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3章
81話 母と娘
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メメの前にママが現れた。
ずっとずっと会いたかったママ。
でもメメの知ってるママじゃない。
今はママの姿をしてるだけの、操り人形。
「── ≪瞬間移動≫」
「ふうん、魔法使えるようになったのねメメ。あんなに出来損ないだったのに凄いじゃない」
「……」
吸血鬼はリっくんが倒してくれる。
だからメメはママと向き合うために場所を変えた。
これはメメにしかできないこと。今度はメメがママを助けてあげる。
「ママ嬉しいわ。あんなに小さくて何もできなかった子がこんなに大きくなってくれて」
何度も見た顔と何度も聞いた声。
目の前にいるママは記憶の中のママと何ら変わらない。
でも一つだけ決定的に違う箇所があった。
吸血鬼に噛まれたせいか、ママはメメに酷いことばかり言ってくる。
「早く死んでくれないかな? またママと一緒に暮らそうよ。これからもずっと一緒にいたいな」
メメのママがどんどん穢されていく。
違うって頭では分かってるけど心が反応して悲しくなる。
「覚えてる? メメが一人だと泣くからママは全部捨ててメメのことだけ考えてたんだよ」
覚えてるに決まってるじゃん。
泣き虫なのは今も変わってないよ。
「いつもメメが虐められるから守ってあげてたんだよ」
そうだったよ。知ってるよ。
「メメがいたから、ママは死んだんだよ」
……わかってる。これはママの言葉じゃないって。
でもやっぱりキツイなぁ。
実際に言われるのってこんなに辛いんだ。
「だから今度はママのお願い叶えてよ。一人は寂しいなぁ。死んでほしいなぁ」
「……」
「無視? ねぇ、ママの言うことが聞けないの? そんな子に育てた覚えはないんだけどな!」
「……ぅう」
「また泣くの? あやすの大変だったんだよね。大変っていうか、ほんと面倒だったよ」
涙が溢れそう。そんなこと言われたら泣くに決まってるよ。
ママのこんな目は初めて見たし初めて聞いた。
死んじゃいたいって思うよ。
でも不思議だな。
「あーぁ、産まなきゃよかった」
なんだか、ちょっぴり嬉しいのはどうしてだろう。
「ねぇママ」
「やっと喋った。なぁに?」
「メメも一つ言いたいこと言っていい?」
「いいよ言ってごらん。ママはメメのママだからね。子どもの我儘ぐらい聞いてあげるよ」
「よかった。じゃあ言うね」
蘇るのはあの日の記憶。
ママの血で染まっていく真っ赤な記憶。
何度自分を責めたかわからない。
それでも、言ってやりたいことがあった。
「なんでメメを置いて死んだの?」
「聞き間違いかな? もう一回……」
「なんで勝手に死んだのって聞いてるの。メメは寂しかったのになんでいなくなったの? ママが弱いのが悪いんじゃん!」
言った。言ってやった。
ずっと自分を責めてたけどそうじゃないよ。
言ってもいいんだよ。メメは子どもだから。
「何を言い出すかと思いきや呆れたね。そんなのメメがいたせいに決まってるでしょ! なぁに! その口の利き方は! 親に向かって子どもが逆らっていいと思ってるの!?」
「メメは悪くないもん! 悪いのは全部ママだよ!!!」
思えばメメの記憶には存在しない。ママと喧嘩をした記憶が。
だって、どんな時も助けてくれるし愛してくれた。嬉しかったし、そんなママのことが大好きだったから喧嘩なんて生まれようがなかった。一度だけ自分への不満から溜まった想いを零したことはあったけど喧嘩とは違う。そしてその後すぐにママは死んだ……。
「ママが悪い? メメさえ居なければ勝ってたよ!」
「そんなの言い訳だよ! 子どもを守るのがお母さんでしょ!」
それは多分、正しいけど間違ってると思う。
ママだって辛いと思うけど、そんなのメメにはわかんないよ。
だから言わせて。ママも言っていいからさ。
「守ったでしょ! そのせいでママが死んだんだよ! メメがママを殺したの! この人殺し!」
「メメは死ぬより辛かったよ! 生きるのは死ぬほど大変なんだよ? 一人にしないでよ!」
今まで一度たりとも親子喧嘩をしてこなかった。感情をぶつけあってこなかった。内容は喧嘩と呼ぶには酷過ぎるし普通じゃない。だけどこうやって吐き出す行為自体は悪くない。
だからかな。向き合えるのは。
子どもが親を叱ったっていいよね?
一回だけなら反抗期になったっていいよね?
元に戻して、一番言いたいこと言わないと気が済まないから。
「ママ強いんでしょ? だったらやってみなよ」
ステッキを向けて手で煽る。
殺してみろと。かかってこいと体現する。
「いいよ、躾てあげる。ママはスパルタだからね!」
ママは一瞬で魔力を溜めて、魔法を構築し始めた。
魔法というのはイメージの具現化。
仕組みを理解すればするほど魔力消費を抑えることが出来るし威力も増す。
例えば一つの魔法を無詠唱で行うなら、一冊の本を丸暗記するのと同じぐらい労力がかかる。そんなの普通の人には無理だから、簡略化された詠唱を唱えることによって可能にしている。要するに、メメとママは普通じゃない。
「誰のおかげで生きてられると思ってるの? ≪戦死者の館≫!」
ママの魔法は当然強いしステータスも高い。
メメの魔法攻撃力と魔力量がSSなのに対してママはSSSと∞。
じゃあ同じ魔法を使えばママの方に分がある?
ううん、ママは結構大雑把な人だったから同じ魔法でも理解はメメの方が上。これは同じ料理でも作り手によって完成度に差がでるのと同じ。いくら技量があって何でも作れようが、その道の達人には敵わない。魔法の発動ならメメの方が速いし、きっと力は五分のはず。そこにメメの勝機がある。
「≪戦死者の館≫!」
魔力がぶつかり合って爆発が起こる。
メメがママに通用することの証明。
そして開戦の狼煙となった。
「ふうん、やるねメメ。でもずっとこの繰り返しになるよ。そうなったらメメの負けだね」
「心配しなくてもいいよ。メメにはとっておきの魔法があるから」
ママに匹敵する魔法を使えても意味は無い。
このままだとメメの魔力が先に切れる。
その前に勝負を決めなきゃダメ。
「とっておき? まさか勝てると思ってるの?」
「勝てるよ。……勝つもん」
ママの強さを一番知ってるのはメメ。
でもママの弱さを一番知ってるのもメメ。
「ちょっと痛い事するけどママなら平気だよね? 泣かないでね?」
「あら、優しいのねメメは。でも大丈夫よ。自分の心配だけしてなさい!」
ママが再び魔力を集中させた。
それを見た瞬間に、メメは≪瞬間移動≫で背後を取る。
これならママも反応できないはず!
「≪神のお告──」
「へぇ、ママも甘く見られたね」
「えぇっ……!?」
攻撃に転じる瞬間。つまり、メメが移動した先にママが反応した。
しかもメメと目が合うくらいピンポイントで。まるで未来予知でもしたかのように、そのままメメに魔法を放った。
「≪裁きの雨≫!」
「……ぐっ、≪絶対障壁≫!」
危なかった。少しでも遅れたら死んでたかも。
「何驚いてるの? 相変わらずかわいい顔ね。ちょっとママに似てきた?」
「どうして、わかるの?」
今ので勝てるつもりだった。
ママが死んだ時の方法に似てるから。
「簡単よ。メメの考えることなんて顔見れば一発で分かっちゃう。だってママだもん」
相対していなければどれだけ嬉しい言葉だったか。
そうなんだ。顔見たら分かっちゃうんだ……。
なら一緒だね。
「ごめんね、ママ」
「どうしたの? 泣けば許してもらえると思った? ママに逆らったのはメメだよねぇ? ちゃんとお仕置きするまで許さないよ」
「違うよ……。そうじゃ……」
「何ごちゃごちゃ言ってるの。ハッキリ言えって教わらなかった!? ≪禍の詰め合わせ≫!」
「うぅ……パッ、≪禍の詰め合わせ≫!」
相殺。したけど、これじゃ勝てない。
攻撃は読まれるし押し勝てない。
ならもっと強力な魔法を使うしかないよね。
でも≪死を想え≫はメメでも長い詠唱が必要だし使えば殺しちゃう。殺すのが目的じゃないからそれはダメ。
「ねぇもしかして手加減とかしてる? 親に遠慮とかしちゃってるの? そんなくだらない優しさなんて捨てなよ! その弱っちい顔見てるとイライラするの!」
イライラする、か。
そんな顔見たことなかったな。
ママがしてたのはいつだって……。
「なにヘラヘラしてるの。気持ち悪い子だね。ママはそんなメメが大っ嫌いだったよ」
「だよね。ありがとう」
ママは前によく言ってた。
メメにはメメだけの魔法があるって。
教えてくれたんだよね。
ママも戦ってるんだよね。
一緒に、倒そ。メメがそこから出してあげる。
「死んでよ、メメ。今楽にしてあげる」
そう言って、ママは膨大な魔力を練った。
おそらくメメはもうじき魔力が尽きる。
だからこの攻防が最後のチャンス。
受けに回ったらダメ。とっておきはまだ使えない。
その時が来るまで耐え忍ぼう。耐えるのは得意だから。
「待っててね、ママ」
メメも本気を出すことにする。
まずは、≪瞬間移動≫を連続で使用してママを翻弄した。
ママはすぐにメメを見つけてしまう。昔やったかくれんぼを思い出した。
「無意味だって言ったよね?」
「意味はあるよ。ママもいつまで寝てるの? 早く起きてよ!」
【希望の源】を天に掲げる。
誰も居ない空。対象範囲は自分も含めた半径20メートル。
この魔法の効果は、周囲を魔力で埋め尽くす。ただそれだけ。
「≪空洞の迷路≫」
「なにそれ。血迷ったの?」
「ううん、準備できたんだよ」
この魔法を発動している間は自分の魔力が駄々洩れになる。
一見意味のない魔法。
そんな状態でメメは魔法を撃ち続ける。
「≪涅槃≫!」
「なるほどね。魔法を魔法で隠そうってわけだ。でもそんなのバレバレだよ。≪涅槃≫!」
大魔法の衝突。
爆発した煙も利用してメメは攻める。
ママが全部相殺してくれるのを信じて。
「≪紅の炎≫」「≪紅の炎≫」
「≪天使の囁き≫」「≪天使の囁き≫」
メメが攻撃して、ママが防ぐ。
ただそれの繰り返し。
「≪爆ぜる血潮≫」
「≪爆ぜる血潮≫」
「≪神のお告げ≫」
「≪神のお告げ≫」
「≪復讐の女神≫」
「≪復讐の女神≫」
「≪禍の詰め合わせ≫」
「≪禍の詰め合わせ≫」 「≪戦死者の館≫」
「≪戦死者の館≫」
「≪神への捧げ物≫」
「≪神への捧げ物≫」
「≪赤色の漿果≫」
「≪赤色の漿果≫」
「≪民の救い手≫」
「≪民の救い手≫」
結果から言えば、メメの攻撃がママを上回ることは出来なかった。でも目的は達成できた。
あんなに守られてるだけのメメが、ただママの背中を見ているだけだったメメが、今こうしてママと向き合っている。それだけでもう十分。よくやったと自分を褒めてあげたい。自分に少し自信が持てた。
「ふふっ、もう終わりなの? やっぱりメメはいつまで経っても無能ね。これで終わ──ぐあっっっ!?」
一発。一発だけ許して。
ママもあの日一回だけメメのこと叩いたよね。
痛かったけど、凄く嬉しかったよ。
あのおかげでメメは自分の間違いに気づけた。
だからこれはお返し。
「っく、そんな小細工が通用すると思った!?」
ママは顎を押さえた。
メメがステッキで殴ったせい。
ステッキだけ≪瞬間移動≫で飛ばして顎を殴った。
周りを魔力で満たしたのと、無意味に魔法で攻撃し続けたのはこれを確実に当てるため。
ママは魔法に敏感だからここまでしてようやく不意を突くことが出来た。
「こんな子ども騙ししたって無駄だって分かんないの? もうメメ何も持ってないじゃん。これでママの勝ちだね──って、メメはどこ!?」
ママの視界にはメメが映らないみたい。
だってそうだよ。そんな前見てても見つかるわけないじゃん。
「まま゛ぁぁあああ!」
「えぇっっっ!?」
「早く元に戻ってよぉ!!!」
「…………め、メ?」
メメは、真正面からママに抱き着いた。
ぎゅぅぅぅぅぅって、胸に飛び込んだ。
メメが一番してもらったこと。
一番されて嬉しかったこと
「ママぁ! ママぁああ!!!」
何度も呼ぶ。
ママ。ママ。ママ。
ママ。ママ。ママ。ママ。ママ……。
思い出してよ。
忘れたの?
ママの気持ちはその程度だったの?
違うよね。
メメはママが大好きだよ。
ママもそうだよね?
だって、メメを見る時のママはいつだって、
「……ぅううぅぅぅう、ごめんね。ごめんね、メメ」
いつだって、笑ってたもん。
「ママを、許して。大、好きよ……大好き。大好きに決まってるじゃん!!!」
それが、メメの魔法なんだよね?
「ぁぅっ、ま、ママのばかぁ! ばかぁ! ばかぁあああああああ!!!」
「うん……そうだね。わかった、から、泣かない、で」
ママに抱きしめられる。
あったかくて幸せに包まれる。
ママに撫でられる。
優しくてちょっぴりくすぐったい。
ママだ。ママがいる。
本物のママだ。
大好きなママがここにいる。
「ママぁ」
「うん、メメ」
でもママはもう死んだ。
今が伝える最後の機会。
許された最後のひと時。
終わりは近い。だから……。
「あのね……」
全部伝えよう。
今まで言えなかった分もこれからの分も。
全部全部伝えたい。
ずっとずっと会いたかったママ。
でもメメの知ってるママじゃない。
今はママの姿をしてるだけの、操り人形。
「── ≪瞬間移動≫」
「ふうん、魔法使えるようになったのねメメ。あんなに出来損ないだったのに凄いじゃない」
「……」
吸血鬼はリっくんが倒してくれる。
だからメメはママと向き合うために場所を変えた。
これはメメにしかできないこと。今度はメメがママを助けてあげる。
「ママ嬉しいわ。あんなに小さくて何もできなかった子がこんなに大きくなってくれて」
何度も見た顔と何度も聞いた声。
目の前にいるママは記憶の中のママと何ら変わらない。
でも一つだけ決定的に違う箇所があった。
吸血鬼に噛まれたせいか、ママはメメに酷いことばかり言ってくる。
「早く死んでくれないかな? またママと一緒に暮らそうよ。これからもずっと一緒にいたいな」
メメのママがどんどん穢されていく。
違うって頭では分かってるけど心が反応して悲しくなる。
「覚えてる? メメが一人だと泣くからママは全部捨ててメメのことだけ考えてたんだよ」
覚えてるに決まってるじゃん。
泣き虫なのは今も変わってないよ。
「いつもメメが虐められるから守ってあげてたんだよ」
そうだったよ。知ってるよ。
「メメがいたから、ママは死んだんだよ」
……わかってる。これはママの言葉じゃないって。
でもやっぱりキツイなぁ。
実際に言われるのってこんなに辛いんだ。
「だから今度はママのお願い叶えてよ。一人は寂しいなぁ。死んでほしいなぁ」
「……」
「無視? ねぇ、ママの言うことが聞けないの? そんな子に育てた覚えはないんだけどな!」
「……ぅう」
「また泣くの? あやすの大変だったんだよね。大変っていうか、ほんと面倒だったよ」
涙が溢れそう。そんなこと言われたら泣くに決まってるよ。
ママのこんな目は初めて見たし初めて聞いた。
死んじゃいたいって思うよ。
でも不思議だな。
「あーぁ、産まなきゃよかった」
なんだか、ちょっぴり嬉しいのはどうしてだろう。
「ねぇママ」
「やっと喋った。なぁに?」
「メメも一つ言いたいこと言っていい?」
「いいよ言ってごらん。ママはメメのママだからね。子どもの我儘ぐらい聞いてあげるよ」
「よかった。じゃあ言うね」
蘇るのはあの日の記憶。
ママの血で染まっていく真っ赤な記憶。
何度自分を責めたかわからない。
それでも、言ってやりたいことがあった。
「なんでメメを置いて死んだの?」
「聞き間違いかな? もう一回……」
「なんで勝手に死んだのって聞いてるの。メメは寂しかったのになんでいなくなったの? ママが弱いのが悪いんじゃん!」
言った。言ってやった。
ずっと自分を責めてたけどそうじゃないよ。
言ってもいいんだよ。メメは子どもだから。
「何を言い出すかと思いきや呆れたね。そんなのメメがいたせいに決まってるでしょ! なぁに! その口の利き方は! 親に向かって子どもが逆らっていいと思ってるの!?」
「メメは悪くないもん! 悪いのは全部ママだよ!!!」
思えばメメの記憶には存在しない。ママと喧嘩をした記憶が。
だって、どんな時も助けてくれるし愛してくれた。嬉しかったし、そんなママのことが大好きだったから喧嘩なんて生まれようがなかった。一度だけ自分への不満から溜まった想いを零したことはあったけど喧嘩とは違う。そしてその後すぐにママは死んだ……。
「ママが悪い? メメさえ居なければ勝ってたよ!」
「そんなの言い訳だよ! 子どもを守るのがお母さんでしょ!」
それは多分、正しいけど間違ってると思う。
ママだって辛いと思うけど、そんなのメメにはわかんないよ。
だから言わせて。ママも言っていいからさ。
「守ったでしょ! そのせいでママが死んだんだよ! メメがママを殺したの! この人殺し!」
「メメは死ぬより辛かったよ! 生きるのは死ぬほど大変なんだよ? 一人にしないでよ!」
今まで一度たりとも親子喧嘩をしてこなかった。感情をぶつけあってこなかった。内容は喧嘩と呼ぶには酷過ぎるし普通じゃない。だけどこうやって吐き出す行為自体は悪くない。
だからかな。向き合えるのは。
子どもが親を叱ったっていいよね?
一回だけなら反抗期になったっていいよね?
元に戻して、一番言いたいこと言わないと気が済まないから。
「ママ強いんでしょ? だったらやってみなよ」
ステッキを向けて手で煽る。
殺してみろと。かかってこいと体現する。
「いいよ、躾てあげる。ママはスパルタだからね!」
ママは一瞬で魔力を溜めて、魔法を構築し始めた。
魔法というのはイメージの具現化。
仕組みを理解すればするほど魔力消費を抑えることが出来るし威力も増す。
例えば一つの魔法を無詠唱で行うなら、一冊の本を丸暗記するのと同じぐらい労力がかかる。そんなの普通の人には無理だから、簡略化された詠唱を唱えることによって可能にしている。要するに、メメとママは普通じゃない。
「誰のおかげで生きてられると思ってるの? ≪戦死者の館≫!」
ママの魔法は当然強いしステータスも高い。
メメの魔法攻撃力と魔力量がSSなのに対してママはSSSと∞。
じゃあ同じ魔法を使えばママの方に分がある?
ううん、ママは結構大雑把な人だったから同じ魔法でも理解はメメの方が上。これは同じ料理でも作り手によって完成度に差がでるのと同じ。いくら技量があって何でも作れようが、その道の達人には敵わない。魔法の発動ならメメの方が速いし、きっと力は五分のはず。そこにメメの勝機がある。
「≪戦死者の館≫!」
魔力がぶつかり合って爆発が起こる。
メメがママに通用することの証明。
そして開戦の狼煙となった。
「ふうん、やるねメメ。でもずっとこの繰り返しになるよ。そうなったらメメの負けだね」
「心配しなくてもいいよ。メメにはとっておきの魔法があるから」
ママに匹敵する魔法を使えても意味は無い。
このままだとメメの魔力が先に切れる。
その前に勝負を決めなきゃダメ。
「とっておき? まさか勝てると思ってるの?」
「勝てるよ。……勝つもん」
ママの強さを一番知ってるのはメメ。
でもママの弱さを一番知ってるのもメメ。
「ちょっと痛い事するけどママなら平気だよね? 泣かないでね?」
「あら、優しいのねメメは。でも大丈夫よ。自分の心配だけしてなさい!」
ママが再び魔力を集中させた。
それを見た瞬間に、メメは≪瞬間移動≫で背後を取る。
これならママも反応できないはず!
「≪神のお告──」
「へぇ、ママも甘く見られたね」
「えぇっ……!?」
攻撃に転じる瞬間。つまり、メメが移動した先にママが反応した。
しかもメメと目が合うくらいピンポイントで。まるで未来予知でもしたかのように、そのままメメに魔法を放った。
「≪裁きの雨≫!」
「……ぐっ、≪絶対障壁≫!」
危なかった。少しでも遅れたら死んでたかも。
「何驚いてるの? 相変わらずかわいい顔ね。ちょっとママに似てきた?」
「どうして、わかるの?」
今ので勝てるつもりだった。
ママが死んだ時の方法に似てるから。
「簡単よ。メメの考えることなんて顔見れば一発で分かっちゃう。だってママだもん」
相対していなければどれだけ嬉しい言葉だったか。
そうなんだ。顔見たら分かっちゃうんだ……。
なら一緒だね。
「ごめんね、ママ」
「どうしたの? 泣けば許してもらえると思った? ママに逆らったのはメメだよねぇ? ちゃんとお仕置きするまで許さないよ」
「違うよ……。そうじゃ……」
「何ごちゃごちゃ言ってるの。ハッキリ言えって教わらなかった!? ≪禍の詰め合わせ≫!」
「うぅ……パッ、≪禍の詰め合わせ≫!」
相殺。したけど、これじゃ勝てない。
攻撃は読まれるし押し勝てない。
ならもっと強力な魔法を使うしかないよね。
でも≪死を想え≫はメメでも長い詠唱が必要だし使えば殺しちゃう。殺すのが目的じゃないからそれはダメ。
「ねぇもしかして手加減とかしてる? 親に遠慮とかしちゃってるの? そんなくだらない優しさなんて捨てなよ! その弱っちい顔見てるとイライラするの!」
イライラする、か。
そんな顔見たことなかったな。
ママがしてたのはいつだって……。
「なにヘラヘラしてるの。気持ち悪い子だね。ママはそんなメメが大っ嫌いだったよ」
「だよね。ありがとう」
ママは前によく言ってた。
メメにはメメだけの魔法があるって。
教えてくれたんだよね。
ママも戦ってるんだよね。
一緒に、倒そ。メメがそこから出してあげる。
「死んでよ、メメ。今楽にしてあげる」
そう言って、ママは膨大な魔力を練った。
おそらくメメはもうじき魔力が尽きる。
だからこの攻防が最後のチャンス。
受けに回ったらダメ。とっておきはまだ使えない。
その時が来るまで耐え忍ぼう。耐えるのは得意だから。
「待っててね、ママ」
メメも本気を出すことにする。
まずは、≪瞬間移動≫を連続で使用してママを翻弄した。
ママはすぐにメメを見つけてしまう。昔やったかくれんぼを思い出した。
「無意味だって言ったよね?」
「意味はあるよ。ママもいつまで寝てるの? 早く起きてよ!」
【希望の源】を天に掲げる。
誰も居ない空。対象範囲は自分も含めた半径20メートル。
この魔法の効果は、周囲を魔力で埋め尽くす。ただそれだけ。
「≪空洞の迷路≫」
「なにそれ。血迷ったの?」
「ううん、準備できたんだよ」
この魔法を発動している間は自分の魔力が駄々洩れになる。
一見意味のない魔法。
そんな状態でメメは魔法を撃ち続ける。
「≪涅槃≫!」
「なるほどね。魔法を魔法で隠そうってわけだ。でもそんなのバレバレだよ。≪涅槃≫!」
大魔法の衝突。
爆発した煙も利用してメメは攻める。
ママが全部相殺してくれるのを信じて。
「≪紅の炎≫」「≪紅の炎≫」
「≪天使の囁き≫」「≪天使の囁き≫」
メメが攻撃して、ママが防ぐ。
ただそれの繰り返し。
「≪爆ぜる血潮≫」
「≪爆ぜる血潮≫」
「≪神のお告げ≫」
「≪神のお告げ≫」
「≪復讐の女神≫」
「≪復讐の女神≫」
「≪禍の詰め合わせ≫」
「≪禍の詰め合わせ≫」 「≪戦死者の館≫」
「≪戦死者の館≫」
「≪神への捧げ物≫」
「≪神への捧げ物≫」
「≪赤色の漿果≫」
「≪赤色の漿果≫」
「≪民の救い手≫」
「≪民の救い手≫」
結果から言えば、メメの攻撃がママを上回ることは出来なかった。でも目的は達成できた。
あんなに守られてるだけのメメが、ただママの背中を見ているだけだったメメが、今こうしてママと向き合っている。それだけでもう十分。よくやったと自分を褒めてあげたい。自分に少し自信が持てた。
「ふふっ、もう終わりなの? やっぱりメメはいつまで経っても無能ね。これで終わ──ぐあっっっ!?」
一発。一発だけ許して。
ママもあの日一回だけメメのこと叩いたよね。
痛かったけど、凄く嬉しかったよ。
あのおかげでメメは自分の間違いに気づけた。
だからこれはお返し。
「っく、そんな小細工が通用すると思った!?」
ママは顎を押さえた。
メメがステッキで殴ったせい。
ステッキだけ≪瞬間移動≫で飛ばして顎を殴った。
周りを魔力で満たしたのと、無意味に魔法で攻撃し続けたのはこれを確実に当てるため。
ママは魔法に敏感だからここまでしてようやく不意を突くことが出来た。
「こんな子ども騙ししたって無駄だって分かんないの? もうメメ何も持ってないじゃん。これでママの勝ちだね──って、メメはどこ!?」
ママの視界にはメメが映らないみたい。
だってそうだよ。そんな前見てても見つかるわけないじゃん。
「まま゛ぁぁあああ!」
「えぇっっっ!?」
「早く元に戻ってよぉ!!!」
「…………め、メ?」
メメは、真正面からママに抱き着いた。
ぎゅぅぅぅぅぅって、胸に飛び込んだ。
メメが一番してもらったこと。
一番されて嬉しかったこと
「ママぁ! ママぁああ!!!」
何度も呼ぶ。
ママ。ママ。ママ。
ママ。ママ。ママ。ママ。ママ……。
思い出してよ。
忘れたの?
ママの気持ちはその程度だったの?
違うよね。
メメはママが大好きだよ。
ママもそうだよね?
だって、メメを見る時のママはいつだって、
「……ぅううぅぅぅう、ごめんね。ごめんね、メメ」
いつだって、笑ってたもん。
「ママを、許して。大、好きよ……大好き。大好きに決まってるじゃん!!!」
それが、メメの魔法なんだよね?
「ぁぅっ、ま、ママのばかぁ! ばかぁ! ばかぁあああああああ!!!」
「うん……そうだね。わかった、から、泣かない、で」
ママに抱きしめられる。
あったかくて幸せに包まれる。
ママに撫でられる。
優しくてちょっぴりくすぐったい。
ママだ。ママがいる。
本物のママだ。
大好きなママがここにいる。
「ママぁ」
「うん、メメ」
でもママはもう死んだ。
今が伝える最後の機会。
許された最後のひと時。
終わりは近い。だから……。
「あのね……」
全部伝えよう。
今まで言えなかった分もこれからの分も。
全部全部伝えたい。
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ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
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🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
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林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
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とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
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*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
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「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
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第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
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転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
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大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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