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3章

62話 開戦

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 メメのことを知っているケットシーの爺さんに話を聞いた。
 語る姿は自分を責めているようで、メメのことを本気で想っているのが伝わってくる。

「この森には現在頭首が不在です。100年前に起きた事件により、当時の頭首であったメメ様のお母様が亡くなられました。本来ではメメ様が引き継ぐのですが森から逃げてしまい、ここ数年……といっても数十年の間行方を眩ませていました」

 つい昨日起きた出来事のように語り出す。
 話を早く進めるためフェンリィとルーナは黙って聞いている。
 俺も質問は最低限にとどめておいた。

「メメ様の話をするなら100年前の事件を語る必要がございます。あの日、メメ様は──」

 ・
 ・
 ・

「──というわけでして、メメ様を嫌っている者は少なくないです」

 要点だけ掻い摘んでの説明だったが大体把握した。
 ほとんど時間はロスしていない。

「なるほど。じゃあやっぱりメメは何も悪くないですね」
「はい。やり場のない怒りを全てメメ様にぶつけているだけです。わたしにもっと力があればよかったのですが守るどころか一人にさせてしまいました。メメ様の側近失格です」

 話を聞いたところ、事件後メメは心を閉ざしてしまった。
 最初はメメを責める声も少なかったが徐々にエスカレートしていったらしい。
 周りが敵だらけで精神的に耐えられなくなった結果、自らこの町を離れたのだ。

「他の連中はメメを捕まえてどうするつもりですか?」
「おそらくですが……新たな母体にするつもりでしょう。メメ様は戦闘には長けていませんが先代の血を引いています。そのためメメ様には価値が無くとも次に生まれてくる子に期待する輩が多いのです。ですから殺される心配だけはございません。わたしはそんなことさせたくありませんが……」

 種族に関係なくそういうことを考える奴はいるらしい。
 妖精族の掟とか事情とかはよく知らないがメメが道具にされようとしているのは確かだ。望まないあの子にそんなことさせない。

「なら、そんな重要な役目になるかもしれないメメをどうして周りは虐めるんですか?」

 子を産ませることが目的ならもっと丁重に扱うべきだろう。
 矛盾している。

「それは今日祭りがあるからです。100年に1度、花の咲く季節になると『力』を持った子が突然誕生すると言われています。精霊の力が赤子に宿るのです。ですから、メメ様は次期頭首候補の一人だったということになります」

 つまりメメの体は保険ってことか。
 妖精族は基本的に戦闘能力に秀でた者が多いと聞くが、それは『力』を引き継いでいるからだと言う。100年に1度生まれる赤子と、その赤子が成長して産んだ子どもには『力』が宿るのだ。

 そして、その中でも突出した才能の持ち主が妖精族を束ねる長になる。そうやって切磋琢磨することで種族全体の力を高めてきたらしい。

 しかし、100年前の事件によりメメの両親を含め、他の『力』を持った候補者たちも一人残らず死んでしまった。そのため今では『力』を持たずに生まれてきてしまったメメしかいない。

「話聞かせてくれてありがとうございました。二人とも、行くぞ」
「すぐ行きましょう。まだメメちゃんの笑顔を見てません」
「そうね。一人じゃないって教えてあげるわ」

 いつも以上にやる気を感じる。
 頼りになる仲間たちだ。

「メメの行き先に心当たりはありますか?」
「そうですね……。ご両親のお墓かメメ様のご実家だと思われます」
「わかりました。じゃあ俺たちはお墓の方を探してきます」
「頼みました。メメ様をお願いいたします」

 場所の詳細を聞いて動き出す。
 急ごう。
 何となくそうしなければいけない気がした。
 なぜか嫌な予感が心の底で渦巻いたのだ。
 デジャヴというか、悪寒というか。
 直感的に何かが起きる気配がした。
 こういう時、悪い予感は不思議と当たる。

「≪反転≫」

 だから手遅れになる前にフェンリィとルーナに能力をかけた。
 次の瞬間、

「なによ、あれ……?」

 空間がゆがんだ。
 青かったはずの空は黒く闇に染まっていく。
 高密度の魔力が周囲を満たし、空間に裂け目がいくつもできた。
 それを見たフェンリィが銃を構え、叫ぶ。

「ルーナ! 伏せてください! リクト様!」
「了解!」

 俺も【森羅万象コスモス】を構え、魔力の斬撃を空間のひずみに打ち込む。
 だが、もう遅かった。
 捻じ曲がった空間からは邪悪なオーラを纏ったモンスターが次々と現れる。
 俗に言う召喚魔法だ。
 一体一体はそこまで強くないが数が多い。
 しかも、

「≪反転≫ ──くそ、コイツらもか」

 能力が効かない。
 だが焦る必要は全くない。普通に殺せばいいだけだ。

「お爺さんは下がっててください。フェンリィ、頼む」
「任せてください。ミーちゃん!」

 少ない弾数で急所を的確に狙い撃つ。
 一発も外さなかったし、防御もされていない。
 そのはずなのに死ななかった。
 攻撃が効いている様子がない。
 脳天を打ち抜いても心臓に撃ち込んでもすぐに起き上がって動き始めたのだ。

「どういうことよ。フェンリィ、手加減してんの?」
「違います。これはアンデッドですね。普通の攻撃は効きません」
「あ、なるほど。そういうことか」
「はい、でしたら……これでどうです!」

 戦況と弱点を見極め、冷静に対処。
 フェンリィが摩擦で発火させた弾を撃ち込む。
 俺も刀に炎属性と光属性を付与させて一緒に飛ばした。
 三つに重なり、敵を一掃する。


三色小群トライポッド


「やっぱり効いたな。でもまだこんなに数が多いぞ」

 次々に召喚されるアンデッド。
 スケルトン、ゾンビ、キョンシー、……。
 ちまちま倒している暇はない。
 それにアンデッドとはいえ俺の能力が効かないのは不可解だ。
 こんなこと今までなかった。

 気になるがゆっくり考えている暇はない。
 今はメメが一人。危険すぎる。

「こんな時に限って……。魔王軍の仕業に違いないな」
「ですね。近くに術者は見当たりません。それに、どうやってここまで来れたのでしょう」

 俺たちはメメに連れてきてもらった。
 侵入方法は謎。

「わからないな。あいつらが教えてくれるんじゃないか?」

 最初に感じた予感は的中する。
 もちろん悪い方のだ。
 召喚されるのはもちろん量産型の雑魚敵だけではない。
 異界の門より出でしその存在は他とは明らかに異なる。

「キャハハ! ここが妖精の森かぁ!」
「虫取り放題? たくさん殺していいの?」

 見た目はそっくりな顔の少女が二人。
 一方は気が強く、もう一方は穏やかな印象。
 警戒すべきは知能があること。
 つまり強敵だ。おそらく幹部だろう。

「≪反転≫」

 俺はその姿を捉えた瞬間に能力を発動して魔力の斬撃を飛ばした。
 フェンリィも躊躇わずに引き金を引く。
 殺せるときに殺すのが戦場での基本だ。
 しかし──

「ダメか」

 殺しきれなかったことだけではない。
 コイツらにも能力が通じない。敵にそういう能力者でもいるのか?

「キャハッ! 楽しくなってきたなぁ、クレア。久しぶりに暴れ放題だぞ」
「フフ、ワタシも人間のお人形で遊びたかったとこ」

 二人は向かい合って両手を繋いだ。
 まるで鏡に反射しているようだ。

「時間が無いな。一気に倒すぞ」

 ステータス反転による俺の優位が失われるのは大きいが三人がかりなら十分倒せるだろう。
 だが敵も未知数なため油断はできない。
 他の場所も同様に魔王軍が攻めているだろう。だから今は一分一秒が惜しい。
 これでメメに何かあったら俺のせいだ。結果論だがルーナとフェンリィのように感情に任せて追いかけていたらと考えてしまう。

「リクト様。先に行ってください」
アタシもやれること手伝うわ。ここは任せて」
「フェンリィ、ルーナ……」

 二人が俺の前に出て背中でそう語った。
 見た目以上に大きく見える。

「カワイ子ちゃんが相手かぁ。泣いても知らねえぜ?」
「カワイイの好き。殺したくなっちゃう」

 敵をちらりと見て、もう一度仲間の目を見つめる。
 随分と立派になってくれたな。

「よし、頼んだ。何かあったら連絡してくれ」
「はい!」「うん!」

 フェンリィとルーナにこの場は任せ、俺は単独でメメのもとへ向かった。
 魔王軍との大戦が幕を開ける。
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