上 下
543 / 699
番外編

チャイルド・プレイ 11

しおりを挟む
 レジナスさんの懐に身を寄せてふて寝をした私は、そのまま奥の院へ運ばれると目が覚めるまで寝かせられていた。

 そして足がなんだかむずむずすると思って起きてみればシェラさんが私の足の甲を撫でている。

「なんでしゅか⁉︎」

 びっくりして飛び起きても、まだ撫でている。そこは私があのピンクブロンドの髪の子に踏まれたところで、大げさに包帯まで巻いてあった。

「おいたわしい・・・。訓練場からレジナスと共にいなくなり帰って来ないと思っていたら、まさかこんなことになっていたとは・・・」

 そんな風に話すシェラさんの後方、扉の近くにはエル君も立っていて

「やっぱりお側を離れるべきじゃなかったです。護衛の僕ならレニ殿下の庭園にもこっそり忍び込めてお助け出来たのに・・・。すみません。」

 と、側を離れた自分のせいで怪我をしたかのように謝られた。

「おおげしゃでしゅ!ちょっと痛かっただけ!」

 エル君のせいじゃないしシェラさんも大袈裟だ。

「ですが赤い跡が円形になってついていましたよ。ヒールのある靴で踏まれたのでは?オレは自分が治癒系の魔法をまともに使えない事をこんなに恨めしく思ったことはありません。この事はまだシグウェル殿に伝えておりませんので、ご希望であればすぐに呼んでまいりますが」

 いやホント、そこまでする必要ないから!

「ルーしゃんのおしごと、じゃまするからいらないでしゅ!それよりおやつ‼︎」

 シグウェルさんにまで知らせて更におおごとにされてはかなわないので、なんとかシェラさんを引き止めようと声を上げた。

「そうですね。オレとしたことがお怪我を心配するあまりユーリ様の楽しみを奪うところでした。では着替えてあちらの部屋へ行きましょうね。殿下もお待ちですよ。」

 そう言うとシェラさんは包帯が巻かれた私の足に口付けると立ち上がり、数着のドレスが掛けられた移動式のハンガー台をカラカラと引いてきた。

 台の下にはドレスと色を揃えた靴もドレスの数と同じだけ準備してある。

「また服が増えてるでしゅ⁉︎」

「こちらは室内着ですよ。外出着よりもゆったりとして動きやすい形になっております。靴も室内履き用で、より柔らかくお怪我をされているユーリ様のご負担にならない作りのものですからね。」

 説明しながら私とドレスを見比べていたシェラさんは綺麗なレモン色をしたドレスとそれに合わせた靴を選び出し、サッサと私を着替えさせる。

「ああ、思った通り明るい黄色がユーリ様の顔色を元気そうに見せてくれていいですね。仔猫というより鳥の雛のような愛らしさです。これで靴音が鳴ればもっと愛らしいでしょうに、魔法がかかっていなくて残念です。」

 鳥の雛って、それはヒヨコってことかな?もしここにシグウェルさんがいて、また靴に音の鳴る魔法をかけていたら今度はピヨピヨという鳴き声の音を付けられていたかもしれない。いなくて良かった。

 私を着替えさせたシェラさんはそのまま抱き上げて隣の部屋へ移動すると、リオン様とレジナスさんは書類を見ながら何やら仕事をしているところだった。

 あれ?やっぱりあの庭園での騒ぎのせいで仕事を切り上げてきて今それを片付けていたのかな?悪いことをした。

 そう思っていたら

「・・・ああそう、じゃあそこの鉱山の魔石を倍の値段で買い付ければ・・・」

「アイゼン公爵の商団への流通量が滞り、当分の間は領地を離れられずにその分を補うための金策と別の販路の開拓にかかりきりになって、王都から半年は離れることになるかと」

「この時期の王都から半年も離れたらレニの婚約者選びの競争からは完全に脱落するねぇ・・・」

 かわいそうに、と全然そんな事を思っていなさそうな感じでリオン様は目をすがめて書類を見ていた。

 なんか、なんかものすごく不穏な話を聞いた気がする。

 と、私を抱いていたシェラさんも

「子は親の鏡と申しますし、幼くしてあそこまであの少女が高慢だということはアイゼン公爵自身も傲慢に振る舞っていて、それで何か出るのではないかと思いオレも調べておきましたよ。税金の不当な税率の上げ方や徴収などいくつか問題点が見つかりましたので、それを理由に罰金の徴収と領地での謹慎を言い渡せば更に王都から遠ざかるのでは?」

 本当は税金の横領でもしてくれていればもっと重い処分にも出来たのに残念ですね、と首を振っている。

 アイゼン公爵という人の名前に聞き覚えはないけれど、今のやり取りやレニ様の婚約者選びに高慢な女の子だとか嫌な予感しかしない。

「ま、ましゃか・・・」

 あのピンクブロンドの子の話?私の足を踏んだ件で?

 そう勘付いた私にリオン様がおっと、と声を上げてにっこり微笑んだ。

「ユーリが気にすることじゃないよ。アイゼン公爵の持つ魔石鉱山から産出されている石が公爵の商団に安く買い叩かれているのに気付いたから、僕ならもっと上手く活用出来るって話をしていただけだからね。」

 絶対にウソだ。だけど私がどんなに聞いてもリオン様はたぶん本当のことは言わない。

「シェラしゃん⁉︎」

 それならシェラさんはどうだ。今の話しぶりでは完全にそのアイゼン公爵とやらの粗探しをしていたみたいだったけど。

 そしたらシェラさんはあっさりと頷いた。

「ユーリ様の可愛らしいおみ足を不遜にも踏み付けたのはアイゼン公爵の一人娘です。リオン殿下が目を付けた鉱山の所有者でしたので、ついでにオレもユーリ様のために何かお手伝い出来ないかと思っただけです。」

「だ、だからって・・・」

「本当はユーリ様のおみ足を踏み付けたその足を切り落として、レニ皇太子殿下の前に出るどころか二度と領地から歩いて出てやれなくしたいところですが、ユーリ様に言われずとも自制したオレを褒めて下さい、偉いでしょう?」

 そんな事まで言って私を抱えたままシェラさんははい、と頭を下げてきた。撫でろってか。

「やりしゅぎ、めーよ⁉︎」

 仕方ないのでよしよしと小さい手でシェラさんの頭を撫でながらリオン様達の方を向いて注意すれば、リオン様はあははと笑っていてレジナスさんは分かっている、と真面目な顔で頷いた。だけどその目は全然分かっていなさそうだ。

 ダメだ、いつもは止める側のレジナスさんまで一緒になって書類を吟味している辺り今回は止める人が誰もいない。ここにシグウェルさんも加わっていないことだけでも良しとするべきなの?

 とりあえず三人の手を止めようと

「おやちゅ!」

 と声をあげればそうだねと私を抱く手がシェラさんからリオン様へとバトンタッチされた。

 そのまま膝の上に座らされて、赤ちゃんのよだれ掛けのように綺麗なレースの前掛けをされる。

「わたし、赤ちゃんじゃないでしゅよ⁉︎」

「そうだね、周りの赤ちゃんよりもユーリの方がずっと可愛いよ」

「そ、そーゆーことじゃにゃい・・・んぐ」

 文句を言おうとリオン様を見上げて開けた口の前に、一口分に切られたパンケーキを差し出されたらそのいい香りについ食い付いてしまった。

「しまった・・・!」

 むぐむぐと咀嚼すれば口の中いっぱいにバターとハチミツの香りが広がって、軽い口当たりのパンケーキはしゅわっと溶けるようになくなってしまう。

「おいしーでしゅ・・・」

「そうでしょう?小さくなったユーリでも食べやすいように、いつもよりもふわふわに焼いてもらったんだよ。気に入ったなら、元の姿に戻ってもパンケーキはずっとこの焼き方にしてもらおうか?」

「あい‼︎」

勢い込んで返事をしてから笑顔のリオン様を見てハッと気付く。人を赤ちゃん扱いしたことをうやむやにされたままだ。

「・・・‼︎」

もう一度文句を言おうとしたらレジナスさんが

「ユーリ、こっちは甘く煮たリンゴだが食べるか?」

と柔らかな金色に輝いていてクリームをたっぷりと付けられたリンゴを目の前に出された。

「食べましゅ‼︎」

思わずそちらに手を伸ばし、シグウェルさんのところでそうしてしまったようにレジナスさんが私の方へと伸ばしたフォークの動きを追う。

フォークを追いかけてうろうろと宙をさまよう私の手が動く様を見たリオン様には吹き出すと声を上げて笑われた。

「なんだいそれ、かわいいね!まるで毛糸を追いかける仔猫だよ。レジナス、ちょっと貸してくれる?」

レジナスさんからフォークを受け取ったリオン様は私の前で左右にそれを行ったり来たりさせる。

当然ながら食欲に忠実な幼児の体はそれを追いかけてリオン様の膝の上で手と視線が動くとそんな様子をレジナスさんとシェラさんの二人にもじっと見られていて

「いつまでも見ていられる可愛らしさですねぇ」

「ああ」

と珍しく意見の一致をしていた。ケンカをしないのは結構だけど、その理由が私を観察しているからだと言うのがなんだか釈然としない。

結局その日はお風呂の時間以外はずっとリオン様の膝の上にいて、気付けばいつの間にかぐっすりと眠って一日を終えたのだった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...