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2章
35話 戦場を舞う姫
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俺は魔王軍と交戦していた。
ルーナも立ち直り、一緒にこの戦いを終わらせるべく魔王軍と戦っている。
俺の目標は四天王ロヴェッタの討伐。
ルーナの目標は兄であるルーイの目を覚まさせること。
今は町中に放たれた残党を刈って回っていた。
ロヴェッタとルーイを探しながら襲われている人を救助しているのだ。
ざっと千体以上いた敵も今は半分以上数を減らしただろう。
ちゃんとフェンリィが仕事をこなしてくれたみたいだ。
各地へ任務に行っていた冒険者たちが戻り始めていて応戦しているのも大きい。
町は戦場と化しているが住民の避難なども行われている。
もちろん戦って滅んでいくのは魔王軍だけではない。
こちら側の戦力も徐々に減りつつある。
今は拮抗した状態といったところか。
俺たちにはこの状況を一瞬で打ち破る策があるのだが、そのためにはフェンリィと合流しなければならない。
落ち合う場所は通信機を通して伝えておいたため、今はそこに向かっている最中だ。
「うわあああああん! 誰か助けて!!」
その途中、小さな男の子が羽の生えた悪魔に襲われていた。
Bランクのモンスター、ガーゴイルだ。
「ルーナ頼……」
バシュッ!
「……む」
俺が言い終わるころにはすでにガーゴイル三体の首が全てはねられていた。
さっきからこんな感じでルーナが瞬殺している。
もうルーナは前しか見ていないのだ。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「おねっ! どういたしまして。危ないから早く逃げなさい」
嬉しそうに照れるルーナ。
ルーナのおかげでこの辺りの戦況は圧倒的にこっちに分がある。
だが、なぜか殺しても殺しても敵が減る様子はない。
倒した奴らが残像というわけでもなかった。
気になるな……。
「ほら、ニヤけてないで先行くぞおねえちゃん」
「ば、バカにしてるでしょ!」
からかうとトマトみたいに赤くなった。
笑顔が戻ってくれてなによりだ。
軽口はこのくらいにして俺たちは先に進む。
やっぱりフェンリィの時同様、俺のスピードにルーナが合わせてくれている状況だ。
Cランクの俺とSSランクのスピードを誇るルーナではカメとウサギぐらい差があるかもしれない。
なんだか申し訳ない気分になる。
そんなことを思いながら戦場を駆け回っていると、
「く、くそおおお! 来るな!」
「なんで俺たちがこんな目に! 聞いてねえぞ!」
またしても襲われている人を発見した。
俺が言わなくてもルーナが助けるだろう。
と、思っていたがルーナは動かなかった。
『ふっふっふ、殴殺ですよ。弱きものをいたぶるのは楽しいですね』
「ちくしょう! アストレシア家に逆らってタダで済むと思うなよ!」
「そうだ! じきにルーイ兄さんが助けに来てお前なんてぺしゃんこだ!」
襲われているのはアストレシア家の人間──つまりルーナの兄弟だ。
「ルーナ?」
「……ごめん、なんでもない」
助けるかどうか悩んでいるのかもしれない。
散々自分を苦しめてきた相手だ。そう思っても不思議じゃない。
俺はルーナの判断に任せようと思う。だが最悪の場合は俺が……。
『おや、聞いてないのですか? ルーイ君は君たちを裏切り、こちらの仲間になったんですよ』
「嘘つけ! 嘘つきの言うことなんか信じられるか!」
「そうだそうだ!」
『まあいいですよ。どうせ死ぬなら知ってても知らなくても同じです』
人語を操る魔物ということは手練れの証拠。
俺は指輪を通してこの悪魔を見る。
──────────
名称:デビル・デーモン
体力:SS
物攻:S
物防:A
魔攻:S
魔防:A
魔力:A
俊敏:S
ユニークスキル:?
──────────
ステータスは高い。こいつもおそらく幹部だ。
羽が生えていて、フォークのような武器を持っている。
こんなに幹部を送り込んでくるとは本気でこの町を潰す気なのだろう。
『さあ行きますしょうか。僕の可愛い子供たち!』
そう叫ぶと大きく口を開いた。そして、
『おおおおおえええ』
気色悪い音を発しながら口からたくさんの卵を吐いた。
吐瀉物にまみれたそれらが一斉に割れ始める。
すると中からガーゴイルが誕生した。その数はざっと50はいる。
『これが僕のユニークスキルです。体内でたくさんの子供を飼っています』
口の周りにべっとり付いた唾液を拭う悪魔。
ガーゴイルの群れは空中で待機している。
なるほど。
コイツのせいでさっきから殺しても殺しても敵が増えていたのか。
「は、反則だ……」
「Bランクの俺たち二人でが50体も相手できるわけねぇ……」
ルーナの兄たちは腰を抜かしてその場に尻もちをついた。
手で這うようにしてもがいている。
戦意は完全に喪失され、己の死を悟った顔だ。
「はぁー。ったく、ダサいのよアンタ達は」
兄たちを背にガーゴイルの前へ立つルーナ。
その小さな手には王宮から持ってきた大鎌が握られている。
「て、てめえルーナか! お前俺たちに向かってダサいとは何様のつもりだ! また躾けられてえのか!」
「そうだ! まずはてめえから息の根止めてやろうか?」
死に追いやられた状態でなお出てきたのはそんな下らぬ遠吠え。
青ざめた表情から一変して憤怒の色に染まった。
どいつもこいつも自分のプライドがそんなに大事か。
それとも現実が見えていないただの馬鹿なのか。
ビリッ!
「うっさいわね。雑魚は震えて死んだふりでもしてろ」
ルーナの鎌が兄たちの服を引き裂いた。
薄っすらと血がツーッと垂れている。
「「ひ、ひぃ!」」
ルーナを見上げる二つの顔は恐怖の色に染まっていた。
ようやく自分たちの立場を理解したようだ。
弱者の顔がよく似合う。
『おや、仲間なのでは?』
「ふん、仲間でも家族でもなんでもないわよ」
『そうですか。まあいいんですけどお嬢さん。あなた死にますよ?』
右手を水平に伸ばしてガーゴイルを制止ししている。
どうやらコイツも立場が分かってないらしい。
「ほんと、雑魚ってのはよく喋るのね。このたくさん飛んでる鳥だっていくら群れたところで雑魚に変わりないわ」
腰に手を当て余裕の笑みを浮かべるルーナ。
『雑魚雑魚って、あなた言ってくれますね。僕に幼女をいたぶる趣味はないのですがもう知りません。殺して差し上げましょう! さあ行くのです!』
右手を上に払い、合図を出すと一斉にガーゴイルが動き始めた。
──────────
名称:ガーゴイル(×50)
体力:B
物攻:A
物防:C
魔攻:B
魔防:C
魔力:B
俊敏:A
──────────
50体のガーゴイルが束になって一人の少女を襲う。
どう考えても一人で対応できる敵でも数でもない。
俺は一応≪反転≫の準備をする。
だがそんな心配は1ミリもなかった。
「アンタ言ってくれたわね。絶対許さない。血祭りにしてやるわ」
ルーナの雰囲気が変わった。
静かな殺気が声に乗って空気中に伝わる。
そのオーラを察し、敵の幹部も身を構えた。
「私は幼女じゃない!!!」
叫び声と共に俺の視界から消えるルーナ。
正確には消えていないのだが目で追うことができない。
自分の倍以上ある大鎌を振り回しながら次々と敵を葬っているのだ。
それは小さな戦姫による殺戮ショー。
その空間は呻き声と死臭で包まれる。
だが、その名が語られることはない。
なぜなら目撃者がゼロだからである。
≪月華乱舞≫
花火のように飛び散る血潮。そして刈り取られる命。
ルーナが通った後にはガーゴイルの濁った赤い血と羽や頭部が転がっていた。
『ぼ、僕の子供たちが……おのれ、おのれおのれおのれ!!! ぶっ殺して──』
ズバンッ!!!
「遅すぎ。スキルに頼り過ぎなのよ」
ルーナが叫んでから僅か5秒。
幹部の胴も両断し、全ての敵が殲滅された。
兄たちはいつの間にか気を失って倒れている。
目撃者は俺のみ。つまりゼロ。
ルーナが鎌を振ると付着した赤い血が円を描くように見える。
その様から取ってつけられた名は──アストレシア家に伝わる神器【紅月】。
「いやー驚いた。よくやったルーナ」
ホントに一人で全部片づけちまうとは思わなかった。
これならもしかするかもしれない。
「ね、ねぇ……」
モジモジしながら下を向いて呟くルーナ。
ルーナが下を向くとホントに聞こえにくい。
さっきまでの強気な態度はどこへ行ってしまったのだろう。
「どうした? トイレか?」
「ちがっ……。あのね、私にもフェンリィみたいに……」
「フェンリィがどうかしたのか?」
「えっと、……だから、この前みたいに」
何を伝えたいのだろうか。
こんなにぐずぐずしているルーナは珍しい。
「もう! なんでわかんないの! 頭撫でてよ!!」
顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
言葉にはしていないが「バカ!」とも聞こえてきそうな勢いだ。
「え!? わ、わかった、これでいいのか……?」
ちょうどいい位置にある赤い頭をポンポンと撫でる。
俺は一人っ子だからわからないが妹がいたらこんな感じだろうか。
「うん‥‥‥ありがと」
よくわからないがすごく嬉しそうなのは確かだ。
さっきまで「血祭にする」とか言ってた子には見えない。
女の子らしい可愛い笑顔だ。
「じゃあそろそろフェンリィ拾いに行くか」
「そうね。そうしま──」
ドゴーーーーーン!!!
「なんだ!?」
すぐ近くで爆音が鳴り響いた。
近くというか目の前で起こった。
目の前の大きな建物が破壊され、こちらに倒れてくる。
「任せて」
ルーナがそれに突っ込む。
すると大鎌を振りぬき、真っ二つに切った。
割れた瓦礫が俺の左右に一つずつ落ちて地鳴りがする。
「さんきゅー助かった」
俺が楽観的にそう言う。
だがルーナの顔は真剣そのものだ。
「リクト、先行って。大丈夫、無理はしないから。ヤバくなる前に絶対呼ぶ」
俺はその言葉を聞き、建物の方を見て全てを察した。
「わかった。勝ってこい」
俺は小さな背中を軽く押し、先を急ぐ。
「ルイ兄さま。私、兄さまに話があるんだけど聞いてくれるかしら」
「奇遇だな、僕もだよ。なぜ生きている妹」
ルーナも立ち直り、一緒にこの戦いを終わらせるべく魔王軍と戦っている。
俺の目標は四天王ロヴェッタの討伐。
ルーナの目標は兄であるルーイの目を覚まさせること。
今は町中に放たれた残党を刈って回っていた。
ロヴェッタとルーイを探しながら襲われている人を救助しているのだ。
ざっと千体以上いた敵も今は半分以上数を減らしただろう。
ちゃんとフェンリィが仕事をこなしてくれたみたいだ。
各地へ任務に行っていた冒険者たちが戻り始めていて応戦しているのも大きい。
町は戦場と化しているが住民の避難なども行われている。
もちろん戦って滅んでいくのは魔王軍だけではない。
こちら側の戦力も徐々に減りつつある。
今は拮抗した状態といったところか。
俺たちにはこの状況を一瞬で打ち破る策があるのだが、そのためにはフェンリィと合流しなければならない。
落ち合う場所は通信機を通して伝えておいたため、今はそこに向かっている最中だ。
「うわあああああん! 誰か助けて!!」
その途中、小さな男の子が羽の生えた悪魔に襲われていた。
Bランクのモンスター、ガーゴイルだ。
「ルーナ頼……」
バシュッ!
「……む」
俺が言い終わるころにはすでにガーゴイル三体の首が全てはねられていた。
さっきからこんな感じでルーナが瞬殺している。
もうルーナは前しか見ていないのだ。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「おねっ! どういたしまして。危ないから早く逃げなさい」
嬉しそうに照れるルーナ。
ルーナのおかげでこの辺りの戦況は圧倒的にこっちに分がある。
だが、なぜか殺しても殺しても敵が減る様子はない。
倒した奴らが残像というわけでもなかった。
気になるな……。
「ほら、ニヤけてないで先行くぞおねえちゃん」
「ば、バカにしてるでしょ!」
からかうとトマトみたいに赤くなった。
笑顔が戻ってくれてなによりだ。
軽口はこのくらいにして俺たちは先に進む。
やっぱりフェンリィの時同様、俺のスピードにルーナが合わせてくれている状況だ。
Cランクの俺とSSランクのスピードを誇るルーナではカメとウサギぐらい差があるかもしれない。
なんだか申し訳ない気分になる。
そんなことを思いながら戦場を駆け回っていると、
「く、くそおおお! 来るな!」
「なんで俺たちがこんな目に! 聞いてねえぞ!」
またしても襲われている人を発見した。
俺が言わなくてもルーナが助けるだろう。
と、思っていたがルーナは動かなかった。
『ふっふっふ、殴殺ですよ。弱きものをいたぶるのは楽しいですね』
「ちくしょう! アストレシア家に逆らってタダで済むと思うなよ!」
「そうだ! じきにルーイ兄さんが助けに来てお前なんてぺしゃんこだ!」
襲われているのはアストレシア家の人間──つまりルーナの兄弟だ。
「ルーナ?」
「……ごめん、なんでもない」
助けるかどうか悩んでいるのかもしれない。
散々自分を苦しめてきた相手だ。そう思っても不思議じゃない。
俺はルーナの判断に任せようと思う。だが最悪の場合は俺が……。
『おや、聞いてないのですか? ルーイ君は君たちを裏切り、こちらの仲間になったんですよ』
「嘘つけ! 嘘つきの言うことなんか信じられるか!」
「そうだそうだ!」
『まあいいですよ。どうせ死ぬなら知ってても知らなくても同じです』
人語を操る魔物ということは手練れの証拠。
俺は指輪を通してこの悪魔を見る。
──────────
名称:デビル・デーモン
体力:SS
物攻:S
物防:A
魔攻:S
魔防:A
魔力:A
俊敏:S
ユニークスキル:?
──────────
ステータスは高い。こいつもおそらく幹部だ。
羽が生えていて、フォークのような武器を持っている。
こんなに幹部を送り込んでくるとは本気でこの町を潰す気なのだろう。
『さあ行きますしょうか。僕の可愛い子供たち!』
そう叫ぶと大きく口を開いた。そして、
『おおおおおえええ』
気色悪い音を発しながら口からたくさんの卵を吐いた。
吐瀉物にまみれたそれらが一斉に割れ始める。
すると中からガーゴイルが誕生した。その数はざっと50はいる。
『これが僕のユニークスキルです。体内でたくさんの子供を飼っています』
口の周りにべっとり付いた唾液を拭う悪魔。
ガーゴイルの群れは空中で待機している。
なるほど。
コイツのせいでさっきから殺しても殺しても敵が増えていたのか。
「は、反則だ……」
「Bランクの俺たち二人でが50体も相手できるわけねぇ……」
ルーナの兄たちは腰を抜かしてその場に尻もちをついた。
手で這うようにしてもがいている。
戦意は完全に喪失され、己の死を悟った顔だ。
「はぁー。ったく、ダサいのよアンタ達は」
兄たちを背にガーゴイルの前へ立つルーナ。
その小さな手には王宮から持ってきた大鎌が握られている。
「て、てめえルーナか! お前俺たちに向かってダサいとは何様のつもりだ! また躾けられてえのか!」
「そうだ! まずはてめえから息の根止めてやろうか?」
死に追いやられた状態でなお出てきたのはそんな下らぬ遠吠え。
青ざめた表情から一変して憤怒の色に染まった。
どいつもこいつも自分のプライドがそんなに大事か。
それとも現実が見えていないただの馬鹿なのか。
ビリッ!
「うっさいわね。雑魚は震えて死んだふりでもしてろ」
ルーナの鎌が兄たちの服を引き裂いた。
薄っすらと血がツーッと垂れている。
「「ひ、ひぃ!」」
ルーナを見上げる二つの顔は恐怖の色に染まっていた。
ようやく自分たちの立場を理解したようだ。
弱者の顔がよく似合う。
『おや、仲間なのでは?』
「ふん、仲間でも家族でもなんでもないわよ」
『そうですか。まあいいんですけどお嬢さん。あなた死にますよ?』
右手を水平に伸ばしてガーゴイルを制止ししている。
どうやらコイツも立場が分かってないらしい。
「ほんと、雑魚ってのはよく喋るのね。このたくさん飛んでる鳥だっていくら群れたところで雑魚に変わりないわ」
腰に手を当て余裕の笑みを浮かべるルーナ。
『雑魚雑魚って、あなた言ってくれますね。僕に幼女をいたぶる趣味はないのですがもう知りません。殺して差し上げましょう! さあ行くのです!』
右手を上に払い、合図を出すと一斉にガーゴイルが動き始めた。
──────────
名称:ガーゴイル(×50)
体力:B
物攻:A
物防:C
魔攻:B
魔防:C
魔力:B
俊敏:A
──────────
50体のガーゴイルが束になって一人の少女を襲う。
どう考えても一人で対応できる敵でも数でもない。
俺は一応≪反転≫の準備をする。
だがそんな心配は1ミリもなかった。
「アンタ言ってくれたわね。絶対許さない。血祭りにしてやるわ」
ルーナの雰囲気が変わった。
静かな殺気が声に乗って空気中に伝わる。
そのオーラを察し、敵の幹部も身を構えた。
「私は幼女じゃない!!!」
叫び声と共に俺の視界から消えるルーナ。
正確には消えていないのだが目で追うことができない。
自分の倍以上ある大鎌を振り回しながら次々と敵を葬っているのだ。
それは小さな戦姫による殺戮ショー。
その空間は呻き声と死臭で包まれる。
だが、その名が語られることはない。
なぜなら目撃者がゼロだからである。
≪月華乱舞≫
花火のように飛び散る血潮。そして刈り取られる命。
ルーナが通った後にはガーゴイルの濁った赤い血と羽や頭部が転がっていた。
『ぼ、僕の子供たちが……おのれ、おのれおのれおのれ!!! ぶっ殺して──』
ズバンッ!!!
「遅すぎ。スキルに頼り過ぎなのよ」
ルーナが叫んでから僅か5秒。
幹部の胴も両断し、全ての敵が殲滅された。
兄たちはいつの間にか気を失って倒れている。
目撃者は俺のみ。つまりゼロ。
ルーナが鎌を振ると付着した赤い血が円を描くように見える。
その様から取ってつけられた名は──アストレシア家に伝わる神器【紅月】。
「いやー驚いた。よくやったルーナ」
ホントに一人で全部片づけちまうとは思わなかった。
これならもしかするかもしれない。
「ね、ねぇ……」
モジモジしながら下を向いて呟くルーナ。
ルーナが下を向くとホントに聞こえにくい。
さっきまでの強気な態度はどこへ行ってしまったのだろう。
「どうした? トイレか?」
「ちがっ……。あのね、私にもフェンリィみたいに……」
「フェンリィがどうかしたのか?」
「えっと、……だから、この前みたいに」
何を伝えたいのだろうか。
こんなにぐずぐずしているルーナは珍しい。
「もう! なんでわかんないの! 頭撫でてよ!!」
顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
言葉にはしていないが「バカ!」とも聞こえてきそうな勢いだ。
「え!? わ、わかった、これでいいのか……?」
ちょうどいい位置にある赤い頭をポンポンと撫でる。
俺は一人っ子だからわからないが妹がいたらこんな感じだろうか。
「うん‥‥‥ありがと」
よくわからないがすごく嬉しそうなのは確かだ。
さっきまで「血祭にする」とか言ってた子には見えない。
女の子らしい可愛い笑顔だ。
「じゃあそろそろフェンリィ拾いに行くか」
「そうね。そうしま──」
ドゴーーーーーン!!!
「なんだ!?」
すぐ近くで爆音が鳴り響いた。
近くというか目の前で起こった。
目の前の大きな建物が破壊され、こちらに倒れてくる。
「任せて」
ルーナがそれに突っ込む。
すると大鎌を振りぬき、真っ二つに切った。
割れた瓦礫が俺の左右に一つずつ落ちて地鳴りがする。
「さんきゅー助かった」
俺が楽観的にそう言う。
だがルーナの顔は真剣そのものだ。
「リクト、先行って。大丈夫、無理はしないから。ヤバくなる前に絶対呼ぶ」
俺はその言葉を聞き、建物の方を見て全てを察した。
「わかった。勝ってこい」
俺は小さな背中を軽く押し、先を急ぐ。
「ルイ兄さま。私、兄さまに話があるんだけど聞いてくれるかしら」
「奇遇だな、僕もだよ。なぜ生きている妹」
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