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番外編

二虎が追う者一兎を逃さず 1

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「どうですかシグウェルさん、私の魔力はうまく篭っていますか?」

私がA4サイズほどの紙に描いた魔法陣を手にシグウェルさんはそれをじっと見つめている。

なんて言われるのかドキドキしながら待つ時間はなんだかテストの採点をされているみたいだ。

リオン様達の結婚式と四人それぞれとの新婚休暇も終わって、日常が戻って来た。

そして私の魔力はまだ完全には戻っていない。

目覚めた直後よりは大分マシになったので、せめて地方へ視察に行けない分はこうして魔法陣に癒しの力を込めて描いては各地の神殿へ送ってもらっている。

その枚数も、そんなに多くは描けないけど念のため描いたものはシグウェルさんにチェックしてもらってから送ってもらっているから効力は保証済みなはずだ。

「・・・いいんじゃないか?かなり多くの魔力が感じられる。これの効果は何だ?」

やった、合格したらしい。

「疲労回復と軽い治癒です!水に溶けやすい紙に描いたので、それをそのまま町の井戸なんかに入れて溶かしてもらえればそこの水にそのまま加護が付くはずです!」

溶けやすい素材の紙は薄くて柔らかいので描くのに苦労した。

だけどちゃんと心を込めて、今の私に出来る全力で描いたから効果があると信じたい。

ふんふんと鼻息も荒く得意げに話した私にシグウェルさんはふっと笑い、

「俺から見ても今の君の力は元に比べて八割方は戻っているように見える。元通りになるまであと少しだな。」

と魔法陣を丁寧にしまった。そのまま依頼の来ていた地方の神殿へ送ってくれるらしい。

「リオン様達が戻るまでには全快しますかね⁉︎」

「それはまだ無理だろう」

なんだ残念。いないうちに元通りに回復してびっくりさせたかったのに。

「バロイ国への滞在は三日ほどだろう?ここを不在にするのは移動を含めても二週間前後だからさすがにその間の全回復は無理がある。」

頭の中で計算してシグウェルさんはそう言った。

そう。リオン様は今、モリー公国の隣国バロイ国へ親善大使としてレジナスさんを伴って出掛けている。

私が薬花を再生させるためにモリー公国を訪れてから間を置かずに、その隣国バロイ国の王様が変わった。

リオン様が密かに手助けしていた第一王子が国王に即位して、大声殿下の戴冠式にもその新しい国王が臨席したらしい。

その場でも、これを機にルーシャ国と親交を深めたいという申し出があったという。

更に私の結婚式にバロイ国王の名代として出てくれたミリアム殿下も国王からの親書を携えて来ていて、友好国として縁を結びたいと再三申し出られていた。

だから私とリオン様達との結婚式やら何やらが落ち着いたこのタイミングで、いよいよ友好国としての調印を結ぶためにリオン様がバロイ国を訪問することになったのだ。

・・・ちなみにバロイ国の新国王と王座をかけて争いモリー公国へもその毒手を伸ばしていた第二殿下は、その競争に敗れた結果遠く離れたメイスという名前の砂漠の国に交流を深めるという名目で侍女も一人しか同行を許されず嫁がされたらしい。

『嫁いだと言ってもすでに正妃もいるので第三妃としてだそうですよ。それにメイスの王は老齢なので、もし彼が亡くなれば国のしきたりでその妃達は全て修道院に入り亡くなった夫君を偲び、世間とは隔絶した中で簡素に暮らすそうです。あのプライドの高い姫が風習から生活様式までまるで異なる国でしかも第三妃、その上早々にやってくるだろう質素な生活に耐えられるんでしょうかねぇ。』

砂漠の商人から聞いたというメイスの情報を教えてくれながらシェラさんは面白そうに目を細めていたっけ。

バロイ国の新国王にしてみれば厄介な政敵を遠くの国に追いやれて、その上その国と交流を持つきっかけにもなったので良かったかも知れないけど。

まさかそれもリオン様のアドバイスじゃないよね?と一抹の不安がよぎったのは内緒だ。

とにかく、そんなわけでリオン様とその側近のレジナスさんはバロイ国へと旅立ってしまい会えるのは数週間後。

だからその間に少しでも回復して元通りになった私を見せたいと思っているんだけど・・・。

「癒しの力とかを使うごとに魔力は戻って来ているような気がするんですけど、気のせいなのかなあ・・・」

そう独り言を言えば、それを耳ざとく聞いたシグウェルさんが

「それなんだが、君の魔力の回復の仕方について少し気になるというか確かめたいことがある。もし良ければ実験に付き合ってもらえないか?」

そんな事を言って来た。

「ええ?大丈夫なんですか、それ・・・」

一体何をやらされるんだろう。じいっと注意深くその目を見つめるけど、いつもの面白そうな魔法実験を思いついた時みたいな様子ではなく思案顔で顎に手を当てている。

「つい最近ふと思い当たったことなんだが、それに気付いた頃は君とシェラザードが新婚休暇で不在だった。だから今までそれを検証する機会がなかった為にまだ俺としても自信がないんだが」

あれ?これは好奇心から面白がってやるだけの実験じゃなくて真面目な検証なのかな・・・?

シグウェルさんの態度に首を傾げる。

真面目な魔法実験なら元通りになるための協力は惜しまないよ?

「私が協力すればシグウェルさんの考えている魔力を回復させる実験がはかどるってことですか?」

「むしろ君がいないと検証が出来ない」

なんだそれ、どんな実験だ。

「痛かったり怖かったりしませんか?」

「それはないと思うが、もしそう感じたら言ってくれ」

「うーん、そこまで言うなら・・・」

「決まりだな。では早速だが今夜は空いているか?」

実験に付き合うことを了承した私にシグウェルさんは満足そうに頷いた。

「今夜ですか?特に予定はないですけど・・・」

「よし。ではそのまま今夜の予定は空けておいてくれ。また夜に会おう」

そう言って、私の描いた魔法陣を手にさっさとシグウェルさんは魔導士院へと帰ってしまった。

なんで夜?夜じゃないと出来ない実験ってこと?

ぽかんとして訳もわからず私はその後ろ姿を見送っていた。



・・・そして現在。時間は夕食も済ませて夜も深まりルルーさん達もとっくに退出したいつもなら寝ている時間。

大きく取られた寝室の窓から差し込む月光だけが頼りの薄暗がりの私の寝室のベッドの上で私はあぐらをかいたシグウェルさんの前に横抱きのように座らされて口付けを受けている。

「ふぁっ・・・ちょ、ちょっと待ってください⁉︎」

溺れるような深い口付けの合間にようやく見つけたタイミングでストップ!と私を抱きしめるシグウェルさんの胸を両手で押して制する。

だけどシグウェルさんは、

「この夜着は初めて見る色だがなるほど、薄水色が君の肌の白さをより引き立たせているな。シェラザードの話していた通りだ。」

と訳の分からない納得をしている。というかこの状況そのものが意味が分からない。

「じっ、実験は⁉︎今夜協力して欲しいって言ってましたよね⁉︎」

私の夜着に触れて興味深そうに呟いているシグウェルさんにそう言えば、私の夜着の胸元の水色のリボンをもて遊びながらああ、と頷かれた。

「今まさに協力してもらっている」

「はっ?」

どういう意味なのか。レジナスさんの片手はリボンの紐を軽く引いてみたりその指に巻きつけてみたりともて遊び続けながら、私の背中を支えているもう片方の手はそのまま私の耳の後ろを撫でた。

「んっ・・・!」

その感触に背中がぞくりとして声が思わず出そうになったので口を引き結ぶ。

たったこれだけの刺激にも弱いとか、ホントにもうこの体と来たら・・・‼︎

そんな私にまた一つ口付けを落としたシグウェルさんは、顔を近づけたまま囁くように説明する。

「君、気付いていたか?俺との新婚休暇が終わる頃にはその魔力がそれまでに比べて急激に回復し始めていたことに。」

それは分からなかった。魔力に敏感なシグウェルさんだからそれに気付いたんじゃないの?

「そっ、それとこれに何の関係が・・・ひゃんっ‼︎」

いつの間にか胸元のリボンが解かれていた夜着の内側にシグウェルさんの片手が滑り込んでいる。

その手に揉まれ、胸の先まできゅうっと摘み上げられたその刺激と冷たい手の感触に思わず声が出てしまった。

「姫巫女の神託を忘れたのか?君を育てるのは愛情だと言っていただろう?」

また口付けられた口の中をシグウェルさんの舌で蹂躙されて、その合間にそんな事を囁かれる。

「休暇を過ごすごとに魔力が増す君を見て、恐らくそれは身体の成長だけでなく魔力量についてもそうなのではないかと思ったんだ。」

話しながらも胸の先をいじりながらゆっくりと下から持ち上げるように強弱をつけて揉みしだく手は休まない。

思わずその刺激に内腿をぎゅっと締めればその様子をくすりと笑われて耳たぶに口付けられた。

「だからこうして愛情を与えることによって魔力量が増えるのかを確かめたい」

「そっ、それを実験って・・・言うんですか・・・っ⁉︎」

「幸い君の許可も取れたことだしな。」

そう言ったシグウェルさんは私を抱き上げると横抱きの姿勢から自分を跨ぐように座らせるとベッドボードを背もたれに私と向かい合った。いわゆる対面座位の姿勢だ。

そのまま胸を揉まれているのとは別のもう片方の手でつうっと背中を撫でられればぞくぞくとした快感がまた背中を這い上る。

跨ぐように座らせられているために開かれている足に思わず力が入った。

内腿を締めるように反射で両膝に力が入ればシグウェルさんの腰を両側からぎゅっと締めつけるようにして、ぶるりと身を震わせた私に

「相変わらず敏感だな。むしろ俺達四人との休暇を過ごして更に刺激に弱くなっていないか?」

とシグウェルさんは面白そうに言う。

そしてそのまま胸に触れている指を乳輪に沿うようにくるりとひと撫でさせると、その爪を乳首の先に埋めるように突き立てられた。

「んぅっ・・・‼︎」

そんなことをされたら痛いはずなのに痛みは感じずに気持ちよさだけを拾う。

「いい声だ。ほら、痛くも怖くもないだろう?昼間約束した通りだ。」

ひそやかに笑う声の合間に、さてでは実験に付き合ってもらおうか。と囁かれた。
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