追放された俺は「無能」だけでパーティ組んで魔王を討伐することにした。

チャコペン

文字の大きさ
上 下
8 / 100
1章

8話 討伐と報酬

しおりを挟む
「リクト様、私に能力をかけてください! あとは……そこのあなた、それ貰いますね!」

 フェンリィは俺に能力の使用を命じると近くの男が持っていた弓を奪い取った。そこで俺はこの子が今から何をしようとしているのか把握。

「オッケー。わかったよフェンリィ」
「さすがリクト様。私の考えてることはお見通しですねっ」
「くっついてる暇はないだろ。急ごう」
「あ、そうでした。≪低知デインテ≫。≪弱視デビジュ≫」

 フェンリィは自分にデバフをかけた。
 ≪低知デインテ≫とは知能が低下する能力。
 ≪弱視デビジュ≫とは視力が低下する能力。

「あわわわ。クラクラします~。あ! リクトしゃまがいっぱいいる~!」

 簡単に言うとアホになって目が悪くなる能力だ。
 遊んでいるわけではない。これでここからでもコボルトを沈められる。

「≪反転≫」

 俺はフェンリィに能力をかけることにより、知能と視力を大幅に高めた。

「すみませんでしたリクト様。参ります」
「ああ、頼む」

 フェンリィの表情が凛としたものに変わった。
 落ち着いた表情で丁寧に弓を構えている。
 思わず見惚れてしまうほど美しい。


「フェンリィ?」

 自信満々に弓を構えたのだがなかなか射ろうとしない。
 手が震えて狙いが定まらないのだ。

「申し訳ございません。ルートは見えるのですが……」

 モンスターの強さ、遠さは関係ないようだ。自分が『モンスターと戦う』という意識が逆に『襲われるかもしれない』という恐怖に変わるのだろう。

「怖くないよ。大丈夫、一緒にやろう」
「ありがとうございます」

 俺はフェンリィの背中に体を密着させ、そっと手を添える。
 すると震えは止まり、標準を定め始めた。


「もう少し上です」

「ここ?」

「完璧です」

「じゃあ、離すよ」

「はい、いきます」


 プシューン!

 俺たちが同時に矢を放つと、物凄い勢いでコボルトとは全く別の方へ軌道を描いた。
 それを見た男たちはもうお終いだと顔に手を当てる。
 コボルトは短剣を振り上げ、女の子は死を覚悟して目を背ける。

 この場にいる全員が絶望を感じた瞬間。
 俺たちだけは、ただ真っ直ぐ標的を見ていた。

「間に合ったな」

 突如、空の彼方に放った矢が軌道を変える。
 突風が吹いたのだ。
 矢先がコボルトへ向くと風に乗って一直線に飛んでいき、100メートル先にあるその脳天を貫いた。ミッションコンプリート。

「やった! やりましたよリクト様! 私がやったんです!」

 すっかりいつもの調子に戻ったフェンリィが大喜びでぴょんぴょん跳ねる。
 その声で男たちも女の子が助かり、コボルトが死んだことを知った。

「うおおおおおお!!! すげえええええ!!!!」
「やるな嬢ちゃん! いや、女神様! ボロ雑巾着たドブ女とか言って本当にすみませんでした!」
「オイラを踏んでください!」

 男たちはフェンリィを褒めまくった。
 ドブ女までは言ってなかったと思うし変な奴が混じってるがまあいいか。
 確かにフェンリィは一つの命を救って見せたのだ。
 俺にできなかったことをやってみせた、本当に凄い子だ。

「リクト様!」
「よくやったね、フェンリィ。ありがとう」
「いえいえ、リクト様の力ですよ! 私がこの方法を使えたのも、モンスターを怖がらずに済んだのも、全部全部リクト様のおかげです!」

 そう言ってフェンリィは擦り寄ってきた。本当に嬉しそうな顔をしている。
 この子はこう言うが、俺は手を貸しただけだ。100メートル先の獲物に風や空気抵抗などを全て計算して当てるなんて誰にも真似できない。フェンリィにしかできないことだ。

「フェンリィ。君は凄いんだからもっと自分も褒めてあげなよ。俺の言葉は信用できないか?」

 自分に自信がないだけでフェンリィは強い子だ。それは戦闘においてだけではない。最後まで諦めなかったのはフェンリィだけだし、洞窟で会った時だってたった一人で助けを待っていたんだ。きっかけさえあればもっと強くなれる。

「は、はぃ……。でも……リクト様がもっと褒めてくれませんか?」

 顔を真っ赤にしてボソボソと呟いた。
 俺は銀髪の頭にポンと手を置き、優しく撫でる。

「これからもよろしくな。俺を手伝ってくれ」
「はい!」

 今までで一番の笑顔。本当に笑顔がよく似合う子だ。この子がいつまでも笑っていられるように、俺も頑張ろう。



◇◆◇◆◇◆



 村に戻るとお祭り騒ぎでもてなされた。

「おねえちゃんありがとう!」
「どういたしまして。怪我しなくてよかったです」

 フェンリィは助けた女の子にお礼を言われていた。

「勇者様、女神様。お食事の準備が出来ました!」

 俺たちを最初に邪魔呼ばわりして手の平返しした男──名をゲイルという。ゲイルが料理を運んできてくれた。コイツは意外といい奴だ。きっと気が立っていただけだな。

「ありがとな」

 敬語で喋らないでくれと言われたので遠慮なくそうさせてもらった。

「リクト様。あーんっ」
「い、いや自分で食べれるから」
「むぅ。私のご飯が食べられないんですか!?」

 何言ってんのこの子。まあうるさいから従っておこうか。
 パクッ。うん、なかなか美味しい。思えば昨日の夜から何も食べてなかったな。余計美味く感じる。

「おねえちゃんたちラブラブ!」
「ひゅーさすが勇者様。よっ! 色男!」

 うるせえ外野だな。

「やだ夫婦だなんて恥ずかしいです。ね、旦那様っ」
「いや、夫婦なんて言ってないし違うでしょ」

 こうなるからあんまりフェンリィを乗らせないでくれ。
 悪い気はしないけど……ね。

「勇者様、何かお望みのものはございますか? 何でもご用意いたしますぞ」
「ん? ああ、村長さん。別にそんなの良いですよ」
「いえいえ遠慮なさらず」

 報酬か。特に欲しいものは無いが何か貰っておかないと悪い気もするな。

「あ、じゃあ武器を何かください。俺ずっとこの棒切れ一本で来たんですけどそろそろ折れそうなので」

 俺の愛刀ともそろそろおさらばだ。
 お前はよく頑張ってくれたよ。

「そ、そんなものでいいのですか!? わかりました。とびきりのものをご用意いたします。おーい! ガム爺はいるか?」

 村長が叫ぶと背の小さいお爺さんがやってきた。ドワーフのように見える。そういえばこの村は人だけじゃなくてドワーフや耳の生えた種族もちょくちょくいるな。

「呼んだかの?」
「勇者様たちに武器を作ってやってくれ」
「そりゃ腕が鳴るわい! と言いたいところじゃが勇者様に見合う素材が無いのう」
「よし皆の者! すぐに最高級の鉱石を採ってくるのだ!」

 待て待て。そんな大事にする必要はないぞ。なんなら錆びれた剣でも十分だ。でもそんな雰囲気でもないな……。あ、

「これ使ってもらえますか?」

 俺は洞窟で採ってきた魔石を取り出した。

「こ、これは死の洞窟でとれる藍宝玉じゃないですか! ま、まさかその棒切れ一本で……?」
「ん、一応そうなります」
「あそこには幹部がいるとお聞きしましたが?」
「倒しました」
「……………………」

 沈黙が流れた。どうやら人は本気で驚くと何も言えなくなるらしい。あんまり騒ぎになられても困るからちょうどいいな。俺は早く寝たい。

「じゃあ俺は寝るんで宿貸してもらってもいいですか? 武器はそんなに急ぎじゃないんでゆっくり作ってください」

 俺はそう言って宿へ向かうことにした。
 宿に入るとようやく時が動き出したのか、大声が聞こえてきた。


 俺は村を救い、仲間が一人増えて寝床を確保した。おまけに武器も新調できる予定。追放ライフは順調だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...