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番外編
なごり雪 20
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最終的には爽やかな初夏の朝、って感じの朝食とはなんか違う感じになってしまって逃げ帰るように赤い顔のまま部屋まで戻るとシンシアさんに
「お顔が赤いですよ?汗をかくほど走られるなんていけません!」
と朝からお風呂に入れられてしまった。
「今日は大切な儀礼式典がありますからね、きちんとなさらないと。」
なんてお小言までもらってしまったけど、人を逃げるように帰って来させたのはおかしな事をしたシェラさんのせいだ。
「だ、大丈夫!まだ朝も早いですから支度には充分間に合いますよね?」
「完璧に美しい状態のユーリ様を皆様にご覧になっていただくためにはどれだけ時間があっても足りません。」
シンシアさんにはピシャリと言われてマリーさんにも
「そうですよ、名目上はジークムント様の祝福式ですけど滅多にユーリ様をご覧になれない地方の人達にしてみれば生のユーリ様を見られる貴重な機会なんですから!」
と力説された。
ジークムント様というのはヒルダ様とカイゼル様の間に生まれた赤ちゃんのことだ。
今回ダーヴィゼルドを訪れるのに合わせて赤ちゃんが健康ですくすく育つように加護を付けさせて欲しいと、訪問する前のやり取りで話したらそれがなぜか「イリューディア神様のご加護と祝福を召喚者様から付けていただける特別な機会!これはぜひ領地のみんなにも見てもらわなければ!どうせなら祝福式としてお披露目しよう‼︎」みたいな盛り上がりになっていてびっくりだ。
訪問初日のお茶会でヒルダ様にニコニコしながら「せっかく休暇で来ていただいたのに申し訳ありませんが・・・」と、その話を出された時は思わず固まってしまった。
ヒルダ様の両隣に座っていたカイゼル様とバルドル様がそれぞれ苦笑したり申し訳なさそうな顔をしていたところからして、ヒルダ様主導で決めたことなんだろうけど急な話に式典の段取り、護衛騎士の配置と二人も準備が大変だったに違いない。
「こんなに喜んでもらえるのはありがたいですけど、ちょっと規模が大きくなり過ぎてませんかね・・・。」
本当ならお城の一室で赤ちゃんのジークムント様を抱っこした上で額に祝福のキスでもして終わりのつもりだったのに、お城にある立派な拝礼殿に神官さんまで呼んで立ち合わせた上に聖歌隊の合唱の中で加護を付けて祝福することになってしまったのだ。
せめてもの救いは私から何か一言、みたいなコメントは言わなくていいことくらいだった。
すると私の髪の毛をまとめながらマリーさんが何を言ってるんですか、と笑った。
「ジークムント様は将来のダーヴィゼルド領の後継者で、そのお方へユーリ様が直々に加護を授けられるんですよ?それって王都からこーんなに離れた遠い地でもそこに住む人達のことを国もユーリ様もいつも気にかけて大事に思っていますよっていうアピールにもなりますから!派手にやらないと‼︎」
「は、はぁ・・・」
「それにほら、ここまで遠いと庶民にしてみればユーリ様の結婚式をお祝いするために王都まではなかなか行けない人達も多いですから。そういう人達にとってはこういう公式の場でユーリ様やそのご伴侶様の内二人が一緒にいるのを見られるのも大きいですよ!」
「え?」
それは考えたこともなかった。
いや、確かに今回レジナスさんもシェラさんも護衛じゃなく伴侶として同伴してるけどやってることはいつもの護衛とあんまり変わっていないのでほとんど意識していなかった。言ってもせいぜいレジナスさんと手を繋いで歩いていたくらいだし。
「レジナス様とシェラザード様がユーリ様を真ん中にして仲睦まじく行動されているご様子や、楽しげに会話されているユーリ様達お三方のことをダーヴィゼルドの人達は嬉しそうに見ていたんですけど・・・気付いてなかったんですか?」
「ぜ、全然・・・?」
三人で楽しげに会話してたっていうけどそれはあの二人の痴話喧嘩みたいなのを仲裁していたアレだろうか。
私を真ん中にして歩くのも、そうしないと二人が子供のケンカみたいになるからだったんだけど。
「まあ仲良さそうに見えていたんならそれでいいです・・・」
「式典ではジークムント様に祝福を授けて下がられる時にレジナス様とシェラザード様のお二人にエスコートをお願いしてますから!ぜひ三人一緒に並んでダーヴィゼルドの人達に微笑んであげてください、結婚式のいい練習になりますよ‼︎」
ふんすと鼻息も荒くマリーさんがそう言う。いつの間にそんな段取りに・・・?
シンシアさんもにっこりとそんなマリーさんの話の続きを引き取った。
「そのためレジナス様とシェラザード様お二人の騎士正装の礼服も王都より持参しておりますので、ユーリ様のご準備が出来次第私達はそちらの準備にも取りかかります。・・・まあユーリ様、ダーヴィゼルド風の髪型もヒルダ様から贈られたドレスもよくお似合いです。まるで雪の精霊のような美しい佇まいですよ。」
マリーさんの完成させた髪型や服装を最終チェックしたシンシアさんは満足そうに頷いた。だけどマリーさん本人は
「どうせならダーヴィゼルドの人達にも猫耳ヘアのユーリ様を見ていただきたかったです!」
とちょっと残念そうにしている。いやいや、大事な式典でそれはないから。
今の私は首にくるりと巻いてはいないものの、サイドを編み込みながら髪の毛を一本の三つ編みにして後ろに流している。
そしてその三つ編みにはごくシンプルに、一つだけの髪飾り。こういう地方の訪問や視察の時には必ず持って来ている、レジナスさんにプレゼントされたあのリンゴの花の髪飾りだ。
「透け感のある青みがかった白いドレスに華奢な白い髪飾りがとても清楚でよくお似合いですよ!」
なんてマリーさんは言ってるけど。
急に式典をすることになって申し訳ないとヒルダ様がわざわざ贈ってくれたドレスは開きの少ないオフショルダーで鎖骨と肩が少し見えているだけの、長袖タイプのロングドレスだ。
ただし季節柄、暑くないように長袖の腕部分は銀色の薄いシースルー風で透け感があってロングドレスにも隠れスリットが入っている。
そして肩からはマントのように長いケープがドレスの長袖部分と同じシースルー素材でドレスの後ろにまるで花嫁のヴェールのようになびいていた。
ドレスの素材は特殊な染め糸を使っているという話で、一見すると真っ白に見えるのに日の光に当たる角度によっては青みがかった薄水色にも輝いて見える不思議な素材だ。
・・・ていうか、ドレスの形や色といい私の髪型といい、髪の色が違うだけでなんていうか一歩間違えると某氷の女王のような出立ちだ。
いつありのままに何にも怖くないと歌い出してもおかしくない。これで氷魔法を使えたら完璧だろう。
なんてどうでもいいことを考えながら鏡に映る自分を見ていたら、黙り込んでいたので何か不満でもあると思ったのかマリーさんに
「どうかされましたかユーリ様。やっぱり長袖でも薄手なので寒いですか?せっかくの贈り物ですけど、背中のケープだけでも暖かいものに変えますか?」
と聞かれてしまった。あ、ごめんなさい違うんです。元の世界絡みでものすごいくだらない事を考えていただけで!と思ったら反射的に出た言葉は
「だ、大丈夫、少しも寒くないわ!」
・・・だった。おかげでシンシアさんとマリーさんの目は丸くなり、エル君には
「ユーリ様、言葉遣いがヘンです」
と無表情どころか冷たい目で見られてしまう羽目になり、誤魔化すのが大変になってしまったのだった。
「お顔が赤いですよ?汗をかくほど走られるなんていけません!」
と朝からお風呂に入れられてしまった。
「今日は大切な儀礼式典がありますからね、きちんとなさらないと。」
なんてお小言までもらってしまったけど、人を逃げるように帰って来させたのはおかしな事をしたシェラさんのせいだ。
「だ、大丈夫!まだ朝も早いですから支度には充分間に合いますよね?」
「完璧に美しい状態のユーリ様を皆様にご覧になっていただくためにはどれだけ時間があっても足りません。」
シンシアさんにはピシャリと言われてマリーさんにも
「そうですよ、名目上はジークムント様の祝福式ですけど滅多にユーリ様をご覧になれない地方の人達にしてみれば生のユーリ様を見られる貴重な機会なんですから!」
と力説された。
ジークムント様というのはヒルダ様とカイゼル様の間に生まれた赤ちゃんのことだ。
今回ダーヴィゼルドを訪れるのに合わせて赤ちゃんが健康ですくすく育つように加護を付けさせて欲しいと、訪問する前のやり取りで話したらそれがなぜか「イリューディア神様のご加護と祝福を召喚者様から付けていただける特別な機会!これはぜひ領地のみんなにも見てもらわなければ!どうせなら祝福式としてお披露目しよう‼︎」みたいな盛り上がりになっていてびっくりだ。
訪問初日のお茶会でヒルダ様にニコニコしながら「せっかく休暇で来ていただいたのに申し訳ありませんが・・・」と、その話を出された時は思わず固まってしまった。
ヒルダ様の両隣に座っていたカイゼル様とバルドル様がそれぞれ苦笑したり申し訳なさそうな顔をしていたところからして、ヒルダ様主導で決めたことなんだろうけど急な話に式典の段取り、護衛騎士の配置と二人も準備が大変だったに違いない。
「こんなに喜んでもらえるのはありがたいですけど、ちょっと規模が大きくなり過ぎてませんかね・・・。」
本当ならお城の一室で赤ちゃんのジークムント様を抱っこした上で額に祝福のキスでもして終わりのつもりだったのに、お城にある立派な拝礼殿に神官さんまで呼んで立ち合わせた上に聖歌隊の合唱の中で加護を付けて祝福することになってしまったのだ。
せめてもの救いは私から何か一言、みたいなコメントは言わなくていいことくらいだった。
すると私の髪の毛をまとめながらマリーさんが何を言ってるんですか、と笑った。
「ジークムント様は将来のダーヴィゼルド領の後継者で、そのお方へユーリ様が直々に加護を授けられるんですよ?それって王都からこーんなに離れた遠い地でもそこに住む人達のことを国もユーリ様もいつも気にかけて大事に思っていますよっていうアピールにもなりますから!派手にやらないと‼︎」
「は、はぁ・・・」
「それにほら、ここまで遠いと庶民にしてみればユーリ様の結婚式をお祝いするために王都まではなかなか行けない人達も多いですから。そういう人達にとってはこういう公式の場でユーリ様やそのご伴侶様の内二人が一緒にいるのを見られるのも大きいですよ!」
「え?」
それは考えたこともなかった。
いや、確かに今回レジナスさんもシェラさんも護衛じゃなく伴侶として同伴してるけどやってることはいつもの護衛とあんまり変わっていないのでほとんど意識していなかった。言ってもせいぜいレジナスさんと手を繋いで歩いていたくらいだし。
「レジナス様とシェラザード様がユーリ様を真ん中にして仲睦まじく行動されているご様子や、楽しげに会話されているユーリ様達お三方のことをダーヴィゼルドの人達は嬉しそうに見ていたんですけど・・・気付いてなかったんですか?」
「ぜ、全然・・・?」
三人で楽しげに会話してたっていうけどそれはあの二人の痴話喧嘩みたいなのを仲裁していたアレだろうか。
私を真ん中にして歩くのも、そうしないと二人が子供のケンカみたいになるからだったんだけど。
「まあ仲良さそうに見えていたんならそれでいいです・・・」
「式典ではジークムント様に祝福を授けて下がられる時にレジナス様とシェラザード様のお二人にエスコートをお願いしてますから!ぜひ三人一緒に並んでダーヴィゼルドの人達に微笑んであげてください、結婚式のいい練習になりますよ‼︎」
ふんすと鼻息も荒くマリーさんがそう言う。いつの間にそんな段取りに・・・?
シンシアさんもにっこりとそんなマリーさんの話の続きを引き取った。
「そのためレジナス様とシェラザード様お二人の騎士正装の礼服も王都より持参しておりますので、ユーリ様のご準備が出来次第私達はそちらの準備にも取りかかります。・・・まあユーリ様、ダーヴィゼルド風の髪型もヒルダ様から贈られたドレスもよくお似合いです。まるで雪の精霊のような美しい佇まいですよ。」
マリーさんの完成させた髪型や服装を最終チェックしたシンシアさんは満足そうに頷いた。だけどマリーさん本人は
「どうせならダーヴィゼルドの人達にも猫耳ヘアのユーリ様を見ていただきたかったです!」
とちょっと残念そうにしている。いやいや、大事な式典でそれはないから。
今の私は首にくるりと巻いてはいないものの、サイドを編み込みながら髪の毛を一本の三つ編みにして後ろに流している。
そしてその三つ編みにはごくシンプルに、一つだけの髪飾り。こういう地方の訪問や視察の時には必ず持って来ている、レジナスさんにプレゼントされたあのリンゴの花の髪飾りだ。
「透け感のある青みがかった白いドレスに華奢な白い髪飾りがとても清楚でよくお似合いですよ!」
なんてマリーさんは言ってるけど。
急に式典をすることになって申し訳ないとヒルダ様がわざわざ贈ってくれたドレスは開きの少ないオフショルダーで鎖骨と肩が少し見えているだけの、長袖タイプのロングドレスだ。
ただし季節柄、暑くないように長袖の腕部分は銀色の薄いシースルー風で透け感があってロングドレスにも隠れスリットが入っている。
そして肩からはマントのように長いケープがドレスの長袖部分と同じシースルー素材でドレスの後ろにまるで花嫁のヴェールのようになびいていた。
ドレスの素材は特殊な染め糸を使っているという話で、一見すると真っ白に見えるのに日の光に当たる角度によっては青みがかった薄水色にも輝いて見える不思議な素材だ。
・・・ていうか、ドレスの形や色といい私の髪型といい、髪の色が違うだけでなんていうか一歩間違えると某氷の女王のような出立ちだ。
いつありのままに何にも怖くないと歌い出してもおかしくない。これで氷魔法を使えたら完璧だろう。
なんてどうでもいいことを考えながら鏡に映る自分を見ていたら、黙り込んでいたので何か不満でもあると思ったのかマリーさんに
「どうかされましたかユーリ様。やっぱり長袖でも薄手なので寒いですか?せっかくの贈り物ですけど、背中のケープだけでも暖かいものに変えますか?」
と聞かれてしまった。あ、ごめんなさい違うんです。元の世界絡みでものすごいくだらない事を考えていただけで!と思ったら反射的に出た言葉は
「だ、大丈夫、少しも寒くないわ!」
・・・だった。おかげでシンシアさんとマリーさんの目は丸くなり、エル君には
「ユーリ様、言葉遣いがヘンです」
と無表情どころか冷たい目で見られてしまう羽目になり、誤魔化すのが大変になってしまったのだった。
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