上 下
51 / 100
2.5章

50話【追放サイド】変わらない愚者

しおりを挟む
 俺の名はアーノルド。
 かつてリクトという無能を追放したリーダーだ。
 あいつを追放したことにより俺たちは一度落ちぶれた。
 あいつは無能の仮面をかぶった化け物だったのだ。

 許せない。
 俺たちを見下して楽しんでいたあいつに復讐するため、俺たちは再び立ち上がった。
 かつてSランクまで上り詰めたパーティ『勝者の集いウィナーズ』は消滅し、今は新たなパーティ『追放バニッシュメント』を結成した。

 今はパーティのランク上げに専念している。
 冒険者で生計を立てている者はランクがものを言うため高いに越したことはない。
 低いとナメられるし設備の利用なんかにも制限がかかるのだ。
 俺たちは現在Cランク。まだ以前のような生活はできていない。
 俺たちを落ちぶれた『弱者の集いルーザーズ』と呼ぶ声もまだある。
 そいつらも全員見返してやるつもりだ。

「もー疲れたわ。早く帰ってシャワー浴びたい」
「ルキシアちゃん、さっきからそればっかりですね。もう少しの辛抱ですよ」

 クエストから帰還する途中。
 パーティメンバーであるルキシアとハウザーの会話に耳を傾ける。

「こんなチマチマやってられないわよ。だいたいなんで移動手段が徒歩なわけ!?」
「お金ないんだから馬車とか借りてる余裕はないんですよ」

 まだせいぜい中級程度のクエストしか受けることができず、生活は厳しい。

「だったら私の分だけでいいから払いなさいよ。それか特別におぶらせてあげてもいいわ」
「はぁ、今更オレたちに色目使っても意味ないですよ。ダイエットになっていいじゃないですか」
「あ? 殺すぞ」

 俺たちは一度パーティを解散した間柄。
 当然仲良しこよしで組んでいるわけではない。
 リクトに復讐するという利害の一致の下に手を組んでいるのだ。

「ていうか、そもそも報酬が少なすぎなのよ。こんなんじゃ今日のご飯も食べられないじゃない」
「それに関してはオレも同感です」
「あーあ、最近は金づるになってくれる男もいないしどうしようかしら」
「はっ、ルキシアちゃんは鏡持ってないんですか?」
「おい。テメェまじで死にてえのか?」

 こんな調子で俺たちの関係はギスギスしている。
 まあ無理もない。俺はコイツらを駒としか思ってないし、コイツらもお互いを見殺しにして自分だけ生き延びようとしていたからな。
 だがその感情はぶつける相手が違う。

「落ち着けお前ら。俺たちが言い争っても意味ないだろ」
「だったらこの状況何とかしなさいよ。アンタに全部任せてるけど上手くいくわけ?」
「オレもこんな生活はもうウンザリです」

 二人の言いたいことはわかる。
 俺も今の生活に満足なんてしてるはずない。
 このアーノルド様がここまでコケにされて何も感じないわけないだろう。

「俺に任せておけ」

 自信満々に言い切るが二人の目には疑心が宿る。
 俺は続けた。

「まずは金が必要なんだろ? 金ならいくらでもあるじゃないか」
「どこにあんのよ」
「そうですよ」

 かつて俺を慕っていたルキシアとハウザーはもういない。
 投げやりに言葉を返される。

「簡単だ。奪えばいい」

 答えだけ簡潔に、率直に言う。
 二人は顔を見合わせ、何度か目を瞬かせると口を開いた。

「その手があった……」
「アーノルドさん、あんた天才ですよ」

 俺たちは腐っても冒険者。
 盗賊がいたら刈る側の人間だ。
 バレればこの国から追放される可能性もあるだろう。
 ならバレないようにやればいい。

「決まりだな。行くぞ!」
「はい! オレはあなたについていきます!」
「頭まで筋肉でできてるわけではなかったみたいね。いいわ、私も乗ってあげる」

 こうして俺たちは団結し、町に戻った。
 俺は人の上に立つ人間だ。その辺の雑魚とは違う。
 弱者は強者に搾取されればいい。それがこの世界の真理だからな。


◇◆◇◆


「アイツなんていいんじゃない?」
「見るからにカモですね」

 町で買い物するふりをしながら標的を探していると、一人きりの冒険者を見つけた。
 ヒョロヒョロしていて小枝のような少年だ。
 今晩はコイツの金で食うとしよう。人の金で食う飯は格別にうまい。

「見ねえ顔だな。新人か? ならこの世界の厳しさを教えてやらねえとなぁ」
「そうね。じゃあ私に任せて」

 ルキシアはぺろりと唇を舐めてその冒険者に近づいた。
 俺たちは近くの路地裏で待機する。

「あの……、すみません。冒険者様ですか?」

 目を疑いたくなるがルキシアだ。
 頬を赤く染めた上目遣いで甘ったるい声を出す。
 すかさず手を握って目を潤ませるところまでがワンセット。
 本性を知らない男なら効果は抜群だ。

「そ、そそ、そうですけど。僕に何か用ですか?」
「私、今ちょっと困ったさんなんですよぉ。力になってくれませんか?」
「ぼ、僕でよかったら全然。えっと、どうしたんですか?」
「ここじゃ恥ずかしいです。なので……」

 髪をくるくると指に巻き付けながら身をよじった。

「こっちの誰も見てないところで二人きりになりたいです。……嫌、ですか?」
「行きましょう」

 即答する冒険者。エサにかかった雑魚。
 そいつの希望と夢は絶望と悪夢に侵食される。

「よお新人」

 俺は胸倉をつかんで壁に叩きつけた。

「ど、どういうことですか!?」
「ばーか。私がアンタみたいなガキの相手すると思った?」

 あっかんべーをして中指を立てるルキシア。
 少年は浜に打ち上げられた深海魚のような目になる。

「騒いだらどうなるかわかってますよね? オレたちも出来るだけ手は汚したくないんです」

 ハウザーが壁を足で蹴って逃げ道を塞ぎ、三人で囲む。
 少年はちびりそうなほどガタガタと震えだした。

「さぁ、金を出せ」
「こ、こんなダサい真似して恥ずかしくないんですか!」

 意外と度胸があるみたいだな。
 こういう奴の顔が恐怖に染まっていく様は最高に眺めがいい。

「どうやら立場が良くわかってないみたいだ、な!」
「おぅえ……ッ!」

 鳩尾に叩き込む。少年は腹をおさえて転げ回った。
 やはり人を殴る感触は心地いい。
 自分の強さを実感できる。

「おら、さっさと金を出せ」
「うぅ……うぐ、…………がはっ、ごほっ」
「ったく、こいつ根性なさすぎでしょ。≪治癒サナーレ≫」

 ルキシアが回復魔法をかけて手当てした。
 ハウザーが襟首をつかんで立たせる。
 声の出るサンドバックの完成だ。

「さぁ、次はもっと強めに行くぞ」
「ご、ごめんなさい調子に乗りました! これで許してください!」

 拳を振り上げたところで少年は泣いて謝ってきた。
 俺たちは暴力が目的じゃないからここで引く。

「最初からそうしろよ雑魚が。上にチクったら殺すからな」
「わかってます絶対言いません!」

 少年は有り金を全部置いて逃げるようにこの場を去った。
 ミッションコンプリートだ。

「おっ、結構入ってるじゃねえか」
「これなら今日は久しぶりに飲めますね」
「今日はいい夢見れそうだわ」


 こうして俺たちは吐きそうになるまで食って飲んで寝た。
 これが最後の晩餐になるとも知らずに──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...