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1章

8話 討伐と報酬

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「リクト様、私に能力をかけてください! あとは……そこのあなた、それ貰いますね!」

 フェンリィは俺に能力の使用を命じると近くの男が持っていた弓を奪い取った。そこで俺はこの子が今から何をしようとしているのか把握。

「オッケー。わかったよフェンリィ」
「さすがリクト様。私の考えてることはお見通しですねっ」
「くっついてる暇はないだろ。急ごう」
「あ、そうでした。≪低知デインテ≫。≪弱視デビジュ≫」

 フェンリィは自分にデバフをかけた。
 ≪低知デインテ≫とは知能が低下する能力。
 ≪弱視デビジュ≫とは視力が低下する能力。

「あわわわ。クラクラします~。あ! リクトしゃまがいっぱいいる~!」

 簡単に言うとアホになって目が悪くなる能力だ。
 遊んでいるわけではない。これでここからでもコボルトを沈められる。

「≪反転≫」

 俺はフェンリィに能力をかけることにより、知能と視力を大幅に高めた。

「すみませんでしたリクト様。参ります」
「ああ、頼む」

 フェンリィの表情が凛としたものに変わった。
 落ち着いた表情で丁寧に弓を構えている。
 思わず見惚れてしまうほど美しい。


「フェンリィ?」

 自信満々に弓を構えたのだがなかなか射ろうとしない。
 手が震えて狙いが定まらないのだ。

「申し訳ございません。ルートは見えるのですが……」

 モンスターの強さ、遠さは関係ないようだ。自分が『モンスターと戦う』という意識が逆に『襲われるかもしれない』という恐怖に変わるのだろう。

「怖くないよ。大丈夫、一緒にやろう」
「ありがとうございます」

 俺はフェンリィの背中に体を密着させ、そっと手を添える。
 すると震えは止まり、標準を定め始めた。


「もう少し上です」

「ここ?」

「完璧です」

「じゃあ、離すよ」

「はい、いきます」


 プシューン!

 俺たちが同時に矢を放つと、物凄い勢いでコボルトとは全く別の方へ軌道を描いた。
 それを見た男たちはもうお終いだと顔に手を当てる。
 コボルトは短剣を振り上げ、女の子は死を覚悟して目を背ける。

 この場にいる全員が絶望を感じた瞬間。
 俺たちだけは、ただ真っ直ぐ標的を見ていた。

「間に合ったな」

 突如、空の彼方に放った矢が軌道を変える。
 突風が吹いたのだ。
 矢先がコボルトへ向くと風に乗って一直線に飛んでいき、100メートル先にあるその脳天を貫いた。ミッションコンプリート。

「やった! やりましたよリクト様! 私がやったんです!」

 すっかりいつもの調子に戻ったフェンリィが大喜びでぴょんぴょん跳ねる。
 その声で男たちも女の子が助かり、コボルトが死んだことを知った。

「うおおおおおお!!! すげえええええ!!!!」
「やるな嬢ちゃん! いや、女神様! ボロ雑巾着たドブ女とか言って本当にすみませんでした!」
「オイラを踏んでください!」

 男たちはフェンリィを褒めまくった。
 ドブ女までは言ってなかったと思うし変な奴が混じってるがまあいいか。
 確かにフェンリィは一つの命を救って見せたのだ。
 俺にできなかったことをやってみせた、本当に凄い子だ。

「リクト様!」
「よくやったね、フェンリィ。ありがとう」
「いえいえ、リクト様の力ですよ! 私がこの方法を使えたのも、モンスターを怖がらずに済んだのも、全部全部リクト様のおかげです!」

 そう言ってフェンリィは擦り寄ってきた。本当に嬉しそうな顔をしている。
 この子はこう言うが、俺は手を貸しただけだ。100メートル先の獲物に風や空気抵抗などを全て計算して当てるなんて誰にも真似できない。フェンリィにしかできないことだ。

「フェンリィ。君は凄いんだからもっと自分も褒めてあげなよ。俺の言葉は信用できないか?」

 自分に自信がないだけでフェンリィは強い子だ。それは戦闘においてだけではない。最後まで諦めなかったのはフェンリィだけだし、洞窟で会った時だってたった一人で助けを待っていたんだ。きっかけさえあればもっと強くなれる。

「は、はぃ……。でも……リクト様がもっと褒めてくれませんか?」

 顔を真っ赤にしてボソボソと呟いた。
 俺は銀髪の頭にポンと手を置き、優しく撫でる。

「これからもよろしくな。俺を手伝ってくれ」
「はい!」

 今までで一番の笑顔。本当に笑顔がよく似合う子だ。この子がいつまでも笑っていられるように、俺も頑張ろう。



◇◆◇◆◇◆



 村に戻るとお祭り騒ぎでもてなされた。

「おねえちゃんありがとう!」
「どういたしまして。怪我しなくてよかったです」

 フェンリィは助けた女の子にお礼を言われていた。

「勇者様、女神様。お食事の準備が出来ました!」

 俺たちを最初に邪魔呼ばわりして手の平返しした男──名をゲイルという。ゲイルが料理を運んできてくれた。コイツは意外といい奴だ。きっと気が立っていただけだな。

「ありがとな」

 敬語で喋らないでくれと言われたので遠慮なくそうさせてもらった。

「リクト様。あーんっ」
「い、いや自分で食べれるから」
「むぅ。私のご飯が食べられないんですか!?」

 何言ってんのこの子。まあうるさいから従っておこうか。
 パクッ。うん、なかなか美味しい。思えば昨日の夜から何も食べてなかったな。余計美味く感じる。

「おねえちゃんたちラブラブ!」
「ひゅーさすが勇者様。よっ! 色男!」

 うるせえ外野だな。

「やだ夫婦だなんて恥ずかしいです。ね、旦那様っ」
「いや、夫婦なんて言ってないし違うでしょ」

 こうなるからあんまりフェンリィを乗らせないでくれ。
 悪い気はしないけど……ね。

「勇者様、何かお望みのものはございますか? 何でもご用意いたしますぞ」
「ん? ああ、村長さん。別にそんなの良いですよ」
「いえいえ遠慮なさらず」

 報酬か。特に欲しいものは無いが何か貰っておかないと悪い気もするな。

「あ、じゃあ武器を何かください。俺ずっとこの棒切れ一本で来たんですけどそろそろ折れそうなので」

 俺の愛刀ともそろそろおさらばだ。
 お前はよく頑張ってくれたよ。

「そ、そんなものでいいのですか!? わかりました。とびきりのものをご用意いたします。おーい! ガム爺はいるか?」

 村長が叫ぶと背の小さいお爺さんがやってきた。ドワーフのように見える。そういえばこの村は人だけじゃなくてドワーフや耳の生えた種族もちょくちょくいるな。

「呼んだかの?」
「勇者様たちに武器を作ってやってくれ」
「そりゃ腕が鳴るわい! と言いたいところじゃが勇者様に見合う素材が無いのう」
「よし皆の者! すぐに最高級の鉱石を採ってくるのだ!」

 待て待て。そんな大事にする必要はないぞ。なんなら錆びれた剣でも十分だ。でもそんな雰囲気でもないな……。あ、

「これ使ってもらえますか?」

 俺は洞窟で採ってきた魔石を取り出した。

「こ、これは死の洞窟でとれる藍宝玉じゃないですか! ま、まさかその棒切れ一本で……?」
「ん、一応そうなります」
「あそこには幹部がいるとお聞きしましたが?」
「倒しました」
「……………………」

 沈黙が流れた。どうやら人は本気で驚くと何も言えなくなるらしい。あんまり騒ぎになられても困るからちょうどいいな。俺は早く寝たい。

「じゃあ俺は寝るんで宿貸してもらってもいいですか? 武器はそんなに急ぎじゃないんでゆっくり作ってください」

 俺はそう言って宿へ向かうことにした。
 宿に入るとようやく時が動き出したのか、大声が聞こえてきた。


 俺は村を救い、仲間が一人増えて寝床を確保した。おまけに武器も新調できる予定。追放ライフは順調だ。
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