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終章

98話 有終の美

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 真っ暗な世界に光が差した。
 そこから俺を引っ張り出す少女の顔は本当に幸せそうだった。

 ──大好きです

 その言葉と笑顔を最期にフェンリィは動かなくなった。
 俺の腕の中で気を失ったように眠っている。手足に力が入っていないのか重力に従ってだらんと垂らしてしまう。首も座っておらず、頭の重みによってカクンと曲げた。

「フェンリィ……?」

 頭に手を添えて安定させる。
 胸に刺さっていた杭を引き抜くと固まりかけた血が溢れてきた。

「ねぇ、フェンリィ?」

 体を揺すってみる。

「フェンリィってば!」

 さらに激しく揺する。
 肩を叩いても起きてくれない。

「そうだ……」

 床に寝かせて胸に手を当てる。
 体重をかけるようにして圧迫し、俺は心臓マッサージを始めた。

「うごいて……うごいてよ」

 三十回ほど繰り返したら今度は人工呼吸。
 気道を確保して酸素を送る。

「返事、してよ!」

 蘇生術を試しても意識が戻らない。
 ならばと思い、能力を使用する。

「≪反転リカバリー≫」

 結果は分り切っていた。
 諦めたくない。認めたくない。
 目を背けて自分を騙すためにあらゆる方法を試した。

「フェンリィ……」

 全てやり尽くした時、俺は初めて自覚した。
 フェンリィは死んだのだと。

「死なないでよ……!」

 フェンリィが、死んだ。
 俺のせいで死んだ。

「戻って来てよ!!! 勝手に死ぬなよ!!!」

 フェンリィの亡骸を抱えて泣いた。
 溢れ出て止まらない。
 俺がどれだけフェンリィのことが好きだったか痛いほど分かった。

「なんでフェンリィなんだよ……!」

 フェンリィが死ねば魔王も死ぬ。
 それを自覚したフェンリィは自ら死を選んだ。
 本当にそうするしかなかったのか?
 俺は助けてあげられなかったのか?
 後悔の念しか残っていない。

「なんで……俺が生きてんだよ」

 落ちてた杭を手に取り、のど元に突き付ける。
 でもフェンリィの顔を見た瞬間に手から滑り落ちた。

「うあああああああああああああ゛!」

 死ぬことすらできない。フェンリィのいない世界で生きている意味はないというのに、フェンリィがそうさせてくれなかった。

「ごめん……ごめん……っ!」

 抱きしめて懺悔する。
 もっとフェンリィにこうしてあげたかった。
 真っ直ぐフェンリィに気持ちを伝えたかった。

「こんなに好きなのに! 大好きなのに!」

 俺は結構雑な対応をしていたと思う。
 何歩も距離を置いて近づきすぎないように接した。
 じゃないと好きになっちゃうから。殺しちゃうから。

「やっと……言えるようになったのに!」

 呪いはフェンリィと一緒に消えた。
 しかし、魔王は俺に新たな呪いを植え付けた。
 会いたいのに会えない。死ぬまで一生自分を恨む呪いだ。

「はぁ……なんで、フェンリィだけ!」

 空からは眩しい日差しが照らしていた。
 新しい平和の訪れと言わんばかりに澄み切った空が俺たちを見下ろす。

「……下が、うるさいな」

 外には世界中の垣根を超えた種族が集められていた。
 魔王が滅んだ今、争いの火種は燃え尽きただろう。
 おそらくアーノルドたちも元に戻ったはず。

「……どうでもいいな」

 悪いが全部どうだっていい。
 フェンリィを返してくれ。
 今の俺にはそれしかいらない。
 世界よりフェンリィの方がずっと大事だ。

「……いっそなら俺も消してくれよ」

 俺はサタナに造られた存在だ。
 しかしまだ俺は存在している。何の役にも立たないのに能力だって健在だ。
 俺だけ残して他は全部持って行ってしまったらしい。
 特別ってことか、それとも……。

「もう、無理だ」

 一瞬、俺が新たな魔王になって全て壊す考えが浮かんだ。
 でもそれは何の解決にもならない。
 思いとどまってフェンリィを抱きしめる。

「フェンリィ……」

 世界は平和に戻った。
 足りないのはフェンリィだけ。
 なら、いっそ忘れてしまおう。
 俺の記憶を巻き戻してフェンリィの存在を俺から消す。

「≪反転──」

 そうしようとした時、今までの日々が想起された。
 脳に写真が流れ込んでくるみたいだ。
 フェンリィの顔。声。動き。
 ルーナと、メメと、四人で笑っている光景。
 忘れられるはずがない。
 全部無かったことになんてしたくない。

「やっぱ、無関心なのかな……」

 好きの反対。
 でも結局俺の中から消えるということは殺すと同義か。
 なんて、どうでもいい事を思う。

「フェンリィだったらどうする?」

 フェンリィは答えてくれない。
 彼女なら俺が死んだ時どうしてくれるだろうか。
 想像もつかないな。泣く姿は想像したくない。

「起きて。お願いだから」

 俺の中でいつまでも生きている。
 そう割り切りたいが俺には無理だ。
 今はそんな慰めや綺麗ごとより本物が欲しい。
 温もりを感じたい。フェンリィの体温が恋しい。

「まだ、俺との約束は果たしてないよ」

 俺が暴走したら止めてくれると言った。
 その言葉通りフェンリィは俺を助けてくれた。
 ただし、自分の命と引き換えに……。

 俺は約束した。
 呪いが解けたらちゃんと答えるって。
 あれはその場だけの口約束じゃない。
 今、叶えたいって本気で思ってる。

「もう一回、声聞かせてよ」

 フェンリィの顔が濡れていく。
 俺の涙でぐしゃぐしゃになったフェンリィの顔が太陽に照らされて光り輝く。

 俺はどうなってもいい。

 こんな役に立たない力も必要ない。

 無能だって全然構わない。

 ただ俺はもう一度フェンリィに会いたいだけだ。

 普通に会って話せるだけでいい。

 もう他は望まないから、フェンリィだけは取り上げないでください。

 何でもします。

 お願いします。

 お願いします。

 お願いします。

 お願いします。

 お願いします。


 ……願いします。


 ………………。



 …………。





 ……。


「……………………ん」


 まるで奇跡みたいな話だ。
 真っ暗だった世界は、その子がいるだけで光に満ちる。

「………………ん?」

 ピクリと瞼が動いた。
 ゆっくりと持ち上げて、

「……リクト様」

 声を発した。
 二度三度と瞬きを繰り返すと俺の頬に指で触れた。
 あったかい。あったかいよ……。

「フェンリィ……」

 名前を呼んでみる。
 すぐに聞きたかった声を聞かせてくれた。

「はい、リクト様」
「フェンリィ」
「はい。そうですよ」
「フェンリィ」
「はい」
「フェンリィ!!!!!」
「は────ぃっ!?」

 力いっぱい抱きしめた。
 もうどこにも行かないように、誰にも触れさせないように抱きしめた。もう手放したくない。一生、俺だけのものにしたくて抱きしめた。

 生きてる。フェンリィが生きている。
 ちゃんと息をして動いている。
 それだけで涙が止まらない。

「フェンリィ……フェンリィ、フェンリィ!」
「はい。フェンリィですよ」

 俺はそれしか語彙が無くなったようにひたすら大好きな名前を口にした。俺が呼ぶたびにフェンリィは笑顔で返事をしてくれる。それが嬉しくて嬉しくて堪らない。

 俺は今、最っっっっっ高に幸せだ。

「よかった……ほんとによかった!」
「私は信じてましたよ。助けてくれるって」

 俺のすべての力を代償にフェンリィが生き返った。
 だから俺はもうただの無能力者。
 でもいい。一番欲しいものが目の前にある。

「うん……ごめんね。お帰り」
「ふふっ、ただいまです」

 フェンリィも俺の背中に手をまわしてきた。
 隙間がないくらい密着して抱き合う。

「フェンリィ」

 名前を呼ぶ。
 髪を撫でて……耳を撫でて……、
 それから、唇を重ねた。


「……えへへ。初めて、してくれましたね」

 フェンリィは俺の唇をツンとつついて微笑んだ。
 すると自分の身体を抱きしめて、嬉しそうにもじもじした。

「ん? 何回かしたでしょ」

 聞くとフェンリィはふるふると首を振った。
 薄っすら濡れた唇がぷるぷるしている。

「リクト様からは初めてです。特別ですよ」

 フェンリィは口元を手で隠して頬を染めた。
 今ではその恥じらいが可愛いと素直に思える。
 反射的に漏らしてしまうほどだ。

「かわいい」
「えっ!?」

 フェンリィの肩がビクンと跳ねた。
 フェンリィが動いて声を出すだけで俺は嬉しい。

「どうかした?」
「ぃ、今なんて言いました?」
「かわいい。すっごくかわいいよ」

 見れば見るほど可愛い。こんなに可愛い子が近くにいてずっと俺を好いていてくれた。俺は本当に幸せ者だ。

「かわいい」

 フェンリィを見つめる。
 みるみるフェンリィの顔が赤くなっていく。

「そ、そそそ、そんなこと……言ったことないじゃないですか。なんですか急に。不意打ちですよぉ」
「だってかわいかったから。フェンリィかわいい」
「も、もぉー!」

 俺の顔に手を押し当てて「見ないでください」と言ってきた。それから俺の胸をポカポカ叩いてくる。

 正直に褒めただけなのにな。 

「あ、一個ごめん」
「な、なんですか? もう謝らなくてもいいですよ。むしろ助けてくれてありがとうです」

 俺もフェンリィも無事に生きている。
 だからこの話はお終いにしようということだ。

「いや、それもだけどそうじゃなくて。さっき30回ぐらいキスしちゃったから」

 人工呼吸で散々フェンリィの唇を奪ってしまった。
 本当に生き返ってくれてよかったな。

「あれ? フェンリィ?」

 きょとんと首を傾げて固まっている。
 手を振ってみても反応が無い。
 何度か頬っぺたを突っついているとようやく意味を理解したのか、


「ふぇええええええええええ!?」


 目をぐるぐるさせて叫んだ。さらには、首をぶんぶん振って髪を靡かせるという奇行にも走ってしまった。やっぱりこの子は何をしても可愛らしい。

「何してんの? すっごい良い匂いするけど」
「ふぇええええええ!」

 動き回って汗もかいてるはずなのにずっと嗅いでいたいくらいだ。思いっきりわしゃわしゃして顔をすりすりした衝動にも駆られる。あれ? 俺こんなこと思うんだ。なんか自分が自分じゃないみたいだな。

 まあ幸せだからいっか。
 それよりなんでいつも「ふぇえええ!」って言うんだろ。

「い、いいいいくら私が好きだからって死体に何でもしていいわけじゃないですよ!!!」
「さっきも1回したのに30回はダメなの?」
「そういうことじゃないですよバカああああああ!」

 女の子は難しい。
 喜んでるのか怒ってるのかよく分からないな。

「……あ、待って。ほんとにフェンリィなの? ちゃんと生き返ったんだよね?」

 動いて喋るフェンリィに喜んでいたがまだちゃんと確認していない。これも魔王による策略かもしれないし、幻なのかもしれない。

 よし、確かめよう。そう思ってフェンリィの服の下に手を伸ばす。

「む、もしかして私の見分けもつかないんですか? 女の子の顔見分けられないのはリクト様でも許しましぇええええええええ!? ちょ、ちょっと! 何しようとしてるんですか!?」

「ちゃんと心臓動いてるか確かめるんだよ。あと穴も塞がってるか。いいから見せろって」

「わあああああん! リクト様が変態さんになっちゃいましたあああああ!」

 ベチンッ!
 フェンリィは俺の頬っぺたを引っ叩いた。
 ジンジンと痛むこの感覚は間違いなく現実だ。

「ご、ごめん凄く語弊があった。でもよかったよ、ちゃんとフェンリィだね」
「そ、そうですよ! いくらリクト様でもそういうのは恥ずかしいんです!」
「分かった、気を付ける。フェンリィでもそういうこと思うんだね」
「私のことなんだと思ってるんですか!? そんな色情淫乱娘じゃないですよ!」

 いつもベタベタしてくるが彼女なりの線引きがあるらしい。正直俺はもっとイチャイチャしたいと思い始めているがゆっくりいこう。

「ごめんて。そんな怒んないで? 怒ってる顔もすっごくかわいいけど」
「またそう言う! なんですか。どうしちゃったんですかリクト様。どこでそんな口説き文句覚えてきちゃったんですか。私をどうするつもりですか!」

 凄い勢いでまくし立てるフェンリィ。
 生きている実感がわいて目頭が熱くなってしまう。

「好きだよ、フェンリィ」
「ま、また不意打ちです……」
「ずっと好きだったよ。やっと言えた」
「もぉぉぉぉぉぉぉ!」

 フェンリィは大粒の涙を流した。
 えんえん泣いて俺の胸に飛び込んでくる。

「私も好きです! 好きですよぉ!」
「うん、知ってるよ。ありがとう」
「はぃ……うっ、ぅえええええん!」

 俺は顔を指で拭って綺麗にしてあげた。
 そして顎をくいっと持ち上げる。

「もういっかい、ちゅーしてください」

 とろんとした目でおねだりしてくるフェンリィ。
 我慢できず、もう一度俺の方から口づけした。

「んぅぅ……ちゅ、ちゅっ……」

 今度は深めに。息が切れるまでくっつけた。
 口を離すとフェンリィが体を持ち上げて追いかけてくる。
 また息が切れるまでキスをして、フェンリィが離すと俺がまた追いかけた。
 そうやって、しばらく愛情を表現した。
 言葉も必要ないくらい、俺たちは互いに愛し合っていた。



***



「リクト様」
「ん?」

 戦いは終わったが今になって疲労が出てきた。
 俺は足を伸ばして座り、その上にフェンリィが膝枕の形で横になっている。

「ほんとに、私の事好きなんですか?」
「好きじゃなかったらあんなにキスしないよ」

 その単語に反応してフェンリィはぽっと赤くなった。
 素に戻ると俺も少し気恥しい。

「そうじゃくてですね……私でいいのかなって」

 フェンリィの境遇は断片的にしか聞いていないがずっと自分を取り繕って生きてきたらしい。そんな自分でいいのか自信がないのだろう。

「俺の方こそ俺でいいのか不安だよ。でも、フェンリィが幸せそうにしてくれるから俺も生きていいんだって思えてる」
「わ、私もです! じゃ、じゃあ……私のどこが好きですか? こ、こういうこと聞くとまた面倒くさいって思われちゃいますよね」

 フェンリィはずっと行動で示してくれたが俺は答えてあげられなかったからな。こんな質問をしても不思議じゃない。ちゃんと言葉にして欲しいはずだ。

「全部って言ったら怒る?」
「ダメです。ちゃんと褒めてください」

 やっぱり少し面倒くさいと思った。
 でもそんなところも愛おしくて、思わずもう一回キスしてしまった。横になるフェンリィの髪の毛をいじりながら真剣に答えてみる。

「俺を好きでいてくれるから……っていうのはずるいかな? 上手く言えないけど、フェンリィのために生きたい。これからもずっと一緒に居てね」

 この気持ちは多分理屈じゃない。
 不服だが、フェンリィを一度殺したこともその証明だ。

「人のために動けるところも素敵だよ。自分を犠牲にするのはやめてほしいけど」

 フェンリィは俺にも怒ってくれたし、誰かのために体を張る。それは簡単なことじゃない。

「あとやっぱかわいいよ。スタイルもいいし。髪もサラサラしてるし、肌もぷにぷにしてて柔らかい。笑顔も素敵だしたまに変なことするけど見てて楽しいよ」

 すらすら言葉が出てきた。
 俺は自分で思ってる以上にフェンリィという女の子に惚れているらしい。

「も、もう大丈夫です。ありがとです」
「フェンリィは?」
「ふぇ?」
「好きなとこ。教えてよ」
「全部です」
「えーずるじゃん」
「ずるじゃないですよ。嫌いなとこがないですもん」
「もしかしてあんまり好きじゃない?」

 思いつかないのだろうか。
 それはそれで少し寂しい。

「好きではないかもです」
「あれ、なんか怒らせることした?」

 俺を試して遊んでるのだろうか。
 ご機嫌を取るのは大変だ。

「だって大好きですから」
「……まあ、それでいいや」
「照れてるんですかぁ?」
「別に」
「え~正直じゃな……やぁぁんっ、ひっぱらないれくらさいよぉ」

 頬っぺたを掴んで横に引っ張る。
 もちもちしてて一生触っていられそうだ。

「私の頭の中見せてあげたいです。四六時中リクト様のこと考えてますからね? 恥ずかしくて言えないこともたくさんです」
「そ、そうなんだぁー」

 完全に主導権を握られてしまった。
 でもこれでいい。こんな幸せな日がくるなんて思わなかった。

「えへへっ、それ!」
「ちょっ、うわああ!」
「おかえしでーすっ」

 フェンリィが上に乗っかってきた。
 抱き合った状態で覆いかぶさっている。

「お、重い」
「むぅ、重くないですぅ」
「じゃあ苦しい」
「言い換えてもダメですぅ」

 むぎゅううっと色々なものが押し付けられた。
 今までは軽々おんぶしたり抱っこしたりできたが、今はもう何の能力も持たないただの男だ。多分フェンリィは軽い方だと思うが疲労も相まって正直少しキツイ。

「そんなこと言う人にはお仕置きですよ? えいっ、えいっ!」

 どしん、どしん、と少し体を浮かせては体重をかけてくる。フェンリィは凄く愉しそうだ。

「あ、ちょっとやり過ぎちゃいました。大丈夫ですか?」
「うん……平気。ちょっと気持ちよかったかも」
「まままままた変態さん発言ですよ! 女の子に意地悪されるの好きになっちゃったんですか!?」
「ち、違うにきまってんだろ。もう忘れろ」

 たまにならいいと思ってしまった。
 正直好きな子が相手なら何でも嬉しい。
 これって普通だよな? 今までの反動かフェンリィへの愛が溢れすぎてしまう自分が少し怖い。ちゃんとコントロールできるか心配だ。

「ちょっと間がありました!」
「フェンリィだって頬っぺた引っ張ると喜ぶだろ」
「そ、そうですけどぉ」
「それと一緒だ」
「ふふっ、私の事好きすぎですねっ。私もリクト様だーいすきっ、すりすり~」

 フェンリィが頬っぺたどうしをくっつけてチークキスをしてきた。髪の毛が当たってくすぐったいが俺もフェンリィにすりすりする。そして俺はそんな甘えてくるフェンリィをぎゅっと抱きしめた。抱き心地がよくてこうしていると安心する。


「……」


 それにしても、一体俺たちは何をしているんだろうか。まだ明るいし外でこんなことしてていいんだろうか。明日になったら羞恥心で顔もまともに見れなくなるかもしれないな。ああ、そうなる未来しか見えない。

 と、思い始めたところで、

「何じゃれ合ってんのよ。元気そうでいいけど」
「メメたちお邪魔かな?」

 ルーナとメメが最上階までやってきた。
 二人ともボロボロだがちゃんと生きている。

「あ! ルーナ! メメちゃーん!」
「ちょっと、アンタ急にっ!」
「く、苦しいよぉ」

 フェンリィは俺から離れると二人に勢いよく抱き着いた。ルーナとメメも、フェンリィをぎゅっと包む。二人とも涙ぐんで再開を喜んだ。

「よかった、フェンリィ。ほんとに無事でよかったわ」
「はい! ルーナも心配してくれてありがとです!」

「リィちゃんだよね? 本物なんだよね?」
「メメちゃん! これで信じてくれますか?」
「きゃっ、くすぐったいよぉ」

 青空の下に三人の笑い声が響き渡る。
 そんな光景を見ているとルーナとメメが俺に親指を立てた。

「ああ、みんなお疲れ」

 そんな二人に俺も笑顔で返す。

 フェンリィ奪還作戦は、誰一人かけることなく無事コンプリート。

 そして、俺たち無能と呼ばれた四人が世界を救ってみせたのだ。
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