上 下
4 / 100
1章

4話 少女を助ける

しおりを挟む
「わたくしは魔王軍幹部が一人、蛇神ベルージャ! わたくしを邪魔する者は殺します!」

 絶叫し、物凄い勢いで俺に襲い掛かってくる。

「食らいなさい! ≪死毒デスポイズン≫!」

 頭から生えているヘビと自分自身の口から毒の弾を飛ばしてきた。その数はざっと100を超えている。

「きたねえな、邪魔だよ」
「なっ!?」

 その攻撃を、俺は木の棒で虫を振り払うが如く一振りで全て弾き落とした。
 驚くのも無理はないだろう。こんな芸当ができる者などそうそういない。生き物というのは圧倒的な強さを前にした時、思考が停止するからな。

「……ま、まあ少しはやるみたいですね。でもわたくしの得意は魔法攻撃ではなく物理攻撃なのですよ! 今までにも何人もの勇者を自称するひよっこ共をこの体で絞め殺してあげたのです!」

 コイツの物理攻撃力はSSランクだった。確かに一度捕まったら体中の骨が砕けて人間の形を保てなくなるだろう。でもそれはそこら辺の冒険者ならの話だ。

「死んでください!」

 ベルージャが叫ぶと地面に毒を吐き、滑るようにして俺に接近してきた。長い舌を出し、ヘビのように「シー」と威嚇してくる。そこには美しさの欠片もない。

「よく喋るなお前は。舌でも噛み千切って死ね」

≪反転≫

──────────――
 名称:ベルージャ
 体力:S  →  F
 物攻:SS →  G
 物防:A  →  E
 魔攻:S  →  F
 魔防:A  →  E
 魔力:S  →  F
 俊敏:S  →  F
──────────――

「ぬわっ!?」

 ドゴーーーーーーン!!!!!

 俺が能力を発動すると、ベルージャはバランスを崩して頭から壁に突っ込んだ。
 無理もない。高速で移動する中、いきなり全てのステータスが急激に下がったのだから。きっと体がついていけなくなったのだろう。

「滑稽だな」

 俺は木の棒を振り下ろす──と思ったが既に絶命していた。
 かなり派手に突っ込んだから衝撃で押し潰されたか、ショック死でもしたのだろう。

 こんな感じで、俺が本気を出せば魔王軍幹部だって一人で倒せる。元いたパーティでも二体ほど幹部を葬ったのだが、俺の能力無しだったらあいつらは今頃生きたまま玩具にでもされていただろう。

 あいつらはこの先幹部に会ったらどうするんだろう。
 少し気になるがまあいいか。





「さて、大丈夫?」

 俺は縛られて吊るされたままの少女に近づく。
 年は同じくらいだろうか。人間の女の子だ。

 近くで見ると透き通るような白い肌に、銀色の美しい髪を肩まで伸ばした美少女だった。俺より少し背が低く華奢な体をしているが、その分出るところは出ている。顔も整っていて誰が見ても可愛いと言うだろう。

 縄を解いてやり、その場に座らせる。

「えっと、その……ありがとうございました」

 少女はお礼を言って、もじもじと体を隠しながら俯いた。

「いいって。あ、これ着なよ」

 俺は泥一つついていないローブ(昨日の酒はかかっているが)を少女に羽織らせてやる。
 なぜなら服がボロボロでほとんど服の機能を果たしていなかったからだ。
 少々目のやり場に困っていた。

「ありがとうございます。本当になんて言ったらいいか……。その、私にできることだったら何でもします。いや、させてください!」

 少女はバッと顔を上げて俺に詰め寄ってきた。
 俺のすぐ目の前に顔があり、体は汚れているのにいい匂いがする。
 てか近いよ。ぷにぷにが当たってるよ?

「ちょっと一回落ち着こうか。別にお礼なんてしなくていいよ」
「はっ、やだ私ったらごめんなさい急に。こんな汚い女嫌ですよね」
「そんなことない。君は綺麗で可愛らしいよ」
「ふぇっ!? ふぇええええーーーー!?」

 語彙を失ってしまったのだろうか。
 少女はわたわたして顔を隠すと、恥ずかしそうに下を向いた。
 白い肌と銀髪のせいか真っ赤にした顔がよく目立つ。

 俺は落ち着きを取り戻すのを待ってから話を進めた。

「まだ名前を聞いてなかったね。俺はリクト。一応、冒険者かな?」

 今は追放されて無職だけどね。

「リクト様ですね。私はフェンリィと申します。助けていただき本当にありがとうございました」

 フェンリィは地面に額が着くほど深々と頭を下げた。
 礼儀正しくて素直な子だ。

「もういいってそういうのは。それと俺なんかを様付けする必要なんてないよ。呼び捨てで構わない」

 俺には恩を着せて従わせるなんて趣味はない。
 対等な普通の関係でいいんだ。

「いえいえとんでもないです! 恩人様を呼び捨てだなんてできません。私が呼びたいからそうさせてください。ダメ……ですか?」

 下から見上げるようにして聞いてきた。
 小動物みたいでほっとけない気分になる。

「そこまで言うなら好きに呼んでくれればいいよ」

 するとフェンリィは嬉しそうに笑って「リクト様」と連呼した。「なんだ」と聞き返すが特に何も言わずに、また「リクト様」と言ってくる。どうやら懐かれてしまったらしい。

「ところでフェンリィはなんでこんなところにいたんだ?」

 どうしてここまで迷い込み、今まで生きていたのだろうか。見た感じフェンリィは戦闘が出来るタイプではない。というか全く出来ない。見ればわかる。

──────────
 名前:フェンリィ
 体力:G
 物攻:G
 物防:G
 魔攻:G
 魔防:G
 魔力:G
 俊敏:G
──────────

 全ステータスが底辺なのだ。とてもじゃないが外に出ていいようなステータスじゃない。おうちで大人しくおままごとをしていた方がいいだろう。

「見てわかる通り私は全ステータスが最低値なんですよね」

 悲しそうな声でそう言った。

「俺の指輪が壊れてるわけじゃないんだ。でも、だったらどうしてこんなところに?」
「えっと、話すと少し長くなるかもですがいいですか?」

 キョトンと首を傾げるフェンリィ。
 この話には興味がある。俺は首肯して話を聞くことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】 採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。 ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。 最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。 ――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。 おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ! しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!? モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――! ※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...