33 / 100
2章
33話 再起動
しおりを挟む
俺とフェンリィはルーナの後を追った。
さっきまでは遠くの空が黒い程度にしか思えなかったが、今ではうじゃうじゃ動いているのが俺の目にもわかる。
おそらくこの町が襲われるまであと数十分もかからない。
他の任務にあたっている冒険者たちも異変を察知しただろうが、指揮官もなく現状も把握できていないため対応が遅れるだろう。
「フェンリィ、頼めるか?」
こちらの戦力が整うまでフェンリィに任せることにした。
多少町にも戦える奴がいるはずだ。
フェンリィがいればあの数相手でも被害は大きく減らせるだろう。
「かしこまりました。ではリクト様、ルーナを頼みますね」
「任せとけ。お前も無理はするなよ」
「心配には及びません。ミンチにします」
「……そうか。はぁ……頼もしいな」
フェンリィの方がステータスが高いため、俺の全力にフェンリィが合わせて走ってくれている状況だ。
俺は少し息を切らしている。
「リクト様に何か異変がありましたらすぐに駆け付けます」
「俺のことは気にするな。不安か?」
「いえ、失礼いたしました。リクト様なら心配ありません」
まあ今の俺を見たら多少心配にもなるか。
最近の戦闘はフェンリィとルーナに頼りっきりになってたし……。
「気にかけてくれてありがとな。フェンリィはできるだけ被害を抑えてくれ。それからできるだけたくさん人を助けろ。可能な範囲でいい」
「できるだけ、ですね。承知しました」
「じゃあ頼む。何かあったら連絡してくれ」
こうして俺はフェンリィと別れ、ルーナの元へ急いだ。
◇◆◇◆◇◆
「ここがルーナの家か。デカいな」
外からもわかるが中に入るとより大きさを実感できた。
だがじっくり観察して遊んでる暇はない。
広いせいなのか人がいないせいなのかわからないが物凄く静かだ。
ルーナはここに向かったはずだがどこにいるのかわからない。
手あたり次第探すしかないか、あいつ小さいしな。
などと考えていると、
ドゴーーーーーン!!!
遠くの一室から爆音が聞こえた。
何かが崩れたか壊れた音だ。
俺は音のした方へ向かう。
すると”王室”と書かれた部屋があった。
中に入り、まず目に浮かんだのは正面にできていた大きな穴。
突き当りの壁が大きくくり抜かれていてそこから外が見える。
さっきの爆音はきっとこれができた時に発生したものだ。
そして次に目に移ったもの。
それは一人の倒れた男。
どうやら足を怪我したようだ。多分まだ息はある。
そいつに近づこうとして歩き始めると何かに躓いた。
「うわっあぶね。なん……だ──」
俺は言葉を失った。
目に映ったのは赤い髪の少女。
その少女は部屋の入口にごてっと転がっていたのだ。
「ルーナ! 大丈夫か、しっかりしろ! おい、聞こえるか!!!」
俺は腕で小さな頭を支え、必死に呼びかけた。
体を揺するが反応が無い。
「ルーナ! 起きてくれ!!」
だがやはり反応はない。
体は冷たく人形のようだ。
「くそ、どうして……」
俺がちゃんと見ていようと思っていたのにこのざまだ。
ルーナはこんなになるまで一人で戦っていたのに俺は何もしてやれなかった。
「ごめん。ごめんルーナ……」
俺はただ謝ることしかできない。
手元にはもうポーションなどない。
回復できるアイテムはここにない。
俺には魔力もない。
そうか──俺は無能なんだ。
思い出した。
俺は普通の人間なんだ。特別なのはこの能力であって俺じゃない。
それなのに俺ならなんとかできると思い上がっていた。
全部思い通りにできると思っていた。
こんなの自分を強いと思い込んでるクズ共と何ら変わらない。
勝手に救った気になってただけだ。
まだ何も救えていない。救えなかった。
もう手遅れなのか?
いや違う。落ち着け。
前もそうだっただろ。まずは冷静に確認だ。
まだ終わったと決まったわけじゃない。
後悔は後だ。
手首に手を当てると脈が動いていた。
呼吸もある、心臓も動いている。
「よかった。まだ生きてる」
だが全く安心はできない。
放っておけばじきに死んでしまう。
今こうしている間にも刻一刻とルーナは弱っている。
俺はそれを眺めることしかできない。
「なにがよかっただ……」
結果は何も変わらない。
数分もたたないうちにルーナは死ぬ。
この戦場の中で治療してくれる人を探している暇はない。
完全に詰みだ。
「くそ!!!」
拳を振り下ろすと手が切れて血が滲んだ。
だが痛みは全く感じない。
ルーナの痛みはもっともっと……。
「ごめん……」
こんなことをしてルーナが戻ってくるわけでもない。
ただ少しでも自分を正当化したいだけの自己満だ。
「……ルーナ」
そっと手に触れると脈が弱くなっていた。
この子は俺のせいで死ぬ。
助けるって約束したのに、この子は俺を信じてくれたのに。
俺はそれを裏切ることになる。
「ごめん。せめてお前が一人にならないように俺も……」
ルーナの額に一粒の雫が落ちた。
俺は現実から逃げるように目を瞑り、ルーナを抱きかかえる。
「……あれ? ここは……」
全てを諦めた瞬間、天使のような声が耳に響いた。
こんなファンタジーなことがあるのだろうか。
俺は祈るように勢いよく顔を上げ、その顔を見る。
その願いは叶っていた。
「ルーナ、俺だ。わかるか?」
俺は目を擦り、少女に呼びかける。
「リ……クト?」
小さな口を動かして確かにそう発音した。
「ああ、そうだ。よかった本当に」
脈も正常に戻り、呼吸も整いつつある。
何が起きたのかはわからない。
わかるのは今現在、この女の子が生きているということ。
この事実だけはひっくり返すことなどできない。
「……あ! そうだ兄さまは!?」
俺の心配をよそにバッと勢いよく体を起こした。
痛そうに顔をしかめたので寝ているように促す。
「落ち着け、そんなに怪我してるんだからまだ休んでろ」
ルーナが確認するように服をめくると斬られた跡があった。
俺はそれを見て疑問を抱く。
同じ人間が付けた傷には見えない。
体に与えられた打撲や痣には躊躇が見られない。
だがこの切り傷は見た目よりずっと浅く、致命傷にはなっていない。
複数の人間にやられたのか?
ルーナがギリギリで避けた?
それはないな。敵は一方的に殴れるほどけた違いに強い。
じゃあ殺すのが目的ではないのか?
でも俺が来なければじきに死んでいたはず。
瞬殺できるのにそうしなかったのはなぜだ……?
いや、そんなのどうだっていいか。
今はルーナが無事だったことを喜ぼう。
ルーナの傷は徐々に癒えてきた。
先程死に向かっていたスピードで回復に向かっている。
「アタシ、またダメだった……」
だいぶ楽になったようだが、心まで弱ってしまったのか吐息のような声を漏らした。
俺は吐き出される言葉を黙って受け止める。
「やっぱりアタシは弱かったみたい……。
何も変えられなかったの。
兄さまはね、アタシのこと嫌いだって、殺したいって、そう言ったの。
私に向かって剣を抜いたんだよ。それでね、私を斬ったの。
痛かったよ。怖かったよ。苦しかったよ。
なんでこんな思いしなくちゃいけないの。
私はただ、兄さまとお話したいだけなの。
手を繋いでほしいだけなの。
抱きしめて欲しいだけなの」
感情ごと全部吐き出すように必死に言葉を紡ぐルーナ。
一度も目をそらさず俺の顔を見て言い終えた。
綺麗な顔は大粒の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
俺もそれを見て、聴いて、目頭が熱くなる。
「ねえリクト、私は、アタシはこれからどうしたらいいの?」
そう言って俺の手を握ってきた。
……ルーナ。俺も痛いよ。苦しいんだ。
こんなに小さな女の子に苦しい思いをさせてしまったこと。
しっかり見ておくと言ったのに痛い思いをさせてしまったこと。
だからごめん。
もう二度とそんな顔はさせない。
「ルーナ。前にも聞いたよな。お前の目的はなんだ? 何をしてほしいんだ?」
俺もルーナの目をじっと見つめ、手を優しく包んで聞き返す。
以前は答えてくれなかった質問の答えだ。
「……ぐすんっ。……私を、助けて」
俺が聞きたかった答え。
ようやく口にして教えてくれた。
「わかった」
ぐしゃぐしゃになってしまった顔を綺麗に整える。
そして小さな体をゆっくりと抱き上げ、そっと地面に足をつかせた。
手を握ってしっかりと支える。
やっぱりとっても小さな手だ。
「ありがと」
目をこすりながら呟いた。
少しずつ声にも光が戻りつつある。
「まだ早いだろ」
「ううんいいの。何回でも言うから」
泣き止んだルーナの顔が覗き込んだ。
泣いた跡はあるがそれはもう過去のものになっている。
「ちゃんと私を救ってくれてありがとね。全部吐き出したら楽になったわ」
「約束したからな」
そう、約束。
守ることができて本当に良かった。
「うん。でもほんとに助かった」
俺の人差し指を握ってそう呟く。
するとうっすら笑みを浮かべて見上げてきた。
「よし、それじゃあ行こうか。全部壊しに」
手を引いて歩き出そうと思い、その動作を行う。
だが俺の手は虚空を掴んだ。
その位置にはルーナの手がなかったのだ。
俺が振り返るのと同時に目の覚めるような音が響く。
バチン!
見るとルーナがほっぺたに二つの大きな赤もみじを作っていた。
自分で自分のほっぺたを叩いたのだ。
涙目になる程思いっきりやったらしい。
「ふぅー。もう大丈夫。これで全部吹っ切れたから心配しないで。私が力づくで兄さまに言うこと聞かせるわ」
真っ赤に腫れた目には闘志が宿っている。
これは強がりでもハッタリでもない。
覚悟が決まった顔だ。
俺の仲間は本当に強いな。
俺は倒れてしまわないように陰ながら支えていよう。
「わかった。無理は……いや、心配ないか。兄妹喧嘩に口出しはできんな」
「大丈夫。死んでも負けないから」
そう言ってルーナは王室にでかでかと飾ってあった大鎌を手に取った。
俺が使うにも少し大きいぐらいでルーナの倍以上はある。
「なんだそれ。よくそんなの持てるな」
「神器らしいわね。そんなことどうだっていいのよ。全部ぶっ壊してやるわ」
「頼もしいな。じゃあ行くか」
町はすでに戦場と化し、魔王軍との大戦が始まっている。
その戦場へ俺たちも舞い降りた。
「あ、そう言えばリクトさっき泣いてたよね?」
「泣いて……誰にも言うなよ」
「ふふっ、フェンリィも見たことないでしょ。やったね」
そう言ってルーナは小悪魔みたいに悪戯っぽく笑った。
俺もその笑顔につられてしまう。
「ほら、集中しろよ」
「わかってる。リクトこそ、私に遅れるんじゃないわよ!」
その小さな背中を負って俺も走り出す。
これが、俺とルーナの再起動。
◇◆◇◆◇◆
名称リクトのユニークスキル覚醒を確認。
───────────
【ユニークスキル】
≪反転≫
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
───────────
≪反転≫の詳細。
”死へ向かっている状態を反転させ、負傷した体を回復させる”
※ただし死者への使用は不可
さっきまでは遠くの空が黒い程度にしか思えなかったが、今ではうじゃうじゃ動いているのが俺の目にもわかる。
おそらくこの町が襲われるまであと数十分もかからない。
他の任務にあたっている冒険者たちも異変を察知しただろうが、指揮官もなく現状も把握できていないため対応が遅れるだろう。
「フェンリィ、頼めるか?」
こちらの戦力が整うまでフェンリィに任せることにした。
多少町にも戦える奴がいるはずだ。
フェンリィがいればあの数相手でも被害は大きく減らせるだろう。
「かしこまりました。ではリクト様、ルーナを頼みますね」
「任せとけ。お前も無理はするなよ」
「心配には及びません。ミンチにします」
「……そうか。はぁ……頼もしいな」
フェンリィの方がステータスが高いため、俺の全力にフェンリィが合わせて走ってくれている状況だ。
俺は少し息を切らしている。
「リクト様に何か異変がありましたらすぐに駆け付けます」
「俺のことは気にするな。不安か?」
「いえ、失礼いたしました。リクト様なら心配ありません」
まあ今の俺を見たら多少心配にもなるか。
最近の戦闘はフェンリィとルーナに頼りっきりになってたし……。
「気にかけてくれてありがとな。フェンリィはできるだけ被害を抑えてくれ。それからできるだけたくさん人を助けろ。可能な範囲でいい」
「できるだけ、ですね。承知しました」
「じゃあ頼む。何かあったら連絡してくれ」
こうして俺はフェンリィと別れ、ルーナの元へ急いだ。
◇◆◇◆◇◆
「ここがルーナの家か。デカいな」
外からもわかるが中に入るとより大きさを実感できた。
だがじっくり観察して遊んでる暇はない。
広いせいなのか人がいないせいなのかわからないが物凄く静かだ。
ルーナはここに向かったはずだがどこにいるのかわからない。
手あたり次第探すしかないか、あいつ小さいしな。
などと考えていると、
ドゴーーーーーン!!!
遠くの一室から爆音が聞こえた。
何かが崩れたか壊れた音だ。
俺は音のした方へ向かう。
すると”王室”と書かれた部屋があった。
中に入り、まず目に浮かんだのは正面にできていた大きな穴。
突き当りの壁が大きくくり抜かれていてそこから外が見える。
さっきの爆音はきっとこれができた時に発生したものだ。
そして次に目に移ったもの。
それは一人の倒れた男。
どうやら足を怪我したようだ。多分まだ息はある。
そいつに近づこうとして歩き始めると何かに躓いた。
「うわっあぶね。なん……だ──」
俺は言葉を失った。
目に映ったのは赤い髪の少女。
その少女は部屋の入口にごてっと転がっていたのだ。
「ルーナ! 大丈夫か、しっかりしろ! おい、聞こえるか!!!」
俺は腕で小さな頭を支え、必死に呼びかけた。
体を揺するが反応が無い。
「ルーナ! 起きてくれ!!」
だがやはり反応はない。
体は冷たく人形のようだ。
「くそ、どうして……」
俺がちゃんと見ていようと思っていたのにこのざまだ。
ルーナはこんなになるまで一人で戦っていたのに俺は何もしてやれなかった。
「ごめん。ごめんルーナ……」
俺はただ謝ることしかできない。
手元にはもうポーションなどない。
回復できるアイテムはここにない。
俺には魔力もない。
そうか──俺は無能なんだ。
思い出した。
俺は普通の人間なんだ。特別なのはこの能力であって俺じゃない。
それなのに俺ならなんとかできると思い上がっていた。
全部思い通りにできると思っていた。
こんなの自分を強いと思い込んでるクズ共と何ら変わらない。
勝手に救った気になってただけだ。
まだ何も救えていない。救えなかった。
もう手遅れなのか?
いや違う。落ち着け。
前もそうだっただろ。まずは冷静に確認だ。
まだ終わったと決まったわけじゃない。
後悔は後だ。
手首に手を当てると脈が動いていた。
呼吸もある、心臓も動いている。
「よかった。まだ生きてる」
だが全く安心はできない。
放っておけばじきに死んでしまう。
今こうしている間にも刻一刻とルーナは弱っている。
俺はそれを眺めることしかできない。
「なにがよかっただ……」
結果は何も変わらない。
数分もたたないうちにルーナは死ぬ。
この戦場の中で治療してくれる人を探している暇はない。
完全に詰みだ。
「くそ!!!」
拳を振り下ろすと手が切れて血が滲んだ。
だが痛みは全く感じない。
ルーナの痛みはもっともっと……。
「ごめん……」
こんなことをしてルーナが戻ってくるわけでもない。
ただ少しでも自分を正当化したいだけの自己満だ。
「……ルーナ」
そっと手に触れると脈が弱くなっていた。
この子は俺のせいで死ぬ。
助けるって約束したのに、この子は俺を信じてくれたのに。
俺はそれを裏切ることになる。
「ごめん。せめてお前が一人にならないように俺も……」
ルーナの額に一粒の雫が落ちた。
俺は現実から逃げるように目を瞑り、ルーナを抱きかかえる。
「……あれ? ここは……」
全てを諦めた瞬間、天使のような声が耳に響いた。
こんなファンタジーなことがあるのだろうか。
俺は祈るように勢いよく顔を上げ、その顔を見る。
その願いは叶っていた。
「ルーナ、俺だ。わかるか?」
俺は目を擦り、少女に呼びかける。
「リ……クト?」
小さな口を動かして確かにそう発音した。
「ああ、そうだ。よかった本当に」
脈も正常に戻り、呼吸も整いつつある。
何が起きたのかはわからない。
わかるのは今現在、この女の子が生きているということ。
この事実だけはひっくり返すことなどできない。
「……あ! そうだ兄さまは!?」
俺の心配をよそにバッと勢いよく体を起こした。
痛そうに顔をしかめたので寝ているように促す。
「落ち着け、そんなに怪我してるんだからまだ休んでろ」
ルーナが確認するように服をめくると斬られた跡があった。
俺はそれを見て疑問を抱く。
同じ人間が付けた傷には見えない。
体に与えられた打撲や痣には躊躇が見られない。
だがこの切り傷は見た目よりずっと浅く、致命傷にはなっていない。
複数の人間にやられたのか?
ルーナがギリギリで避けた?
それはないな。敵は一方的に殴れるほどけた違いに強い。
じゃあ殺すのが目的ではないのか?
でも俺が来なければじきに死んでいたはず。
瞬殺できるのにそうしなかったのはなぜだ……?
いや、そんなのどうだっていいか。
今はルーナが無事だったことを喜ぼう。
ルーナの傷は徐々に癒えてきた。
先程死に向かっていたスピードで回復に向かっている。
「アタシ、またダメだった……」
だいぶ楽になったようだが、心まで弱ってしまったのか吐息のような声を漏らした。
俺は吐き出される言葉を黙って受け止める。
「やっぱりアタシは弱かったみたい……。
何も変えられなかったの。
兄さまはね、アタシのこと嫌いだって、殺したいって、そう言ったの。
私に向かって剣を抜いたんだよ。それでね、私を斬ったの。
痛かったよ。怖かったよ。苦しかったよ。
なんでこんな思いしなくちゃいけないの。
私はただ、兄さまとお話したいだけなの。
手を繋いでほしいだけなの。
抱きしめて欲しいだけなの」
感情ごと全部吐き出すように必死に言葉を紡ぐルーナ。
一度も目をそらさず俺の顔を見て言い終えた。
綺麗な顔は大粒の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
俺もそれを見て、聴いて、目頭が熱くなる。
「ねえリクト、私は、アタシはこれからどうしたらいいの?」
そう言って俺の手を握ってきた。
……ルーナ。俺も痛いよ。苦しいんだ。
こんなに小さな女の子に苦しい思いをさせてしまったこと。
しっかり見ておくと言ったのに痛い思いをさせてしまったこと。
だからごめん。
もう二度とそんな顔はさせない。
「ルーナ。前にも聞いたよな。お前の目的はなんだ? 何をしてほしいんだ?」
俺もルーナの目をじっと見つめ、手を優しく包んで聞き返す。
以前は答えてくれなかった質問の答えだ。
「……ぐすんっ。……私を、助けて」
俺が聞きたかった答え。
ようやく口にして教えてくれた。
「わかった」
ぐしゃぐしゃになってしまった顔を綺麗に整える。
そして小さな体をゆっくりと抱き上げ、そっと地面に足をつかせた。
手を握ってしっかりと支える。
やっぱりとっても小さな手だ。
「ありがと」
目をこすりながら呟いた。
少しずつ声にも光が戻りつつある。
「まだ早いだろ」
「ううんいいの。何回でも言うから」
泣き止んだルーナの顔が覗き込んだ。
泣いた跡はあるがそれはもう過去のものになっている。
「ちゃんと私を救ってくれてありがとね。全部吐き出したら楽になったわ」
「約束したからな」
そう、約束。
守ることができて本当に良かった。
「うん。でもほんとに助かった」
俺の人差し指を握ってそう呟く。
するとうっすら笑みを浮かべて見上げてきた。
「よし、それじゃあ行こうか。全部壊しに」
手を引いて歩き出そうと思い、その動作を行う。
だが俺の手は虚空を掴んだ。
その位置にはルーナの手がなかったのだ。
俺が振り返るのと同時に目の覚めるような音が響く。
バチン!
見るとルーナがほっぺたに二つの大きな赤もみじを作っていた。
自分で自分のほっぺたを叩いたのだ。
涙目になる程思いっきりやったらしい。
「ふぅー。もう大丈夫。これで全部吹っ切れたから心配しないで。私が力づくで兄さまに言うこと聞かせるわ」
真っ赤に腫れた目には闘志が宿っている。
これは強がりでもハッタリでもない。
覚悟が決まった顔だ。
俺の仲間は本当に強いな。
俺は倒れてしまわないように陰ながら支えていよう。
「わかった。無理は……いや、心配ないか。兄妹喧嘩に口出しはできんな」
「大丈夫。死んでも負けないから」
そう言ってルーナは王室にでかでかと飾ってあった大鎌を手に取った。
俺が使うにも少し大きいぐらいでルーナの倍以上はある。
「なんだそれ。よくそんなの持てるな」
「神器らしいわね。そんなことどうだっていいのよ。全部ぶっ壊してやるわ」
「頼もしいな。じゃあ行くか」
町はすでに戦場と化し、魔王軍との大戦が始まっている。
その戦場へ俺たちも舞い降りた。
「あ、そう言えばリクトさっき泣いてたよね?」
「泣いて……誰にも言うなよ」
「ふふっ、フェンリィも見たことないでしょ。やったね」
そう言ってルーナは小悪魔みたいに悪戯っぽく笑った。
俺もその笑顔につられてしまう。
「ほら、集中しろよ」
「わかってる。リクトこそ、私に遅れるんじゃないわよ!」
その小さな背中を負って俺も走り出す。
これが、俺とルーナの再起動。
◇◆◇◆◇◆
名称リクトのユニークスキル覚醒を確認。
───────────
【ユニークスキル】
≪反転≫
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
≪反転≫ NEW!
───────────
≪反転≫の詳細。
”死へ向かっている状態を反転させ、負傷した体を回復させる”
※ただし死者への使用は不可
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる