七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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5 人間と魔族と動物と魔獣

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 私も食事を済ませたら昨日できなかったランプのオイルを集めに行こう。


ルウは戸惑ってはいたけれど嫌がってはいなかった……と思うから黙って出ていったりはしないよね。

とりあえず、外に出る前にルウが着ていた服を洗って干しておく。

それから服を着込んで外に出る。

前の住人は私よりも背丈があったみたいで家にある服は全て大きい。デザイン的にもたぶん男性だったのかな。

小さかったら着られなかったからよかったけれど、私でも大きいということはルウにはだいぶ大きい。

帰ったらルウの服を取り込んで繕って、それからルウが着られそうな服を探してみよう。

段取りを組ながら森の中を歩いていく。

容器に溜まったオイルを回収して帰り道は昼食の事を考える。

お粥に細かく刻んだ野菜を入れて……他に魚かお肉を使った料理を出してみようか……帰ったら食べられそうか聞いてどちらがいいかも聞いて見よう。

家に着いたら薪を二本手にとってから中に入る。
暖炉に薪を足してランプにもオイルを足しておく。

ルウの服を取り込んでから寝室に向かい控え目にノックをする。
返事はないけれど様子が気になるから静かにドアを開ける。

ベッドをみると布団の中から琥珀色の目がこちらを見ている。

お…………

「……起きていたの?」

ビックリした……

「眠れた?」

コクリと頷くルウ。

「もう少ししたらお昼ご飯を作るけれど食べられそう?」

お粥と魚かお肉は食べられるか聞いてみると

「……ハル……と同じもので」

そう答えてくれた。
いきなり普通の食事で大丈夫かと思ったけれど……とりあえず作ってだしてみてゆっくり食べてもらおう。

ルウがベッドから出て、少し家の中を見て回ってもいいかと聞いてくる。

「いいけれど、疲れたらすぐに休むんだよ」

そう言うとジッと私の顔を不思議そうに……見てから

「…………うん」

と無表情で頷く。
うーん……すぐには無理かもしれないけれどそのうち笑顔を見せてくれるかな……

一緒に……といってもルウは私から少し離れているけれどもキッチンへ行く。

キッチンで釜戸とか木箱を一通り見て回るとルウはリビングへ行きソファーや暖炉を見ている。

私が食事の準備をしている間にお風呂とトイレも見てきたみたい。

それから書斎に行ったのか、動き回る気配がなくなった。

食事の準備が整いルウを呼びに書斎へ行くとこの家にあった地図と私が書いた地図を見比べていた。

そうだった……出しっぱなしにしていた……

「ルウ、ご飯ができたよ」

こちらを見てコクリと頷くルウ……私が地図に書いた文字については何も聞かれなかったから私が聞いてみる。

「ルウはこの地図に書いてある字は読める?」

元々この家にあった地図を指差すとルウはうん、と頷く。

「それならこっちは?」

今度は私が書いた字を指差す。
ルウは地図をジッと見てから私のことも見つめて……

「……お腹が空いた……」

と、ポツリと呟いた。
そうだった、ご飯。朝はお粥だけだったからお腹ペコペコなはず。

「キッチンへ行こうか」

そう言ってつい差し出してしまった私の手を見つめるルウ……首まで傾げてしまった……

なかなか距離が縮まらないなぁ……

出した手を引っ込めてキッチンへ向かうとルウもついてきた。

席に着いて食事を始める。

チラリとルウを見ると落ち着いて食べている。
食べ方は綺麗だしやっぱり見た目よりも大人びている気がする。

「……ハルはあの文字が読めないの?」

こちらを見ずに突然聞かれた。
正直に答えるか……

「うん、実は読めないんだ」

なぜか少し恥ずかしくてアハハ、と笑ってしまう私を無表情で真っ直ぐに見つめるルウ。

「食事の後、時間があるならあそこにある本を読んであげる」

突然の提案に驚いたけれどもルウの気が変わらないうちにそれじゃぁ食後にお願いしようかな、と言っておく。

どうしたのだろう……食事のお礼とか? なんにせよ有難いし嬉しい。

ウキウキと後片付けをして、二人分のお茶を入れてリビングへ移動する。
ルウが書斎から本を持って来て一緒にソファーに座る。

ルウが持って来たのはファンタジーな絵が描いてある児童書のようなあの本だ。こういうのを選ぶ辺りは子供らしいのに。

思わず頭を撫でそうになる。

二人でお茶を一口飲んでからルウがページをめくり始める。

「この世界には様々な生き物が存在する。人間、魔族、動物、魔物……」

ほぅ、やっぱりファンタジー系か。

「動物は家畜や愛玩動物として人間に飼われていたり人の側にいるものや自然の中に生息している生き物だ」

うん、私の知っている動物と同じ。

「魔物は数が少なく未だにわかっていないことが多い。その見た目は様々で動物にも似ているが動物よりも大きく群れることはほとんど無い」

本に描いてあった絵のいくつかは魔物ということか。

「人が出会うと必ず襲われるため、狂暴性は高いと思われる」

ん? 動物もそうじゃない?
警戒心やこちらの態度次第で攻撃的になるのって。

「人間は……」

ルウがそう言って私を見る。

「ハルは人間……だよね」

子供らしくて可愛い……思わずフフッと笑いルウの頭を撫でる。

「うん、そうだよ」

頭を撫でられているルウの表情は無……無表情。
手を引っ込めよう。

「魔族と人間の大きな違いは魔力の有無である。魔力量の差はあるが少しでも魔力のあるものは魔族となる」

人間の説明飛ばしたね……私が人間だと言ったからか……

「魔族は人間よりも数が少なく集団で生活をすることもない。子供が生まれても長くて十年程で子育てをやめてしまう」

人間とはずいぶん違うんだ……

「その反面、執着心は強く目をつけられるとどこまでも追われることになる。残酷で気まぐれな性格の者が多く人間を殺すこともある」

へぇ……

「魔族は容姿が美しい者が多く瞳は金色やそれに近い色をしている」

金色の瞳ねぇ……
ルウと目が合う。

「ルウの目も綺麗だよね」

フフッと微笑むと

「僕は魔族だ」

魔族ってさっき話してた残酷で気まぐれな性格の?
だとしたらずいぶんと可愛い魔族だ。

「そうなんだぁ」

よしよしと頭を撫でる。
パシッと私の手を払い話を続けるルウ。

「魔族がどういう存在で人間がどう扱っているか知っているよね」

ちゃんと聞かれてしまった……さっき教えてくれたこと以外知らない……というか本の中の話じゃない。

ルウはずっとこの世界の話をしている。

一年だ……一年間ずっと考えていた答えがようやく出た。
ルウが教えてくれた……

ルウは魔族……

「何か思い出したの?」

そう聞くと首をふるルウ。

「……覚えていることもある」

虫食いみたいな感じで記憶が抜けているのか。

「この家にある魔道具……ハルが作らせたの?」

この家の……マドウグ? 

「マドウグって? この家にあるの?」

マドウグってなに?

「キッチンと風呂とトイレ、暖炉と外の箱と薪置き場と入り口近くにある水がめ」

たくさんあるよね、と……

「あぁ、あの便利シリーズね。マドウグっていうんだ、不思議だけれど便利だよね」

え……っていう顔をしているルウ……

「……実はこの家、私の家ではないんだ。それにね……」

この際話してしまおう。
ルウも魔族だということを教えてくれたし……

これから一緒に住むのなら隠し事は無い方がいいよね。
聞きたいことも聞けるしこのちょっとギクシャクした感じもなくしたい。

「ルウ、私の事を話すね」

私もルウと話してこの一年のモヤモヤを晴らそう。
そう覚悟を決めて口を開く。

「一年くらい前に私は……」


ルウが琥珀色の瞳で私を見つめている……

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