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番外編
夢で会えたら 16
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「はぁ~・・・寂しい。」
シャル君が鹿を追いかけて姿を消して、おそらく無事未来の世界に帰っただろうことを見届けた私達はノイエ領の王家の館へと戻って来た。
「今頃シャル君はちゃんと両親、ていうか未来の私に会えたかなあ・・・」
夕食も終えた今はお風呂から上がり、ベッドの上にぐだぐだと寝転がりながらそんな事を考えている。
一緒に過ごしたのはたった数日間だったけど、リオン様に似たあの無邪気でかわいい笑顔が頭に浮かぶ。
寝転んだベッドの横に手を広げても、ここ数日の間はそうすると必ず私の腕に抱きついてきたあの小さな天使みたいな子はもういない。
そんな私に
「どうしたのユーリ、ずいぶん元気がないね。」
とリオン様がくすりと笑い、濡れた髪を拭きながらやって来た。私の後にお風呂に入り、ちょうど今上がって来たところだ。
そのままベッドに腰掛けたリオン様を見ながら、
「シャル君が急にいなくなったんで、なんだかすごく寂しいなあって。」
特にこの辺が。と、いつもリオン様と私の間にシャル君が収まって寝ていたあたりをさわさわと撫でた。
「その気持ちは分からないでもないけれど、今頃シャルは未来の僕らの間に挟まれて抱きしめられながら眠っているんじゃない?良かったと思わなきゃ。」
ベッドを撫でる私の手をリオン様はあやすように取り指を絡める。
そうかもしれないけど・・・。
シャル君が消えて、私以外にもみんなそれぞれ少し寂しそうな様子を見せていたけどやっぱり私が一番そうだったらしい。
だからレジナスさんもシグウェルさんも、あのシェラさんでさえ今夜の私はシャル君との思い出を一番一緒に残したリオン様と二人でいた方がいいだろうと夫婦の寝室を私達に譲った。
髪を乾かしたリオン様が、まだベッドでため息をついている私に
「気分転換に寝る前に少しお酒でも飲む?」
と勧めてくれたけどそんな気分でもない。首を振った私に
「じゃあもう寝る?」
と取った手の指先に口付けながら聞いてきた。シャル君そっくりなその青い瞳には誘うような色気が僅かに滲んでいる。
「シャルに早く会えるように僕ももっと努力しようか?」
なんて言われて、その意味深なセリフと態度が何を言わんとしているのか分からないでもない。
そりゃああんなにかわいくて賢い良い子のシャル君が将来私達の間に生まれると分かった今となっては、私も早く会いたいという気持ちではあるけれど。
だけどせめて今日だけは。あのかわいいシャル君の思い出を噛みしめたいなと思った。
「リオン様、シャル君にしてたみたいに今日は私を抱きしめながら寝てください。」
そうお願いすれば、気勢を削がれたようにリオン様がぽかんとしてその目からついさっきまで滲んでいた色気が抜け落ちた。
「ついでに何かお話も聞きたいです!」
重ねてそう言えば、ぷっと吹き出される。
「いいよ、頭も撫でてあげる。そうだね、シャルが生まれたらしてあげたいことでも話しながら眠ろうか?」
そう言いながらリオン様は布団をめくる。その隣に体をすべりこませ、
「いいですねそれ!シェラさんが準備してくれたシャル君の靴、目の色とお揃いの青がとても良く似合ってました!だから同じような明るい青色の乳児服を準備してあげたいです。」
と言えば
「僕は木馬を贈りたいかな。怪我をしないように、角を丁寧に丸く削った柔らかい材質の木材で作ってね。ユリウスを馬にする前のいい練習になるだろう。」
とリオン様は笑いながら私を抱き込む。
「絵本もたくさん用意しないと!リオン様に似て頭のいい子ですから、すぐに読み終えちゃうはずです‼︎」
「ほんと親バカだよね」
「うちの子は天才です!」
抱きしめられたまま胸を張る。
「遊びで私の髪の毛を三つ編みにしてくれた時もとっても上手だったので、手先の器用さもリオン様に似てますよね。ピアノを習わせても上手になるかも知れませんよ?」
「じゃあ小さなピアノやバイオリンも準備しよう。剣はベルゲン様が教えているらしいけど、楽器を教える先生も必要だね。誰かいい人を今から探しておかないと。」
私の話にリオン様も付き合って、今はまだ生まれるどころか私のお腹の中にもいないシャル君のことを一緒にあれこれ考えてくれる。
「シャル君の正式な名前も、忘れないようにしておかなきゃ」
「リシャル・ハオメル・ヴィゾラム・ユーリ・ルーシャだね。大丈夫、明日にでも公文書用のきちんとした紙に書いて額に入れて飾っておこう。いつか会える、本当のシャルにあげる一番最初のプレゼントだよ。」
「あぁ~やっぱり会いたいです。なんだか私達の間に何もないのがちょっぴり寂しくないですか?前陛下から貰った羊さんのぬいぐるみを私達の間に置くのを復活させようかなあ・・・」
「え、何それ冗談でしょ?そんな事したらシャルに会える日が遠のくと思うんだけど」
リオン様の声が慌てている。絶対に離れないからね、と言って私を抱きしめる腕がきつくなった。
それは少しだけ苦しかったけど、シャル君のいない心の隙間を埋めるような温かさもある。
ふふ、と思わず笑みがこぼれた。
「冗談ですよ。大丈夫、こうして抱きしめてもらって眠れば本当のシャル君にはまだ会えなくても、きっと夢の中で会えます。夢で会えるように、イリューディアさんにお祈りしながら眠ります!」
「それなら僕も一緒に祈ろう。今はまだ夢の中でもいいからシャルに会えると僕も嬉しいからね。」
抱き込まれているのでその顔や表情は見えないけれど、私の言葉にリオン様も頷いたのが分かった。
いつか出会える、あの柔らかな金髪に透き通るように綺麗な青い瞳の小さな男の子。
『かあさま、ずっとだいすき!また会おうね‼︎』
最後にそう言ったシャル君の言葉が胸の内に響く。
うん、また会おうね。次は赤ちゃんのシャル君に会うことになるだろう。その時には私も大好きとたくさん伝えて、シャル君が寂しく思って過去に迷い込まないよう、惜しみなく沢山の愛情を与えよう。
だから今はせめて、夢の中で会えたなら。
「夢でもシャル君に大好きですよって言ってあげたいな・・・」
眠りに引き込まれながらそう呟けば、リオン様が
「きっとその気持ちは夢の中だけじゃなく、未来にいるシャルにも通じるよ」
とそっと囁いておやすみユーリ、良い夢を。と優しく私の額に口付けた。
シャル君が鹿を追いかけて姿を消して、おそらく無事未来の世界に帰っただろうことを見届けた私達はノイエ領の王家の館へと戻って来た。
「今頃シャル君はちゃんと両親、ていうか未来の私に会えたかなあ・・・」
夕食も終えた今はお風呂から上がり、ベッドの上にぐだぐだと寝転がりながらそんな事を考えている。
一緒に過ごしたのはたった数日間だったけど、リオン様に似たあの無邪気でかわいい笑顔が頭に浮かぶ。
寝転んだベッドの横に手を広げても、ここ数日の間はそうすると必ず私の腕に抱きついてきたあの小さな天使みたいな子はもういない。
そんな私に
「どうしたのユーリ、ずいぶん元気がないね。」
とリオン様がくすりと笑い、濡れた髪を拭きながらやって来た。私の後にお風呂に入り、ちょうど今上がって来たところだ。
そのままベッドに腰掛けたリオン様を見ながら、
「シャル君が急にいなくなったんで、なんだかすごく寂しいなあって。」
特にこの辺が。と、いつもリオン様と私の間にシャル君が収まって寝ていたあたりをさわさわと撫でた。
「その気持ちは分からないでもないけれど、今頃シャルは未来の僕らの間に挟まれて抱きしめられながら眠っているんじゃない?良かったと思わなきゃ。」
ベッドを撫でる私の手をリオン様はあやすように取り指を絡める。
そうかもしれないけど・・・。
シャル君が消えて、私以外にもみんなそれぞれ少し寂しそうな様子を見せていたけどやっぱり私が一番そうだったらしい。
だからレジナスさんもシグウェルさんも、あのシェラさんでさえ今夜の私はシャル君との思い出を一番一緒に残したリオン様と二人でいた方がいいだろうと夫婦の寝室を私達に譲った。
髪を乾かしたリオン様が、まだベッドでため息をついている私に
「気分転換に寝る前に少しお酒でも飲む?」
と勧めてくれたけどそんな気分でもない。首を振った私に
「じゃあもう寝る?」
と取った手の指先に口付けながら聞いてきた。シャル君そっくりなその青い瞳には誘うような色気が僅かに滲んでいる。
「シャルに早く会えるように僕ももっと努力しようか?」
なんて言われて、その意味深なセリフと態度が何を言わんとしているのか分からないでもない。
そりゃああんなにかわいくて賢い良い子のシャル君が将来私達の間に生まれると分かった今となっては、私も早く会いたいという気持ちではあるけれど。
だけどせめて今日だけは。あのかわいいシャル君の思い出を噛みしめたいなと思った。
「リオン様、シャル君にしてたみたいに今日は私を抱きしめながら寝てください。」
そうお願いすれば、気勢を削がれたようにリオン様がぽかんとしてその目からついさっきまで滲んでいた色気が抜け落ちた。
「ついでに何かお話も聞きたいです!」
重ねてそう言えば、ぷっと吹き出される。
「いいよ、頭も撫でてあげる。そうだね、シャルが生まれたらしてあげたいことでも話しながら眠ろうか?」
そう言いながらリオン様は布団をめくる。その隣に体をすべりこませ、
「いいですねそれ!シェラさんが準備してくれたシャル君の靴、目の色とお揃いの青がとても良く似合ってました!だから同じような明るい青色の乳児服を準備してあげたいです。」
と言えば
「僕は木馬を贈りたいかな。怪我をしないように、角を丁寧に丸く削った柔らかい材質の木材で作ってね。ユリウスを馬にする前のいい練習になるだろう。」
とリオン様は笑いながら私を抱き込む。
「絵本もたくさん用意しないと!リオン様に似て頭のいい子ですから、すぐに読み終えちゃうはずです‼︎」
「ほんと親バカだよね」
「うちの子は天才です!」
抱きしめられたまま胸を張る。
「遊びで私の髪の毛を三つ編みにしてくれた時もとっても上手だったので、手先の器用さもリオン様に似てますよね。ピアノを習わせても上手になるかも知れませんよ?」
「じゃあ小さなピアノやバイオリンも準備しよう。剣はベルゲン様が教えているらしいけど、楽器を教える先生も必要だね。誰かいい人を今から探しておかないと。」
私の話にリオン様も付き合って、今はまだ生まれるどころか私のお腹の中にもいないシャル君のことを一緒にあれこれ考えてくれる。
「シャル君の正式な名前も、忘れないようにしておかなきゃ」
「リシャル・ハオメル・ヴィゾラム・ユーリ・ルーシャだね。大丈夫、明日にでも公文書用のきちんとした紙に書いて額に入れて飾っておこう。いつか会える、本当のシャルにあげる一番最初のプレゼントだよ。」
「あぁ~やっぱり会いたいです。なんだか私達の間に何もないのがちょっぴり寂しくないですか?前陛下から貰った羊さんのぬいぐるみを私達の間に置くのを復活させようかなあ・・・」
「え、何それ冗談でしょ?そんな事したらシャルに会える日が遠のくと思うんだけど」
リオン様の声が慌てている。絶対に離れないからね、と言って私を抱きしめる腕がきつくなった。
それは少しだけ苦しかったけど、シャル君のいない心の隙間を埋めるような温かさもある。
ふふ、と思わず笑みがこぼれた。
「冗談ですよ。大丈夫、こうして抱きしめてもらって眠れば本当のシャル君にはまだ会えなくても、きっと夢の中で会えます。夢で会えるように、イリューディアさんにお祈りしながら眠ります!」
「それなら僕も一緒に祈ろう。今はまだ夢の中でもいいからシャルに会えると僕も嬉しいからね。」
抱き込まれているのでその顔や表情は見えないけれど、私の言葉にリオン様も頷いたのが分かった。
いつか出会える、あの柔らかな金髪に透き通るように綺麗な青い瞳の小さな男の子。
『かあさま、ずっとだいすき!また会おうね‼︎』
最後にそう言ったシャル君の言葉が胸の内に響く。
うん、また会おうね。次は赤ちゃんのシャル君に会うことになるだろう。その時には私も大好きとたくさん伝えて、シャル君が寂しく思って過去に迷い込まないよう、惜しみなく沢山の愛情を与えよう。
だから今はせめて、夢の中で会えたなら。
「夢でもシャル君に大好きですよって言ってあげたいな・・・」
眠りに引き込まれながらそう呟けば、リオン様が
「きっとその気持ちは夢の中だけじゃなく、未来にいるシャルにも通じるよ」
とそっと囁いておやすみユーリ、良い夢を。と優しく私の額に口付けた。
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