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番外編
西方見聞録 34
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ユーリ様の伴侶それぞれの特徴と魅力を挙げた後、自分には彼らとはまた違った魅力があるというジェン皇子に、リオン王弟殿下はあの圧のある微笑みのまま
「ちなみに参考までに聞くけど、僕らにはない君の魅力っていうのは何かな?」
と尋ねた。すると皇子は胸を張って、
「明らかにキミ達とは違う点がボクにはあるよね!それはユーリ様よりも歳下ってこと!」
と言った。
「それが魅力だと・・・?」
そう聞き返したレジナス様の声が気のせいかいつもよりも低い。
「そうさ!キミ達はみんなユーリ様よりも歳上だろう?それはとっても頼り甲斐があってユーリ様もキミ達に遠慮なく甘えられるんだろうけど、それは逆にユーリ様自身が誰かに甘えられたり誰かを甘やかすってことは知らないと思うんだよね!」
そう皇子は言った。
「だってユーリ様よりも歳上のキミ達がユーリ様を甘やかすならともかく、恥ずかしげもなく甘えるなんて出来るかい?ボクは出来るよ、だってユーリ様よりも歳下だし、甘えるのは得意だからね!」
それ、そんなに胸を張って威張って言えることか・・・?
いやまあ、確かに国では皇族の一番歳下の殿下で家族はともかく国民からも国の末っ子殿下として愛されて甘やかされてるところはあるから、確かに甘え上手ではあるか・・・。
「わ、私は別に甘やかしてもらおうとも誰かを甘かそうとも思ってませんけど・・・⁉︎」
なぜかユーリ様が赤くなっているのは普段自分がリオン王弟殿下達を始めとした彼ら伴侶達に甘やかされているっていう自覚があるからかな?
まあ住まいである奥の院をほぼ男子禁制にされるくらいには殿下に溺愛されているしね・・・。
「え、でも実際甘えられたり頼られたりすると結構嬉しいと思うよ?ねぇユーリ様、もしボクがここに滞在することになったらルーシャ国の風習や食べ物のことを色々とボクに教えて欲しいな。優しいユーリ様なら、まるでお姉様のように異国の地に来たボクに親切にしてくれるよね・・・?祖国が恋しくなった時には頭を撫でて慰めてくれると嬉しいな・・・」
「くっ・・・!」
皇子にちらりとわざとらしい上目遣いで見られたユーリ様が狼狽えた。あれ?皇子の無茶苦茶な理屈がなぜか通じてる?
すると僕の背後であの白い子が
「ユーリ様、相変わらずお姉様とかおねえちゃんって言葉に弱いですよね・・・」
と呆れたように呟いて、まだ笑っていたユリウス様が
「エル君が悪いんすよ、ユーリ様が頭を撫でてあげようとするとすぐ逃げたりするんすから。たまにはおねえちゃん呼びにも付き合ってあげればいいじゃないすか」
なんて言って
「主に対してそんなことは出来ません」
と返されている。
どうやらユーリ様は元から誰かに頼られたりお姉さん呼びされるのに憧れているらしい。
なんとかユーリ様の伴侶の一角に食い込もうと頑張っているジェン皇子はなおも
「あとボクはここにいる伴侶の誰よりも愛嬌があると思う!リオン殿下を始めとしたみんなは・・・かっこいいけど愛嬌があるっていうのとはまた違うよね?それも他の伴侶にはないボクの魅力じゃないかな?」
とアピールしている。まあ確かに、黙っていれば美形なのに喋ると途端にアホの子みたいなところは人懐こくて愛嬌があるとも言えるけど。
ふと、昔我が家で飼っていた泥だらけにもかかわらず尻尾をブンブン振ってじゃれついて来ては母親のスカートの裾を汚して怒られていた犬を思い出した。
今の皇子ってあんな感じだ。周りに怒られるのが分からないまま無自覚かつ無防備に全身で突っ込んで行っている。
もうさっきからリオン王弟殿下の笑顔が怖くてそっちをまともに見られない。
シグウェル様も、あの冷たい瞳の奥でさてこれからの交渉でこの皇子をどうしてやろうかと考えているみたいだし。
唯一レジナス様だけが、本当に皇子がここに強引に居座るんじゃないかと心配そうに眉根を寄せている。
「た、他国の皇子様の頭を撫でるとかそんな失礼なことは出来ませんから!」
と皇子のバカみたいな主張をユーリ様は頑張って断ってるけど、
「そう?ボクの髪の艶やかさとなめらかさ、撫で心地の良さは皇国一だって母上にもよく褒められるし、そのまま長髪でいてって言われるくらいには触り心地がいいよ?」
はいどうぞ、と皇子は頭を下げてユーリ様に差し出している。
そんな皇子にユリウス様は
「いくらユーリ様に撫でて欲しいからって、一国の皇子様がそんな簡単に人に頭を下げるとかアリなんすか?」
と目を丸くして僕を見た。・・・あー、まあ普通だとあり得ないよね。だけどこれがジェン皇子だ。
街に降りてご飯を食べてる時も、よく無邪気に寄って来た市井の子供達が「皇子様の髪、さらさらー!」とか言って触って来ても怒るでもなく好きにさせてるし。
なんなら結い上げてる髪型をぐちゃぐちゃにされたりおままごとみたいに三つ編みにされても平気で「手触りいいでしょ?楽しい?良かったねぇ!」なんて言って笑いながらご飯を食べ続けている。
だから今みたいに髪の毛を触られるために頭を差し出すのも全然抵抗はないのだ。
そんな説明をすれば
「やっぱりお人好しっすね・・・。いや、お人好しっていうか変わり者・・・?」
とユリウス様は首を傾げている。
「そこはおおらかとか器が大きいって言って欲しいな!」
まだ頭をユーリ様に下げたまま皇子はそうユリウス様に言った。
・・・自分で自分をそんな風に褒めないでよ。
さすがに呆れて
「皇子、いい加減にしてください。ユーリ様を困らせてますよ。いつまでもそんな事をしてたら交渉どころかすぐにここから追い出されてしまいますから。」
そう言ったら、ユーリ様を困らせるのは本意ではないと素直に頭を上げたジェン皇子は、ちらっとユーリ様を見ると僕にこそこそと
「ね、見た?困り顔も可愛いよ、どんな顔をしても可愛いなんてすごいね。」
と言ってきた。それには同意するけどリオン王弟殿下達が目の前にいるこの状況で頷くと、更にこの皇子を調子づかせる気がする。そう思った僕が
「はあ、まあ・・・」
曖昧に言葉を濁せば
「なんだよシーリン、はっきりしないね!白い肌にほっぺをうっすら薔薇色に染めて、ちょっと下げた眉に長いまつ毛の奧からボクを見ているあの綺麗な黒い瞳を見てよ!すっごく可愛いよ?笑った顔も魅力的だけど、困り顔も可愛いからその顔を見たくてもっと困らせたくなっちゃいそうだよ?」
と大きな声で力説された。ちょっ、何言ってんのアンタ、殿下達が聞いてどう思うか。
そう青くなった僕の耳にシグウェル様の
「ユーリの色々な表情を見たくなる気持ちは良く分かるが、その顔を見られるのは君ではなく伴侶である俺達の特権だ。滅多な事は言わないでもらおうか?」
という冷静っていうか冷ややかな声が聞こえてきた。
あれ?声に魔力とか乗せてないよね?今のその言葉だけで気のせいか部屋の温度がいくらか下がったような気がするんですけど。
「伴侶の特権⁉︎いいなあ、それは素晴らしいね!なんて羨ましいんだろう‼︎」
シグウェル様の注意を物ともせずに、むしろキラキラした目で皇子はシグウェル様に「他にどんな特権が?」と向き直った。強い。マイペース過ぎるだろ、ウチの皇子。
「・・・」
そんな皇子の態度に、さすがのシグウェル様も声を無くして呆れたように無言で皇子を見つめ返し、
「団長をあんな好奇心いっぱいの目で見つめて黙らせる人なんて初めて見たっす!」
とユリウス様はまたなぜか笑いを噛み殺している。
そんな皇子やシグウェル様達を見て、リオン王弟殿下はやれやれと肩をすくめると
「ともかく、伴侶の申し出についてはユーリも断ったことだしその件については終わりにしてもらえないかな?それよりも今は海上に建設する船舶の誘導装置について話し合いたいんだけど」
と話の軌道修正をした。すると皇子は
「それならさっきも言ったように、とりあえずシーリンは国に返してボクがここに残るよ!そうすればじっくり交渉が出来るし迷惑をかけたシーリンの身の安全も保障出来るからね。」
と答えて
「それは単にユーリのそばにいるための口実ではなくて?悪いけど、いくら時間をかけて親しくなろうとも一度断った伴侶の申し出をユーリが撤回することはないと思うよ?」
とリオン王弟殿下に言われてしまい、「そんなの分からないじゃないか・・・」とちえっ、と皇子は口を尖らせた。いやアンタ、まだ諦めてなかったのかよ!
「皇子⁉︎」
いい加減にしてくださいよ、と僕が言おうと思った時だった。
申し訳程度にコン、と軽く一度だけ部屋の扉がノックされたのと同時に
「随分と賑やかだと思えば、これは一体何の集まりです?」
あのビロードのような艶やかな声がして、旅装姿とおぼしきマントに身を包んだシェラザード様がそこに立っていた。
「ちなみに参考までに聞くけど、僕らにはない君の魅力っていうのは何かな?」
と尋ねた。すると皇子は胸を張って、
「明らかにキミ達とは違う点がボクにはあるよね!それはユーリ様よりも歳下ってこと!」
と言った。
「それが魅力だと・・・?」
そう聞き返したレジナス様の声が気のせいかいつもよりも低い。
「そうさ!キミ達はみんなユーリ様よりも歳上だろう?それはとっても頼り甲斐があってユーリ様もキミ達に遠慮なく甘えられるんだろうけど、それは逆にユーリ様自身が誰かに甘えられたり誰かを甘やかすってことは知らないと思うんだよね!」
そう皇子は言った。
「だってユーリ様よりも歳上のキミ達がユーリ様を甘やかすならともかく、恥ずかしげもなく甘えるなんて出来るかい?ボクは出来るよ、だってユーリ様よりも歳下だし、甘えるのは得意だからね!」
それ、そんなに胸を張って威張って言えることか・・・?
いやまあ、確かに国では皇族の一番歳下の殿下で家族はともかく国民からも国の末っ子殿下として愛されて甘やかされてるところはあるから、確かに甘え上手ではあるか・・・。
「わ、私は別に甘やかしてもらおうとも誰かを甘かそうとも思ってませんけど・・・⁉︎」
なぜかユーリ様が赤くなっているのは普段自分がリオン王弟殿下達を始めとした彼ら伴侶達に甘やかされているっていう自覚があるからかな?
まあ住まいである奥の院をほぼ男子禁制にされるくらいには殿下に溺愛されているしね・・・。
「え、でも実際甘えられたり頼られたりすると結構嬉しいと思うよ?ねぇユーリ様、もしボクがここに滞在することになったらルーシャ国の風習や食べ物のことを色々とボクに教えて欲しいな。優しいユーリ様なら、まるでお姉様のように異国の地に来たボクに親切にしてくれるよね・・・?祖国が恋しくなった時には頭を撫でて慰めてくれると嬉しいな・・・」
「くっ・・・!」
皇子にちらりとわざとらしい上目遣いで見られたユーリ様が狼狽えた。あれ?皇子の無茶苦茶な理屈がなぜか通じてる?
すると僕の背後であの白い子が
「ユーリ様、相変わらずお姉様とかおねえちゃんって言葉に弱いですよね・・・」
と呆れたように呟いて、まだ笑っていたユリウス様が
「エル君が悪いんすよ、ユーリ様が頭を撫でてあげようとするとすぐ逃げたりするんすから。たまにはおねえちゃん呼びにも付き合ってあげればいいじゃないすか」
なんて言って
「主に対してそんなことは出来ません」
と返されている。
どうやらユーリ様は元から誰かに頼られたりお姉さん呼びされるのに憧れているらしい。
なんとかユーリ様の伴侶の一角に食い込もうと頑張っているジェン皇子はなおも
「あとボクはここにいる伴侶の誰よりも愛嬌があると思う!リオン殿下を始めとしたみんなは・・・かっこいいけど愛嬌があるっていうのとはまた違うよね?それも他の伴侶にはないボクの魅力じゃないかな?」
とアピールしている。まあ確かに、黙っていれば美形なのに喋ると途端にアホの子みたいなところは人懐こくて愛嬌があるとも言えるけど。
ふと、昔我が家で飼っていた泥だらけにもかかわらず尻尾をブンブン振ってじゃれついて来ては母親のスカートの裾を汚して怒られていた犬を思い出した。
今の皇子ってあんな感じだ。周りに怒られるのが分からないまま無自覚かつ無防備に全身で突っ込んで行っている。
もうさっきからリオン王弟殿下の笑顔が怖くてそっちをまともに見られない。
シグウェル様も、あの冷たい瞳の奥でさてこれからの交渉でこの皇子をどうしてやろうかと考えているみたいだし。
唯一レジナス様だけが、本当に皇子がここに強引に居座るんじゃないかと心配そうに眉根を寄せている。
「た、他国の皇子様の頭を撫でるとかそんな失礼なことは出来ませんから!」
と皇子のバカみたいな主張をユーリ様は頑張って断ってるけど、
「そう?ボクの髪の艶やかさとなめらかさ、撫で心地の良さは皇国一だって母上にもよく褒められるし、そのまま長髪でいてって言われるくらいには触り心地がいいよ?」
はいどうぞ、と皇子は頭を下げてユーリ様に差し出している。
そんな皇子にユリウス様は
「いくらユーリ様に撫でて欲しいからって、一国の皇子様がそんな簡単に人に頭を下げるとかアリなんすか?」
と目を丸くして僕を見た。・・・あー、まあ普通だとあり得ないよね。だけどこれがジェン皇子だ。
街に降りてご飯を食べてる時も、よく無邪気に寄って来た市井の子供達が「皇子様の髪、さらさらー!」とか言って触って来ても怒るでもなく好きにさせてるし。
なんなら結い上げてる髪型をぐちゃぐちゃにされたりおままごとみたいに三つ編みにされても平気で「手触りいいでしょ?楽しい?良かったねぇ!」なんて言って笑いながらご飯を食べ続けている。
だから今みたいに髪の毛を触られるために頭を差し出すのも全然抵抗はないのだ。
そんな説明をすれば
「やっぱりお人好しっすね・・・。いや、お人好しっていうか変わり者・・・?」
とユリウス様は首を傾げている。
「そこはおおらかとか器が大きいって言って欲しいな!」
まだ頭をユーリ様に下げたまま皇子はそうユリウス様に言った。
・・・自分で自分をそんな風に褒めないでよ。
さすがに呆れて
「皇子、いい加減にしてください。ユーリ様を困らせてますよ。いつまでもそんな事をしてたら交渉どころかすぐにここから追い出されてしまいますから。」
そう言ったら、ユーリ様を困らせるのは本意ではないと素直に頭を上げたジェン皇子は、ちらっとユーリ様を見ると僕にこそこそと
「ね、見た?困り顔も可愛いよ、どんな顔をしても可愛いなんてすごいね。」
と言ってきた。それには同意するけどリオン王弟殿下達が目の前にいるこの状況で頷くと、更にこの皇子を調子づかせる気がする。そう思った僕が
「はあ、まあ・・・」
曖昧に言葉を濁せば
「なんだよシーリン、はっきりしないね!白い肌にほっぺをうっすら薔薇色に染めて、ちょっと下げた眉に長いまつ毛の奧からボクを見ているあの綺麗な黒い瞳を見てよ!すっごく可愛いよ?笑った顔も魅力的だけど、困り顔も可愛いからその顔を見たくてもっと困らせたくなっちゃいそうだよ?」
と大きな声で力説された。ちょっ、何言ってんのアンタ、殿下達が聞いてどう思うか。
そう青くなった僕の耳にシグウェル様の
「ユーリの色々な表情を見たくなる気持ちは良く分かるが、その顔を見られるのは君ではなく伴侶である俺達の特権だ。滅多な事は言わないでもらおうか?」
という冷静っていうか冷ややかな声が聞こえてきた。
あれ?声に魔力とか乗せてないよね?今のその言葉だけで気のせいか部屋の温度がいくらか下がったような気がするんですけど。
「伴侶の特権⁉︎いいなあ、それは素晴らしいね!なんて羨ましいんだろう‼︎」
シグウェル様の注意を物ともせずに、むしろキラキラした目で皇子はシグウェル様に「他にどんな特権が?」と向き直った。強い。マイペース過ぎるだろ、ウチの皇子。
「・・・」
そんな皇子の態度に、さすがのシグウェル様も声を無くして呆れたように無言で皇子を見つめ返し、
「団長をあんな好奇心いっぱいの目で見つめて黙らせる人なんて初めて見たっす!」
とユリウス様はまたなぜか笑いを噛み殺している。
そんな皇子やシグウェル様達を見て、リオン王弟殿下はやれやれと肩をすくめると
「ともかく、伴侶の申し出についてはユーリも断ったことだしその件については終わりにしてもらえないかな?それよりも今は海上に建設する船舶の誘導装置について話し合いたいんだけど」
と話の軌道修正をした。すると皇子は
「それならさっきも言ったように、とりあえずシーリンは国に返してボクがここに残るよ!そうすればじっくり交渉が出来るし迷惑をかけたシーリンの身の安全も保障出来るからね。」
と答えて
「それは単にユーリのそばにいるための口実ではなくて?悪いけど、いくら時間をかけて親しくなろうとも一度断った伴侶の申し出をユーリが撤回することはないと思うよ?」
とリオン王弟殿下に言われてしまい、「そんなの分からないじゃないか・・・」とちえっ、と皇子は口を尖らせた。いやアンタ、まだ諦めてなかったのかよ!
「皇子⁉︎」
いい加減にしてくださいよ、と僕が言おうと思った時だった。
申し訳程度にコン、と軽く一度だけ部屋の扉がノックされたのと同時に
「随分と賑やかだと思えば、これは一体何の集まりです?」
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