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番外編

星に願いを 1

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「ふっ、・・・んく・・・っ」

自分の声なのに自分じゃないみたいな、鼻にかかったような声が吐息と一緒に漏れそうになるので、手の甲を唇に押し当てて必死に声を我慢する。

頭の中に繰り返し浮かぶのは「油断した、油断した、油断した・・・!」という言葉だけだ。

そうすればベッドの上、私を背後からバックハグをするように抱え込んで座りこんでいたシェラさんが、私が唇に押し当てていた手を取りその指先に口付ける。

「ああ、ダメですよユーリ様。どうしてそんな事をするんです?その可愛らしい声を聞かせてくれないなんて、随分と酷いことをするんですね。あなたがそんなに意地悪だとは思いませんでした。」

指の一本一本に優しく丁寧に口付けながら話しているその声はいつもと同じかそれ以上に優しく甘やかだ。

だけど私にしている行為はその声音に反して全く優しくない。

シェラさんとの新婚休暇で私達は今、シェラさんが前に買ったあのリオネルの無人島に来ている。

そしてそこに元からあった砦を改築した、まるでお城のようなお屋敷にやって来て今日は四日目の夜。

灯りを灯していない室内は夜の闇の濃い藍色に染まっていて、大きく開け放たれた窓辺からは薄いレースのカーテンが潮風に揺れて金色の満月の光が煌々と差し込んでいる。

そして月明かりと共にゆったりとした潮騒の音も聞こえてきていたはずなんだけど・・・今の私にはその音が随分と遠く聞こえる。

さっきから繰り返されているシェラさんの指での執拗な攻めに、波の音を聞くとか遠くの海に揺れている漁の漁火を見るだとか、ましてや月明かりと星の美しい夜空を見上げるだとかの余裕は一切ない。

東国の新しい技術で作られたという、かろうじて身に纏っている前開きの夜着はすでに大きくはだけられて真っ白な胸をシェラさんの上に晒しているし、下半身を覆っている下着も色合いだけは可愛らしいピンク色だけど、今日のそれはとても薄くて心許ない。

そうしてあの長くて綺麗な指先だけで時間をかけてグズグズのどろどろにされてしまった私は、シェラさんの膝の上に座らされているというよりもぐったりと脱力して身体を投げ出すようにして預け、息も絶え絶えにほとんど寝そべっているような状態だ。

それでもここに来た当初はまだ余裕があった。

初日にはこの島の海岸を散策して、前にシグウェルさんも一緒に来た時はまだ完成していなかった船着場が出来上がっている様子を見たり砂浜で綺麗な貝殻を拾ったりした。

それにお屋敷の最上階に備え付けられたお風呂・・・この島に温泉が湧いていないことをシェラさんが随分と残念がっていたそこは、広々とした露天風呂がバルコニーの端ギリギリまで張り出した作りなのも立派で驚いた。

目の錯覚で、まるで眼下の海と露天風呂の縁が繋ぎ目なく繋がっているようにも見えるそこは、テレビでしか見たことのない高級ホテルのインフィニティプールみたいでいつまでも飽きることなく景色を眺めていられた。

夜は、まあ・・・シェラさんのことだしこれまでの三人との新婚休暇を思い返しても朝まで眠らせてもらえない覚悟をしていたんだけど・・・。

そうしたら意外な事に片手で収まる程度の回数の睦み事でコトを終えたシェラさんにぎゅうぎゅうと抱きしめられて、

『このまま朝まで抱き締めて眠ってもよろしいですか?』

と満足げに言われた。それを聞いて拍子抜けした私に

『大切なユーリ様のお身体に初日からご負担をかけるようなことや無理はさせられませんからね』

とまるで少年のように無邪気で幸せそうな笑顔で言われ、抱きしめられたまま眠りについた。

二日目と三日目も同じようなものだった。

昼間は船でリオネルの港町まで行って美味しそうな魚介類なんかを見繕って買って帰りのんびりとお屋敷で過ごし、夜は昼間買い込んだそれをシェラさんが料理してくれたり、昼に海岸で拾った貝殻でのアクセサリー作りを教わったりした。

ちなみに今回は新婚休暇だからと徹底的に他の人達を排除したらしく、昼間もこの島には必要最低限の人数しかいないし夕方近くから翌日の昼頃までは私とシェラさん以外、この島には完全に誰もいなくなる。

そうして夜はやっぱり初日と同じように片手で納まるくらいの回数の夜の営みで、私は随分と体も楽だったけど・・・シェラさんはそれでいいのかな?と思ったりしていた。

いや、今までの三人がアレ過ぎただけで本来の新婚休暇ってこんな感じで昼も夜も余裕を持って楽しむものかも知れない。

毎日毎晩、人が気絶するように眠るまでとか外がうっすら明るくなるまで攻め立てられて部屋に閉じこもったまま何日も出て来ない日があった今までの休暇がおかしかったのだ。

こんな風に余裕を持って過ごせるなら、シェラさんとの新婚休暇は楽しくあっという間に過ぎてしまうのかも知れない。

・・・そう思っていたのに。

シェラさんとの新婚休暇最初の三日間がこんな感じで比較的穏やかに過ごせたからこそ、私は油断していた。

シェラさんが違った様相を見せたのは四日目の今日の夜だった。

「ユーリ様、無人島で過ごすのも慣れて来ましたか?」

ベッドの上で、背後から私を抱き締めながら首筋や髪の毛に口付けるシェラさんにそう聞かれた。

まるで自分の前にぬいぐるみを大事に抱え込むみたいに抱きしめられながら口付けを受け、その合間に時折りゆっくりと頭も撫でられれば、それだけで何だか睡魔に襲われてくるようでウトウトしながら答えた。

「え?そうですね。夜もわりとしっかり眠れているので、おかげさまでイリューディアさんの力を使わなくても翌日に疲れを持ち越さずに昼間も楽しく過ごしていますよ?」

「そうですか、それは良かった。では慣れてきたということで、そろそろ夜の方も充実させましょうか。」

「はい?それはどういう意味・・・」

背後にいるシェラさんの顔は見えないけど、今までとは明らかに違う雰囲気のその言葉。

それはいつものあの、無駄に垂れ流している色気たっぷりの笑顔のその表情が更に深まったような気がするものだった。

するとそこからシェラさんの前夜までとは全く違った攻めが始まったのだ。

「オレとの休暇の初日にも思ったのですが・・・新婚休暇に入る前、結婚式をする前よりも胸が柔らかく敏感になっておいでではないですか?一体どれだけあの三人に可愛がられたんでしょうね。」

背後から耳たぶに口付けられ、やんわりと噛まれながらそう囁かれた。

囁きながら、きゅうっとその指先は私の胸の先を上向きに引き上げるように摘み上げ揉んでいる。

「んんっ・・・!」

その少し強めの刺激に思わず両膝を立てて寄せ、内腿をきゅっと締めてしまえば

「ほら、やっぱり。もうこんなにも膨らんで固く尖り始めていますし・・・仕方ないとは言え、オレの休暇が四人の中で一番最後なのが残念と言うか妬けますね。最後に残されたオレにもまだ、ユーリ様を開発して育て上げる余地は残っているんでしょうか?」

そんなことを聞かれても。大体にして開発だとか育て上げるだとか、そんなのは望んでいないしされたくもないんですけど⁉︎

だけど胸の先に与えられ続けている刺激に言葉もなく、ただひたすらそれに耐えるだけだ。

かりかりと胸の先の窪みに引っ掛けるように爪を立てられ、ぎゅうっと押し込まれた後に指先を離されれば、じんじんと痺れたようなそこはより一層敏感になる。

触れられる前は薄紅色だったそこが、今は色を濃く深めて勝手にぴんと立ち上がってしまっていた。

「ああ、少し押し込んだだけでもこんな風になってしまって・・・。色もまるで新鮮な野イチゴのように美しい赤さを増していますよ。見えますか?」

ほら、と胸を下から持ち上げながらきゅっと摘み上げた乳首を私にこれ見よがしに見せつけられたのであまりの恥ずかしさに、見なくて済むようにぷいと横を向く。

言われなくても少し触れられただけで体が敏感に反応するようになってしまったのは他でもない自分が一番良く分かっている。

そんな敏感さを増した今の私だからこそ、今夜のシェラさんはなんだか危険な気がした。うまく言えないけど、その触れ方さえ前夜までとは全く違うような。

「なんて悩ましげで美しい色香でしょう。ユーリ様の夜のお姿がこんなにも色濃く艶やかさを増しているとは思いませんでしたので、初日から手加減をするのに随分と苦労しましたよ。」

饒舌に話しながら首筋に口付けているシェラさんの片手はまだ胸を揉みながら、もう片方の手は私のお腹を撫でさすりながらするすると降りていく。

「この、しっとりと手に吸い付いてくるようになだらかで柔らかなお腹も少し撫でただけで腰が揺れてしまっていますし。それにここも。こんなところでさえ、オレの刺激にかなり感じてしまっているでしょう?」

囁きながら、お腹を下へと降りていった指先は私のおへその周りをくるくると円を描くように撫でていたかと思うと、おへそのその小さな窪みにくっ、と差し込まれた。

「ふ、あぁぁっ・・・!」

無意識にびくんと腰が小さく跳ねる。おへその中に差し入れられた指を浅くとんとんと上下されれば、その刺激にお腹の奥がぴりぴりと甘く痺れた。

おへそへ自分の指を抜き差しする度にびくびくと反応する私に気を良くしたのか、シェラさんのまるでリオン様みたいな言葉責めが加速する。

「ふふ、こんな小さな刺激にもそんなに敏感に反応するなんて・・・。ユーリ様のここもまるで性器になってしまったかのようですね?まだ触れてもいない下着が濡れてきているのが見ただけで分かりますよ。なんていやらしくて可愛らしいおへそなんでしょう。」

そう言いながらおへそと胸へと与える刺激の手は決して緩めない。

「胸への刺激でイク、というのはあの三人と過ごしていれば当然これまでもおありでしょうが、はたしてこちらへの刺激でも達したことはあるんでしょうかねぇ?」

くにくにとおへその穴の小さな窪みを弄り続けているシェラさんにそんなことを聞かれたけど、あるわけがない。どんな性癖だ。

「そっ、そんなの、あるわけ、ないでしょう・・・っ⁉︎」

あまりの刺激の強さに浅くなり始めた息の下、やっとのことでそう返した私はすぐに自分のその言葉を後悔した。

なぜなら私の返事を聞いたシェラさんが背後で

「そうですか、ではオレがそうする初めての男ですね。良かった、まだユーリ様の初めてがオレにも残されていて。」

そう薄く笑ったからだ。

そのまま摘まれていた乳首を上下に強く擦り上げられ、仕上げだとばかりにさっきよりも強くきゅうっと指先で捻り上げられた。

同時におへその穴へも指を押し込まれてぐりぐりとされれば、お腹の奥と下半身がきゅうっと引き絞られたように強い快感に襲われる。

「あっ、あ、ウソ、そんな、やだ・・・っ」

きゅうきゅうするお腹の奥の甘い痺れに頭の中が真っ白になって、引き寄せていた内腿にもぎゅっと力が入る。

そして足の指にも自然と力が入って、まるで拳を握るようにその指先はぐっと丸まると・・・

「イッてください、ユーリ様」

耳元でまるでおねだりをするように低く囁いた、くぐもって熱っぽいシェラさんの声に応えるかのように私はあっけなく達してしまったのだった。




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