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2章

34話 戦場に轟く銃声

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<その頃のフェンリィ>


 私、フェンリィはリクト様に町を託されました。
 とっても嬉しいです。
 リクト様の役に立てるように頑張ります。

 私は視覚、聴覚、嗅覚、知能、それから空間認識力を強化して戦うことができます。

 この能力はとっても便利です。
 近くにあるものは触れなくても全部触れているような感じになります。
 遠くにいてもくっきり見えて、よく聞こえます。
 それから臭いだってわかっちゃいます。

 でも一番便利なのは知能が強化されていることです。
 私はポンコツさんなので天才さんに憧れてました。
 この能力を使うと凄いです。もうとりあえず凄いんです。私にはよくわかりませんが色々閃いて凄いです。

 でもずっと能力を発動していると疲れてしまいます。
 そこで天才の私がオンオフを切り替えれるようにしてくれました。
 リクト様に能力をかけられている状態なら出力を自由に調節できてしまいます。
 ちょっとだけ目をよくしたり逆に悪くしたりって感じです。
 どうやってるのかはわかりません。今はポンコツモードの私なので。

 ・
 ・
 ・

 さて、任務に取り掛かりましょうか。仕事の時間です。

 すでに魔王軍が攻めてきていて町は騒ぎになっているようです。
 他の冒険者の方々が食い止めているようですがこのままではまずいですね。
 私も手伝った方がよさそうです。

 どこを手伝いましょうか。力を使ってみましょう。

(((ぎゃおじょいじゃっじゃwpjぴヴp)))

 うるさいですね。一度に大勢の音を拾うとこんな感じに聞こえます。
 こういう時は的を絞ります。

(こわいよー。たすけてー)

 子供が泣いていますね。助けましょう。
 距離は……300mぐらいですか。問題ありません。
 この強化された私の目≪魔真眼マシンガン≫があればバッチリ見えます。

「ミーちゃん、殺しちゃって」

 バン!

(わぁ急に死んだ! すっごーい!)

 討伐成功です。
 私は先ほどからずっとこんな感じで撃ち殺しています。
 100匹ぐらいはさよならしたでしょうか。

 さて、次は。

(ぎゃあああああ! 助けてくれええええ!!!)

 成人男性の方が襲われてますね。
 かなり敵が強そうです。幹部でしょうか。
 ですがこれは無視です。助けません。

 ん? 私なにかおかしいこと言いましたか?

 言ってないですよね。リクト様は”できるだけ”救えとおっしゃっていました。
 なら救う命は選ばせていただきます。
 私はあの人たち嫌いなので。

(くっそ俺たちついてねえ! これも全部フェンリィのせいだ!!)

 ね、助けなくていいんです。
 だって私を散々酷い目に合わせた人達なんですもん。
 元パーティメンバーの皆さんが今朝謝ってきましたね。
 私は表面上は許しましたがもちろん怒ってますよ。

 この状態の私はちょっとだけ本音が出てしまいます。
 普段はちょっぴり我慢してるんです。
 いつもニコニコしてる天使だと思わないでください。
 小悪魔ちゃんなのです。

 少し黒い部分を見せましたがご安心を。
 こんなこと思うのは私や友達に酷いことした人たちだけです。
 リクト様やルーナの前での私は表裏一体です。ありのままで接しています。
 時々愛が暴走してしまいますけどねっ♡

 あの人たちは少しぐらい痛い目にあった方がいいんです。

(痛い! 痛いよおおお!! 助けてくれ! 誰か!)
(ああ死ぬ! 死にたくねえええ!!!)

 このままだと死んでしまいますね。
 どうしましょうか。少し考えさせてください……。

「……はぁ、私も甘いですね。甘える方が好きなのですが」

 バキュン!

(な、なんか知らんが助かったぞ!)
(本当だ! この幹部、俺たちにビビって逃げたんだ!)

 おめでたい人たちですね。
 見捨てればよかったです……できませんね。私ですから。
 いくら知能が上がっても合理的な考えより感情で動いてしまいます。
 人が苦しむところは見たくありません。

 バンバンバン!

 代わりにあの人たちの家の窓ガラスを割っておきました。
 命に比べたら安いですよね?



 さて、少し厄介なことになりました。

『さっきのはアンタ? いい度胸してるわね』

 幹部がこちらに来てしまいました。

「ただのご挨拶ですよ。仲良くしましょう」

──────────
 名称:テレレン
 体力:A
 物攻:A
 物防:A
 魔攻:S
 魔防:S
 魔力:SS
 俊敏:S
 ユニークスキル:?
──────────

 テレレンさんですか。可愛らしい名前ですね。

『今可愛いって思ったでしょ』
「え?」
『隙あり!』

 テレレンさんが氷の弾を飛ばしてきました。
 ですがそんな攻撃、手に取るようにわかるのです。
 私のステータスは全てBランクですがリクト様のおかげで幹部ぐらいなら一人でも倒せます。

 というかさっきも幹部倒しましたね。
 私モテモテです。

『へえ、レヴァトの野郎を殺したのはアンタなんだ』

 さっきから私の思考が読まれています。
 多分能力ですね。
 面倒なのでさっさと殺しましょうか。
 リクト様褒めてくれるかなっ。

「死んでいただきます。最後に言い残すことはありますか?」

 私は銃口を向けます。

『最後? ははっ!』

 なぜか笑われてしまいました。

「あら、おかしくなってしまいましたか?」
『いや、言い残すって、アタシ今まで一度も喋ってないんですけど!』
「ど、どういう意味ですか?」

(最初っからずっと心に話しかけてたのよ。いつからそう錯覚してた?)

「だ、黙りなさい!」

 バン! バン!

(当たんないわよ! どこ狙ってるかまるわかりっ!)

 まずいです。
 おそらく敵の能力は≪精神感応テレパシー≫とかですかね。
 頭の中で声が聞こえます。
 今の私では作戦や動きが全部筒抜けの状態です。
 仕方ありません。あとは任せましょう……。

 ・
 ・
 ・

「あれ! あなた誰ですか! あ、テレレンさんって言うんですね、可愛いです!」

 よくわかりませんが頭のいい私は戦いの最中で能力を解除したみたいです。
 なんででしょうか。わかりません。あんまり記憶残らないんですよね。

(は? 何、アンタ急にバカんなってどうしたのよ)

「バカって失礼じゃないですか! あなた幹部ですよね、許しません! いくよミーちゃん!」

 この人が悪者だということはわかります。
 やっつけちゃいましょう。

「ええっとこの銃どうやって使うんでしたっけ……。あ、これかな? えい!」

 バン!

「わあなんか出た!」
(ふ、どこ撃ってんの──よっ!?)

 なぜか撃った弾は突如軌道を変えて私の方へ帰ってきました。
 テレレンさんは一回避けたと思ったら帰ってきた弾に当たったのです。


帰還獣キカンジュウ


 あ、確かミーちゃんは猛獣を出せるって頭のいい私が言ってた気がします。
 これがそうでしょうか。私も使い方覚えておけば良かったです。

(なかなかやるわね。でもこれからよ。敵を射抜け、≪氷槍グングニル≫)

「やばいです! やばいです! あ、大丈夫だ」

 知能は下がりましたが他の強化された感覚器官のおかげで楽々躱せました。
 結構楽しいです。

(なんで当たらないのよ! てかさっきからあんたずっと何考えてんの? 普通戦闘中に他の男のことばっか考える? 頭湧いてんの!?)

「え、なんでわかるんですか!? 確かにさっきからずっとリクト様とイチャイチャすることばっかり考えてます!」

 まずいです。この人天才さんかもしれません。
 私の頭の中丸裸みたいです。

(もう終わりにしてあげる!)

 たくさん氷を出してきました。
 これでかき氷作ってリクト様と食べたいな。

 じゃなくて、一旦逃げましょう!
 あ、あそこにギルドがあります。隠れてやり過ごす作戦です。

(待てやコラ! あ? どこ行きやがったあのガキ……そこか!)

 私はかくれんぼが得意です。
 どうやら見つけられないみたい……

「ひやあああああ!」

 余裕だと思ってたら攻撃が飛んできました。
 恐ろしい人です。

(あ、あんたマジでさっきから何考えてんの!? 発情してんじゃねえよハレンチ女!)

「し、してませんよ失礼ですね! 私だって節操持ってますよ! あ……」

 バッと立ち上がったら目が合いました。
 見つかっちゃったっ。てへ。

「ミーちゃん! こうなったら撃ちまくって穴開けてやりましょう! えーい!」

 ミーちゃんからたくさん弾が出ました。
 数えきれないぐらいたくさんです。


全弾発射フルオート


 ですが弾は全て防がれました。
 ギルド内にあったタルが穴だらけになってお酒で水浸しです。

(数撃ちゃいいってもんじゃないのよ。あんた、結構やるけど火力が足りないわね。そんな玩具じゃ幹部は殺せないわ)

 テレレンさんは余裕の表情です。

「ミーちゃんは玩具じゃありません! 見せてあげます! えい!」
(…………)
「あれ? えい!」
(…………)
「えい、えい、えーい!!!」
(…………)
「ミーちゃんどうしちゃったんですか! 死んじゃダメです!」

 なんでかわかりませんが一発も出なくなりました。
 故障でしょうか。叩けば治るかな?

(こないならこっちから行くよ! 全てを凍てつかせよ≪大氷冷アイシクル……)

 大変です、大変です。
 なんかヤバそうな攻撃がきそうです。
 どうしましょう…………。

 あ!
 氷には炎が効くはずです!
 私、少しは魔法も使えます!
 初級ですが……。でもきっとやらないよりいいはずです!

「さよならはあなたです! ≪火炎フランマ≫」

 私は火の弾を作ってテレレンさんに飛ばしました。
 とってもちっちゃい弾が飛んでいきます。

(ははは! なぁにこの弾。マッチの方が強いんじゃない?)

 私の弾はテレレンさんの目の前で床に落ちてしまいました。
 やばいです。万事休すってやつかもです。
 ──と思ったのですが、

 ボワッ!

(な、なに!?)

 突然床が燃え始め、勢いよく燃え広がりました。

「あ! さっきのお酒です! きっとこれ、引火ってやつです!」

 ・
 ・
 ・

「ふぅ、どうやら上手くいったみたいですね。テレレンさん、聞こえてますか?」

 再び私は知能を上げました。
 上げたというかこのタイミングで戻ってこれるように調整しておいたのです。
 炎の中のテレレンさんに話しかけます。

(あたし火だけは無理なの! くそ、どうして。あんたは何も考えてなかったはず!)

「そうですよ。確かに私は何も考えていません。頭を使えるのは今の私だけです。ですが今の私では作戦を行動に移すたびにバレてしまいます。そこで何も考えてない普通のフェンリィに頼んだんです」

(は? 意味わかんない)

「私の行動を全て読んだんですよ。ここに隠れることも、弾を全部使いきることも、最後に追い詰められて炎属性の魔法を使うことも」

(そ、そんなのいつから……)

「最初からです。最初あなたに会った時、口の動きと会話がコンマ一秒ほどずれていました。心に話しかけるタイミングで口も動かすというのはいいカモフラージュです。ですが私には効きません。そこから能力を予想し、あなたに気づかれない一瞬の間に全て計算したんです」

(てことは! 驚いて見せたりしたのも全部演技!?)

「名演技でしたよね」

(で、でもアンタ、ここギルドなんでしょ!? 燃やしちゃっていいわけ?)

「できるだけ被害は抑えろと言われているので。私の大っ嫌いなこのギルドを燃やしちゃいます。あ、そろそろさよならですね」

(あつい! あついいいいいい!)

「うふふ、滑稽ですねその喚き声」

『あ、悪魔だ!』

「あ、やっと声出してくれました。最後に言い残すこと、それでいいんですね」

『違う、コイツは魔女だ!!!』

「やぁだテレレンさんったら、魔女じゃないですよ。魔法使い殺しマジシャンキラーです。可愛そうなので楽にしてあげますねっ」

 私は手でピストルの形を作って指先に魔力を集中します。
 それをテレレンさんの方に向け、

「ばーん♡」

 炎の弾を飛ばしました。
 私は急いで外に出ます。
 するとさらに炎が強まり、大爆発を起こしました。


魔紅無々マグナム


 ギルドは全て跡形もなく消し飛びました。
 私はギリギリ巻き込まれていません。
 任務ミッション完了コンプリートです。



◇◆◇◆◇◆



 私は何でも計算できてしまいますが一つだけ解けない問題があります。
 それはですね、

 リクト様が振り向いてくれません!
 どれだけ頭使っても全然ダメなんです!
 こんなに好きなのに!!!

 でもそこが素敵です。
 片思いって苦しいけど幸せですよね。

 リクト様は好きになった相手を嫌いになってしまうみたいです。
 嫌いになったらどうなるかわからないと言っていました。

 じゃあベタベタしちゃダメでしょって思うかもしれませんが心配ありません。
 私を見る目は子猫さんを見る目と同じなのです。
 その目が変わってきたら少し気を付けた方がいいかもしれません。

 今は大丈夫なので気持ちは抑えません。恋してるって素敵ですよね。
 もし嫌いになられてもそれは悪くないかなーなんて、ぐへへ。

 おっといけません。今の私までアホになったら戦えませんね。
 ここは戦場ですから、次の標的を探しましょう。

 あ、あそこにいますね。

「ばきゅんっ」
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