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3章
55話 新たな冒険
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俺の名前はリクト。
一度は追放されてしまったが、同じく『無能』のレッテルを貼られて追放されたフェンリィとルーナをパーティメンバーに加え、魔王の討伐を目標にしている。
先日ミスウェンの街にて四天王の一角であるロヴェッタを倒したのだが、魔王の所在を吐かせることはできなかった。というか、ロヴェッタも知らなかったのだ。四天王の立場であってもその存在は謎に包まれているらしい。情報は得られなかったが一歩近づけたことは確かだろう。
街の復興を手伝いながら冒険者に話を聞いていると、最近になって妖精の森付近で狂暴化現象が多発しているとの噂を聞いた。狂暴化現象とは通常のモンスターより気性が荒く、ステータスが高い状態のことだ。空振りかもしれないが狂暴化現象も恐らく魔王の仕業だと考えられるため、ひとまず妖精の森を目指すことにした。
妖精の森は人間の国の外に広がっている。妖精の森以外にも巨人の里などがあって、種族ごとに住み分けられている。差別などは無いが生活スタイルが違うため無理に共存して余計なストレスを生まないためだ。
あ、そういえばついさっき元パーティメンバーであるアーノルド、ルキシア、ハウザーに出会った。俺はもう追放されたことを恨んでいないため仲良くしたいのだが向こうはそうじゃないらしい。改心させるためにゴブリンを使って頭を冷やそうとしたが今はどうしてるだろうか。まああいつらならなんだかんだ楽しくやっていけるだろう。
追放されたし俺のことを殺そうとしてきたが元仲間に変わりない。俺が心配する必要無いかもしれないがあいつらには真っ当に生きて欲しいと思う。
おっと、もう過去の話はいいか。
今の話に戻ろう。
そうだな。何から話そうか。と言っても話すことなんて特にないんだよな。
まあ端的に言うとあれだ。認めたくはないが……。
俺たちは迷子になっている。
「だから言ったじゃない! 私は反対の道にしようって言ったのに!」
「私のせいじゃないですよ! ルーナがじゃんけんで決めようって言ったじゃないですか!」
俺の両側から女の子の争いが聞こえてきた。
右腕にはフェンリィ、左腕にはルーナがまとわりついたまま喧嘩している。
森に入ってから何時間経っただろうか。
妖精は出てこないしここがどこなのかもわからなくなってしまったのだ。
フェンリィを賢くして場所を探ってみたがノイズが酷くてダメだった。
それだけこの森の構造が複雑で神秘に包まれているらしい。
打つ手無しで勘に頼った結果今の状況に至る。
「二人とも仲良くしてくれ。どっちも悪くないよ」
とりあえず二人をなだめておく。
もうこの争いは聞き飽きたのだ。
「むぅ。リクト様がそう言うなら許してあげます。私はルーナと違って大人なので」
そう言ってフェンリィは俺を引き寄せた。
腕に女の子の柔らかいところが押し付けられる。
「私だってアホなフェンリィとは違うから許してあげるわ」
ルーナも奪い返すように俺の左腕を引っ張った。
このやり取りも十回目ぐらいだ。
「リクト様は私のです!」
「私のよ!」
「もうわからない人ですね。子どもはお手手つなぐだけで我慢してください!」
「そっちこそペットは首輪でもつけて散歩されてなさいよ!」
「……」
「え、なによ。もしかして悪くないとか思ったわけ?」
「ち、違いますよ! 私は妻なんです!」
意味のわからない論争はそろそろやめてくれ。
俺は心を無にしてこの戦況を見守ることにした。
なぜなら俺には呪いがかかっているからだ。
うっかり好きになってしまったら殺してしまうかもしれない。
だからそうならないように気持ちを抑えこんでいる。
自分で言うのもなんだがモテる男はつらいというのは本当らしい。
「じゃあリクトに決めてもらおうじゃない。これなら文句ないでしょ」
「いいですよ別に。その代わり泣かないでくださいね」
「随分余裕そうじゃない。私だってキ、……キスしたことあるんだから!」
「え!? ど、どど、どういうことですかリクト様! 浮気したんですか!? もしかしてNT……」
「いやそんなんじゃねえよ!」
思わぬとばっちりを食らったためツッコミを入れてしまった。
確かにルーナにはほっぺにチューされたが。
「動揺しちゃってどうしたのフェンリィ。可愛いわねぇ」
「うぅぅ~~~よくそんなムカつく顔できますね!」
ルーナの煽りに乗ったフェンリィが俺から手を放し、何をするかと思いきや赤いツインテールを両手で一個ずつ掴んだ。
そのまま縄跳びするみたいに振り回す。
「私、だって、それ、くらい、したっ、ことっ、あり、ます、よっ!」
「いたい、いたい! 引っ張らないでよぉ!」
一回転させるごとに言葉を区切るフェンリィ。
俺にはその記憶が無いのだが頭でも打ったのだろうか。
いや、もしくは俺が忘れてるだけか? まあいいか、フェンリィだし。
「はぁ……はぁ……。ま、まあどっちにしろアンタに優勢ってわけじゃないのよ。私のものにしてみせるわ」
「好きにすればいいです。私たちの愛は簡単には切れませんから」
目の前で聞かされている俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
あ──
「それでリクト様、今はどっちの方が好きなんですか? もちろん私ですよね? ね? ね?」
「私よね? ね? そうでしょ?」
二人が顔をくっつけて擦り寄ってきた。
それを見て、俺は刀を抜く。
「あれ、どうしたんですかリクト様?」
「もしかして怒った? ごめん、はしゃぎ過ぎたわね」
くりくりした四つの目が俺を見つめる。
キョトンとしていて頬をつねって見たくなるがぐっと堪えた。
その代わり──ではないが、二人を抱き寄せる。
「「ひにゃっ」」
二人の気の抜けた甘い声がハモった。
それと同時に俺も能力を発動し、刀を振るう。
「≪反転≫」
ズシュッと生命が朽ちる音を鳴らして鞘に納める。
二人の背後に忍び寄っていたモンスターを殺したのだ。
キノコに化けていたため二人は気づかなかったのかもしれない。
危険が去ったため二人のことも解放してあげた。
「ご、ごめんなさいリクト様。私たちったら……」
「ほんとにごめん。油断してた……」
少し叱ろうかとも思ったが二人を見てその必要は無いと思った。
俺たちは遠足をしに来たわけではない。そのことがわかってくれれば十分だ。
「俺は別にいいよ」
そう言って二人の頭を撫でると顔を見合わせた。
言葉の意味が分かってくれたらしい。
「酷いこと言ってごめんなさいルーナ。仲直りしてください」
「うん、私の方こそムキになってごめんね」
恥ずかしそうに顔を赤らめて握手する二人。
やっぱり二人は仲が良いな。
「よし、じゃあ暗くなるしそろそろ本気で頑張ろうか」
「はい! リクト様」
「うん、リクト」
俺は俺についてきてくれる二人を死んでも守る義務がある。
だが、この先俺の力だけでは難しい相手や状況も出てくるだろう。
その時頼りになる仲間が必要だ。
二人は無能かもしれないが、無限の可能性に満ちたポテンシャルを持っている。
二人が俺を必要としてくれているように俺も二人を必要としているのだ。
それを再認識し、俺たちの新たな冒険が始まった。
一度は追放されてしまったが、同じく『無能』のレッテルを貼られて追放されたフェンリィとルーナをパーティメンバーに加え、魔王の討伐を目標にしている。
先日ミスウェンの街にて四天王の一角であるロヴェッタを倒したのだが、魔王の所在を吐かせることはできなかった。というか、ロヴェッタも知らなかったのだ。四天王の立場であってもその存在は謎に包まれているらしい。情報は得られなかったが一歩近づけたことは確かだろう。
街の復興を手伝いながら冒険者に話を聞いていると、最近になって妖精の森付近で狂暴化現象が多発しているとの噂を聞いた。狂暴化現象とは通常のモンスターより気性が荒く、ステータスが高い状態のことだ。空振りかもしれないが狂暴化現象も恐らく魔王の仕業だと考えられるため、ひとまず妖精の森を目指すことにした。
妖精の森は人間の国の外に広がっている。妖精の森以外にも巨人の里などがあって、種族ごとに住み分けられている。差別などは無いが生活スタイルが違うため無理に共存して余計なストレスを生まないためだ。
あ、そういえばついさっき元パーティメンバーであるアーノルド、ルキシア、ハウザーに出会った。俺はもう追放されたことを恨んでいないため仲良くしたいのだが向こうはそうじゃないらしい。改心させるためにゴブリンを使って頭を冷やそうとしたが今はどうしてるだろうか。まああいつらならなんだかんだ楽しくやっていけるだろう。
追放されたし俺のことを殺そうとしてきたが元仲間に変わりない。俺が心配する必要無いかもしれないがあいつらには真っ当に生きて欲しいと思う。
おっと、もう過去の話はいいか。
今の話に戻ろう。
そうだな。何から話そうか。と言っても話すことなんて特にないんだよな。
まあ端的に言うとあれだ。認めたくはないが……。
俺たちは迷子になっている。
「だから言ったじゃない! 私は反対の道にしようって言ったのに!」
「私のせいじゃないですよ! ルーナがじゃんけんで決めようって言ったじゃないですか!」
俺の両側から女の子の争いが聞こえてきた。
右腕にはフェンリィ、左腕にはルーナがまとわりついたまま喧嘩している。
森に入ってから何時間経っただろうか。
妖精は出てこないしここがどこなのかもわからなくなってしまったのだ。
フェンリィを賢くして場所を探ってみたがノイズが酷くてダメだった。
それだけこの森の構造が複雑で神秘に包まれているらしい。
打つ手無しで勘に頼った結果今の状況に至る。
「二人とも仲良くしてくれ。どっちも悪くないよ」
とりあえず二人をなだめておく。
もうこの争いは聞き飽きたのだ。
「むぅ。リクト様がそう言うなら許してあげます。私はルーナと違って大人なので」
そう言ってフェンリィは俺を引き寄せた。
腕に女の子の柔らかいところが押し付けられる。
「私だってアホなフェンリィとは違うから許してあげるわ」
ルーナも奪い返すように俺の左腕を引っ張った。
このやり取りも十回目ぐらいだ。
「リクト様は私のです!」
「私のよ!」
「もうわからない人ですね。子どもはお手手つなぐだけで我慢してください!」
「そっちこそペットは首輪でもつけて散歩されてなさいよ!」
「……」
「え、なによ。もしかして悪くないとか思ったわけ?」
「ち、違いますよ! 私は妻なんです!」
意味のわからない論争はそろそろやめてくれ。
俺は心を無にしてこの戦況を見守ることにした。
なぜなら俺には呪いがかかっているからだ。
うっかり好きになってしまったら殺してしまうかもしれない。
だからそうならないように気持ちを抑えこんでいる。
自分で言うのもなんだがモテる男はつらいというのは本当らしい。
「じゃあリクトに決めてもらおうじゃない。これなら文句ないでしょ」
「いいですよ別に。その代わり泣かないでくださいね」
「随分余裕そうじゃない。私だってキ、……キスしたことあるんだから!」
「え!? ど、どど、どういうことですかリクト様! 浮気したんですか!? もしかしてNT……」
「いやそんなんじゃねえよ!」
思わぬとばっちりを食らったためツッコミを入れてしまった。
確かにルーナにはほっぺにチューされたが。
「動揺しちゃってどうしたのフェンリィ。可愛いわねぇ」
「うぅぅ~~~よくそんなムカつく顔できますね!」
ルーナの煽りに乗ったフェンリィが俺から手を放し、何をするかと思いきや赤いツインテールを両手で一個ずつ掴んだ。
そのまま縄跳びするみたいに振り回す。
「私、だって、それ、くらい、したっ、ことっ、あり、ます、よっ!」
「いたい、いたい! 引っ張らないでよぉ!」
一回転させるごとに言葉を区切るフェンリィ。
俺にはその記憶が無いのだが頭でも打ったのだろうか。
いや、もしくは俺が忘れてるだけか? まあいいか、フェンリィだし。
「はぁ……はぁ……。ま、まあどっちにしろアンタに優勢ってわけじゃないのよ。私のものにしてみせるわ」
「好きにすればいいです。私たちの愛は簡単には切れませんから」
目の前で聞かされている俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
あ──
「それでリクト様、今はどっちの方が好きなんですか? もちろん私ですよね? ね? ね?」
「私よね? ね? そうでしょ?」
二人が顔をくっつけて擦り寄ってきた。
それを見て、俺は刀を抜く。
「あれ、どうしたんですかリクト様?」
「もしかして怒った? ごめん、はしゃぎ過ぎたわね」
くりくりした四つの目が俺を見つめる。
キョトンとしていて頬をつねって見たくなるがぐっと堪えた。
その代わり──ではないが、二人を抱き寄せる。
「「ひにゃっ」」
二人の気の抜けた甘い声がハモった。
それと同時に俺も能力を発動し、刀を振るう。
「≪反転≫」
ズシュッと生命が朽ちる音を鳴らして鞘に納める。
二人の背後に忍び寄っていたモンスターを殺したのだ。
キノコに化けていたため二人は気づかなかったのかもしれない。
危険が去ったため二人のことも解放してあげた。
「ご、ごめんなさいリクト様。私たちったら……」
「ほんとにごめん。油断してた……」
少し叱ろうかとも思ったが二人を見てその必要は無いと思った。
俺たちは遠足をしに来たわけではない。そのことがわかってくれれば十分だ。
「俺は別にいいよ」
そう言って二人の頭を撫でると顔を見合わせた。
言葉の意味が分かってくれたらしい。
「酷いこと言ってごめんなさいルーナ。仲直りしてください」
「うん、私の方こそムキになってごめんね」
恥ずかしそうに顔を赤らめて握手する二人。
やっぱり二人は仲が良いな。
「よし、じゃあ暗くなるしそろそろ本気で頑張ろうか」
「はい! リクト様」
「うん、リクト」
俺は俺についてきてくれる二人を死んでも守る義務がある。
だが、この先俺の力だけでは難しい相手や状況も出てくるだろう。
その時頼りになる仲間が必要だ。
二人は無能かもしれないが、無限の可能性に満ちたポテンシャルを持っている。
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