追放された俺は「無能」だけでパーティ組んで魔王を討伐することにした。

チャコペン

文字の大きさ
上 下
31 / 100
2章

31話 黒空

しおりを挟む
 俺たちは幹部を撃破し、一息ついた。

「二人ともすごいな。俺ほとんどなんにもしてないぞ」

 お世辞でも何でもなく本当に今回俺は大したことをしていない。

 ルーナは残像やケルベロスの攻撃をほとんど一人で凌いでいたし、フェンリィは最初から敵の策略に気づいたうえで完膚なきまでにぶちのめす作戦を考え見事達成してみせた。

 二人とも追放されていた頃と比べるて見違えるほど成長している。
 俺も二人が笑顔を取り戻してくれて嬉しく思う。

「何言ってんのよ。全部アンタのおかげでしょ。アンタの方こそもっと自信持った方がいいんじゃないの?」

「そうですよ! 私とルーナどっちかがいなくても倒せたかもしれません。ですがリクト様がいなかったら絶対倒せませんでした。私たちの力は全部リクト様のものなんです。だからどんと構えててください。最強はリクト様なんですから!」

 軽い雑談程度で言ったつもりだったが思いの外べた褒めされてしまった。
 俺が弱気なことなんて言っちゃダメだな。一番堂々としていよう。

「ありがとな二人とも」

 高さの違う二つの頭を撫でる。
 するとフェンリィはごろごろと猫みたいな声を出した。
 俺はそれを聞き瞬時に手を引っ込める。

「にゃっ、もうやめちゃうんですか?」

 つぶらな瞳で見上げてきた。
 俺はそれを見て顔を背ける。
 するとルーナと目が合った。

「も、もういいわよ恥ずかしい。子供扱いしないでよね」

 顔を真っ赤にして言ったのでこっちも撫でるのをやめる。
 すると、

「あ、ほんとに止めなくてもいいのに……」

 しょんぼりしてしまった。
 俺も癖でやってしまったが不用意に撫でるのはやめておこう。
 気まずくなったので話題を変える。

「まあでもホントに二人とも俺が思ってた以上に実力を発揮してくれてるよ」

 いくら能力を向上させても体がついていかなかったりして上手く使いこなせないはずだ。
 能力の低い子供や老人なんかを≪反転≫させても体を壊してしまうだろう。
 だが二人は完璧に力を使いこなしている。
 俺も結果を残さなければな……。



「そういえばさっき疑問に思ったんだがフェンリィ、お前どれぐらい感覚が鋭くなってるんだ? ホントに呼吸音とか心音まで聞こえちゃうのか?」

「もちろんです! バッチし聞こえてます!」

 親指を立ててウインクして見せた。
 やけにテンション高いなこの子。

「戦闘中は他の音を全部遮断してリクト様の心音と吐息だけ聞いてます。ドクン、ドクンって聞くと、ああ、生きてるんだなって思ったり包まれてるみたいで安心するんです」
「うわっ気持ちわる、さすがに引くわ」

 ルーナはそれを聞いてドン引きした。

「体調管理も妻の務めですから。えへっ」
「二度とそんなことしないでくれ」

 俺も全力で拒否した。
 フェンリィさんモードはやはり怖い。

「てかアンタたちってホントはどういう関係なわけ? もしかしてアタシ邪魔?」
「なわけないだろ。フェンリィがバカ言ってるだけだ」
「ま、そうよね」

 最近モンスターが狂暴化しているがフェンリィも暴走している。
 俺はこの子の方が恐ろしい。

「ちょっと酷いですよ! ホントは私のこと大好きなんですよね?」
「そうなの!?」
「そんなわけないだろ。こいつの言うことは信じるな」

 俺はそんなこと言った記憶全くない。

「ホントです! 夜だって一緒に過ごしたことありますもん! あの日のことは嘘だったんですか!?」
「よ、夜!? 一緒に!? えええええ!?」
「落ち着けルーナ、耳を貸すな」
「こないでケダモノ!」
「え……」

 俺が寄ると三歩距離を取られた。

「そ、それでどうなっちゃったわけ……」

 ルーナは興味津々のご様子だ。
 両手をほっぺたに当てて答えを待っている。

「これ以上乙女の口からは言えません」
「そ、それって! あ、あれとか……。それとか……」
「ルーナはお子ちゃまですからね。まだ知らなくていいですよ」
「気になる、気になる!」

「おいフェンリィそろそろ黙れ」

 俺はフェンリィの首根っこを掴む。

「ちょっと、ガールズトークに入ってくんじゃないわよ」

 だがルーナに止められた。

「それで、それで!」
「しょうがないですね。誰かに言ったら、めっ! ですよ。お姉ちゃんとの約束です」
「うん!」
「お耳を貸してください。……ごにょごにょ」
「えっ!」
「……にょにょにょ」
「ひやっ!」
「それで……」
「わわわわわわわわわわわわ!」
「もうっホントにルーナは可愛いですね。リクト様もそう思いますよね?」

 憎たらしいくらいの笑顔をパッと咲かせるフェンリィ。
 くりくりした目を見て目潰ししてやろうかと思ったがぐっとこらえる。

「そう思うか?」
「あれ、もしかして怒ってます?」
「そう見える?」
「うーんどうでしょう。怒ったお顔も素敵ですよ!」
「そうか、よく見えてないみたいだな。よく見えるようにしてやるから能力発動しろよ。ついでに知力も上げといてやろう」
「え、やった。心音聞き放題ですね。いいんですか?」
「ああ、頑張ったからな」
「じゃあいきますね、≪低知デインテ≫≪弱視デビジュ≫≪弱聴デヒア―≫」

 フェンリィがそう唱えると身体をビクッとさせて表情が変わった。

「あれぇ、ここどこでしゅか~。あ、ちょうちょさんだ! まてー」

 アホになったフェンリィは走り回って遊び始める。
 よし、これで静かになった。放っておこう。
 あとは、

「おいルーナ。戻って来い」

 ルーナはさっきから自分のツインテールをぶんぶん振り回すという奇行に走っている。
 どうしちまったんだ。

「はっ! アタシ何してたんだろ」
「こっちのセリフだ」
「ごめん。それでなんか用?」
「あいつが言ってたことが気になってな」

 そろそろ遊んでる時間も終わりだ。
 あいつというのはさっき倒した幹部のこと。

 死に際にもうこの町は終わりだと言っていた。
 そんな気配は全くないが気にしておいた方がいいかもしれない。
 強いて異常を挙げるなら狂暴化現象が多発していることぐらい。

「そう言えば話してなかったっけ。この町は王族が魔王軍と手組んでるのよ。で、あいつの話ではこの町が攻められるみたいね。本当かしら」
「魔王軍と手を!? 馬鹿かそいつは」
「馬鹿なのよ。でも大丈夫でしょ。今までも町が襲われるなんてことはなかったもん。せいぜいアストレシア家が滅びるぐらいよ。それだったら願ったり叶ったりだわ」

 そうか、アストレシア家の軍事力は莫大だ。
 魔王軍もきっと手を焼いている。
 手を組んだふりをしてその力を奪うのが目的だろう。

「今のルイ兄さまならどんな敵が来ても安心よ。ルイ兄さまだけ生きててくれればアタシはそれでいい。どうせさっきの幹部ぐらいの雑魚しかこな──」
「ん? どうした?」
「あれ、何?」

 ルーナの顔がみるみる青ざめて行った。
 口を開けて指さす方を俺も見る。

「な、なんだあれは」

 遠くの空が真っ黒に染まっていた。
 それがゆっくりとこちらに近づいている。

「フェンリィ!」

 俺はフェンリィを捕まえて≪反転≫を使用。

「あれ見えるか?」
「やだ私ったらまた……申し訳ございません。……あれですね。えーっと。え!? なんですかあれは! モンスターの大群ですよ!!!」
「なんだって!?」

 あれが全部モンスターだって言うのか?
 だとしたら数千はいるぞ。

「やばい……」

 ルーナが呟いた。

「町が襲われる。関係ない子共が、何も知らない善人が、大好きなおばちゃんが危ない!」

 ルーナは町に向かって駆けだした。

「ルーナ! 待て!」

 俺が呼び止めるもその声は届かなかった。

「アタシの家のせいで……。あいつらのせいで……。アタシが助けなきゃ、止めなきゃ!」

 ルーナの≪反転≫は解いていない。
 そのため俺たちでは追いつくことができなかった。
 もうルーナの小さな背中は見えない。

「フェンリィ」
「承知しました。直ちに追いかけましょう」

 俺たちも急いで町へ引き返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...