4 / 87
4 綺麗な色
しおりを挟むいつもよりも遅く目覚めた翌朝。
少年はまだ寝ている。
目を覚ました時に食べられるようにお粥でも作っておこうと思いベッドからそっと抜け出す。
身支度を整えてからキッチンに立ちお粥と自分の朝食も作る。
様子を見に寝室へいきドアをそっとノックする。
返事はないからまだ寝ているかな。
ベッドに近づいて頭を撫でていると少年の瞼が震える。
あ……目を覚ますかな……
少年の身体に力が入り苦しそうな表情になる。
どうすればいいのかわからなくて頭を撫で続けていると……
少年の目がゆっくりと開き……
起きた…………
見たこともない綺麗な琥珀色の瞳……に見とれている場合じゃなかった。
少年が私に気が付き目が合う。
「お……」
おはよう、と口を開きかけた瞬間……
バシッ
頭を撫でていた手を振り払われてしまった。
少年は起き上がり私を睨む……それはもう敵意むき出しの睨みだ。
それから周りを見回して……自分の両手を見つめてからもう一度私を睨み付ける。
ど……どうしよう…………
なんか怖がっているようにも見えるし……警戒もされている。
「あの……おはよう。身体は大丈夫?」
とりあえず微笑んでなるべく優しく話しかけてみる。
すると少年が今度はとても驚いた様子で私を見つめる……
「お腹空いてるよね? 食べやすいものなら食べられるかな」
そう聞くと少年はブツブツと何かを呟き始める……
その呟きは歌に聞こえなくもないような……何を言っているのかは声が小さくてよく聞こえないけれど……
なぜ突然歌い出す……?
歌が終わったようなのでもう一度聞いてみる。
「ご飯……食べる?」
少年は小さく頷き
「いただきます……」
と小さな声で答えてくれた。
おぉ……久しぶりに人と会話した。
「今、食事を持って来るね。ちょっと待っててね」
少年が頷いたのを見てからキッチンへ急ぐ。
良かった、食事ができるなら元気になるよね。
瞳の色……綺麗だったな……もしかしたら言葉が通じないかもしれないと思ったけれど通じて良かった。
お粥とお水を持って寝室へ戻る。
少年はまた自分の両手を見つめている。
「どこか痛いところがあるの?」
サイドテーブルにお粥を置きながら聞いてみる。
「…………いえ」
なんなのその気になる間は……
本当に? と聞くと今度はすぐにはい、と頷いた。
グゥ、と少年のお腹が鳴り、さっきの様子が少し気になったけれどとりあえずご飯を食べてもらうことにした。
お粥をスプーンですくい、フーフーと冷ましてから少年の口元まで運ぶ。
「……え」
少年が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
ん? と私が首を傾げると少年が戸惑いながらもゆっくりと口を開ける。
パクリ、とお粥を口に含み飲み込む。
「……おいしい」
物凄く小さな声でそう言ったのを聞き逃さなかった。
か、可愛いっ……
私の母性が爆発しそう……
何度かお粥を口まで運び少し落ち着いたところでそういえば、と……
「自己紹介がまだだったね。私は春、先生 春だよ」
お察しの通りあだ名は春先生だった……先生と呼ばれる職業には就かなかったけれど。
「ハルって呼んでね」
そう言って微笑むけれども少年の表情は硬い。
そして黙ってしまった……
「……名前……何も……覚えていない」
ようやく話し始めたと思ったら…………え?
えっ!?
「お、おぉ……そっかぁ……」
私が取り乱してはいけないっ……この子が余計に不安になってしまう。
「もしかしてどこかで頭を強くぶつけたりしたのかな」
そう言いながら少年の頭に手を伸ばすとビクッ……と身体が強ばる。
この子……もしかしたら酷い目にあって……?
確か……身体を洗った時に頭にも傷やコブがないか確認したから大丈夫だと思うけれど……
痣は身体のあちこちにあったから……何か精神的な事からいろいろと忘れてしまったのかもしれない……
頭に伸ばした手を引っ込めて少し離れると少年の身体から力が抜ける。
何にせよ名前がないのは不便だ。
「それなら……ルウって呼んでもいい?」
特に意味はないけれど呼びやすいし何となく頭に浮かんだ名前を言ってみた。
「……好きに呼んでください……」
微妙な反応……む……難しい……
目が覚めてからまだ一度も笑顔を見ていない……年齢の割にはしっかりして……そういえばいくつなのだろう。
「ルウは……」
いくつなのか聞こうとしたけれど記憶がないのだった……
「ルウがよければ何か思い出すまでここで暮らさない?」
ルウがこちらを見て…………み、見ている……嬉しそうでも嫌そうでもなく綺麗な顔で無表情……
「……いいのですか?」
もちろんだとも。
「うん、記憶が戻るまで一緒にいよう」
そう言うとようやく
「……ありがとう……ございます」
と言ってくれたけれどもまだ警戒されているのがわかる。
きっと記憶がなくて不安なんだろうな……
「……僕の服は……」
そうだった、この家には子供の服が無いんだった……
「汚れていたし穴が開いているところもあったから洗って繕ってから返すね」
そうだ、
「それから足首に着けていた金色の輪は外してここに仕舞ってあるから……」
サイドテーブルの引き出しを開けて布に包んだ輪っかを取り出すと
「……外した?」
バッと布団をめくり足首を確認している……
「貴女が……ハル……が外したのですか?」
名前を呼んでくれた……嬉しい。
いや、それよりも……驚いている。
勝手に外したのはまずかったかな……
「どうやって……」
ショックを受けている様子に焦ってしまう。
「ご、ごめんね。少し痛そうだったから寝ている間は外しておこうと思って……」
ルウが首をふる。
「いえ……いいんです。それよりもどうやって外したのですか」
どうやってって……そうか、外し方も忘れてしまっているのか。
「こう?」
外した輪を手に取り再現する。
やっぱり繋ぎ目がわからないけれど適当に持ってほんの少し力を入れるだけで二つに別れた。
ルウが目を見開いて驚いている……本当に綺麗な色だ。
「足首に痣が残っているからしばらくは着けない方がいいと思うけれど、これは返しておくね」
カチャンと元の輪に戻して布にくるんで返しておく。
ルウが受け取りありがとうございます、というので
「これから一緒に住むのだし、堅苦しい話し方は無しにしない? 住んでみて不便なこととかあったら教えて欲しいし」
そう言うと
「は……うん、わかった。ありがとう」
少し視線をそらしながらそう言ってくれた。
「この家には他にも誰か住んでいるの?」
そろそろ休んでもらおうかと思ったらルウから話しかけてくれた。
「ここには私一人で暮らしているよ」
「ずっと?」
「一年くらいかな」
「その前は?」
……突然の質問責め……どうしよう……
もう誰にも会わないものだと思っていたから何も考えていなかった……
この家が私の家ではないことを今言ったら不安にさせてしまうかな……
この家にくる前の事は……もう少しルウと話をしてみてからどうするか考えよう……とりあえず
「ルウ……今はもう少し休んで。話はまた後でしよう」
少し私を見つめてからコクリと頷き大人しく横になる。
「ゆっくり休んで」
ついルウの頭を撫でてしまう……怖がりはしなかったけれど喜んでもいないような……
部屋を出てドアを閉めてから小さくため息をつく。
私……少し浮かれている……誰かと一緒に住めることに。
一人暮らしには慣れている。
実家を出てからはずっと一人暮らしだったし。
家賃も安くて住みやすかったアパートは周辺の生活音が聞こえたりして独りぼっちという気はしなかった。
実家は山の中だったけれども両親が一緒だった。
ここでの生活が落ち着いてくると最初は必死で気が付かなかった孤独を感じていた。
だから……ルウの記憶が戻るまでと、わかってはいるけれど……
今、独りではないことが嬉しい……
81
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる