59 / 100
3章
58話 落ちる妖精
しおりを挟む
森で出会ったエルフの少女に料理をご馳走してもらうことになった俺たち。
エプロンと仮面を着けたメメの背中を見て料理を待つ。
フェンリィとルーナはメメの手伝いをすると言ったのに鍋を爆発させたため大人しく座らせることにした。さっきまではしょんぼりしていたが「私は食べ専でした!」とか意味の分からないことを言って元気になった。
「できた……。どうぞ」
「美味しそうです! ほんとにいいんですか!?」
「う、うん。召し上がれ」
気になる今日のメニューは心も体も温まる定番料理。その名もシチュー。魔法がかけられたような見事な出来栄えに空腹が刺激される。
席順は四角いテーブルを囲う形で正面にメメ。フェンリィとルーナが隣に座りたいと駄々をこねたためこうなった。
「でも三人分も平気? フェンリィ、あんまりがっつくんじゃないわよ」
「だいじょうぶ。たくさん余ってるよ」
「そう? じゃあ遠慮なく、いただきます!」
手を合わせて元気に挨拶したフェンリィとルーナが勢いよく食べ始める。
余程空腹だったのか、あっという間に食べ終えるとおかわりを要求した。
俺とメメはそのスピードに圧倒されてまだ一口も食べていない。
「すっごく美味しいです!」
「そうね、いくらでも食べられるわ」
「よかった。たくさん食べて」
くすくすと笑ってお椀によそうメメ。
今度は一杯目より倍の量。二人に渡すとさすがにペースは落ちた。
メメも俺の正面に座ってスプーンを持つ。メメは仮面を着けたままだがどうやって食べるつもりなんだ。
「な、なに……?」
俺の視線に気づいたようだ。ちなみに俺はメメがどこを見ているか判別がつかない。
「いや、メメも笑うんだなって」
「だ、ダメ……かな?」
「ダメじゃない。いいと思うよ」
「あの、あんまり、みないでぇ……」
「そうだった。ごめんなさい……」
この席順は失敗だったな。
申し訳ない気分になるしとても気まずい。
冷めないうちに黙って食べよう。
「んっ。ホントにうまいな。ありがとう」
お世辞でも何でもない。
種族の関係か、今まで味わったことのない一品だ。
ほんの少しだけ視線を上げるとメメが仮面の下からスプーンを入れていた。
とても食べずらそうだが器用に食べている。
「そういえば、メメちゃんはあそこで何してたんですか?」
さっきまでむしゃむしゃもぐもぐしてたフェンリィがごっくんして何も入っていない口を開ける。
「えっと、罠仕掛けた。けど、メメが釣れた」
「そうだったんですか。見つけられてよかったです」
「うん。多分メメ食べられてた」
森には危険なモンスターもたくさんいるからな。
あんなところで吊るされてたら格好の餌食だろう。
「大変なのね。それ聞くとご馳走になるの悪い気がしてきたわ」
「いいの。買い物もいくから」
「そっか、妖精の森にはお店もあるのね。近くにあるの?」
「ある。けど、ない。隠れてる」
「そうなんだ。探しても無いわけね」
「うん、明日教える」
「ありがと。案内も頼むわ」
「……うん」
フェンリィとルーナのおかげで知りたいことは大体わかった。
あとは二人が個人的に知りたがった事をメメに質問しながら食事を楽しむ。こういう空間は悪くない。
「メメちゃんはエルフさんなんですよね。やっぱり魔法とか使えるんですか?」
「ううん。メメは……使えない」
消え入りそうな声。俺はその正体を確かめた。
──────────
名前:メメ
体力:C
物攻:C
物防:C
魔攻:G
魔防:C
魔力:G
俊敏:C
ユニークスキル:?
──────────
「なるほど……」
これまた極端なステータスだな。
妖精族なのに魔力が致命的に低い。人間の俺が魔力0なのとは訳が違うだろう。
「私たちと似てるわね。ここにいる人は誰も気にしないわよ」
「そう、なの?」
「はい! そんなの数値でしかないです。メメちゃんはステキな方ですから」
「……そっか、ありがと」
声音が元に戻った。
表情まで変わったかどうかはわからない。
話題はすぐに次へと移る。
「メメちゃんは何歳なんですか? 私たちと同じぐらいに見えますけど」
「199歳」
「「ええええ!?」」
フェンリィとルーナの声が響く。
お約束の反応だ。
「メメちゃんはメメさんだったんですか!」
「うん。でもメメは子ども。1000歳まで生きるよ」
「じゃあ人間で言ったらもうすぐ20歳ってことね」
「そう。けどメメから見たら二人とも赤ちゃん」
「ばぶっ。メメちゃんなんて生意気言ってごめんなさいです」
「ううん。友達嬉しいからいい」
二人が相手ならメメもだいぶ喋るようになった。
「そんなに生きてても昔の記憶とかあるの? 100年前とか」
「ある。けど、その話は嫌」
「ごめん。私もちょっとわかるかも」
「いいよ。ルナちゃん悪くない」
「それ私のこと?」
「うん。リィちゃんとルナちゃんはメメの……友達」
「メメちゃ-ん! 大好きですぅ~」
フェンリィがメメに飛びつく。
苦しそうだが幸せそうなのが伝わってくる。
仮面を取って話すのは時間の問題かもしれない。
「あの、俺は?」
「…………」
まあわかってたけどね。一応聞いてみただけさ。
そういえば、俺は小さい時何してたっけ。
「ふわ~ぁ。食べたら眠くなってきたわ」
「子どもは寝る時間ですからね。おトイレ一人で行けますか?」
「アンタ私のこと馬鹿にしすぎでしょ。それくらい平気よ」
「違います。私が怖いのでついてきてください」
「もうしょうがないわね。ほら、手繋いであげるから」
「ありがとです」
フェンリィは前に二人で洞窟へ行ったときゾンビを怖がっていた。
甘えてるだけだと思っていたが本当に怖がりだったらしい。
「ねぇメメ、ついでに水も浴びたいんだけどある?」
「うん。メメも行く」
俺と二人きりが嫌なのかメメも席を立つ。
流石に被害妄想か?
「リクト様、こっそり覗きに来てもいいですからね?」
「しねえよ。早く行ってこい」
こうして女性陣三名は仲良く部屋を出た。
俺は皆が帰ってきてから一人で近くの水場に足を運んだ。
◇◆◇◆◇◆
戻ってくるとフェンリィとルーナが並んで眠っていた。
一日動いていたから疲れが来たのだろう。とても気持ちよさそうだ。
こうして見ると姉妹みたいで気持ちが和む。
「あれ」
メメの姿が無い。
この部屋にいないってことは外にいるのだろう。
まだそんなに遅いわけでもないしやることがあるのかもしれない。
俺もまだそこまで眠くないため風に当たることにした。
部屋を出ると上の方で明かりが見えたため木を登ってみる。
枝が丈夫で幅もあるため足場になった。
頂上付近まで一気に登ると枝の先端に腰かけるメメを発見。
足をぶらぶらさせて風に当たっている。
「だあれ?」
「悪い、驚かすつもりはなかった」
声をかける前に耳がぴくっと動いて気づかれた。
「な、なんで……来たの?」
メメは今仮面をつけていない。
俺に背を向け、膝を抱えるように座ると顔をうずめた。
「そこに木が合ったら登るのが男だ」
「い、意味、わかんないよ」
大丈夫。俺も適当にそれっぽい理由を言っただけだ。
本当はメメと話をしに来た。
「メメはそこで何してるの? 結構危なくない?」
落ちたら骨折では済まない高さ。
気弱なのは他人に対してだけなのだろうか。
「……外。見てる」
「そっか。俺も見ていい?」
「…………」
無言の肯定と受け取っておこう。
暗くてお互いの顔が見えにくいから少しは喋ってくれるかもしれない。
枝の生え際部分に腰かけて反応を窺う。距離はだいたい10mぐらい。あまり近づきすぎるとビックリして落ちるかもしれないからな。
「俺もいくつか質問したいんだけどいい?」
「…………」
反応はない。なら一方的に話しかけて少しでも警戒心を解いてもらおう。
と、思ったが話題が無い。どうするかな……。
「え──」
額に手を当てて考え込んでいると小さくだがハッキリとメメの声が風に乗って届いた。
そして、森の音も。
強風で木が大きく揺れる。
「メメ!?」
俺は咄嗟に叫んで駆け出した。
地上と違い、そこまで身体能力の高くない俺にはこのフィールドだけで大きなディスアドバンテージになる。
「きゃああああ!」
聞いたことのない声量による叫び。
メメがバランスを崩し、頭から真っ逆さまに落下した。
枝や葉っぱがクッションになることも無い。
このままでは地上へ叩きつけられて最悪死ぬ。
なら、そんな未来は俺がひっくり返す。
「≪反転≫」
重力を逆にしてメメを浮かせる。
幸いかすり傷一つ負わせずに済んだ。
しかしこれで危険が去ったわけではない。
ここからが本番だ。
『グルアアアアア!!!』
このピンチを招いた犯人。
大きな翼を持っているが鳥じゃない。
俺も数える程度しか見たことない伝説の生き物。
まるで絵本の中から出てきたようだ。
そいつ──真っ赤なドラゴンが大きく口を開け、メメに襲い掛かる。
その前に、
「≪反転≫」
行動をあべこべにすることでドラゴンに自分を攻撃させた。
伝説の生き物も俺の前では鳥に等しい。
この隙にメメを救出する。
「あり……がと」
「いや、ごめん。もっとうまくやれればよかった」
俺は丸腰で武器を持っていない。
そしてメメを抱えたまま両手が塞がっている。
このまま引いてくれればいいのだがドラゴンは逃げる気配がない。
決定打となる攻撃を浴びせる必要があるだろう。
「お前の強さを信じるか」
絶対的な強者の前では尻尾を巻いて逃げるのが自然界の法則。
俺に何をしても通用しないというのを思い知らせればいい。
一旦能力を解除。
すると怒らせてしまったのか、ドラゴンは魔力を溜め始めた。
それを黙って見つめ、ドラゴンの必殺技、≪炎の息吹≫を引き出させる。
森を灼熱の海に変えるほどの炎。
しかしその光が灯ることはない。
「≪反転≫」
火花一つ漏らさずそっくりそのままドラゴンに跳ね返すと、ドラゴンは丸焦げになって頭から落下した。
ズシンと地鳴りがして絶命したことを確認する。
「ちょっと危なかったな。怪我してない?」
「う、うん。だいじょぶ──きゃっ!」
お姫様抱っこをしていたためメメの顔がすぐそこにある。
その状況に気づいたのか声を上げた。
「ち、近い」
「ごめん。下ろすから今は暴れないで」
「だ、だめ。立てない。腰……」
腰が抜けてしまったらしい。
じゃあこのまま下まで連れてくか。
「ま、待って」
「今度はどうした?」
俺を見ないようにしているのか手で顔を隠すメメ。
指の隙間から少しだけお目目がこんにちはしている。
「やだ。まだ、行きたくない」
「え、どうしたらいい?」
「ちょっとだけ、話そ。話、聞いて」
メメの方から俺に話したいことがあるようだ。
これは予想外だが俺も聞きたいことがあるから好都合。
「わかった。お面とってくる?」
「い、いい。がんばる」
「おっけ」
安全なところにメメを座らせる。
俺も人一人分の距離を空けた場所に腰を下ろして会話を始めた。
エプロンと仮面を着けたメメの背中を見て料理を待つ。
フェンリィとルーナはメメの手伝いをすると言ったのに鍋を爆発させたため大人しく座らせることにした。さっきまではしょんぼりしていたが「私は食べ専でした!」とか意味の分からないことを言って元気になった。
「できた……。どうぞ」
「美味しそうです! ほんとにいいんですか!?」
「う、うん。召し上がれ」
気になる今日のメニューは心も体も温まる定番料理。その名もシチュー。魔法がかけられたような見事な出来栄えに空腹が刺激される。
席順は四角いテーブルを囲う形で正面にメメ。フェンリィとルーナが隣に座りたいと駄々をこねたためこうなった。
「でも三人分も平気? フェンリィ、あんまりがっつくんじゃないわよ」
「だいじょうぶ。たくさん余ってるよ」
「そう? じゃあ遠慮なく、いただきます!」
手を合わせて元気に挨拶したフェンリィとルーナが勢いよく食べ始める。
余程空腹だったのか、あっという間に食べ終えるとおかわりを要求した。
俺とメメはそのスピードに圧倒されてまだ一口も食べていない。
「すっごく美味しいです!」
「そうね、いくらでも食べられるわ」
「よかった。たくさん食べて」
くすくすと笑ってお椀によそうメメ。
今度は一杯目より倍の量。二人に渡すとさすがにペースは落ちた。
メメも俺の正面に座ってスプーンを持つ。メメは仮面を着けたままだがどうやって食べるつもりなんだ。
「な、なに……?」
俺の視線に気づいたようだ。ちなみに俺はメメがどこを見ているか判別がつかない。
「いや、メメも笑うんだなって」
「だ、ダメ……かな?」
「ダメじゃない。いいと思うよ」
「あの、あんまり、みないでぇ……」
「そうだった。ごめんなさい……」
この席順は失敗だったな。
申し訳ない気分になるしとても気まずい。
冷めないうちに黙って食べよう。
「んっ。ホントにうまいな。ありがとう」
お世辞でも何でもない。
種族の関係か、今まで味わったことのない一品だ。
ほんの少しだけ視線を上げるとメメが仮面の下からスプーンを入れていた。
とても食べずらそうだが器用に食べている。
「そういえば、メメちゃんはあそこで何してたんですか?」
さっきまでむしゃむしゃもぐもぐしてたフェンリィがごっくんして何も入っていない口を開ける。
「えっと、罠仕掛けた。けど、メメが釣れた」
「そうだったんですか。見つけられてよかったです」
「うん。多分メメ食べられてた」
森には危険なモンスターもたくさんいるからな。
あんなところで吊るされてたら格好の餌食だろう。
「大変なのね。それ聞くとご馳走になるの悪い気がしてきたわ」
「いいの。買い物もいくから」
「そっか、妖精の森にはお店もあるのね。近くにあるの?」
「ある。けど、ない。隠れてる」
「そうなんだ。探しても無いわけね」
「うん、明日教える」
「ありがと。案内も頼むわ」
「……うん」
フェンリィとルーナのおかげで知りたいことは大体わかった。
あとは二人が個人的に知りたがった事をメメに質問しながら食事を楽しむ。こういう空間は悪くない。
「メメちゃんはエルフさんなんですよね。やっぱり魔法とか使えるんですか?」
「ううん。メメは……使えない」
消え入りそうな声。俺はその正体を確かめた。
──────────
名前:メメ
体力:C
物攻:C
物防:C
魔攻:G
魔防:C
魔力:G
俊敏:C
ユニークスキル:?
──────────
「なるほど……」
これまた極端なステータスだな。
妖精族なのに魔力が致命的に低い。人間の俺が魔力0なのとは訳が違うだろう。
「私たちと似てるわね。ここにいる人は誰も気にしないわよ」
「そう、なの?」
「はい! そんなの数値でしかないです。メメちゃんはステキな方ですから」
「……そっか、ありがと」
声音が元に戻った。
表情まで変わったかどうかはわからない。
話題はすぐに次へと移る。
「メメちゃんは何歳なんですか? 私たちと同じぐらいに見えますけど」
「199歳」
「「ええええ!?」」
フェンリィとルーナの声が響く。
お約束の反応だ。
「メメちゃんはメメさんだったんですか!」
「うん。でもメメは子ども。1000歳まで生きるよ」
「じゃあ人間で言ったらもうすぐ20歳ってことね」
「そう。けどメメから見たら二人とも赤ちゃん」
「ばぶっ。メメちゃんなんて生意気言ってごめんなさいです」
「ううん。友達嬉しいからいい」
二人が相手ならメメもだいぶ喋るようになった。
「そんなに生きてても昔の記憶とかあるの? 100年前とか」
「ある。けど、その話は嫌」
「ごめん。私もちょっとわかるかも」
「いいよ。ルナちゃん悪くない」
「それ私のこと?」
「うん。リィちゃんとルナちゃんはメメの……友達」
「メメちゃ-ん! 大好きですぅ~」
フェンリィがメメに飛びつく。
苦しそうだが幸せそうなのが伝わってくる。
仮面を取って話すのは時間の問題かもしれない。
「あの、俺は?」
「…………」
まあわかってたけどね。一応聞いてみただけさ。
そういえば、俺は小さい時何してたっけ。
「ふわ~ぁ。食べたら眠くなってきたわ」
「子どもは寝る時間ですからね。おトイレ一人で行けますか?」
「アンタ私のこと馬鹿にしすぎでしょ。それくらい平気よ」
「違います。私が怖いのでついてきてください」
「もうしょうがないわね。ほら、手繋いであげるから」
「ありがとです」
フェンリィは前に二人で洞窟へ行ったときゾンビを怖がっていた。
甘えてるだけだと思っていたが本当に怖がりだったらしい。
「ねぇメメ、ついでに水も浴びたいんだけどある?」
「うん。メメも行く」
俺と二人きりが嫌なのかメメも席を立つ。
流石に被害妄想か?
「リクト様、こっそり覗きに来てもいいですからね?」
「しねえよ。早く行ってこい」
こうして女性陣三名は仲良く部屋を出た。
俺は皆が帰ってきてから一人で近くの水場に足を運んだ。
◇◆◇◆◇◆
戻ってくるとフェンリィとルーナが並んで眠っていた。
一日動いていたから疲れが来たのだろう。とても気持ちよさそうだ。
こうして見ると姉妹みたいで気持ちが和む。
「あれ」
メメの姿が無い。
この部屋にいないってことは外にいるのだろう。
まだそんなに遅いわけでもないしやることがあるのかもしれない。
俺もまだそこまで眠くないため風に当たることにした。
部屋を出ると上の方で明かりが見えたため木を登ってみる。
枝が丈夫で幅もあるため足場になった。
頂上付近まで一気に登ると枝の先端に腰かけるメメを発見。
足をぶらぶらさせて風に当たっている。
「だあれ?」
「悪い、驚かすつもりはなかった」
声をかける前に耳がぴくっと動いて気づかれた。
「な、なんで……来たの?」
メメは今仮面をつけていない。
俺に背を向け、膝を抱えるように座ると顔をうずめた。
「そこに木が合ったら登るのが男だ」
「い、意味、わかんないよ」
大丈夫。俺も適当にそれっぽい理由を言っただけだ。
本当はメメと話をしに来た。
「メメはそこで何してるの? 結構危なくない?」
落ちたら骨折では済まない高さ。
気弱なのは他人に対してだけなのだろうか。
「……外。見てる」
「そっか。俺も見ていい?」
「…………」
無言の肯定と受け取っておこう。
暗くてお互いの顔が見えにくいから少しは喋ってくれるかもしれない。
枝の生え際部分に腰かけて反応を窺う。距離はだいたい10mぐらい。あまり近づきすぎるとビックリして落ちるかもしれないからな。
「俺もいくつか質問したいんだけどいい?」
「…………」
反応はない。なら一方的に話しかけて少しでも警戒心を解いてもらおう。
と、思ったが話題が無い。どうするかな……。
「え──」
額に手を当てて考え込んでいると小さくだがハッキリとメメの声が風に乗って届いた。
そして、森の音も。
強風で木が大きく揺れる。
「メメ!?」
俺は咄嗟に叫んで駆け出した。
地上と違い、そこまで身体能力の高くない俺にはこのフィールドだけで大きなディスアドバンテージになる。
「きゃああああ!」
聞いたことのない声量による叫び。
メメがバランスを崩し、頭から真っ逆さまに落下した。
枝や葉っぱがクッションになることも無い。
このままでは地上へ叩きつけられて最悪死ぬ。
なら、そんな未来は俺がひっくり返す。
「≪反転≫」
重力を逆にしてメメを浮かせる。
幸いかすり傷一つ負わせずに済んだ。
しかしこれで危険が去ったわけではない。
ここからが本番だ。
『グルアアアアア!!!』
このピンチを招いた犯人。
大きな翼を持っているが鳥じゃない。
俺も数える程度しか見たことない伝説の生き物。
まるで絵本の中から出てきたようだ。
そいつ──真っ赤なドラゴンが大きく口を開け、メメに襲い掛かる。
その前に、
「≪反転≫」
行動をあべこべにすることでドラゴンに自分を攻撃させた。
伝説の生き物も俺の前では鳥に等しい。
この隙にメメを救出する。
「あり……がと」
「いや、ごめん。もっとうまくやれればよかった」
俺は丸腰で武器を持っていない。
そしてメメを抱えたまま両手が塞がっている。
このまま引いてくれればいいのだがドラゴンは逃げる気配がない。
決定打となる攻撃を浴びせる必要があるだろう。
「お前の強さを信じるか」
絶対的な強者の前では尻尾を巻いて逃げるのが自然界の法則。
俺に何をしても通用しないというのを思い知らせればいい。
一旦能力を解除。
すると怒らせてしまったのか、ドラゴンは魔力を溜め始めた。
それを黙って見つめ、ドラゴンの必殺技、≪炎の息吹≫を引き出させる。
森を灼熱の海に変えるほどの炎。
しかしその光が灯ることはない。
「≪反転≫」
火花一つ漏らさずそっくりそのままドラゴンに跳ね返すと、ドラゴンは丸焦げになって頭から落下した。
ズシンと地鳴りがして絶命したことを確認する。
「ちょっと危なかったな。怪我してない?」
「う、うん。だいじょぶ──きゃっ!」
お姫様抱っこをしていたためメメの顔がすぐそこにある。
その状況に気づいたのか声を上げた。
「ち、近い」
「ごめん。下ろすから今は暴れないで」
「だ、だめ。立てない。腰……」
腰が抜けてしまったらしい。
じゃあこのまま下まで連れてくか。
「ま、待って」
「今度はどうした?」
俺を見ないようにしているのか手で顔を隠すメメ。
指の隙間から少しだけお目目がこんにちはしている。
「やだ。まだ、行きたくない」
「え、どうしたらいい?」
「ちょっとだけ、話そ。話、聞いて」
メメの方から俺に話したいことがあるようだ。
これは予想外だが俺も聞きたいことがあるから好都合。
「わかった。お面とってくる?」
「い、いい。がんばる」
「おっけ」
安全なところにメメを座らせる。
俺も人一人分の距離を空けた場所に腰を下ろして会話を始めた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる