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3章

58話 落ちる妖精

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 森で出会ったエルフの少女に料理をご馳走してもらうことになった俺たち。
 エプロンと仮面を着けたメメの背中を見て料理を待つ。
 フェンリィとルーナはメメの手伝いをすると言ったのに鍋を爆発させたため大人しく座らせることにした。さっきまではしょんぼりしていたが「私は食べ専でした!」とか意味の分からないことを言って元気になった。

「できた……。どうぞ」
「美味しそうです! ほんとにいいんですか!?」
「う、うん。召し上がれ」

 気になる今日のメニューは心も体も温まる定番料理。その名もシチュー。魔法がかけられたような見事な出来栄えに空腹が刺激される。
 席順は四角いテーブルを囲う形で正面にメメ。フェンリィとルーナが隣に座りたいと駄々をこねたためこうなった。

「でも三人分も平気? フェンリィ、あんまりがっつくんじゃないわよ」
「だいじょうぶ。たくさん余ってるよ」
「そう? じゃあ遠慮なく、いただきます!」

 手を合わせて元気に挨拶したフェンリィとルーナが勢いよく食べ始める。
 余程空腹だったのか、あっという間に食べ終えるとおかわりを要求した。
 俺とメメはそのスピードに圧倒されてまだ一口も食べていない。

「すっごく美味しいです!」
「そうね、いくらでも食べられるわ」
「よかった。たくさん食べて」

 くすくすと笑ってお椀によそうメメ。
 今度は一杯目より倍の量。二人に渡すとさすがにペースは落ちた。
 メメも俺の正面に座ってスプーンを持つ。メメは仮面を着けたままだがどうやって食べるつもりなんだ。

「な、なに……?」

 俺の視線に気づいたようだ。ちなみに俺はメメがどこを見ているか判別がつかない。

「いや、メメも笑うんだなって」
「だ、ダメ……かな?」
「ダメじゃない。いいと思うよ」
「あの、あんまり、みないでぇ……」
「そうだった。ごめんなさい……」

 この席順は失敗だったな。
 申し訳ない気分になるしとても気まずい。
 冷めないうちに黙って食べよう。

「んっ。ホントにうまいな。ありがとう」

 お世辞でも何でもない。
 種族の関係か、今まで味わったことのない一品だ。
 ほんの少しだけ視線を上げるとメメが仮面の下からスプーンを入れていた。
 とても食べずらそうだが器用に食べている。

「そういえば、メメちゃんはあそこで何してたんですか?」

 さっきまでむしゃむしゃもぐもぐしてたフェンリィがごっくんして何も入っていない口を開ける。

「えっと、罠仕掛けた。けど、メメが釣れた」
「そうだったんですか。見つけられてよかったです」
「うん。多分メメ食べられてた」

 森には危険なモンスターもたくさんいるからな。
 あんなところで吊るされてたら格好の餌食だろう。

「大変なのね。それ聞くとご馳走になるの悪い気がしてきたわ」
「いいの。買い物もいくから」
「そっか、妖精の森にはお店もあるのね。近くにあるの?」
「ある。けど、ない。隠れてる」
「そうなんだ。探しても無いわけね」
「うん、明日教える」
「ありがと。案内も頼むわ」
「……うん」

 フェンリィとルーナのおかげで知りたいことは大体わかった。
 あとは二人が個人的に知りたがった事をメメに質問しながら食事を楽しむ。こういう空間は悪くない。

「メメちゃんはエルフさんなんですよね。やっぱり魔法とか使えるんですか?」
「ううん。メメは……使えない」

 消え入りそうな声。俺はその正体を確かめた。

──────────
 名前:メメ
 体力:C
 物攻:C
 物防:C
 魔攻:G
 魔防:C
 魔力:G
 俊敏:C
 ユニークスキル:?
──────────

「なるほど……」

 これまた極端なステータスだな。
 妖精族なのに魔力が致命的に低い。人間の俺が魔力0なのとは訳が違うだろう。

アタシたちと似てるわね。ここにいる人は誰も気にしないわよ」
「そう、なの?」
「はい! そんなの数値でしかないです。メメちゃんはステキな方ですから」
「……そっか、ありがと」

 声音が元に戻った。
 表情まで変わったかどうかはわからない。
 話題はすぐに次へと移る。

「メメちゃんは何歳なんですか? 私たちと同じぐらいに見えますけど」
「199歳」
「「ええええ!?」」

 フェンリィとルーナの声が響く。
 お約束の反応だ。

「メメちゃんはメメさんだったんですか!」
「うん。でもメメは子ども。1000歳まで生きるよ」
「じゃあ人間で言ったらもうすぐ20歳ってことね」
「そう。けどメメから見たら二人とも赤ちゃん」
「ばぶっ。メメちゃんなんて生意気言ってごめんなさいです」
「ううん。友達嬉しいからいい」

 二人が相手ならメメもだいぶ喋るようになった。

「そんなに生きてても昔の記憶とかあるの? 100年前とか」
「ある。けど、その話は嫌」
「ごめん。アタシもちょっとわかるかも」
「いいよ。ルナちゃん悪くない」
「それアタシのこと?」
「うん。リィちゃんとルナちゃんはメメの……友達」
「メメちゃ-ん! 大好きですぅ~」

 フェンリィがメメに飛びつく。
 苦しそうだが幸せそうなのが伝わってくる。
 仮面を取って話すのは時間の問題かもしれない。

「あの、俺は?」
「…………」

 まあわかってたけどね。一応聞いてみただけさ。
 そういえば、俺は小さい時何してたっけ。

「ふわ~ぁ。食べたら眠くなってきたわ」
「子どもは寝る時間ですからね。おトイレ一人で行けますか?」
「アンタアタシのこと馬鹿にしすぎでしょ。それくらい平気よ」
「違います。私が怖いのでついてきてください」
「もうしょうがないわね。ほら、手繋いであげるから」
「ありがとです」

 フェンリィは前に二人で洞窟へ行ったときゾンビを怖がっていた。
 甘えてるだけだと思っていたが本当に怖がりだったらしい。

「ねぇメメ、ついでに水も浴びたいんだけどある?」
「うん。メメも行く」

 俺と二人きりが嫌なのかメメも席を立つ。
 流石に被害妄想か?

「リクト様、こっそり覗きに来てもいいですからね?」
「しねえよ。早く行ってこい」

 こうして女性陣三名は仲良く部屋を出た。
 俺は皆が帰ってきてから一人で近くの水場に足を運んだ。



◇◆◇◆◇◆



 戻ってくるとフェンリィとルーナが並んで眠っていた。
 一日動いていたから疲れが来たのだろう。とても気持ちよさそうだ。
 こうして見ると姉妹みたいで気持ちが和む。

「あれ」

 メメの姿が無い。
 この部屋にいないってことは外にいるのだろう。
 まだそんなに遅いわけでもないしやることがあるのかもしれない。
 俺もまだそこまで眠くないため風に当たることにした。

 部屋を出ると上の方で明かりが見えたため木を登ってみる。
 枝が丈夫で幅もあるため足場になった。
 頂上付近まで一気に登ると枝の先端に腰かけるメメを発見。
 足をぶらぶらさせて風に当たっている。

「だあれ?」
「悪い、驚かすつもりはなかった」

 声をかける前に耳がぴくっと動いて気づかれた。

「な、なんで……来たの?」

 メメは今仮面をつけていない。
 俺に背を向け、膝を抱えるように座ると顔をうずめた。

「そこに木が合ったら登るのが男だ」
「い、意味、わかんないよ」

 大丈夫。俺も適当にそれっぽい理由を言っただけだ。
 本当はメメと話をしに来た。

「メメはそこで何してるの? 結構危なくない?」

 落ちたら骨折では済まない高さ。
 気弱なのは他人に対してだけなのだろうか。

「……外。見てる」
「そっか。俺も見ていい?」
「…………」

 無言の肯定と受け取っておこう。
 暗くてお互いの顔が見えにくいから少しは喋ってくれるかもしれない。
 枝の生え際部分に腰かけて反応を窺う。距離はだいたい10mぐらい。あまり近づきすぎるとビックリして落ちるかもしれないからな。

「俺もいくつか質問したいんだけどいい?」
「…………」

 反応はない。なら一方的に話しかけて少しでも警戒心を解いてもらおう。
 と、思ったが話題が無い。どうするかな……。

「え──」

 額に手を当てて考え込んでいると小さくだがハッキリとメメの声が風に乗って届いた。
 そして、森の音も。
 強風で木が大きく揺れる。

「メメ!?」

 俺は咄嗟に叫んで駆け出した。
 地上と違い、そこまで身体能力の高くない俺にはこのフィールドだけで大きなディスアドバンテージになる。

「きゃああああ!」

 聞いたことのない声量による叫び。
 メメがバランスを崩し、頭から真っ逆さまに落下した。
 枝や葉っぱがクッションになることも無い。
 このままでは地上へ叩きつけられて最悪死ぬ。
 なら、そんな未来は俺がひっくり返す。

「≪反転グラビティ≫」

 重力を逆にしてメメを浮かせる。
 幸いかすり傷一つ負わせずに済んだ。
 しかしこれで危険が去ったわけではない。
 ここからが本番だ。

『グルアアアアア!!!』

 このピンチを招いた犯人。
 大きな翼を持っているが鳥じゃない。
 俺も数える程度しか見たことない伝説の生き物。
 まるで絵本の中から出てきたようだ。
 そいつ──真っ赤なドラゴンが大きく口を開け、メメに襲い掛かる。
 その前に、

「≪反転インヴァース≫」

 行動をあべこべにすることでドラゴンに自分を攻撃させた。
 伝説の生き物も俺の前では鳥に等しい。
 この隙にメメを救出する。

「あり……がと」
「いや、ごめん。もっとうまくやれればよかった」

 俺は丸腰で武器を持っていない。
 そしてメメを抱えたまま両手が塞がっている。
 このまま引いてくれればいいのだがドラゴンは逃げる気配がない。
 決定打となる攻撃を浴びせる必要があるだろう。

「お前の強さを信じるか」

 絶対的な強者の前では尻尾を巻いて逃げるのが自然界の法則。
 俺に何をしても通用しないというのを思い知らせればいい。

 一旦能力を解除。
 すると怒らせてしまったのか、ドラゴンは魔力を溜め始めた。
 それを黙って見つめ、ドラゴンの必殺技、≪炎の息吹ホムラ・ブレス≫を引き出させる。
 森を灼熱の海に変えるほどの炎。
 しかしその光が灯ることはない。

「≪反転リフレクション≫」

 火花一つ漏らさずそっくりそのままドラゴンに跳ね返すと、ドラゴンは丸焦げになって頭から落下した。
 ズシンと地鳴りがして絶命したことを確認する。



「ちょっと危なかったな。怪我してない?」
「う、うん。だいじょぶ──きゃっ!」

 お姫様抱っこをしていたためメメの顔がすぐそこにある。
 その状況に気づいたのか声を上げた。

「ち、近い」
「ごめん。下ろすから今は暴れないで」
「だ、だめ。立てない。腰……」

 腰が抜けてしまったらしい。
 じゃあこのまま下まで連れてくか。

「ま、待って」
「今度はどうした?」

 俺を見ないようにしているのか手で顔を隠すメメ。
 指の隙間から少しだけお目目がこんにちはしている。

「やだ。まだ、行きたくない」
「え、どうしたらいい?」
「ちょっとだけ、話そ。話、聞いて」

 メメの方から俺に話したいことがあるようだ。
 これは予想外だが俺も聞きたいことがあるから好都合。

「わかった。お面とってくる?」
「い、いい。がんばる」
「おっけ」

 安全なところにメメを座らせる。
 俺も人一人分の距離を空けた場所に腰を下ろして会話を始めた。
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