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2章
46話 BOSS
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「侵入は成功しましたね」
私と兄さまは巨大ロヴェッタの内部に侵入した。
「ここからが本番だよ。集中していこう」
今いるのは人間でいうところの腰部分にあたる。
巨体だけあってかなり開けた場所だ。
侵入したのは足の脛あたりからで、そこからは一本の階段道だったため迷わず一直線で突破。
小型ロボが大量に沸いていたけど兄さまと一緒に瞬殺してきた。
中の造りは悪役組織のアジトみたいな感じで中央には大きな螺旋階段がある。
縦に部屋が区切られていて全部で3階層あるらしい。
トイレや寝泊まりできる部屋、それから武器庫やオペレーションルームなんかもある。
兵器でもありアジトでもある、動く要塞と言えるかもしれない。
「兄さまの横に立って一緒に戦えるなんて夢見たいです」
「僕もなんだか嬉しいよ。じゃあ、時間も無いし飛ばしていこうか。疲れたら言うんだよ」
「兄さまこそ、私にちゃんとついてきてくださいよ!」
そう言って二人で螺旋階段を駆け上がった。
兄さまとならなんだってできる気がする。
私が立ち直れたのも、今こうして兄さまと一緒にいられるのも全部リクトのおかげ。
本当に感謝が尽きない。ほんとに、ほんとに……。
『テキ、カクニン。タダチニ、ハイジョ』
階段を昇り始めるとすぐに敵が現れた。
雪だるまみたいな形をしていてアームのような手がついている。
数はざっと20。手のアームを伸ばして掴みかかってくる。
けど、そんなの私には効かないわ。
「やっぱ雑魚は群れるのね!」
大鎌、【紅月】を前方へ投げる。
するとブーメランのようにくるくると回り、前にいる敵から順にバタバタと倒れていった。
≪月輪≫
その鎌は満月のように新円を描いていた。
戻ってきた【紅月】をキャッチして先に進む。
「やるね。僕はその武器扱えなかったよ」
「え、そうなんですか?」
「相性かもしれないけど僕はこの剣しか使えない。これも神器だけどアストレシア家に伝わる最強の武器はルーナが持ってるそれだよ」
そんなに凄かったんだ。
宝の持ち腐れにならないように頑張ろう。
「さて、僕も働かなくちゃね」
二階層目に到達した。
そこに待っていたのはこのフロアの番人らしき物体。
空中を浮遊するヘビ型のロボットだ。体表には目のような赤い核が無数にありそれをエネルギー源として動いているみたい。三階へと続く螺旋階段に胴体を巻き付け、威嚇してくる。本当に生きているみたいだ。
「妹に頼りっきりじゃ不甲斐ないな」
そう言って兄さまは右手で鞘から剣を抜いた。
そして左手で空間から剣を引き抜いた。
「ルーナ、実は僕も昔は無能って言われてたんだ」
「へっ?」
突然のカミングアウトに変な声が出た。
「アストレシア家は完璧主義だからなんでもできなきゃいけない。でも僕はたった一つの魔法と一つのユニークスキルしか使えなかった。だからルーナが生まれたばかりの頃は無能って言われてたんだよ。でもその二つと鍛錬だけで全員黙らせてここまでのし上がった。ルーナを守るためにね」
「私のため、ですか?」
「そうだよ。ユニークスキル未所持の小さな女の子が苦しまないように僕が守ろうってね。それでもたくさん苦しませちゃったけど……」
昔どうして助けてくれるのか聞いた時は妹だからだよと言ってくれた。
その答えが今やっとわかった。
「そんなことないです。兄さまは私を守ってくれましたよ」
そう告げると兄さまは微笑んだ。
一度息を吐き、凛とした表情に変わる。
「≪異空間≫」
唱えると兄さまが目の前から消えた。
と、思ったら敵のすぐ目の前に現れた。
≪異空間≫。簡単に言うと空間魔法。
一瞬で視界内の任意の場所へ移動できる。また、あらかじめ異空間に物を置いておいて取り出すことも可能。ユニークスキルではないため他にも使い手はいるが才能が無ければ使うことのできない希少な魔法。
きっとロヴェッタと戦った時もこれを使えば瀕死になることはなかったはず。
けど兄さまは私を守るために私の盾になってくれたんだ。
ほんとに私はみんなに守られてばっかだな。
「最近一本しか持ってなかったからラスボス前に肩慣らしだね。≪限界突破≫」
二刀流の兄さまが高速で切り裂いていく。
ヘビ型ロボットは兄さまを捉えられず、くねくねしているだけ。
まるで玩具みたい。
あっという間に100以上のパーツに分解されてそれがどんな形をしていたのか判別がつかなくなった。第二階層突破。
「っと、さあ次行こうか」
息一つ乱さず兄さまは言うと階段を駆け上がった。
私も遅れないようについていく。
「本当に他の魔法が使えないんですか?」
走りながら尋ねてみる。
あんなにすごい魔法が使えて他の魔法が使えないのだろうか。
「あれだけはなぜか使えるんだよね。今では初級魔法ぐらいは使えるようになったけどどうも苦手なんだ。ルーナもそうでしょ?」
兄さまの問いに無言で肯定する。
確かに私は手からちょろちょろ水を出す程度しかできない。
「やっぱり僕たち兄妹だね」
「ふふっ、そうみたいですね!」
兄さまとの距離がもっと近くなった気がする。
なんだか嬉しい気分になった。
そんな気分に浸りながら迫りくるロボットを次々と撃破。
あっという間に第三回想まで到達した。
「これ倒したら次が最後かな」
「すぐ終わらせましょう」
私と兄さまは構えを取る。
敵は一体。機械でできた大きなドラゴンだ。
フロアの三分の一を占めるほどの大きさで、鋭い爪や牙なんかは本物以上に迫力がある。
翼や尻尾も再現されているがどんな機能が備えられているかはわからない。
ガチャン、ガシャンと機械を立てている。
「挟み込もう」
「はい!」
兄さまの合図で左右に分かれて撹乱。
するとドラゴンは両翼から無数の針を飛ばして牽制してきた。
私は全て避け、兄さまは二本の剣でさばく。
「所詮鉄の塊だろ」
兄さまが槍のように片方の剣を投げた。
しかしその攻撃はドラゴンの手により簡単に払われてしまう。
ドラゴンの意識は兄さまに向き、口をがばっと開いた。
──そう思った瞬間、このフロアの半分が消し飛んだ。
それは兄さまがいた方のエリア。
超高速の超範囲レーザーにより下二つの階層ごと消滅した。
そこに何があったのかすらわからない。
元からそうだったと思えるほど一瞬の出来事。
もう兄さまはいない、
そこには。
「想像以上だな。そんなに壊して怒られないのかい?」
向こう側にいたはずの兄さまは今、私の隣にいる。
瞬間移動だ。
「お前ら機械の演算速度には負けないよ。ルーナ!」
「わかってます!」
私は大鎌を水平に振りぬいてぶった切る。
兄さまは垂直に一刀両断。
≪卍月≫
ドラゴンは縦横真っ二つになった。
警告アラートが鳴り響く。
「ルーナ、早く!」
兄さまに手首を掴まれた。
白い光に飲み込まれないように私を引っ張るようにして先へ進む。
服の先っちょが焼き切れたけどなんとか逃げ切ることに成功。
この階層を抜けるころには全てのエリアが爆散していた。
もう引き返すことはできない。
「助かりました。ついに来ましたね」
目の前にあるのは大きな扉。
この扉の向こうを片付ければ本当にお終い。
私の緊張をほぐすためか兄さまが手を握ってくれた。
大丈夫だよという意味を込めて強めに握る。
「いてっ、大丈夫そうだね」
「ええ、もう怖い物なんてありません」
今から倒すのはアストレシア家の頂点ジーク。
父であり、魔王軍と手を組んだ裏切り者であり、私を苦しめるに至った大本でもある。
今起きていることの全てに関わっている元凶だ。
感情をリセットするように深呼吸し、覚悟を決める。
「よし、行くわよ兄さま。ケリをつけに」
扉をぶち破って堂々と突入。
そこには私たちに背を向けて外の様子を面白そうに眺めている男が一人。
「きたか、我が子供たちよ」
ゆっくりといすを回転させてこちらを向いた。
「もうこんなことはやめるんだ。他の兄妹や母さんたちは拘束してきた。観念してくれ」
兄さまが両手に剣を持ち、右手をジークへと向ける。
「くっくっく、まさかここまで来るとはな。我が息子ながら恐ろしい。やはりお前はこちら側に来るべきだ」
二体一の状況でこちらが圧倒的に有利。
それなのになぜか違和感がある。
この男の余裕は何?
「黙れ、僕はお前たちの言う通りにはならない。ここでお前たちの野望は終わらせる」
「それが父に対する態度か? そう言えば我の足に剣を突き刺してくれたな」
兄さまがまだロヴェッタに洗脳されているときにジークの足を刺したはず。
けど今はそんな傷見当たらない。
「お前のことなんて父だと思ったことはない。他の奴らもそうだ。僕の家族はたった一人だけ」
「ふっ、残念だな。惜しいがもう我には駒など必要ない。消えてもらうとしよう」
まるで一人で何でもできるような言い草。
バカげたことを言っているのになぜか戯言だとは思えない。
「僕の力を忘れたのか? 現アストレシア家で一番強いのは僕だ。それに今はルーナもいる。負けるはずがない」
そう、そのはず。
そのはずだよね?
「なぁに、それぐらいわかっておる。我はお前より弱い。今はな──」
ジークが手元のボタンをガラス越しにバリンと叩いた。
刹那、部屋全体が邪悪な光に包まれる。
その光は吸い込まれるようにジークの体へ吸収されていく。
「な、何をした!」
突然の出来事に理解が追い付かない。
違和感が現実になる。
「はっはっは、なに簡単さ。この部屋全体がこの巨大兵器を動かす動力源、つまり核なのだ。そのエネルギー全てを我が取り込んだ」
光の中で不気味に笑う。
「ぐっ……! ぐあああああああああああ!」
ジークが叫ぶ。
このまま滅ぶなんて展開を望んだけど勿論そうはなってくれない。
咆哮とともに光が消滅。
そこに現れたのは人ではない何か。
「これだ! この力が欲しかったのだ! この力さえあれば何でも手に入る! 我こそが最強だ!!!」
核と完全に一体化したジーク。
体は倍以上大きくなっていて体は毛に覆われている。
大きな牙に大きな角。人間ではない何かに変わり果てた。
狂気に満ちたオーラも纏っている。
それは、狂暴化したモンスターと同じもの。
「さあ、ファイナルフェイズといこうか!!!」
耳を塞ぎたくなるほどの叫び声と共にジークは襲い掛かってきた。
────────────
名称:ジーク(狂)
体力:SSS
物攻:SS
物防:SSS
魔攻:SS
魔防:SSS
魔力:SSS
俊敏:SS
────────────
私と兄さまは巨大ロヴェッタの内部に侵入した。
「ここからが本番だよ。集中していこう」
今いるのは人間でいうところの腰部分にあたる。
巨体だけあってかなり開けた場所だ。
侵入したのは足の脛あたりからで、そこからは一本の階段道だったため迷わず一直線で突破。
小型ロボが大量に沸いていたけど兄さまと一緒に瞬殺してきた。
中の造りは悪役組織のアジトみたいな感じで中央には大きな螺旋階段がある。
縦に部屋が区切られていて全部で3階層あるらしい。
トイレや寝泊まりできる部屋、それから武器庫やオペレーションルームなんかもある。
兵器でもありアジトでもある、動く要塞と言えるかもしれない。
「兄さまの横に立って一緒に戦えるなんて夢見たいです」
「僕もなんだか嬉しいよ。じゃあ、時間も無いし飛ばしていこうか。疲れたら言うんだよ」
「兄さまこそ、私にちゃんとついてきてくださいよ!」
そう言って二人で螺旋階段を駆け上がった。
兄さまとならなんだってできる気がする。
私が立ち直れたのも、今こうして兄さまと一緒にいられるのも全部リクトのおかげ。
本当に感謝が尽きない。ほんとに、ほんとに……。
『テキ、カクニン。タダチニ、ハイジョ』
階段を昇り始めるとすぐに敵が現れた。
雪だるまみたいな形をしていてアームのような手がついている。
数はざっと20。手のアームを伸ばして掴みかかってくる。
けど、そんなの私には効かないわ。
「やっぱ雑魚は群れるのね!」
大鎌、【紅月】を前方へ投げる。
するとブーメランのようにくるくると回り、前にいる敵から順にバタバタと倒れていった。
≪月輪≫
その鎌は満月のように新円を描いていた。
戻ってきた【紅月】をキャッチして先に進む。
「やるね。僕はその武器扱えなかったよ」
「え、そうなんですか?」
「相性かもしれないけど僕はこの剣しか使えない。これも神器だけどアストレシア家に伝わる最強の武器はルーナが持ってるそれだよ」
そんなに凄かったんだ。
宝の持ち腐れにならないように頑張ろう。
「さて、僕も働かなくちゃね」
二階層目に到達した。
そこに待っていたのはこのフロアの番人らしき物体。
空中を浮遊するヘビ型のロボットだ。体表には目のような赤い核が無数にありそれをエネルギー源として動いているみたい。三階へと続く螺旋階段に胴体を巻き付け、威嚇してくる。本当に生きているみたいだ。
「妹に頼りっきりじゃ不甲斐ないな」
そう言って兄さまは右手で鞘から剣を抜いた。
そして左手で空間から剣を引き抜いた。
「ルーナ、実は僕も昔は無能って言われてたんだ」
「へっ?」
突然のカミングアウトに変な声が出た。
「アストレシア家は完璧主義だからなんでもできなきゃいけない。でも僕はたった一つの魔法と一つのユニークスキルしか使えなかった。だからルーナが生まれたばかりの頃は無能って言われてたんだよ。でもその二つと鍛錬だけで全員黙らせてここまでのし上がった。ルーナを守るためにね」
「私のため、ですか?」
「そうだよ。ユニークスキル未所持の小さな女の子が苦しまないように僕が守ろうってね。それでもたくさん苦しませちゃったけど……」
昔どうして助けてくれるのか聞いた時は妹だからだよと言ってくれた。
その答えが今やっとわかった。
「そんなことないです。兄さまは私を守ってくれましたよ」
そう告げると兄さまは微笑んだ。
一度息を吐き、凛とした表情に変わる。
「≪異空間≫」
唱えると兄さまが目の前から消えた。
と、思ったら敵のすぐ目の前に現れた。
≪異空間≫。簡単に言うと空間魔法。
一瞬で視界内の任意の場所へ移動できる。また、あらかじめ異空間に物を置いておいて取り出すことも可能。ユニークスキルではないため他にも使い手はいるが才能が無ければ使うことのできない希少な魔法。
きっとロヴェッタと戦った時もこれを使えば瀕死になることはなかったはず。
けど兄さまは私を守るために私の盾になってくれたんだ。
ほんとに私はみんなに守られてばっかだな。
「最近一本しか持ってなかったからラスボス前に肩慣らしだね。≪限界突破≫」
二刀流の兄さまが高速で切り裂いていく。
ヘビ型ロボットは兄さまを捉えられず、くねくねしているだけ。
まるで玩具みたい。
あっという間に100以上のパーツに分解されてそれがどんな形をしていたのか判別がつかなくなった。第二階層突破。
「っと、さあ次行こうか」
息一つ乱さず兄さまは言うと階段を駆け上がった。
私も遅れないようについていく。
「本当に他の魔法が使えないんですか?」
走りながら尋ねてみる。
あんなにすごい魔法が使えて他の魔法が使えないのだろうか。
「あれだけはなぜか使えるんだよね。今では初級魔法ぐらいは使えるようになったけどどうも苦手なんだ。ルーナもそうでしょ?」
兄さまの問いに無言で肯定する。
確かに私は手からちょろちょろ水を出す程度しかできない。
「やっぱり僕たち兄妹だね」
「ふふっ、そうみたいですね!」
兄さまとの距離がもっと近くなった気がする。
なんだか嬉しい気分になった。
そんな気分に浸りながら迫りくるロボットを次々と撃破。
あっという間に第三回想まで到達した。
「これ倒したら次が最後かな」
「すぐ終わらせましょう」
私と兄さまは構えを取る。
敵は一体。機械でできた大きなドラゴンだ。
フロアの三分の一を占めるほどの大きさで、鋭い爪や牙なんかは本物以上に迫力がある。
翼や尻尾も再現されているがどんな機能が備えられているかはわからない。
ガチャン、ガシャンと機械を立てている。
「挟み込もう」
「はい!」
兄さまの合図で左右に分かれて撹乱。
するとドラゴンは両翼から無数の針を飛ばして牽制してきた。
私は全て避け、兄さまは二本の剣でさばく。
「所詮鉄の塊だろ」
兄さまが槍のように片方の剣を投げた。
しかしその攻撃はドラゴンの手により簡単に払われてしまう。
ドラゴンの意識は兄さまに向き、口をがばっと開いた。
──そう思った瞬間、このフロアの半分が消し飛んだ。
それは兄さまがいた方のエリア。
超高速の超範囲レーザーにより下二つの階層ごと消滅した。
そこに何があったのかすらわからない。
元からそうだったと思えるほど一瞬の出来事。
もう兄さまはいない、
そこには。
「想像以上だな。そんなに壊して怒られないのかい?」
向こう側にいたはずの兄さまは今、私の隣にいる。
瞬間移動だ。
「お前ら機械の演算速度には負けないよ。ルーナ!」
「わかってます!」
私は大鎌を水平に振りぬいてぶった切る。
兄さまは垂直に一刀両断。
≪卍月≫
ドラゴンは縦横真っ二つになった。
警告アラートが鳴り響く。
「ルーナ、早く!」
兄さまに手首を掴まれた。
白い光に飲み込まれないように私を引っ張るようにして先へ進む。
服の先っちょが焼き切れたけどなんとか逃げ切ることに成功。
この階層を抜けるころには全てのエリアが爆散していた。
もう引き返すことはできない。
「助かりました。ついに来ましたね」
目の前にあるのは大きな扉。
この扉の向こうを片付ければ本当にお終い。
私の緊張をほぐすためか兄さまが手を握ってくれた。
大丈夫だよという意味を込めて強めに握る。
「いてっ、大丈夫そうだね」
「ええ、もう怖い物なんてありません」
今から倒すのはアストレシア家の頂点ジーク。
父であり、魔王軍と手を組んだ裏切り者であり、私を苦しめるに至った大本でもある。
今起きていることの全てに関わっている元凶だ。
感情をリセットするように深呼吸し、覚悟を決める。
「よし、行くわよ兄さま。ケリをつけに」
扉をぶち破って堂々と突入。
そこには私たちに背を向けて外の様子を面白そうに眺めている男が一人。
「きたか、我が子供たちよ」
ゆっくりといすを回転させてこちらを向いた。
「もうこんなことはやめるんだ。他の兄妹や母さんたちは拘束してきた。観念してくれ」
兄さまが両手に剣を持ち、右手をジークへと向ける。
「くっくっく、まさかここまで来るとはな。我が息子ながら恐ろしい。やはりお前はこちら側に来るべきだ」
二体一の状況でこちらが圧倒的に有利。
それなのになぜか違和感がある。
この男の余裕は何?
「黙れ、僕はお前たちの言う通りにはならない。ここでお前たちの野望は終わらせる」
「それが父に対する態度か? そう言えば我の足に剣を突き刺してくれたな」
兄さまがまだロヴェッタに洗脳されているときにジークの足を刺したはず。
けど今はそんな傷見当たらない。
「お前のことなんて父だと思ったことはない。他の奴らもそうだ。僕の家族はたった一人だけ」
「ふっ、残念だな。惜しいがもう我には駒など必要ない。消えてもらうとしよう」
まるで一人で何でもできるような言い草。
バカげたことを言っているのになぜか戯言だとは思えない。
「僕の力を忘れたのか? 現アストレシア家で一番強いのは僕だ。それに今はルーナもいる。負けるはずがない」
そう、そのはず。
そのはずだよね?
「なぁに、それぐらいわかっておる。我はお前より弱い。今はな──」
ジークが手元のボタンをガラス越しにバリンと叩いた。
刹那、部屋全体が邪悪な光に包まれる。
その光は吸い込まれるようにジークの体へ吸収されていく。
「な、何をした!」
突然の出来事に理解が追い付かない。
違和感が現実になる。
「はっはっは、なに簡単さ。この部屋全体がこの巨大兵器を動かす動力源、つまり核なのだ。そのエネルギー全てを我が取り込んだ」
光の中で不気味に笑う。
「ぐっ……! ぐあああああああああああ!」
ジークが叫ぶ。
このまま滅ぶなんて展開を望んだけど勿論そうはなってくれない。
咆哮とともに光が消滅。
そこに現れたのは人ではない何か。
「これだ! この力が欲しかったのだ! この力さえあれば何でも手に入る! 我こそが最強だ!!!」
核と完全に一体化したジーク。
体は倍以上大きくなっていて体は毛に覆われている。
大きな牙に大きな角。人間ではない何かに変わり果てた。
狂気に満ちたオーラも纏っている。
それは、狂暴化したモンスターと同じもの。
「さあ、ファイナルフェイズといこうか!!!」
耳を塞ぎたくなるほどの叫び声と共にジークは襲い掛かってきた。
────────────
名称:ジーク(狂)
体力:SSS
物攻:SS
物防:SSS
魔攻:SS
魔防:SSS
魔力:SSS
俊敏:SS
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