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番外編

なごり雪 23

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失礼します、と言って部屋へ入って来たシェラさんはソファに押し倒されている私と押し倒しているリオン様、その両方を交互に見ると

「・・・今からでもオレも混ぜていただけませんか?」

と心底羨ましそうな顔をして言ってきた。いや、ないから!

リオン様も呆れて、私を抱き起こしながら

「何を言ってるんだ、ダメに決まってるだろう?そもそもこれはただふざけていただけで君が考えているような不埒な真似はさすがにしないよ。」

と言ったけど。ふ、ふざけてたってことはからかわれた?ていうかしないって言われるのもなんか後が怖いんですけど⁉︎

私を抱き起こした後もしっかりと肩を抱いてくっついているリオン様を赤くなって見つめれば、シェラさんが

「まだ挙式前ですので本番なしだとしても、殿下との合意の上でユーリ様をかわいがり夢見心地にしてさしあげられる良い機会かと思ったのですが違いましたか・・・。」

とさっきまでの羨ましそうな顔から一転して残念そうな顔になった。

「何言ってるんですかシェラさん⁉︎」

本番⁉︎本番って何?いやナニなんだろうけども‼︎

思わずリオン様からシェラさんへと視線を移して注意すればリオン様も、

「君ねぇ、捻挫したユーリにお風呂であれこれした挙句に湯当たりさせて僕に叱られたことをもう忘れたの⁉︎あれだけのことをしておいて本番がどうとかよく言えるね?まだ懲りてないの⁉︎」

と声を大きくした。お風呂であれこれって・・・思い出させないで欲しい。

「ちょ、ちょっとリオン様、声が大きいです!」

本番がどうのとか部屋の外にいる護衛の人達やエル君に聞こえたらどう思われることか。

慌ててあわあわとリオン様の服を引くとさすがにリオン様も我に返ってごめんと声のトーンを落としてくれた。

そして気持ちを切り替えるようにため息を一つつくと、

「・・・それで?夜分にわざわざ訪ねて来るだなんてよっぽどの用なんだろうね?その手に持っているものが理由?」

とじろりとシェラさんを見つめる。

「そうでした、あまりにもお二人の仲が良くて用件を忘れるところでした。」

リオン様の苦言と渋い顔を物ともせずにシェラさんはいそいそと、その手にしていた大きな包みを開けた。

中から出てきたのは銀色の大きな毛皮だ。あ、これは。

リオン様もシェラさんが広げて見せたそれにふむ、と頷いた。

「銀毛魔孤だね。もしかしてこれ、ダーヴィゼルドで君とレジナスが討伐した例のもの?」

「ええそうです。ダーヴィゼルド領を混乱させるためにセビーリャ族が無謀にも己の命を賭けて魔石に封じ込めて持ち込んだものです。」

まあ結局は命懸けで捕らえた魔孤はオレ達に倒されて当の本人も死んでしまった訳ですが、と肩をすくめながらシェラさんは魔孤の毛皮を大事そうに撫でて話を続けた。

「ようやく洗毛後のなめしと加工が終わりましたので少しでも早くお見せしたく持参しました。殿下もどうぞ、お手に取ってご覧ください。」

そう言われ手渡された毛皮を広げてまじまじと見たリオン様は感心したように声を上げる。

「へえ、確かに見事だね。部屋の灯りにすら光を弾くように輝いているし手触りもなめらかだ。それにかなり大きいけど、これはこの後ユーリの衣装にするの?」

リオン様が両手に持って広げた毛皮はシングルサイズより少し大きいくらいの毛布みたいな四角い形だった。

そんなリオン様にシェラさんは残念そうに首を振る。

「それでも毛皮の上等な部分を残すためにだいぶ端の方を裁断しましたし、状態の悪かった尾や手足の部分も切り落としました。それに頭を落として倒したために首の部分もありませんし。本当は一枚皮で頭から尻尾までまるごと全てユーリ様に捧げたかったのですが。」

「これでも充分じゃない?」

「やはり滅多にない銀毛魔孤との戦闘の経験不足は大きいですね。手間取ったため思っていたよりも毛皮の損傷が大きかったです。ユールヴァルト家には本家当主夫妻のまとう頭の部分がついた毛皮のコートや襟巻きもあると聞いておりますので、銀毛魔孤を倒すのはやはりあの一族が優れているのだと改めて思い知りました。」

「確かにね。魔法を弾く特殊な魔物なのに毛皮の状態が良いまま魔法で倒してしまうあたりがシグウェルの家の凄いところだし、それが主にユールヴァルト家がほぼ占有で誇らしげに銀毛魔孤の毛皮を身に付けている理由だけど・・・。でもこれは君達が狩った獲物だから別にユールヴァルト家に許可を取って使わなくてもいいんだよ?」

私もリオン様と一緒にツルツルツヤツヤの毛皮を撫でながら二人の会話を聞いていればそんな事を話している。

そう言えば私もシグウェルさんの家から贈られた銀毛魔孤の毛皮をコートにする時は一応シグウェルさんに確かめたっけ。迂闊に使うと怒られたりユールヴァルト家の本家の人だと思われたりする貴重な代物だ。

するとシェラさんは頷いて、

「一応念のためダーヴィゼルド滞在中にシグウェル殿にも魔孤の毛皮の使用については確認しました。所有権も使用権も討伐した者にあるということでしたのでこうしてお持ち出来たというわけです。」

そう言うと私に向き直りにこりと微笑んだ。

「裁断した尾と手足の部分も加工して、そちらはダーヴィゼルドのフレイヤ様の付け襟や小物、ジークムント様のおくるみにして献上して参りました。ユーリ様には事後確認になりますがよろしかったでしょうか?」

あ、そうなんだ。銀毛魔孤はダーヴィゼルドでも滅多に出ないらしいからきっとヒルダ様達に喜んでもらえただろうなあ。勿論異論はない。

「全然構わないですよ、むしろ気を利かせてもらってありがとうございます!それが少しでも滞在中お世話になったことのお礼になっていればいいんですけど。」

「喜んでいただけて何よりです。ちなみにこの毛皮はそれが完成品になりますので。」

微笑んでいるシェラさんの言葉にリオン様が不思議そうな顔をした。

「これで完成?ここからユーリのものを何か仕立てるんじゃなくて?」

「それも考えたのですが・・・ちょっと失礼、お二人とも立ち上がっていただいてもよろしいですか?」

私達に立つように促したシェラさんはリオン様から銀毛魔孤の毛皮を受け取り、今まで私達が座っていた大きなソファにそれをふわりと掛けた。

毛布サイズのそれはゆったりと大きなソファの背もたれから腰掛ける部分を余裕で覆って下の部分は床につきそうなほどだ。

「さすがのユールヴァルト家でも毛皮をまるごとソファの敷き物には使っていないでしょう?王族とユーリ様にふさわしい贅沢な使い方だと思いませんか?」

うーん確かに。シグウェルさんちの本家当主が正装の時に身に纏うような代物をお尻の下に敷くなんてとんでもなく贅沢な使い方な気がする。

「そんな使い方をしてるのをドラグウェル様やシグウェルさんに見られたら怒られませんかね・・・?」

「ドラグウェル殿の絶句する姿が目に浮かぶよ・・・。さすがのシグウェルも目を丸くしそうだし、もしユリウスがそこに同行してたら間違いなく騒いでシェラの正気を疑われるだろうね。」

戸惑って顔を見合わせた私達だったけど、シェラさんは相変わらず機嫌良さげにニコニコとそんな私達を見て微笑んでいた。
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