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番外編
西方見聞録 27
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ジェン皇子がガラス鉢にかけた余計な魔法のせいでとんでもない事になってしまった。
僕は今、宮廷魔導士団の副団長という位の高い人を騙して仲介役にした上で、結婚式を控えたユーリ様に自国の皇子との縁談を勧めるために会いに来た不届者になっているのだ。
なんて誤解、なんて理不尽。苦節一年弱かけて皇子のワガママに付き合った挙句、二国間の親善を推進するどころか一歩間違えれば交流断絶の危機だ。
そもそも、鉢に添付されていたジェン皇子の肖像画入りの説明書を先に始末して安心していたのにご丁寧にも鉢そのものにまでこんな仕掛けをしている辺り、あの皇子は僕が説明書を捨てる事を想定して念のため仕掛けをしていたに違いない。
そういうところだけやけに頭が回るんだよなぁあの人は!
腹立ちを抑えながらリオン王弟殿下やユーリ様達に深く頭を下げて僕は自分の身分と目的を正直に話した。
出自は皇国でも重鎮にあたり皇族を支えている四大貴族の家柄の一つで、母親は皇太子を始めとした三人の皇子殿下の乳母を務めていたこと。
僕もその関係から乳兄弟兼お目付け役と側近で幼い頃からジェン皇子と一緒に育ったこと。
遠く離れていて交流の乏しいルーシャ国の「美しいお姫様」の噂を聞いた皇子がユーリ様に憧れて、自分がルーシャ国に婿入りをすることで二つの国の親善と交流も計れないかと思いついてまずはユーリ様と四人の伴侶の方々の人となりを知り仲良くするために僕をこの国に派遣したことなど。
・・・まああの皇子様、実際はそこまで深く考えていたわけじゃなく「綺麗で優しいお姫様が素敵な伴侶を募集してるならボクもそれに立候補したいな!」くらいの話しっぷりだったけど。
だけど少し色を付けて話してちょっとでも皇子や皇国への悪印象を和らげるに越したことはないだろう。
そんな僕の話を全て聞き終えたリオン王弟殿下は
「皇太子やその側近ならともかく、さすがに末の第三皇子の側近までは把握していなかったな、僕もまだまだ詰めが甘い。」
となぜか反省していた。いや、それで普通ですってば。ほとんど交流のない国の末皇子の周りの人間関係まで正確に把握していたらそれはそれで怖い。
そしてレジナス様には
「やはり職人ではなかったか。身分からすると貴族だが軍部の仕事や任務には携わっていないのか?」
と聞かれた。え?よく分かったなあ、僕の家は文官というよりもどっちかというと武官寄りだ。だからジェン皇子の護衛もするし、皇子に同行して海洋の国防任務も補佐している。そんなことまで話して
「そういえばレジナス様は最初から僕が職人かどうか気にされていましたが、それはなぜでしょうか。」
とずっと気になっていたことを聞いてみた。それなりに職人としての擬態は出来ていたはずなのに、一体僕のどこが不自然だったんだろうか。今後の参考にしたい。
するとレジナス様はごく当然のようにああ、と頷き教えてくれた。
「歩く時の重心と足運びが一般人のそれとは違うように見えた。体幹がしっかりしていて足音も普通の人間よりもしなかったからな。」
その答えにユリウス様が呆れている。
「いや、そんなビミョーなとこに気付くのはアンタくらいのもんっすよ。普通はそんな違い、分かんないっすから。何なんすかそれ。」
「人はそれぞれ歩き方も足音も違う。リオン様もユーリも、勿論お前もだ。それと同じで年齢や職業、老若男女でもそこにクセや違いが出てくるから暗殺者や侵入者がいくら偽装しようがそれで見破る事が出来る。」
当たり前のようにそう言われたものだから、ユリウス様は
「言ってることと見分け方がまるで犬のソレみたいなんすよねぇ・・・」
と独りごちていた。僕もまさかそんなところから疑われていたとは思わなかったので困惑した。
歩き方はともかく、足音?そこまで気を使って擬態は出来ない。そもそも職人とか町人っぽい足音ってなんだ?
ユリウス様じゃないけど、そんなところまで気付くレジナス様がちょっと異常っていうか人間離れしていると思う。
当の本人は
「そうか?シェラなら俺の言ってることも分かると思うが」
と首を傾げて
「俺も言ってることは分かるけど、実際にそれで怪しい人を見破れるかどうかはまた別の話っすからね⁉︎それ、絶対シェラザード様にも『さすが獣じみている人は言うことが違いますねぇ、ついに人間の皮を被るのもやめましたか?』ってイヤミを言われるやつ!」
とわりとヒドイ突っ込みを入れられていた。・・・まあ、あのシェラザード様ならそんな事も言いかねないけど。なんかそんなセリフをあの妖しい笑顔で笑いながら言ってるのが想像できちゃうけど。
そこでふと、魔導士院でシグウェル様に会った時も僕が見た目以上の魔力を隠していると気付かれ怪しまれていたのを思い出した。
「あの、ユリウス様・・・。今日はご不在ですがその節はシグウェル様にも僕の正体を隠していて申し訳ありませんでした。」
と頭を下げた。あの時は必死で誤魔化すしかなかったけど、正体がバレた今となっては素直に謝るしかない。
するとユリウス様がああ!と声を上げた。
「そういえばあの時、団長が散々脅しをかけてシーリンさんの魔力を暴こうとしたのに俺にも分からないくらい少しもその魔力は揺らがなかったっすよね!あれは大したもんでした。」
そう感心された。それにリオン王弟殿下もへぇ、と呟いた。
「シグウェルが詰問してユリウスがその魔力を測ったのに力を隠し通したの?それは相当魔力操作に優れているね。」
「あ・・・ジェン皇子の魔力が強くて操作が大雑把な分、それを補佐する僕の魔力操作が上手くなっただけというか」
ここに持ち込んだガラス鉢を作った時みたいに頑張れば繊細な魔法も使えるくせに、あの皇子はちょっと調子に乗るとその膨大な魔力の制御が甘くなる。
そのせいで海上に起こした水竜巻がおかしな方向に行きかけて僕の風魔法で進路補正をしたことが何度あったことか。
そんな話をしたらリオン王弟殿下が
「強力な水魔法と風魔法の組み合わせか。・・・なるほど、それは上手く使えば航路の安定に使えそうだね。」
と顎に手を当てて思案した。え?なんの話?
不思議に思った僕をそのままに、王弟殿下はユリウス様に
「海に魔力を込めた巨大な魔法石を設置するのは可能かな?」
と聞いている。それに対して
「うーん・・・灯台みたいな塔を建ててそこに魔石を設置するとか?ただ、定期的にその魔石に魔力の補充は必要じゃないっすかねぇ。何をするつもりっすか?」
とユリウス様は答えながらもその意図を掴みかねている。僕も王弟殿下が何をしたいのかよく分からないけど。
魔石がどうとか航路がどうとか、ユリウス様だけでなくいつの間にかレジナス様まで加えて僕そっちのけで話しているのを正座したまま見上げていれば、そんな僕の肩がちょんちょんとつつかれた。
なんだ?と横を見ればユーリ様が腰をかがめて僕を見ている。
いたずらっ子のように無邪気な笑顔をあの綺麗な顔に浮かべて黒曜石みたいな美しい瞳も笑ませ、
「とりあえず、リオン様達の話し合いが終わるまでお茶を飲みませんか?」
と言われた。
「いや、でも・・・」
まだスパイ容疑がかかったままだし、と戸惑えば
「大丈夫ですよ、一緒にお菓子を食べながら待ちましょう!ユリウスさんがおいしいクッキーを買ってきてくれたので!」
と手を引かれて立ち上がらせられた。そんな僕をリオン王弟殿下は一瞬ちらりと横目で見たけど何も言わない。
ユーリ様はほらね、大丈夫ですよ!とそのまま僕をいつの間にかお茶とお菓子が二人分用意されているテーブルへと案内する。
「うちの皇子のせいで迷惑をかけたのに、怒ってないんですか・・・?」
椅子に掛けながら恐る恐るそう聞けば、
「怒ってはないですよ!まあちょっとびっくりはしましたけど・・・でもこんなに手間のかかる綺麗なお花をくれる人ですもん、悪気があってしたんじゃないってことは分かりますから!リオン様もそれは分かってるはずですよ。」
さくっ、と軽やかな音をさせながらクッキーを口にしてユーリ様はそう笑う。
んー、おいしい!とクッキーを味わうこの上なく幸せそうなその笑顔はなんとなくジェン皇子を思い出させた。
どうやら本当に怒っていないみたいだ。ほっと息をついた僕だったけど、ユーリ様は
「あ、でも!」
と続けると
「旦那様はもう募集していないので、申し訳ないんですけど皇子様の求婚はお断りします!伴侶募集中とか、根も葉もない噂なのでそれはそちらの国の人達にもちゃんと伝えてくださいね!」
とはっきり言われてしまった。まあそうだよね、さすがに四人も夫がいたらお腹いっぱいだよね。
「はい、皇子にはしっかり諦めるように言い聞かせますので・・・本当に申し訳ありませ」
「ちょっといいかな」
ユーリ様に頭を下げている途中、僕の謝罪を遮る形でリオン王弟殿下の声がかかった。
「はい?」
そちらに向き直れば、
「君の処遇を決めたよ。とりあえずこのまま勾留の上で皇国に連絡をして国使の派遣をさせ、それから今回の騒ぎの慰謝料について交渉しようか。急ぎの連絡で魔法も使おうと思うから、ユールヴァルト領に帰っているシグウェルもすぐに呼び寄せて交渉に当たらせるよ。」
そうリオン王弟殿下はあの柔らかい笑顔で告げた。
「勾留?慰謝料・・・?」
「それはそうだろう?この忙しい時期に余計な騒動を起こしてユーリの心を乱したんだから。勾留といっても地下牢に放り込んだり塔のてっぺんに幽閉するわけじゃないよ。腐っても皇国の皇子殿下の側近で貴族なんだからね。お客様扱いで丁寧に、軟禁させてもらおうかな」
にこにことそう言ってくるリオン王弟殿下の笑顔が怖い。
ユーリ様は
「え?私は別に迷惑をかけられたと思ってないですよ⁉︎」
と僕を庇ってくれたけど、
「こういうのは後腐れしないようにきちんと処理するのが大事だからね。大丈夫、手荒な真似はしないよ。ユーリが彼を心配するなら、あてがう部屋もこの奥の院の一室にしてもいいし。」
と譲歩しつつも僕を人質に皇国と交渉する気満々だ。
まずいぞ皇子、アンタのせいでえらいことになってしまった。
ユーリ様に会えると喜んでここに来たはずが、皇国に迷惑をかけるとんでもない展開になってしまって僕は紅茶の入っているカップを両手でぎゅっと握りしめた。
僕は今、宮廷魔導士団の副団長という位の高い人を騙して仲介役にした上で、結婚式を控えたユーリ様に自国の皇子との縁談を勧めるために会いに来た不届者になっているのだ。
なんて誤解、なんて理不尽。苦節一年弱かけて皇子のワガママに付き合った挙句、二国間の親善を推進するどころか一歩間違えれば交流断絶の危機だ。
そもそも、鉢に添付されていたジェン皇子の肖像画入りの説明書を先に始末して安心していたのにご丁寧にも鉢そのものにまでこんな仕掛けをしている辺り、あの皇子は僕が説明書を捨てる事を想定して念のため仕掛けをしていたに違いない。
そういうところだけやけに頭が回るんだよなぁあの人は!
腹立ちを抑えながらリオン王弟殿下やユーリ様達に深く頭を下げて僕は自分の身分と目的を正直に話した。
出自は皇国でも重鎮にあたり皇族を支えている四大貴族の家柄の一つで、母親は皇太子を始めとした三人の皇子殿下の乳母を務めていたこと。
僕もその関係から乳兄弟兼お目付け役と側近で幼い頃からジェン皇子と一緒に育ったこと。
遠く離れていて交流の乏しいルーシャ国の「美しいお姫様」の噂を聞いた皇子がユーリ様に憧れて、自分がルーシャ国に婿入りをすることで二つの国の親善と交流も計れないかと思いついてまずはユーリ様と四人の伴侶の方々の人となりを知り仲良くするために僕をこの国に派遣したことなど。
・・・まああの皇子様、実際はそこまで深く考えていたわけじゃなく「綺麗で優しいお姫様が素敵な伴侶を募集してるならボクもそれに立候補したいな!」くらいの話しっぷりだったけど。
だけど少し色を付けて話してちょっとでも皇子や皇国への悪印象を和らげるに越したことはないだろう。
そんな僕の話を全て聞き終えたリオン王弟殿下は
「皇太子やその側近ならともかく、さすがに末の第三皇子の側近までは把握していなかったな、僕もまだまだ詰めが甘い。」
となぜか反省していた。いや、それで普通ですってば。ほとんど交流のない国の末皇子の周りの人間関係まで正確に把握していたらそれはそれで怖い。
そしてレジナス様には
「やはり職人ではなかったか。身分からすると貴族だが軍部の仕事や任務には携わっていないのか?」
と聞かれた。え?よく分かったなあ、僕の家は文官というよりもどっちかというと武官寄りだ。だからジェン皇子の護衛もするし、皇子に同行して海洋の国防任務も補佐している。そんなことまで話して
「そういえばレジナス様は最初から僕が職人かどうか気にされていましたが、それはなぜでしょうか。」
とずっと気になっていたことを聞いてみた。それなりに職人としての擬態は出来ていたはずなのに、一体僕のどこが不自然だったんだろうか。今後の参考にしたい。
するとレジナス様はごく当然のようにああ、と頷き教えてくれた。
「歩く時の重心と足運びが一般人のそれとは違うように見えた。体幹がしっかりしていて足音も普通の人間よりもしなかったからな。」
その答えにユリウス様が呆れている。
「いや、そんなビミョーなとこに気付くのはアンタくらいのもんっすよ。普通はそんな違い、分かんないっすから。何なんすかそれ。」
「人はそれぞれ歩き方も足音も違う。リオン様もユーリも、勿論お前もだ。それと同じで年齢や職業、老若男女でもそこにクセや違いが出てくるから暗殺者や侵入者がいくら偽装しようがそれで見破る事が出来る。」
当たり前のようにそう言われたものだから、ユリウス様は
「言ってることと見分け方がまるで犬のソレみたいなんすよねぇ・・・」
と独りごちていた。僕もまさかそんなところから疑われていたとは思わなかったので困惑した。
歩き方はともかく、足音?そこまで気を使って擬態は出来ない。そもそも職人とか町人っぽい足音ってなんだ?
ユリウス様じゃないけど、そんなところまで気付くレジナス様がちょっと異常っていうか人間離れしていると思う。
当の本人は
「そうか?シェラなら俺の言ってることも分かると思うが」
と首を傾げて
「俺も言ってることは分かるけど、実際にそれで怪しい人を見破れるかどうかはまた別の話っすからね⁉︎それ、絶対シェラザード様にも『さすが獣じみている人は言うことが違いますねぇ、ついに人間の皮を被るのもやめましたか?』ってイヤミを言われるやつ!」
とわりとヒドイ突っ込みを入れられていた。・・・まあ、あのシェラザード様ならそんな事も言いかねないけど。なんかそんなセリフをあの妖しい笑顔で笑いながら言ってるのが想像できちゃうけど。
そこでふと、魔導士院でシグウェル様に会った時も僕が見た目以上の魔力を隠していると気付かれ怪しまれていたのを思い出した。
「あの、ユリウス様・・・。今日はご不在ですがその節はシグウェル様にも僕の正体を隠していて申し訳ありませんでした。」
と頭を下げた。あの時は必死で誤魔化すしかなかったけど、正体がバレた今となっては素直に謝るしかない。
するとユリウス様がああ!と声を上げた。
「そういえばあの時、団長が散々脅しをかけてシーリンさんの魔力を暴こうとしたのに俺にも分からないくらい少しもその魔力は揺らがなかったっすよね!あれは大したもんでした。」
そう感心された。それにリオン王弟殿下もへぇ、と呟いた。
「シグウェルが詰問してユリウスがその魔力を測ったのに力を隠し通したの?それは相当魔力操作に優れているね。」
「あ・・・ジェン皇子の魔力が強くて操作が大雑把な分、それを補佐する僕の魔力操作が上手くなっただけというか」
ここに持ち込んだガラス鉢を作った時みたいに頑張れば繊細な魔法も使えるくせに、あの皇子はちょっと調子に乗るとその膨大な魔力の制御が甘くなる。
そのせいで海上に起こした水竜巻がおかしな方向に行きかけて僕の風魔法で進路補正をしたことが何度あったことか。
そんな話をしたらリオン王弟殿下が
「強力な水魔法と風魔法の組み合わせか。・・・なるほど、それは上手く使えば航路の安定に使えそうだね。」
と顎に手を当てて思案した。え?なんの話?
不思議に思った僕をそのままに、王弟殿下はユリウス様に
「海に魔力を込めた巨大な魔法石を設置するのは可能かな?」
と聞いている。それに対して
「うーん・・・灯台みたいな塔を建ててそこに魔石を設置するとか?ただ、定期的にその魔石に魔力の補充は必要じゃないっすかねぇ。何をするつもりっすか?」
とユリウス様は答えながらもその意図を掴みかねている。僕も王弟殿下が何をしたいのかよく分からないけど。
魔石がどうとか航路がどうとか、ユリウス様だけでなくいつの間にかレジナス様まで加えて僕そっちのけで話しているのを正座したまま見上げていれば、そんな僕の肩がちょんちょんとつつかれた。
なんだ?と横を見ればユーリ様が腰をかがめて僕を見ている。
いたずらっ子のように無邪気な笑顔をあの綺麗な顔に浮かべて黒曜石みたいな美しい瞳も笑ませ、
「とりあえず、リオン様達の話し合いが終わるまでお茶を飲みませんか?」
と言われた。
「いや、でも・・・」
まだスパイ容疑がかかったままだし、と戸惑えば
「大丈夫ですよ、一緒にお菓子を食べながら待ちましょう!ユリウスさんがおいしいクッキーを買ってきてくれたので!」
と手を引かれて立ち上がらせられた。そんな僕をリオン王弟殿下は一瞬ちらりと横目で見たけど何も言わない。
ユーリ様はほらね、大丈夫ですよ!とそのまま僕をいつの間にかお茶とお菓子が二人分用意されているテーブルへと案内する。
「うちの皇子のせいで迷惑をかけたのに、怒ってないんですか・・・?」
椅子に掛けながら恐る恐るそう聞けば、
「怒ってはないですよ!まあちょっとびっくりはしましたけど・・・でもこんなに手間のかかる綺麗なお花をくれる人ですもん、悪気があってしたんじゃないってことは分かりますから!リオン様もそれは分かってるはずですよ。」
さくっ、と軽やかな音をさせながらクッキーを口にしてユーリ様はそう笑う。
んー、おいしい!とクッキーを味わうこの上なく幸せそうなその笑顔はなんとなくジェン皇子を思い出させた。
どうやら本当に怒っていないみたいだ。ほっと息をついた僕だったけど、ユーリ様は
「あ、でも!」
と続けると
「旦那様はもう募集していないので、申し訳ないんですけど皇子様の求婚はお断りします!伴侶募集中とか、根も葉もない噂なのでそれはそちらの国の人達にもちゃんと伝えてくださいね!」
とはっきり言われてしまった。まあそうだよね、さすがに四人も夫がいたらお腹いっぱいだよね。
「はい、皇子にはしっかり諦めるように言い聞かせますので・・・本当に申し訳ありませ」
「ちょっといいかな」
ユーリ様に頭を下げている途中、僕の謝罪を遮る形でリオン王弟殿下の声がかかった。
「はい?」
そちらに向き直れば、
「君の処遇を決めたよ。とりあえずこのまま勾留の上で皇国に連絡をして国使の派遣をさせ、それから今回の騒ぎの慰謝料について交渉しようか。急ぎの連絡で魔法も使おうと思うから、ユールヴァルト領に帰っているシグウェルもすぐに呼び寄せて交渉に当たらせるよ。」
そうリオン王弟殿下はあの柔らかい笑顔で告げた。
「勾留?慰謝料・・・?」
「それはそうだろう?この忙しい時期に余計な騒動を起こしてユーリの心を乱したんだから。勾留といっても地下牢に放り込んだり塔のてっぺんに幽閉するわけじゃないよ。腐っても皇国の皇子殿下の側近で貴族なんだからね。お客様扱いで丁寧に、軟禁させてもらおうかな」
にこにことそう言ってくるリオン王弟殿下の笑顔が怖い。
ユーリ様は
「え?私は別に迷惑をかけられたと思ってないですよ⁉︎」
と僕を庇ってくれたけど、
「こういうのは後腐れしないようにきちんと処理するのが大事だからね。大丈夫、手荒な真似はしないよ。ユーリが彼を心配するなら、あてがう部屋もこの奥の院の一室にしてもいいし。」
と譲歩しつつも僕を人質に皇国と交渉する気満々だ。
まずいぞ皇子、アンタのせいでえらいことになってしまった。
ユーリ様に会えると喜んでここに来たはずが、皇国に迷惑をかけるとんでもない展開になってしまって僕は紅茶の入っているカップを両手でぎゅっと握りしめた。
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