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番外編

好きだと言って 6

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やって来たシェラさんが私に何かあったのかと心配したのも理解できる。

普段ならそれほど夕食後の居室で見ることのないシグウェルさんが部屋の中にいて、私の伴侶が勢揃いしているのだから。

だけどさっと部屋の中に目を走らせ、私の事も見つめてどうやら何も異常がなさそうだと判断したらしい。安堵のため息をつくと私へと向き直った。

「オレのいない間に何かあったのかと思いました。シグウェル殿は珍しく仕事が早く片付いてこちらに顔を見せたのですか?」

そう聞かれると何て答えるべきか説明しにくい。事情が分かったら最後、人の揚げ足取りが得意なシェラさんだ、何を言わされるか分かったもんじゃない。

そう用心しながらリオン様あたりがいい感じに誤魔化した説明でもしてくれないかなあと思っていたら、シェラさんがその手に何か持っているのに気付いた。・・・書類?

そんな私の視線にリオン様も気が付いて、

「いつも遠方への任務帰りにはユーリへのお土産に装飾品やドレスを大量に持って帰って見せに来るのに、今日は違うんだね。それは何?」

と私の代わりに聞いてくれた。うん、確かに。いつもなら

『ご覧くださいユーリ様。出先でこんなにたくさんユーリ様に似合いそうな物を見つけてまいりました。明日は早速、この中から選んで着ましょうね。』

なんて言って、両手で抱えた箱に入りきらないほどの物を買い込んでくる。ちなみにいつぞやは

『大変ユーリ様好みの味付けの菓子を作れそうな菓子職人を見付けましたので引き抜いて来ました』

とか言って、どこかの領地の領主さんお抱えのお菓子職人をここに連れて来た事もある。さすがにそれはやり過ぎだから丁重にお詫びをした上で帰ってもらったけど。

と、まあそんな風にたまにやり過ぎなくらい毎回私にお土産を買って来るシェラさんが、たった数枚の書類しか携えていないのはかなり珍しい。

だからレジナスさんもシェラさんをじろりと疑いの目で見て

「お前、また勝手にどこかの土地や島を買ってきたなんて言い出さないよな?まさかそれは権利書か契約書の類いか?」

と言い出した時もシェラさんならあり得る、と一瞬青くなってしまった。

するとシェラさんは呆れたように

「違いますよ、これは目録です。まったく、今日オレがイリヤ様の護衛でどこに行って来たのか思い出して欲しいものです。少し考えればこれがどなたからユーリ様への贈り物の目録か分かりそうなものなんですけどねぇ。」

やれやれと肩をすくめた。それだけでなく、

「貴方はユーリ様が絡むことに対してはたまに間が抜けるところがありますが、そんな調子でこの先ユーリ様の伴侶としてやっていけるのかいささか心配になりますよ。いかがです?今からでも伴侶になるのを考え直してみては。」

挑発するようにそんな事まで言って手にした書類をひらりと振ると鼻で笑った。

すると寝室へ行く私の手を取っていたレジナスさんがその手にぎゅっと力を込める。

「考え直すわけがない。そもそも毎回あれこれ買い込んでくるお前の普段の行いが紛らわしいだけだ。」

「おや、オレのユーリ様への心遣いを批判するとは悲しいですねぇ・・・ご覧なさい、ユーリ様も悲しんでおられますよ?」

いや、急に私を巻き込まないで欲しい。別に悲しくないしね?と思ったら、

「悲しいです!」

とうっかり声に出してしまい、シェラさんが鬼の首を取ったように顔を輝かせてレジナスさんは若干ショックを受けている。

あ、いやいや違うから。思ったのと逆の言葉が出ただけですから。

いつも冷静沈着なレジナスさんなんだから、頭では分かっているはずなのにいざ私の口からシェラさんの味方をする言葉が出て来るとついその事を忘れてしまうらしい。

シェラさんが言っている「私が絡むと間が抜ける」つまり、普段とはちょっと違ってしまうというのはどうやら本当みたいだ。そういえばさっきも私とリオン様のやりとりを聞いてお茶をこぼしていた。

するとそこでリオン様がああそうか、と声を上げた。

「そういえば今日はルーシャ国と懇意にしている隣国を訪問していたんだったか。ということはそれは隣国の国王陛下からユーリへの結婚祝い品の目録かい?」

「はい、そうです。そしてイリヤ様の妃ヴィルマ様の出身国でもありますので、今回はそちらのご生家の公爵家からもユーリ様へ騎馬隊用の騎馬やユーリ様専用の馬として珍しい金色の毛を持つ、あちらの特産の馬も賜ってまいりました。ですのでいち早くその事をお知らせしたくこうして目録を持参したというわけです。」

リオン様とシェラさんのやり取りを聞きながら、そういえばヴィルマ様は元々隣国の王妃様の護衛騎士をしていたところを大声殿下が一目惚れしたんだっけ?と思い出す。でもなんで馬?

不思議に思ったのが顔に出ていたらしく、手を繋いでいたレジナスさんが教えてくれた。

「ヴィルマ様のご生家の公爵家は優秀な騎士を輩出する騎士家系で、さらには名馬や軍馬を産出して国に貢献していることでも有名だ。特に金色の美しい毛並みを持つ馬が特産で、日の光に当たるとその毛並みはまぶしく輝き神々しい。」

え、そんな物凄く高そうな馬を贈ってくれたの?私、まだ一人で馬に乗るのもおぼつかないのに分不相応じゃないかな?

レジナスさんの説明にちょっと心配になった私に気付いたシェラさんがにっこりと微笑む。

「大丈夫ですよユーリ様。オレも見ましたが、ユーリ様に贈られた金毛の馬はとてもおとなしく素直な小さめのものでした。そのうち時間を見て乗馬の練習をしましょうね。きっとあの神々しい金色の輝きを放つ馬に乗られるユーリ様は地に舞い降りた美の女神の如く、見る者全ての視線と心を奪うことでしょう。」

相変わらずよく口が回るなあ。大袈裟で聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

むう、と頬を赤くしてやめてくださいと言おうとして

「いいですね!」

と言ってしまってからまた・・・!とハッとすれば、そこでようやくシェラさんも私の言動がおかしいことに気が付いたらしい。

「ユーリ様?何かいつもと違いませんか?」

と眉をひそめられてしまった。するとそれまで黙って事態を見ていたシグウェルさんが

「普段のユーリとの違いにいつ気付くかと思っていたが、意外と会話が成立するものだな。なかなか面白かった。」

と満足そうに頷いてシェラさんへ今の私の状態について説明をし始めた。面白そうだから満足するまで黙って見てるとかひどい。

ちなみに話を聞いたシェラさんは

「本当ですか?本当に思ったことと逆の事を話してしまうんですか?それは一体どの程度の?」

まるでシグウェルさんのようにぐいぐい食い付いてきて、私にもずいと迫った。

「ユーリ様、オレはこの世の何よりもユーリ様を愛しております。ユーリ様もそうですよね?ファレルの神殿の鐘の前で誓ったあの言葉に嘘偽りなく、ユーリ様もオレを愛しておりますよね?真実の愛はどんな魔法薬にも負けないはずです。ぜひ今一度、愛していると言ってくださいませんか?」

み、みんなの前で何を言ってるの⁉︎そんなのこの妙な魔法薬を飲んでいなくたって言えるわけがない。そもそもあの時だってシェラさんがどうしてもと言うからやっとの思いで言ったのに。

シェラさんがあまりにも迫るから、レジナスさんが「おい」と言って私をその背中に隠してくれたけど、シェラさんはまだしつこく「言ってくださいユーリ様、本当に言えないんですか?」と言うものだから、レジナスさんの背中から絶対言わない!と顔を覗かせて

「い、言えますよ!愛してます‼︎」

とつい言ってしまう。すると途端にシェラさんはうっとりとした顔で微笑んだ。しまった。

「ああなるほど、これは確かにいけませんね。恥ずかしがり屋のユーリ様が他の伴侶の方々がいる前で、オレだけを見つめてそんな事を言うわけがありません。これは本当に大変な薬です。見ましたか皆さん、レジナスの服の裾を掴んで恥じらいながらも潤んだ瞳でオレを見上げて、愛の告白をするユーリ様を。なんて愛らしいんでしょう。これは大変なことですよ。」

なんて言うものだから、リオン様がたまらず

「ずるいよシェラ!わざとユーリにそんな事を言わせるなんて。そんな強引な事をするの、僕だって我慢してたのに!」

と抗議をしたので、それに対してシグウェルさんに

「殿下は言葉ではなく態度でユーリに迫って色々と言質を取っていましたが」

と冷静に突っ込まれていた。うん、そうだよね?どっちもどっちだ。

するとシグウェルさんの言葉を聞いたシェラさんが

「ほう?殿下はユーリ様に何をなさったんですか?」

なんて興味津々で訊いている。そんなの訊かなくてもいいんだってば!


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