
「……ハルはどうしてあの人達をいい人だって思ったの……」
あの人達……ララさんとティファナさんとファルさんのことだよね。だいぶ話が戻りましたねルウさん……
「親切にしてくれたし」
「それはハルが客だから」
「おまけとかしてくれたし」
「また来て欲しいからだよ」
きっとそうだろうけれども、
「一体どうしたの? ルウ……」
べつに……と何か小さい声で呟いていたけれどもよく聞こえなかった。
話を変えた方がよさそう……
「そういえば街では魔族を見かけなかったね。どこにいるのかな」
あれだけ大きな街だからたまたま見かけなかっただけかもしれないけれど。
「……そろそろ出よう」
そうだ……ルウがのぼせてしまう。
お風呂を出てお茶を飲みながら髪を乾かす。
「このラグとクッション買って良かったね」
フカフカで気持ちいいー、と横になるとそのまま寝てしまいそうになる。
「ハル、ベッドへ行こう」
ルウに揺すられるけれど今日の疲れからか眠くて仕方がない。
私の肩を揺するルウの手を取ると温かくて何だか安心してしまい微笑みながら目を閉じる。
「ルー……今日はありがと……」
ちゃんと言えたのかはわからなかったけれど結局私はそのまま眠ってしまった。
翌朝、目が覚めるとベッドの中だった。
ルウは私に寄り添って寝ている……可愛い。
魔力を使って私を浮かせて運んでくれたのかな……
また使わせてしまった……魔力……
ぐっすり眠っているルウの頭を撫でる。
昨夜はうなされなかったかな……ごめんね。
それからそっとベッドを抜け出して身支度を整える。
朝ごはんを作ろうとキッチンへ行き昨日ララさんのところで買ったパンを取り出す。
サンドイッチを作ろう。いろいろな種類を作れるからルウも気に入ってくれるはず。
あとは……ルウが目を覚ます前に森にランプのオイルをとりに行こう。
今回は二人で過ごす冬だからもう少しあってもいいと思うんだよね。
行って帰ってくるだけだからすぐだしちょっと行ってこよう。
服を着こんで外へ出ると思っていたよりも寒かった。
食料は……十分あるし、ルウの服も靴も買った。毛布も買い足したし……冬支度で忘れていることはないよね……
あれこれ考えながら歩いていると何かが視界の端で動いた気がした。
そちらを見ると大きな木の陰で何かが……動いている。
何だろう? ゆっくりと近づいて行くと
「うわぁ、綺麗だねぇ」
思わず話しかけてしまった。
馬だ……真っ黒でなんか強そう。
「初めまして、どこから来たの?」
通じるはずはないと思っていてもつい話しかけてしまう。
よく見るとそのコの片方の足首には初めて会ったときにルウがしていたような金色の輪が嵌められている。
でもルウのものよりも細くて……色が同じなだけで違うものかな。
誰か近くにいるのかと思って見回すけれど誰もいない。
ルウは足首に痣ができて痛そうだった……もしかしてこのコも……
ゆっくりとさらに近づいて鼻先に手を伸ばすと私の手に鼻を近づけてくる。
「足首の輪、外してもいい?」
いいよ、と言っているかどうかはわからないけれどゆっくりとしゃがんで足首についている輪に手を伸ばし両手で触れる。
やっぱりルウのものと似ている……このコのは肌に合わないのかつけている部分が荒れていて痛々しい。
どうしてこんなものをつけっぱなしにしているのか……それとも飼い主とはぐれて森に迷い込んで帰れなくなったのかな……
パキン、と二つに割れるように金の輪は外れた。
外された輪と私を見つめる馬。
なんか今なら触らせてくれそう……
そう思って手を伸ばすとフイッと避けられてそのまま森の中へ消えてしまった。
触らせてもらえなかった……
あと、この金の輪っか……どうしよう。
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