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番外編
チャイルド・プレイ 11
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レジナスさんの懐に身を寄せてふて寝をした私は、そのまま奥の院へ運ばれると目が覚めるまで寝かせられていた。
そして足がなんだかむずむずすると思って起きてみればシェラさんが私の足の甲を撫でている。
「なんでしゅか⁉︎」
びっくりして飛び起きても、まだ撫でている。そこは私があのピンクブロンドの髪の子に踏まれたところで、大げさに包帯まで巻いてあった。
「おいたわしい・・・。訓練場からレジナスと共にいなくなり帰って来ないと思っていたら、まさかこんなことになっていたとは・・・」
そんな風に話すシェラさんの後方、扉の近くにはエル君も立っていて
「やっぱりお側を離れるべきじゃなかったです。護衛の僕ならレニ殿下の庭園にもこっそり忍び込めてお助け出来たのに・・・。すみません。」
と、側を離れた自分のせいで怪我をしたかのように謝られた。
「おおげしゃでしゅ!ちょっと痛かっただけ!」
エル君のせいじゃないしシェラさんも大袈裟だ。
「ですが赤い跡が円形になってついていましたよ。ヒールのある靴で踏まれたのでは?オレは自分が治癒系の魔法をまともに使えない事をこんなに恨めしく思ったことはありません。この事はまだシグウェル殿に伝えておりませんので、ご希望であればすぐに呼んでまいりますが」
いやホント、そこまでする必要ないから!
「ルーしゃんのおしごと、じゃまするからいらないでしゅ!それよりおやつ‼︎」
シグウェルさんにまで知らせて更におおごとにされてはかなわないので、なんとかシェラさんを引き止めようと声を上げた。
「そうですね。オレとしたことがお怪我を心配するあまりユーリ様の楽しみを奪うところでした。では着替えてあちらの部屋へ行きましょうね。殿下もお待ちですよ。」
そう言うとシェラさんは包帯が巻かれた私の足に口付けると立ち上がり、数着のドレスが掛けられた移動式のハンガー台をカラカラと引いてきた。
台の下にはドレスと色を揃えた靴もドレスの数と同じだけ準備してある。
「また服が増えてるでしゅ⁉︎」
「こちらは室内着ですよ。外出着よりもゆったりとして動きやすい形になっております。靴も室内履き用で、より柔らかくお怪我をされているユーリ様のご負担にならない作りのものですからね。」
説明しながら私とドレスを見比べていたシェラさんは綺麗なレモン色をしたドレスとそれに合わせた靴を選び出し、サッサと私を着替えさせる。
「ああ、思った通り明るい黄色がユーリ様の顔色を元気そうに見せてくれていいですね。仔猫というより鳥の雛のような愛らしさです。これで靴音が鳴ればもっと愛らしいでしょうに、魔法がかかっていなくて残念です。」
鳥の雛って、それはヒヨコってことかな?もしここにシグウェルさんがいて、また靴に音の鳴る魔法をかけていたら今度はピヨピヨという鳴き声の音を付けられていたかもしれない。いなくて良かった。
私を着替えさせたシェラさんはそのまま抱き上げて隣の部屋へ移動すると、リオン様とレジナスさんは書類を見ながら何やら仕事をしているところだった。
あれ?やっぱりあの庭園での騒ぎのせいで仕事を切り上げてきて今それを片付けていたのかな?悪いことをした。
そう思っていたら
「・・・ああそう、じゃあそこの鉱山の魔石を倍の値段で買い付ければ・・・」
「アイゼン公爵の商団への流通量が滞り、当分の間は領地を離れられずにその分を補うための金策と別の販路の開拓にかかりきりになって、王都から半年は離れることになるかと」
「この時期の王都から半年も離れたらレニの婚約者選びの競争からは完全に脱落するねぇ・・・」
かわいそうに、と全然そんな事を思っていなさそうな感じでリオン様は目をすがめて書類を見ていた。
なんか、なんかものすごく不穏な話を聞いた気がする。
と、私を抱いていたシェラさんも
「子は親の鏡と申しますし、幼くしてあそこまであの少女が高慢だということはアイゼン公爵自身も傲慢に振る舞っていて、それで何か出るのではないかと思いオレも調べておきましたよ。税金の不当な税率の上げ方や徴収などいくつか問題点が見つかりましたので、それを理由に罰金の徴収と領地での謹慎を言い渡せば更に王都から遠ざかるのでは?」
本当は税金の横領でもしてくれていればもっと重い処分にも出来たのに残念ですね、と首を振っている。
アイゼン公爵という人の名前に聞き覚えはないけれど、今のやり取りやレニ様の婚約者選びに高慢な女の子だとか嫌な予感しかしない。
「ま、ましゃか・・・」
あのピンクブロンドの子の話?私の足を踏んだ件で?
そう勘付いた私にリオン様がおっと、と声を上げてにっこり微笑んだ。
「ユーリが気にすることじゃないよ。アイゼン公爵の持つ魔石鉱山から産出されている石が公爵の商団に安く買い叩かれているのにたまたま気付いたから、僕ならもっと上手く活用出来るって話をしていただけだからね。」
絶対にウソだ。だけど私がどんなに聞いてもリオン様はたぶん本当のことは言わない。
「シェラしゃん⁉︎」
それならシェラさんはどうだ。今の話しぶりでは完全にそのアイゼン公爵とやらの粗探しをしていたみたいだったけど。
そしたらシェラさんはあっさりと頷いた。
「ユーリ様の可愛らしいおみ足を不遜にも踏み付けたのはアイゼン公爵の一人娘です。リオン殿下がたまたま目を付けた鉱山の所有者でしたので、ついでにオレもユーリ様のために何かお手伝い出来ないかと思っただけです。」
「だ、だからって・・・」
「本当はユーリ様のおみ足を踏み付けたその足を切り落として、レニ皇太子殿下の前に出るどころか二度と領地から歩いて出てやれなくしたいところですが、ユーリ様に言われずとも自制したオレを褒めて下さい、偉いでしょう?」
そんな事まで言って私を抱えたままシェラさんははい、と頭を下げてきた。撫でろってか。
「やりしゅぎ、めーよ⁉︎」
仕方ないのでよしよしと小さい手でシェラさんの頭を撫でながらリオン様達の方を向いて注意すれば、リオン様はあははと笑っていてレジナスさんは分かっている、と真面目な顔で頷いた。だけどその目は全然分かっていなさそうだ。
ダメだ、いつもは止める側のレジナスさんまで一緒になって書類を吟味している辺り今回は止める人が誰もいない。ここにシグウェルさんも加わっていないことだけでも良しとするべきなの?
とりあえず三人の手を止めようと
「おやちゅ!」
と声をあげればそうだねと私を抱く手がシェラさんからリオン様へとバトンタッチされた。
そのまま膝の上に座らされて、赤ちゃんのよだれ掛けのように綺麗なレースの前掛けをされる。
「わたし、赤ちゃんじゃないでしゅよ⁉︎」
「そうだね、周りの赤ちゃんよりもユーリの方がずっと可愛いよ」
「そ、そーゆーことじゃにゃい・・・んぐ」
文句を言おうとリオン様を見上げて開けた口の前に、一口分に切られたパンケーキを差し出されたらそのいい香りについ食い付いてしまった。
「しまった・・・!」
むぐむぐと咀嚼すれば口の中いっぱいにバターとハチミツの香りが広がって、軽い口当たりのパンケーキはしゅわっと溶けるようになくなってしまう。
「おいしーでしゅ・・・」
「そうでしょう?小さくなったユーリでも食べやすいように、いつもよりもふわふわに焼いてもらったんだよ。気に入ったなら、元の姿に戻ってもパンケーキはずっとこの焼き方にしてもらおうか?」
「あい‼︎」
勢い込んで返事をしてから笑顔のリオン様を見てハッと気付く。人を赤ちゃん扱いしたことをうやむやにされたままだ。
「・・・‼︎」
もう一度文句を言おうとしたらレジナスさんが
「ユーリ、こっちは甘く煮たリンゴだが食べるか?」
と柔らかな金色に輝いていてクリームをたっぷりと付けられたリンゴを目の前に出された。
「食べましゅ‼︎」
思わずそちらに手を伸ばし、シグウェルさんのところでそうしてしまったようにレジナスさんが私の方へと伸ばしたフォークの動きを追う。
フォークを追いかけてうろうろと宙をさまよう私の手が動く様を見たリオン様には吹き出すと声を上げて笑われた。
「なんだいそれ、かわいいね!まるで毛糸を追いかける仔猫だよ。レジナス、ちょっと貸してくれる?」
レジナスさんからフォークを受け取ったリオン様は私の前で左右にそれを行ったり来たりさせる。
当然ながら食欲に忠実な幼児の体はそれを追いかけてリオン様の膝の上で手と視線が動くとそんな様子をレジナスさんとシェラさんの二人にもじっと見られていて
「いつまでも見ていられる可愛らしさですねぇ」
「ああ」
と珍しく意見の一致をしていた。ケンカをしないのは結構だけど、その理由が私を観察しているからだと言うのがなんだか釈然としない。
結局その日はお風呂の時間以外はずっとリオン様の膝の上にいて、気付けばいつの間にかぐっすりと眠って一日を終えたのだった。
そして足がなんだかむずむずすると思って起きてみればシェラさんが私の足の甲を撫でている。
「なんでしゅか⁉︎」
びっくりして飛び起きても、まだ撫でている。そこは私があのピンクブロンドの髪の子に踏まれたところで、大げさに包帯まで巻いてあった。
「おいたわしい・・・。訓練場からレジナスと共にいなくなり帰って来ないと思っていたら、まさかこんなことになっていたとは・・・」
そんな風に話すシェラさんの後方、扉の近くにはエル君も立っていて
「やっぱりお側を離れるべきじゃなかったです。護衛の僕ならレニ殿下の庭園にもこっそり忍び込めてお助け出来たのに・・・。すみません。」
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「おおげしゃでしゅ!ちょっと痛かっただけ!」
エル君のせいじゃないしシェラさんも大袈裟だ。
「ですが赤い跡が円形になってついていましたよ。ヒールのある靴で踏まれたのでは?オレは自分が治癒系の魔法をまともに使えない事をこんなに恨めしく思ったことはありません。この事はまだシグウェル殿に伝えておりませんので、ご希望であればすぐに呼んでまいりますが」
いやホント、そこまでする必要ないから!
「ルーしゃんのおしごと、じゃまするからいらないでしゅ!それよりおやつ‼︎」
シグウェルさんにまで知らせて更におおごとにされてはかなわないので、なんとかシェラさんを引き止めようと声を上げた。
「そうですね。オレとしたことがお怪我を心配するあまりユーリ様の楽しみを奪うところでした。では着替えてあちらの部屋へ行きましょうね。殿下もお待ちですよ。」
そう言うとシェラさんは包帯が巻かれた私の足に口付けると立ち上がり、数着のドレスが掛けられた移動式のハンガー台をカラカラと引いてきた。
台の下にはドレスと色を揃えた靴もドレスの数と同じだけ準備してある。
「また服が増えてるでしゅ⁉︎」
「こちらは室内着ですよ。外出着よりもゆったりとして動きやすい形になっております。靴も室内履き用で、より柔らかくお怪我をされているユーリ様のご負担にならない作りのものですからね。」
説明しながら私とドレスを見比べていたシェラさんは綺麗なレモン色をしたドレスとそれに合わせた靴を選び出し、サッサと私を着替えさせる。
「ああ、思った通り明るい黄色がユーリ様の顔色を元気そうに見せてくれていいですね。仔猫というより鳥の雛のような愛らしさです。これで靴音が鳴ればもっと愛らしいでしょうに、魔法がかかっていなくて残念です。」
鳥の雛って、それはヒヨコってことかな?もしここにシグウェルさんがいて、また靴に音の鳴る魔法をかけていたら今度はピヨピヨという鳴き声の音を付けられていたかもしれない。いなくて良かった。
私を着替えさせたシェラさんはそのまま抱き上げて隣の部屋へ移動すると、リオン様とレジナスさんは書類を見ながら何やら仕事をしているところだった。
あれ?やっぱりあの庭園での騒ぎのせいで仕事を切り上げてきて今それを片付けていたのかな?悪いことをした。
そう思っていたら
「・・・ああそう、じゃあそこの鉱山の魔石を倍の値段で買い付ければ・・・」
「アイゼン公爵の商団への流通量が滞り、当分の間は領地を離れられずにその分を補うための金策と別の販路の開拓にかかりきりになって、王都から半年は離れることになるかと」
「この時期の王都から半年も離れたらレニの婚約者選びの競争からは完全に脱落するねぇ・・・」
かわいそうに、と全然そんな事を思っていなさそうな感じでリオン様は目をすがめて書類を見ていた。
なんか、なんかものすごく不穏な話を聞いた気がする。
と、私を抱いていたシェラさんも
「子は親の鏡と申しますし、幼くしてあそこまであの少女が高慢だということはアイゼン公爵自身も傲慢に振る舞っていて、それで何か出るのではないかと思いオレも調べておきましたよ。税金の不当な税率の上げ方や徴収などいくつか問題点が見つかりましたので、それを理由に罰金の徴収と領地での謹慎を言い渡せば更に王都から遠ざかるのでは?」
本当は税金の横領でもしてくれていればもっと重い処分にも出来たのに残念ですね、と首を振っている。
アイゼン公爵という人の名前に聞き覚えはないけれど、今のやり取りやレニ様の婚約者選びに高慢な女の子だとか嫌な予感しかしない。
「ま、ましゃか・・・」
あのピンクブロンドの子の話?私の足を踏んだ件で?
そう勘付いた私にリオン様がおっと、と声を上げてにっこり微笑んだ。
「ユーリが気にすることじゃないよ。アイゼン公爵の持つ魔石鉱山から産出されている石が公爵の商団に安く買い叩かれているのにたまたま気付いたから、僕ならもっと上手く活用出来るって話をしていただけだからね。」
絶対にウソだ。だけど私がどんなに聞いてもリオン様はたぶん本当のことは言わない。
「シェラしゃん⁉︎」
それならシェラさんはどうだ。今の話しぶりでは完全にそのアイゼン公爵とやらの粗探しをしていたみたいだったけど。
そしたらシェラさんはあっさりと頷いた。
「ユーリ様の可愛らしいおみ足を不遜にも踏み付けたのはアイゼン公爵の一人娘です。リオン殿下がたまたま目を付けた鉱山の所有者でしたので、ついでにオレもユーリ様のために何かお手伝い出来ないかと思っただけです。」
「だ、だからって・・・」
「本当はユーリ様のおみ足を踏み付けたその足を切り落として、レニ皇太子殿下の前に出るどころか二度と領地から歩いて出てやれなくしたいところですが、ユーリ様に言われずとも自制したオレを褒めて下さい、偉いでしょう?」
そんな事まで言って私を抱えたままシェラさんははい、と頭を下げてきた。撫でろってか。
「やりしゅぎ、めーよ⁉︎」
仕方ないのでよしよしと小さい手でシェラさんの頭を撫でながらリオン様達の方を向いて注意すれば、リオン様はあははと笑っていてレジナスさんは分かっている、と真面目な顔で頷いた。だけどその目は全然分かっていなさそうだ。
ダメだ、いつもは止める側のレジナスさんまで一緒になって書類を吟味している辺り今回は止める人が誰もいない。ここにシグウェルさんも加わっていないことだけでも良しとするべきなの?
とりあえず三人の手を止めようと
「おやちゅ!」
と声をあげればそうだねと私を抱く手がシェラさんからリオン様へとバトンタッチされた。
そのまま膝の上に座らされて、赤ちゃんのよだれ掛けのように綺麗なレースの前掛けをされる。
「わたし、赤ちゃんじゃないでしゅよ⁉︎」
「そうだね、周りの赤ちゃんよりもユーリの方がずっと可愛いよ」
「そ、そーゆーことじゃにゃい・・・んぐ」
文句を言おうとリオン様を見上げて開けた口の前に、一口分に切られたパンケーキを差し出されたらそのいい香りについ食い付いてしまった。
「しまった・・・!」
むぐむぐと咀嚼すれば口の中いっぱいにバターとハチミツの香りが広がって、軽い口当たりのパンケーキはしゅわっと溶けるようになくなってしまう。
「おいしーでしゅ・・・」
「そうでしょう?小さくなったユーリでも食べやすいように、いつもよりもふわふわに焼いてもらったんだよ。気に入ったなら、元の姿に戻ってもパンケーキはずっとこの焼き方にしてもらおうか?」
「あい‼︎」
勢い込んで返事をしてから笑顔のリオン様を見てハッと気付く。人を赤ちゃん扱いしたことをうやむやにされたままだ。
「・・・‼︎」
もう一度文句を言おうとしたらレジナスさんが
「ユーリ、こっちは甘く煮たリンゴだが食べるか?」
と柔らかな金色に輝いていてクリームをたっぷりと付けられたリンゴを目の前に出された。
「食べましゅ‼︎」
思わずそちらに手を伸ばし、シグウェルさんのところでそうしてしまったようにレジナスさんが私の方へと伸ばしたフォークの動きを追う。
フォークを追いかけてうろうろと宙をさまよう私の手が動く様を見たリオン様には吹き出すと声を上げて笑われた。
「なんだいそれ、かわいいね!まるで毛糸を追いかける仔猫だよ。レジナス、ちょっと貸してくれる?」
レジナスさんからフォークを受け取ったリオン様は私の前で左右にそれを行ったり来たりさせる。
当然ながら食欲に忠実な幼児の体はそれを追いかけてリオン様の膝の上で手と視線が動くとそんな様子をレジナスさんとシェラさんの二人にもじっと見られていて
「いつまでも見ていられる可愛らしさですねぇ」
「ああ」
と珍しく意見の一致をしていた。ケンカをしないのは結構だけど、その理由が私を観察しているからだと言うのがなんだか釈然としない。
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