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番外編

蜜を召しませ 5

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「・・・ほらユーリ様、頑張ってください。こぼさず全部飲むんですよ。」

私に語りかけるシェラさんの言葉と口調はいつも通りどこまでも優しく丁寧だ。

場所は私の寝室、かろうじて身を起こしている私の体をシェラさんはまたいで覆い被さるように膝立ちしている。

そしてその片手は座り込んでいる私のあごを上向きにしてしっかりと掴んで逃さないし、もう片方の手はとろとろと白濁した液体を有無を言わさず私の口に注ぎ込んでいた。

「ふ・・・っ‼︎」

声が出ないので必死にアイコンタクトで無理!と訴えるけどシェラさんはお構いなしだ。いつもならここまで強引に私の嫌がることはしないのに。

「一滴残らず全部飲んでください。ちゃんと飲んだか最後にその可愛らしいお口を開けて見せてもらいますからね?」

そう言いながら私の口へ、手にした液体をまだ注ぎ込む。ちょ、ちょっと待って、注ぎ込むスピードに飲み下すのが全然追いつかないんですけど⁉︎

ちょっと苦しくなってきて、赤く上気した顔のままシェラさんの胸をバンバン叩いてから両手を突っ張ってストップをかけてもビクともしない。

そりゃそうか、元から非力なのに病気でヘロヘロだし。

泣き落としは効かないかな?試しにうう、と潤んだ目で見上げれば飲みきれなかった白濁した液体がつうっと私の口元を伝ってこぼれ、服の胸元を濡らしていく。

その胸元をちらりと見てから、苦しげに液体を飲みくだす私の表情をうっとりと見つめるシェラさんの目の色が妖しい。

長い前髪の間から覗くあの金色の瞳に僅かに情欲の色が滲んでいるのだ。あ、これこのままだとヤバいやつ。

ただならぬ予感に背中がひやりとすれば、シェラさんの言動も妖しさを増す。

「・・・ああほら、言った側からお口いっぱいのモノをこぼしていますよ。勿体無い、せっかくのオレのモノを・・・」

「ストップ!やめるっす、それ以上はアウトっす‼︎」

たまらずそこでユリウスさんのストップがかかった。

「なんです、せっかくいいところだったのに。」

「アンタのそれ、絶対わざとっすよね⁉︎言動がいちいち紛らわしくて卑猥なんすよ!」

「あなたがそう思うのはあなたに何かやましいところがあるからでは?・・・ああ、そういえばいつぞやあなたはユーリ様に生クリームのついたイチゴを食べさせて、そこから不遜にもユーリ様のいやらしい姿を想像したんでしたっけ?」

「へぇっ⁉︎な、なんスか、何でそれを・・・⁉︎じゃなくて誰からそんな事を聞いたんすか、それは濡れ衣っす!ウソっす!」

「おや、自国の王子を嘘つき呼ばわりするとは不敬もいいところですね。」

「で、殿下ー⁉︎あんな前のこと、まだ根に持ってるっすか⁉︎」

眉を顰めたシェラさんにユリウスさんが注意して、そこからなぜか二人の言い合いが始まる。

た、助かった。おかげでシェラさんの動きが止まった。その隙に口いっぱいに注ぎ込まれたものを私は必死に飲み込んだ。

うう、喉がビリビリして痛い。涙目になりながらも、シェラさんに言われた通り律儀にもこぼさないように両手を口に当てながら頑張れば何とかそれを全部飲み込めた。

と、それに気付いたシェラさんがユリウスさんから私へと向き直る。

「おや、頑張りましたねユーリ様。さあ、ではお口を開けて見せてください。ちゃんと全部飲んだか確かめますので。ついでに喉の赤みもどうなっているか見ましょうか。」

はい、あーん。ものすごく色っぽい笑顔でそう促された。

え?いやだから、全部飲んだんですってば。

まだ両手を口に当てたままイヤイヤをするように頭を振ったら、鮮やかな手つきであっという間にその手を振り解かれた。

そしてそのまま私の頬に自分の手を添えたシェラさんにあっさりと口を開かれる。

何それ、全然強引な仕草じゃないのに私の口が勝手にぱかっと開いたよ?

人体の不思議なのか、はたまた騎士のテクニックなのか。

まったくもって謎だけど、まあとにかく私の口は開けられてシェラさんはその中を喉の奥まで覗き込んでいる。

「ぱっくり開いた狭いお口の中が赤くヒクついて、まるでオレを奧へ奧へと誘っているみたいですねぇ・・・。ふふ、白いアレもきちんと全部飲んだようですがお口の中に少し残っていて、中の赤みと白いモノの混ざり合っている感じが何ともそそられますが・・・はい、良く出来ました。」

「だから言い方!いちいちヤラシイんすよ、あと白いアレとかオレのモノって何すか、ちゃんとオレが貰ってきた乳製品って言えばいいじゃないすか!」

「これで万が一にでもユーリ様がオレに色気を見せてくれれば儲け物ではないですか?」

「アンタは一体病人にナニを望んでいるんすか!」

・・・二人の喧騒が収まりそうにない。それを横目に、一体どうしてこうなったんだっけ?と思い出す。

確か昼間、リオン様にスープを飲ませてもらいながらそのまま寝ちゃって・・・目が覚めたらベッドの横にシェラさんが座っていた。

マールの町から戻って来ていたらしく、私が目覚めるのを待っていたのかすぐにあの金のリンゴをすり下ろしたものを食べさせてくれたっけ。

蜂蜜も混ぜてよく冷やしてあったそれはヒンヤリとして甘く、リンゴそのものの効能もあってか喉の痛みや熱っぽさも幾分和らいだ。

するとそれを見たシェラさんは嬉しそうに

『マールの町長からは新製品も貰ってきております。発酵させた牛乳にあの金のリンゴの花から採った蜂蜜とマールの町で取れた柑橘類の果汁を混ぜた乳酸飲料です。爽やかな酸味の中にくどさのない軽やかな甘みが胃腸にも優しい乳製品なので、病気がちの者が栄養を取るのにも向いているそうですよ。』

なんて教えてくれた。それを聞いた時は「飲むチーズケーキみたいでおいしそう」って思った。

いつ飲みましょうか?って聞かれて、夕飯時にシグウェルさんがまた治癒魔法をかけに来てくれるからその時にでも、って口をパクパクさせて説明した。

すると読唇術でそれを読み取ったシェラさんはじゃあその時にって頷いていたんだよね。

・・・そうして今に至り、いざ飲んでみたらたった一口でむせた。

柑橘類の果汁が入ってるって言ってたからかな?どうやらその果汁が喉の腫れにダイレクトに効いたらしくビリビリと喉が痛んだのだ。

だけど私を心配するシェラさんは、体にいいからと貰ってきたそれをさっきから全部私に飲ませようと頑張っていた。

ヘビの生き血を飲ませようとしたレジナスさんも相当だったけど、いつになく強引なシェラさんもある意味私の病気に動揺しているのかも。

なんて考えている間もまだシェラさんとユリウスさんはああでもないこうでもないとお互いに言い合っているし・・・。

でも気付いてるかな?シェラさんの紛らわしい物の言い方に私も気まずいけどついさっき、途中からリオン様とレジナスさんも私の様子を見ようと寝室の扉の向こうから顔を覗かせていたのだ。

声が出ないので身振り手振りでまだ話している二人にそれを教えようとしたらシェラさんが

「大丈夫ですよユーリ様、分かっております。どうですかお二人とも。数時間前よりもユーリ様は少しお元気になったと思いませんか?少なくとも、オレの胸元を叩いて拒もうとする程度には気力も出たようですよ。」

とリオン様達の方を振り向いた。

ということは、あれ?この何だか紛らわしい妖しいやり取りは私の抵抗を見るためにわざと?いや、でもあの目に滲んでいた色気は本気っぽかったような。

頭の中にハテナマークがたくさん浮かんでよく分からなくなっていれば、リオン様が額に手を当てて呆れたようにしながら

「・・・シェラ、君ねぇ・・・」

と言ったきり二の句が告げないでいる。よく見えないけど、気のせいか手を当てている額が赤いような気がする。

レジナスさんも

「お前・・・!言っていい事と悪い事が・・・いや、悪い事しかないな⁉︎」

と怒ったように顔を赤くしてシェラさんを睨みつけた。

それなのにシェラさんときたらそんな二人の様子をじっくりと見比べて、ふーん?と小首を傾げている。

「・・・ひょっとしてやり過ぎましたか?ユーリ様へのオレの言動とそれを受けたユーリ様の官能的なご様子にあらぬ想像をされて、もしかしてお二人とも勃ちま」

「そんなわけあるか‼︎」

「何言ってるのさ君⁉︎」

とんでもない事を言いかけたシェラさんにリオン様とレジナスさんが目を剥いて同時に声を上げた。

二人とも顔、真っ赤なんですけど・・・。

そしてそんなやり取りを聞かせられる私の身にもなって欲しい。あまりにも気まずい。そういうのはせめて、男同士の時だけにして欲しいなあ・・・。

なんだか喉だけでなく頭まで痛くなってきた気がして私はまた布団に倒れ込むようにして横になってしまう。

「ヒェッ、ユーリ様⁉︎ほら見るっす、アンタが馬鹿げた事を言うからまた具合が悪くなったんじゃないっすか⁉︎」

ユリウスさんの声が遠く聞こえる。

「ユーリ、大丈夫⁉︎ユリウス、どうして君とシェラしかいないんだい?シグウェルはどこ⁉︎」

リオン様も慌てている。

「団長も一緒に来たんすけど、念のため夜間の発熱用に追加の解熱薬を取りに一旦魔導士院に戻ったんす、この隊長がついていれば安心だろうって言って。どう考えても全然安心じゃないのに頭おかしいんすよ団長はぁ!」

いやユリウスさん、言い方酷いなぁ。シグウェルさんに聞かれたらまた怒られそう。

そう思いながら私はずきずきと痛む頭を抱え、気を失うようにしてまた眠ってしまったのだった。
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