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1章
5話 追放された少女 1人目
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「私は恥ずかしながらパーティを追放されてしまったんですよね」
フェンリィは自分がここにいる理由を語り始めた。
俺が渡したローブをぎゅっと握る手はかたかたと震えていて、良い記憶で無いことは容易に想像がついた。
「フェンリィもか。奇遇だな、実は俺も昨日追放されたばかりなんだよ」
だから俺も出来るだけ離しやすい雰囲気を作ることにする。
効果は覿面だった。
「ふええええ!? リクト様を追放するなんてそんな大バカ者がいるんですか!? だ、だってあの魔王軍幹部の中でも最恐といわれているベルージャを触れずに倒しちゃったじゃないですか! こんなにお強い方は初めて見ましたよ!? 私はあのお姿を見て完全に惚れこんでしまいました! ……きゃっ! ヤダ私ったら、言っちゃったっ!」
なんだか盛り上がってるが放っておこう。
てかアイツ最恐なんて言われてたのか。確かに恐ろしい奴ではあったけど全然強くはなかったな。
「すーはー。ごめんなさい、話を続けますね」
フェンリィは一度深呼吸して心を落ち着かせた。
「私の元いたパーティはAランクのパーティだったんですよ」
Aランクまで行くのもなかなか難しい。言っちゃなんだがよくそんなパーティに入れてもらえてたな。
「Aランクに上がったということで力試しにこの死の洞窟へ挑戦したんです」
どっかで聞いた話だ。
「最初はなんとかなってたんです。ですがあのベルージャに見つかってしまいまして、私を見るなり襲い掛かってきたんです。それでパーティのみなさんは私を置いていく代わりに俺たちを見過ごせと言って強制的に追放されたんです」
フェンリィは目の端に薄っすら涙を浮かべてそう語った。思い出すのも辛いような酷い仕打ちを受けたのだろう。
「私、あのヘビに体中舐めまわされて……締め付けられて……ぐすっ……うっ、うぇえええええん!」
「もうわかったよ。ごめんね思い出させちゃって、よしよし」
俺はフェンリィの頭を優しく撫でて、ついでに涙も拭った。
「ずびまぜん。リクト様だけですこんなにやさしくしてくれるのは」
「いいって、これぐらい普通だよ」
しばらくフェンリィの鳴き声が響いた。
「なんでAランクパーティにいたのかって話してませんでしたね」
フェンリィは涙を枯らしてから再び口を開いた。目を擦ったせいで赤く腫れている。
「私にはある呪いがかかってるんです」
「呪い?」
「はい。それはもう強力な呪いです。私はあらゆるデバフスキルが使用可能なユニークスキル、≪能力低下≫ を持っています」
「凄いじゃないか! そんな人いないよ」
俺は誇張でも何でもなく素直に褒めた。
「いえ、全然凄くないんです。この能力は自分にしか発動できません。つまりあらゆるデバフを自分にかけるだけなのです」
なるほど。自分に能力をかけた結果、ステータスが全部最低値になったということか。
「なら解けばいいんじゃないの?」
できるならそうしているだろう。
わかっていて一応聞いてみた。
「私の所持しているスキルの一つに ≪無効≫ というものがあります。これは一度だけ使用可能な奥義のようなもので、自分のステータスを全てGランクにする代わりにあらゆる魔法を跳ね返すという効果があります。ですが一度使用したら解除することが出来ません」
俺でも攻撃の威力を弱めることはできるが跳ね返すことはできない。相当強力な能力だ。だがその代わりにこんな対価を支払わなければならないのか……。
そんな状態のフェンリィがAランクパーティに存続していた理由。なんとなく予想が出来てしまった。まったく酷いことをする奴がいるものだ。おそらくフェンリィは──
「私は戦闘では役に立たないのですが魔法を跳ね返すという役割がありました。本当に荷物のような、道具の扱いでした」
やはりか。
笑って話しているが死ぬほど危険な目に合わせられていただろう。
「私たちのパーティは『魔法使い殺し』と呼ばれていました。魔法攻撃を得意とするモンスターを狩りまくっていたのです。戦術はシンプルで、まずモンスターと出会ったら私を投げます。モンスターは私に攻撃してくるのですが攻撃を跳ね返します。討伐完了です!」
にっと笑って見せるフェンリィ。
簡単に言うが、上手くいく事の方が少ないはずだ。
「頭のいいモンスターは魔法が効かないとわかると普通に殴ってきます。私は死ぬ気で逃げ回ります。何度も泣いて……、その……し、失禁したこともあります」
そこに笑顔は無かった。
「誰だそいつらは! 俺がぶん殴ってやる」
怒りが込み上げてきた。
女の子にそんな危険なことをさせるなんて許せない。
「いいんです。怒ってくれてありがとうございます。でも私はお金を稼ぐ方法もなくて、これしかできなかったので仕方ありません。私が望んでやってたことです……」
声も体も震わせる少女。
たった一人で、ずっと苦しんでいたのだろう。
「フェンリィ。俺と一緒に来てくれないか?」
俺はそう言って、折れそうなくらい細くて柔らかい手を包む。
「え……? でも私、本当に役立たずですよ。魔法跳ね返すしか取り柄のない、せいぜい囮に使うぐらいのダメ女で本当に無能なんです」
「そんなこと言うな。フェンリィは役立たずでも道具でも荷物でもダメ女でもない。もちろん無能なんかじゃない」
俺はガッと肩を掴んで綺麗な瞳を見つめる。
そして、
「それに、呪われてもいない」
「え?」
「俺が救ってみせる」
「救うって、いったいどういう? ……無理ですよ。いくらリヒト様でもこの能力は解けません。私も借金してまで除霊の方や解呪をされる方に頼みましたが効果はありませんでした」
俺も正直やれる自信も根拠もない。だが試す価値はある。俺の能力がフェンリィの≪無効≫を上回っていれば可能なはずだ。あるいは……。
「どこかに呪印とかある?」
シンプルな能力にはないが、ここまで強力な呪いなら体のどこかにあるはずだ。
「えっと、多分これです」
フェンリィは服を上げてお腹を出した。おへそのところに痣のような呪印が刻まれている。
「じゃあ、ちょっと失礼するね」
俺はその部位に手で触れる。
「ひゃっ!」
フェンリィが変な声を出した。
いかん。変なことは考えるな。邪念が入ると失敗するかもしれないぞ。
「もしかしたらちょっと痛いかも」
「はぃ。我慢、します。でも優しくしてください」
俺は首を振り、雑念を飛ばす。
そして一度深呼吸。
よし。
「≪反転≫」
そう唱え、パチンと指を弾く。
「んっ!」
フェンリィが声を漏らすと同時に、呪印は綺麗さっぱり無くなった。
──────────
名前:フェンリィ
体力:B
物攻:B
物防:B
魔攻:B
魔防:B
魔力:B
俊敏:B
──────────
なんだ、俺より優秀じゃないか。
「成功だフェンリィ。もうだいじょ──うわっ!?」
「ありがとうございます! ありがとうございますリクト様! 世界が輝いて見えます!」
フェンリィは俺に抱き着くと何度も何度も感謝を述べた。なんだか俺まで嬉しくなってくるほど喜びを爆発させている。
俺は≪反転≫により、解除できないという制限をひっくり返したのだ。俺の能力の方が強かったのか、あるいは俺の魔力がゼロで、この能力が魔法によるものではないから効いたのかもしれない。
何はともあれ、フェンリィを救えて良かった。
俺は初めて魔力ゼロでよかったと思った。
フェンリィは自分がここにいる理由を語り始めた。
俺が渡したローブをぎゅっと握る手はかたかたと震えていて、良い記憶で無いことは容易に想像がついた。
「フェンリィもか。奇遇だな、実は俺も昨日追放されたばかりなんだよ」
だから俺も出来るだけ離しやすい雰囲気を作ることにする。
効果は覿面だった。
「ふええええ!? リクト様を追放するなんてそんな大バカ者がいるんですか!? だ、だってあの魔王軍幹部の中でも最恐といわれているベルージャを触れずに倒しちゃったじゃないですか! こんなにお強い方は初めて見ましたよ!? 私はあのお姿を見て完全に惚れこんでしまいました! ……きゃっ! ヤダ私ったら、言っちゃったっ!」
なんだか盛り上がってるが放っておこう。
てかアイツ最恐なんて言われてたのか。確かに恐ろしい奴ではあったけど全然強くはなかったな。
「すーはー。ごめんなさい、話を続けますね」
フェンリィは一度深呼吸して心を落ち着かせた。
「私の元いたパーティはAランクのパーティだったんですよ」
Aランクまで行くのもなかなか難しい。言っちゃなんだがよくそんなパーティに入れてもらえてたな。
「Aランクに上がったということで力試しにこの死の洞窟へ挑戦したんです」
どっかで聞いた話だ。
「最初はなんとかなってたんです。ですがあのベルージャに見つかってしまいまして、私を見るなり襲い掛かってきたんです。それでパーティのみなさんは私を置いていく代わりに俺たちを見過ごせと言って強制的に追放されたんです」
フェンリィは目の端に薄っすら涙を浮かべてそう語った。思い出すのも辛いような酷い仕打ちを受けたのだろう。
「私、あのヘビに体中舐めまわされて……締め付けられて……ぐすっ……うっ、うぇえええええん!」
「もうわかったよ。ごめんね思い出させちゃって、よしよし」
俺はフェンリィの頭を優しく撫でて、ついでに涙も拭った。
「ずびまぜん。リクト様だけですこんなにやさしくしてくれるのは」
「いいって、これぐらい普通だよ」
しばらくフェンリィの鳴き声が響いた。
「なんでAランクパーティにいたのかって話してませんでしたね」
フェンリィは涙を枯らしてから再び口を開いた。目を擦ったせいで赤く腫れている。
「私にはある呪いがかかってるんです」
「呪い?」
「はい。それはもう強力な呪いです。私はあらゆるデバフスキルが使用可能なユニークスキル、≪能力低下≫ を持っています」
「凄いじゃないか! そんな人いないよ」
俺は誇張でも何でもなく素直に褒めた。
「いえ、全然凄くないんです。この能力は自分にしか発動できません。つまりあらゆるデバフを自分にかけるだけなのです」
なるほど。自分に能力をかけた結果、ステータスが全部最低値になったということか。
「なら解けばいいんじゃないの?」
できるならそうしているだろう。
わかっていて一応聞いてみた。
「私の所持しているスキルの一つに ≪無効≫ というものがあります。これは一度だけ使用可能な奥義のようなもので、自分のステータスを全てGランクにする代わりにあらゆる魔法を跳ね返すという効果があります。ですが一度使用したら解除することが出来ません」
俺でも攻撃の威力を弱めることはできるが跳ね返すことはできない。相当強力な能力だ。だがその代わりにこんな対価を支払わなければならないのか……。
そんな状態のフェンリィがAランクパーティに存続していた理由。なんとなく予想が出来てしまった。まったく酷いことをする奴がいるものだ。おそらくフェンリィは──
「私は戦闘では役に立たないのですが魔法を跳ね返すという役割がありました。本当に荷物のような、道具の扱いでした」
やはりか。
笑って話しているが死ぬほど危険な目に合わせられていただろう。
「私たちのパーティは『魔法使い殺し』と呼ばれていました。魔法攻撃を得意とするモンスターを狩りまくっていたのです。戦術はシンプルで、まずモンスターと出会ったら私を投げます。モンスターは私に攻撃してくるのですが攻撃を跳ね返します。討伐完了です!」
にっと笑って見せるフェンリィ。
簡単に言うが、上手くいく事の方が少ないはずだ。
「頭のいいモンスターは魔法が効かないとわかると普通に殴ってきます。私は死ぬ気で逃げ回ります。何度も泣いて……、その……し、失禁したこともあります」
そこに笑顔は無かった。
「誰だそいつらは! 俺がぶん殴ってやる」
怒りが込み上げてきた。
女の子にそんな危険なことをさせるなんて許せない。
「いいんです。怒ってくれてありがとうございます。でも私はお金を稼ぐ方法もなくて、これしかできなかったので仕方ありません。私が望んでやってたことです……」
声も体も震わせる少女。
たった一人で、ずっと苦しんでいたのだろう。
「フェンリィ。俺と一緒に来てくれないか?」
俺はそう言って、折れそうなくらい細くて柔らかい手を包む。
「え……? でも私、本当に役立たずですよ。魔法跳ね返すしか取り柄のない、せいぜい囮に使うぐらいのダメ女で本当に無能なんです」
「そんなこと言うな。フェンリィは役立たずでも道具でも荷物でもダメ女でもない。もちろん無能なんかじゃない」
俺はガッと肩を掴んで綺麗な瞳を見つめる。
そして、
「それに、呪われてもいない」
「え?」
「俺が救ってみせる」
「救うって、いったいどういう? ……無理ですよ。いくらリヒト様でもこの能力は解けません。私も借金してまで除霊の方や解呪をされる方に頼みましたが効果はありませんでした」
俺も正直やれる自信も根拠もない。だが試す価値はある。俺の能力がフェンリィの≪無効≫を上回っていれば可能なはずだ。あるいは……。
「どこかに呪印とかある?」
シンプルな能力にはないが、ここまで強力な呪いなら体のどこかにあるはずだ。
「えっと、多分これです」
フェンリィは服を上げてお腹を出した。おへそのところに痣のような呪印が刻まれている。
「じゃあ、ちょっと失礼するね」
俺はその部位に手で触れる。
「ひゃっ!」
フェンリィが変な声を出した。
いかん。変なことは考えるな。邪念が入ると失敗するかもしれないぞ。
「もしかしたらちょっと痛いかも」
「はぃ。我慢、します。でも優しくしてください」
俺は首を振り、雑念を飛ばす。
そして一度深呼吸。
よし。
「≪反転≫」
そう唱え、パチンと指を弾く。
「んっ!」
フェンリィが声を漏らすと同時に、呪印は綺麗さっぱり無くなった。
──────────
名前:フェンリィ
体力:B
物攻:B
物防:B
魔攻:B
魔防:B
魔力:B
俊敏:B
──────────
なんだ、俺より優秀じゃないか。
「成功だフェンリィ。もうだいじょ──うわっ!?」
「ありがとうございます! ありがとうございますリクト様! 世界が輝いて見えます!」
フェンリィは俺に抱き着くと何度も何度も感謝を述べた。なんだか俺まで嬉しくなってくるほど喜びを爆発させている。
俺は≪反転≫により、解除できないという制限をひっくり返したのだ。俺の能力の方が強かったのか、あるいは俺の魔力がゼロで、この能力が魔法によるものではないから効いたのかもしれない。
何はともあれ、フェンリィを救えて良かった。
俺は初めて魔力ゼロでよかったと思った。
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