上 下
10 / 100
1章

10話 フェンリィの戦い方

しおりを挟む
「夫婦がご起床されたぞ! 早く飯を用意しろ! 宴の準備だ!」

 外に出ると朝っぱらからゲイルの奴が五月蠅かった。

「何事だ?」

 俺は眠い目を擦りながらフェンリィに尋ねる。

「私たちの結婚パーティーですよっ」
「は!? いやいや何言ってるんだよ。いつそんな約束した」
「昨日の夜熱い誓いを交わしたじゃないですか~」

 え、マジで? 俺なんも覚えてないぞ。
 酒は飲んでない……はず。襲ってないよな?

「忘れてくれ。俺は何も知らない」
「もーしょうがないですねぇ。いいですよ、私の中だけにしまっておきますから」

 するとフェンリィはてくてく駆けて行って宴を取りやめさせた。
 良い子なんだけど不思議な子なんだよな。



「えーっとそれで、昨日の話に戻りましょうか。いつ頃からコボルトが暴れだしたんですか?」

 朝食を頂きながら村長に事件の詳細を聞くことにした。

「三か月ほど前からです。この辺は魔物が少なく低級しかいないはずだったのですが突然このような事態に」

 そうか……。
 となるとやはりアイツの仕業か。早く止めないとな。

「もう全て倒したと思うので大丈夫だと思いますよ」
「そうですか! 本当に勇者様には感謝が尽きません」
「いいですよ。これは俺の役目ですから」

 俺の役目。俺が魔王を倒す理由は三つある。

 一つは俺にかけられた呪いを解除すること。

 二つ目はこの突然変異現象だ。こんな芸当が出来るのは魔王と俺ぐらいしかいない。そう、『弱いモンスターを強くする』というのは俺の能力と非常に酷似している。俺が表立って活躍すれば俺が魔王なのではないかと疑いをかけられるかもしれない。そのため俺が陰から勝たせるためのパーティが必要だった。しかし意を決して打ち明けてみるも相手にされず、追放されてしまった。

 そして三つ目は無能と言われ追放された者を救うことだ。最近は理不尽に追放される者が多い。世界に使えない者など存在しないと証明してやるのだ。

「さて、武器の方はどんな調子ですか?」
「もう二、三日でできそうじゃ」

 ドワーフのガム爺という人は相当腕がいいらしい。これは楽しみだ。

「お願いします。じゃあ俺たちは少し出かけてきますね」
「お、さっそくデートですか? お熱いですね~」
「おい、ゲイル。稽古をつけてやろうか?」
「う、いえ滅相もございません。ありがたい申し出ですがオレはやることがりますので」

 なんだ、みっちりしごいてやろうと思ったのに。まあいいか。

「行くぞフェンリィ」
「はい!」



◇◆◇◆◇◆



「うー、やっぱり気味悪いですね」
「大丈夫だよ。俺がついてる」

 俺たちは再び『死の洞窟』を訪れていた。
 この洞窟は迷路のようになっているため適切なルートを辿らないと出口に辿りつくことはできない。俺たちは今、あえて外れたルートを進んでいる。

「フェンリィ。能力を使ってみてくれ」

 ここにはフェンリィのリハビリと、出来ることを確認するという目的で来た。今からそれを実践する。

「はい。≪弱視デビジュ≫ ≪弱聴デヒア―≫ ≪弱嗅デスメル≫ ≪低知デインテ≫ ≪空認エルゥメ≫」

 視力、聴覚、嗅覚を弱め、知能と空間認識力を低下させた。多分この組み合わせはかなり使える。

「きゃははっ! リクトしゃま! あちょぼ、あちょぼ! うわーお星さまだ! まてー!」

 幼稚なフェンリィちゃんになった。

「うるさい。≪反転≫」
「も、申し訳ございません。取り乱しました」

 大人なフェンリィさんになった。

「よし、どうだ?」
「そうですね。リクト様の予想通り、この階層のトラップやモンスターの所在などは全て把握できます」
「そうか。凄いぞフェンリィ」
「お褒め頂き光栄です。では参りましょうか」

 この状態のフェンリィは節操をもって行動してくれるためやりやすい。俺が指示を出す前に行動を起こしてくれる。

 でも少し調子狂うな。家の中で飼ってた猫が外に遊びに行ってしまう感覚だ。いや、いいんだけどね。

「そこ気をつけてください」

 進んでいくと俺の服を引っ張り制止させた。

「お、ホントだ。気づかなかった」

 俺はこういうトラップなどには対応できない。ちなみに元パーティではルキシアが担当していた。

 その後もあらゆるトラップを掻い潜りながら奥へと進む。
 索敵能力は完璧だな。頭も切れるし作戦なんかも考えてくれるだろう。あとは戦闘だけか。

「だ……れだ。立ち去……れ」

 突如、不気味な声が聞こえてきた。

「ひいっ! ご、ごめんなさい。許してください。私が悪かったです。食べないでください。美味しくないですぅぅぅぅ!」

 その声を聞くなり、フェンリィは頭を抱えてその場にうずくまってしまった。猫みたいに丸まっている。

「落ち着けフェンリィ、大丈夫だ」
「むむむむ無理です。お化けさん怖いです。泣いてしまいます」
「お化けじゃない。ゾンビだ」
「一緒ですよ! よく見ると変なのたくさんついてるし、悲鳴もたくさん聞こえてきます。あーもうやだ何も見たくないです。聞きたくないです。ぎゃーーーリクト様助けてくださいいいいいいいい!」
「おま、能力解いちゃダメだって。ほら、もう一回発動して」

 俺はあくまで能力の効果を≪反転≫させているだけ。フェンリィが自分で解除すればいつものフェンリィに戻ってしまうのだ。

「り、リクト様は私の放尿シーンを見たいんですか! 泣きながら赤面する姿を見たいんですか! 変態さんですね!」
「あ? 何言ってんだよ、これは練習だって」
「わーリクト様がいじめてくるー! 私のこと嫌いになっちゃったんだー!! あ、でもそれって私のこと好きって事? でも今は喜べないいいいい!」

 さっきからなに言ってんだこの子は。
 俺能力のこと喋ったか?

「一回落ち着けって」
「はひっ」

 俺は暴れるフェンリィを捕まえると、顔を両側から抑えるようにして俺しか見えないように拘束した。

「落ち着いたか?」
「いいえ、ドキドキします」
「…………。いいか、お前には指一本触れさせない。すぐそばには俺がついてる。だから恐れるな」
「わかりました。やってみます」
「よし、頑張れ」

 俺はポンポンと頭を撫でて拘束を解いた。

「≪低知デインテ≫ ≪弱視デビジュ≫ ≪弱聴デヒア―≫ ≪弱嗅デスメル≫ ≪空認エルゥメ≫」
「≪反転≫」

「大変ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。もう慣れっこだ」
「行って参ります」

 フェンリィは敵のゾンビ目掛けて正面から突っ込んでいった。

──────────
 名称:ゲイザーゾンビ
 体力:C
 物攻:S
 物防:B
 魔攻:A
 魔防:S
 魔力:A
 俊敏:A
──────────

 ゾンビが100体集まって一つになったのがゲイザーゾンビだ。俺が≪反転≫をかければすぐに倒せるだろう。だが俺はそれをしない。

「し、…………しし死ね」

 ゲイザーゾンビが10体のゾンビに分裂すると一斉にフェンリィへ襲い掛かった。それぞれが意思をもってフェンリィへ迫っている。

「ゾンビィのくせに速いですね。ですが私には当たりませんよ!」

 四方八方から掴みに来る攻撃を危なげなく躱すフェンリィ。聴覚と空間認識力を強化したからこそできる芸当だ。これなら格上にも難なく対応できる。

 通常のステータスを低下させてから≪反転≫で強化するという方法もあるが採用していない。ステータスに関するデバフはランクを二つ下げる程度らしい。例えばBランクならDランクに下げるという感じだ。Dランクを≪反転≫させてもBランクになるだけ。フェンリィは元から全てBランクなのでやる意味がない。

 火力不足ではあるが問題ない。現段階で、俺はフェンリィに危険な前衛をやらせるつもりはないからだ。今は戦闘中にも冷静な分析ができるか、敵の攻撃をしっかり避けられるか、敵を前にしても恐れないか、というところを見ている。

「こ、ここ…………殺す」
「あら、あなただけ動きが変ですね。本体でしょうか」

 襲い掛かるゾンビを踏み台にして宙を舞った。
 銀色の髪が魔石の明かりに照らされて幻想的に見える。その姿はまさに可憐で思わず見惚れるほどだった。

「ゾンビは頭が弱点だと聞きました。それから火も効くそうですね」

 弓を構えると矢の先端に触れ、指先に魔力を集中させた。

「私も初級魔術ぐらいは使えるんですよ。≪点火イグニッション≫」

 ブワッ!

 炎の弓矢が完成。
 流れるような動作で照準を定め、敵をロックオン。

「さようなら」

 プシュンッ!

「……りが……と」

 炎を纏った矢が標的の頭を貫くと他の分裂したゾンビも消えてなくなった。
 動体視力。状況分析。これがフェンリィの戦い方だ。俺の求めていたピースでもある。

「わあああ、リクト様! 受け止めてください!」

 上からフェンリィが降ってきた。俺はお姫様抱っこで優しくキャッチ。
 また勝手に能力解きやがったな。

「私一人でやっつけちゃいましたよ! ご褒美ください!」
「ご褒美? あーよくやったよ、えらいえらい。それから抱き着くなって」
「ち、が、い、ま、す♡」
「ん?」

 唇に人差し指を当ててウインクしてきた。

「調子に乗るな。落とすぞ」
「やだやだ、ごめんなさい!」

 今朝からなんだかアピールが増えた。
 気をつけなければ。

「まあとにかくだ。よく頑張ったな、フェンリィ」

 俺はそっとフェンリィを降ろすと手のひらを向ける。

「はい!」

 小さな白い手と重なり、パチンと音を奏でた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

追放勇者ガイウス

兜坂嵐
ファンタジー
「クズだから」 あまりに端的な理由で追放された勇者。 その勇者の旅路の果ては…?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...