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2章

30話 最強の仲間たち

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 近くで複数の悲鳴が聞こえた。

「あ、今の声」

 ルーナがその声に反応する。
 もしかしなくてもルーナを置いていった奴らだろう。

「来るぞ、注意しろ」

 おそらくじきに俺たちとも遭遇する。
 そう思って俺は二人に≪反転≫をかけ、戦闘モードに移行した。
 そしてすぐにその時はやってくる。

 バンッ!
 ズバッ!

 俺の視界に敵が映った瞬間、二人は奇襲を仕掛けた。
 ルーナは剣を振るい、フェンリィは発砲する。
 その攻撃は確実に敵に命中した。

 しかし、

『おいおい最近の人間は容赦ねえな。どうすんだよ俺が悪い奴じゃなかったら』

 攻撃を食らったはずなのにピンピンしてやがる。
 息一つ乱さず汚れも一つとして見当たらない。

「そんな殺気放って善人なわけないでしょ」
『お? その赤い髪にその顔、さっき見たぞ。わりい、もしかして身内だったか?』

 やはり殺してきたか……。

「別に他人よ。アタシを殺そうとしたんだから罰が当たったんだわ。魔王軍とも手組んで全部壊そうとしてたんだから死んで当然よ」

 ルーナは顔色、声音一切変えずに言った。
 動揺は全く見られない。

『ホントか? まあいいさ、お前らもすぐに送ってやるよ。≪火炎弾フラムショット≫』

 そう唱えると杖に魔力を集中させた。
 魔力が炎へと形を変えて俺たちに放たれる。

 フェンリィとルーナは強化されたステータスや身体能力により楽々躱す。
 俺は威力と速度を反転させてさばく。

 この敵は嫌な予感がする。すぐに殺そう。

「悪いな、リタイヤするのはお前だ。≪反転≫」

────────────
 名称:レヴァト
 体力:S  →  F
 物攻:A  →  E
 物防:S  →  F
 魔攻:SS →  G
 魔防:S  →  F
 魔力:S  →  F
 俊敏:A  →  E
 ユニークスキル:?
────────────

 俺は愛刀である【森羅万象コスモス】を抜き、頭でイメージする。
 すると刀身に電流が流れ、雷属性が付与された。

 電光石火の攻撃。まさに疾風迅雷。
 雷の如き一閃が敵を貫く。


雷滅貫フルミネイト

 
 刃は敵の心臓を捉えた。
 遅れて雷鳴が轟く。

 そのままこの敵は滅びゆく……
 はずだった──

『『『危なかったぜ。いいもん持ってるな』』』

 不気味な声がいくつも重なってこだました。

「な、なんなのコイツら!?」
「なんですかこの人たちは」

 ルーナとフェンリィは驚きの声を漏らす。
 だが一番驚いたのは俺だ。

「それがお前のユニークスキルか」

 俺たちは20体の同じ敵に取り囲まれた。

『そうだ。楽しませてくれたお礼に教えてやろう。俺のユニークスキルは≪分身インクリース≫。俺と全く同じ残像を作ることができる』

「丁寧に教えてくれるなんて随分余裕だな」

 俺は確かにコイツのステータスを反転させた。
 つまり今、コイツの魔力はほぼないはず。
 なのにこうして大量の分身を編み出したということは、魔力を使用しないユニークスキルを使ったということだ。

『お前もいい能力を持っているな。俺のステータスを下げたのか。だが問題ないな。いくら魔力が減って攻撃力が下がろうとこれだけ大勢で一斉に攻撃すればひとたまりもないだろう』

 そう言って俺たちを囲んだ20体のレヴァトが詠唱を始めた。
 それを見てルーナは、

「させるわけないでしょ!」

 目に見えないほどのスピードで次々と残像を消していく。
 しかし消えたそばからどんどん次が生まれる。
 残像のためダメージは与えられない。だが相手の残像はこちらに攻撃可能。
 意外と厄介な相手だ。

「くっそ、キリがないわ! 本体どいつよ、イライラするわね」
「ルーナ、一回落ち着きなさい」

 やけになったルーナをフェンリィが抑える。

「なによ。てか今更だけどアンタほんとにフェンリィなの? 全然雰囲気違うわね」
「私ですよ? ルーナ、それからリクト様も少し時間を稼いでくれませんか。私がなんとかします」

 フェンリィは消極的なことが多い。
 そのフェンリィが何とかすると言っている。
 なら安心して任せられる。

『おいおい待たせるわけねえだろ。さっきの奴らもお前らもそういうところが──』

「そういうところがぬるいよな。俺も同感だ。お前こそ喋ってる余裕はあるのか?」

 敵をぶった切る。

『はっ! おもしれえ、久しぶりに本気でいくとするか!』

 しかしダメージは無い。
 また新たな残像が生まれる。

『遊びは終わりだ。異界より出でよ闇の猛獣、≪召喚サモン≫!』

 20体のレヴァトが唱えた。
 すると空間がねじ曲がり、中から20体の魔獣が召喚された。

『今の魔力量ならコイツらが限界だな。だが十分だ。さすがにこの数は相手できないだろ!』

────────────
 名称:Jr.ケルベロス(×20)
 体力:C
 物攻:C
 物防:E
 魔攻:D
 魔防:E
 魔力:D
 俊敏:C
────────────

『行け犬ころ共! あの銀髪の女を食い殺せ!』

 ケルベロスが20匹、合計60個の頭がフェンリィを襲う。
 一体ずつは強くないがその分、数で押すという作戦だ。
 普通の敵なら有効かもしれないな。
 だが、

「はぁ、呆れた。アンタ、アタシのこと馬鹿にしすぎでしょ」

 20匹の獣に挑む一人の小さな少女。
 だが、ただの少女と侮ってはいけない。
 その子に手を出せば逆に噛まれる。
 襲われるのは獣の方だ。


紅円べにまる


 ルーナが一瞬消えた。何をしたのかは目視不可。
 だが、彼女の通った軌跡はすぐに結果となって現れた。

 ルーナがカチャリと剣を収める。
 するとフェンリィを中心に真っ赤な血しぶきが円を描いた。

『な、なに!?』
「数いりゃいいってもんじゃないのよ。時間稼ぎありがと」

 一瞬にして60個の頭を持つケルベロスは死滅した。
 残りは幹部のみ。

「フェンリィ、そろそろいいでしょ」
「十分です。始めましょうか」

 そう言ってフェンリィは【可変式弾丸銃バリアブルガン】を構えた。
 この銃の強みは手数の多さにある。
 それは単に弾数が多いというわけではない。
 この銃は状況に応じて姿を変える。

「お二人とも、指示は伝えたとおりです。よろしくお願いします」

 さっき指輪を通して指示が飛んできた。
 この指輪は敵のステータスを見る以外にも通信手段としても使えるのだ。

「オッケー、頼むぞフェンリィ」
「任せてください。行きますよミーちゃん。ミーちゃんも分身しましょうか」

 フェンリィは一つの銃を二つに折り、新たにできた銃を両手に一丁ずつ握った。

 これが【可変式弾丸銃バリアブルガン】の真価。
 状況判断と狙撃センスを兼ね備えたフェンリィのみが使いこなせる武器だ。

「実は私、最近ペットを飼い始めたんですよ。蜂の巣にして差し上げます」

 両手を上にあげて引き金を引く。
 バン! という音と共に放たれた弾は空中で飛散し、無数の雨となって降り注いだ。


蜂蜂弾ビービーダン


 レヴァトの残像がどんどん消えていく。
 本体がわからないならば同時に殺せばいいということ。
 やがて目に見える範囲の敵は全て滅んだ。

「終わりですね。あ、そういえばご注意ください。この豪雨は上からだけでなく、真横からも降りますので」

 誰かに語り掛けるようにフェンリィが言うと、

「ばきゅんっ」

 そう呟いて真後ろにもう一度引き金を引いた。
 それと同時に俺とルーナも自分の周りを大きく一振りする。
 すると肉体を切り裂く感触が確かにあった。

『ぐあっ!』

 そこにいなかったはずのレヴァトが
 俺たちそれぞれの背後にいた三体のレヴァトが一つに戻っていく。

『がはっ、どうしてわかった……』

 血反吐を吐いてうずくまるレヴァト。
 何が起きたか訳がわからないといった表情を浮かべている。
 その悪魔にゆっくりとフェンリィが近づき、上から見下ろす。

「私、あなたみたいな人嫌いなんです。もう力も残ってないみたいなので種明かししてあげますか」

 動けなくなった瀕死の敵に一方的に話しかけた。

「まずあなたのユニークスキルは≪分身インクリース≫だけじゃないですよね。おそらく≪透明化インビジブル≫でしょうか。一体倒したら一体また分身が現れる。名演技でした。透明化なんて考えは浮かびません。倒しても倒しても本体が現れない。するとどうするのか。一斉に消せばいいのです。ですがあなたの狙いはこれなんですよね。確実に倒したと思わせておいて背後からぐさり。いい趣味してますね。そんなことせずにさっさと決着付ければいいものを。だから痛い目見るんですよ。自分が気持ちよく勝ち筋に乗れると周りが見えなくなりますよね。そのおかげであなたを見つけることができました」

 淡々とフェンリィは説明を行う。
 フェンリィの作戦を信じていたが本当に計画通りにいくとは思わなかった。
 俺たちは全ての残像を消したら背後に敵がいるから攻撃しろという指示を受けていたのだ。

『……り、理由になってない。なぜ、透明化を見抜いた!』
「うふふっ、私の領域内では呼吸、心音、何一つ見逃しません」
『は!? な、ならどうして最初から俺をらなかったんだ!』
「決まってます。あなたと同じですよ。その絶望する顔が見たかったからです」

 そう言ってフェンリィはニヤリと笑みを浮かべた。
 仲間の俺ですら背筋が凍るような気分になる。

『……くそ、俺一人倒してももう計画は止まらない。あと数分もすればこの町は終わりだ。おい、そこのガキ。お前の親や兄弟も全員皆殺しだ。ざまあみろ!』

「ざまあみろはあいつらの方よ。ルイ兄さま以外はどうなったって構わない。アタシ今、自分でもびっくりするぐらい落ち着いてるの。ホントにどうでもいいんだわ。全部アタシの知ったことじゃないのよ。でも、リクトとフェンリィに会わせてくれたことぐらいは感謝しないとね。仇ぐらいは取ってあげる」

 ズシュッ。

 ルーナはレヴァトの脳天に剣を突き刺した。

「よし、これで終わりね」

 パンパンと手を払い満足そうな顔を浮かべるルーナ。
 一生過去は忘れられないが一つ乗り越えることができただろう。

「ミーちゃん今日もよく頑張ったね~。えらいえらい!」

 いい子いい子を始める元に戻ったフェンリィ。
 この子は何を考えてるかわからない。

「よくやったな二人とも」

 俺はその二人に手を向ける。
 すると二つの小さな手と合わさり、パチン! パチン! と音を奏でた。
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