上 下
56 / 100
3章

55話 新たな冒険

しおりを挟む
 俺の名前はリクト。
 一度は追放されてしまったが、同じく『無能』のレッテルを貼られて追放されたフェンリィとルーナをパーティメンバーに加え、魔王の討伐を目標にしている。

 先日ミスウェンの街にて四天王の一角であるロヴェッタを倒したのだが、魔王の所在を吐かせることはできなかった。というか、ロヴェッタも知らなかったのだ。四天王の立場であってもその存在は謎に包まれているらしい。情報は得られなかったが一歩近づけたことは確かだろう。

 街の復興を手伝いながら冒険者に話を聞いていると、最近になって妖精の森付近で狂暴化現象が多発しているとの噂を聞いた。狂暴化現象とは通常のモンスターより気性が荒く、ステータスが高い状態のことだ。空振りかもしれないが狂暴化現象も恐らく魔王の仕業だと考えられるため、ひとまず妖精の森を目指すことにした。

 妖精の森は人間の国の外に広がっている。妖精の森以外にも巨人の里などがあって、種族ごとに住み分けられている。差別などは無いが生活スタイルが違うため無理に共存して余計なストレスを生まないためだ。



 あ、そういえばついさっき元パーティメンバーであるアーノルド、ルキシア、ハウザーに出会った。俺はもう追放されたことを恨んでいないため仲良くしたいのだが向こうはそうじゃないらしい。改心させるためにゴブリンを使って頭を冷やそうとしたが今はどうしてるだろうか。まああいつらならなんだかんだ楽しくやっていけるだろう。

 追放されたし俺のことを殺そうとしてきたが元仲間に変わりない。俺が心配する必要無いかもしれないがあいつらには真っ当に生きて欲しいと思う。



 おっと、もう過去の話はいいか。
 今の話に戻ろう。

 そうだな。何から話そうか。と言っても話すことなんて特にないんだよな。
 まあ端的に言うとあれだ。認めたくはないが……。
 俺たちは迷子になっている。



「だから言ったじゃない! アタシは反対の道にしようって言ったのに!」
「私のせいじゃないですよ! ルーナがじゃんけんで決めようって言ったじゃないですか!」

 俺の両側から女の子の争いが聞こえてきた。
 右腕にはフェンリィ、左腕にはルーナがまとわりついたまま喧嘩している。

 森に入ってから何時間経っただろうか。
 妖精は出てこないしここがどこなのかもわからなくなってしまったのだ。
 フェンリィを賢くして場所を探ってみたがノイズが酷くてダメだった。
 それだけこの森の構造が複雑で神秘に包まれているらしい。
 打つ手無しで勘に頼った結果今の状況に至る。

「二人とも仲良くしてくれ。どっちも悪くないよ」

 とりあえず二人をなだめておく。
 もうこの争いは聞き飽きたのだ。

「むぅ。リクト様がそう言うなら許してあげます。私はルーナと違って大人なので」

 そう言ってフェンリィは俺を引き寄せた。
 腕に女の子の柔らかいところが押し付けられる。

アタシだってアホなフェンリィとは違うから許してあげるわ」

 ルーナも奪い返すように俺の左腕を引っ張った。
 このやり取りも十回目ぐらいだ。

「リクト様は私のです!」
アタシのよ!」
「もうわからない人ですね。子どもはお手手つなぐだけで我慢してください!」
「そっちこそペットは首輪でもつけて散歩されてなさいよ!」
「……」
「え、なによ。もしかして悪くないとか思ったわけ?」
「ち、違いますよ! 私は妻なんです!」

 意味のわからない論争はそろそろやめてくれ。
 俺は心を無にしてこの戦況を見守ることにした。
 なぜなら俺には呪いがかかっているからだ。
 うっかり好きになってしまったら殺してしまうかもしれない。
 だからそうならないように気持ちを抑えこんでいる。
 自分で言うのもなんだがモテる男はつらいというのは本当らしい。

「じゃあリクトに決めてもらおうじゃない。これなら文句ないでしょ」
「いいですよ別に。その代わり泣かないでくださいね」
「随分余裕そうじゃない。アタシだってキ、……キスしたことあるんだから!」
「え!? ど、どど、どういうことですかリクト様! 浮気したんですか!? もしかしてNT……」
「いやそんなんじゃねえよ!」

 思わぬとばっちりを食らったためツッコミを入れてしまった。
 確かにルーナにはほっぺにチューされたが。

「動揺しちゃってどうしたのフェンリィ。可愛いわねぇ」
「うぅぅ~~~よくそんなムカつく顔できますね!」

 ルーナの煽りに乗ったフェンリィが俺から手を放し、何をするかと思いきや赤いツインテールを両手で一個ずつ掴んだ。
 そのまま縄跳びするみたいに振り回す。

「私、だって、それ、くらい、したっ、ことっ、あり、ます、よっ!」
「いたい、いたい! 引っ張らないでよぉ!」

 一回転させるごとに言葉を区切るフェンリィ。
 俺にはその記憶が無いのだが頭でも打ったのだろうか。
 いや、もしくは俺が忘れてるだけか? まあいいか、フェンリィだし。

「はぁ……はぁ……。ま、まあどっちにしろアンタに優勢ってわけじゃないのよ。アタシのものにしてみせるわ」
「好きにすればいいです。私たちの愛は簡単には切れませんから」

 目の前で聞かされている俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
 あ──

「それでリクト様、今はどっちの方が好きなんですか? もちろん私ですよね? ね? ね?」
アタシよね? ね? そうでしょ?」

 二人が顔をくっつけて擦り寄ってきた。
 それを見て、俺は刀を抜く。

「あれ、どうしたんですかリクト様?」
「もしかして怒った? ごめん、はしゃぎ過ぎたわね」

 くりくりした四つの目が俺を見つめる。
 キョトンとしていて頬をつねって見たくなるがぐっと堪えた。
 その代わり──ではないが、二人を抱き寄せる。

「「ひにゃっ」」

 二人の気の抜けた甘い声がハモった。
 それと同時に俺も能力を発動し、刀を振るう。

「≪反転≫」

 ズシュッと生命が朽ちる音を鳴らして鞘に納める。
 二人の背後に忍び寄っていたモンスターを殺したのだ。
 キノコに化けていたため二人は気づかなかったのかもしれない。
 危険が去ったため二人のことも解放してあげた。

「ご、ごめんなさいリクト様。私たちったら……」
「ほんとにごめん。油断してた……」

 少し叱ろうかとも思ったが二人を見てその必要は無いと思った。
 俺たちは遠足をしに来たわけではない。そのことがわかってくれれば十分だ。

「俺は別にいいよ」

 そう言って二人の頭を撫でると顔を見合わせた。
 言葉の意味が分かってくれたらしい。

「酷いこと言ってごめんなさいルーナ。仲直りしてください」
「うん、アタシの方こそムキになってごめんね」

 恥ずかしそうに顔を赤らめて握手する二人。
 やっぱり二人は仲が良いな。

「よし、じゃあ暗くなるしそろそろ本気で頑張ろうか」
「はい! リクト様」
「うん、リクト」

 俺は俺についてきてくれる二人を死んでも守る義務がある。
 だが、この先俺の力だけでは難しい相手や状況も出てくるだろう。
 その時頼りになる仲間が必要だ。

 二人は無能かもしれないが、無限の可能性に満ちたポテンシャルを持っている。
 二人が俺を必要としてくれているように俺も二人を必要としているのだ。
 それを再認識し、俺たちの新たな冒険が始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...