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番外編

マッシュルーム・ハンティング 2

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リス達の向こうの木の根元に薄茶色の傘を持つキノコが見える。

まるで椎茸みたいに肉厚で美味しそうだ。

「きっと美味しいですよ!」

水をたっぷり入れて重くなった水差しをエル君に渡して私はサッと立ち上がった。

「あ、ユーリ様!」

水差しを手渡されたエル君は思った通り、すぐには私を止められない。

そのままキノコのところまで行って確かめた。

・・・変な斑点やおかしな色もしていないし、えーと確か前にシェラさんに教えてもらった食べられるキノコに似てる・・・よね?

毎回間違えて毒キノコを採ってしまうけど、前回これに似たキノコを採った時は傘のそり返りとその裏側の色に特徴があるって言われた気がする。

でもこれはどこからどう見ても椎茸だ。きっと大丈夫。

「あっ、こっちにも!」

水を汲みに来た時は気付かなかったけど、同じ道を帰りに辿りながら周りをよく見てみればわりとたくさんそのキノコはあった。

エル君は嬉しそうにキノコを採る私に呆れたのか、もう止めもせずに

「とりあえずリオン殿下のところまで戻ったら一度全部見せてください」

と諦めたように言っていたけど。

「ええー?大丈夫ですよ、おいしそうですもん‼︎」

こんなに椎茸そっくりなのに毒キノコなわけがない。

両手いっぱいになる程度の量を手にリオン様達のところへ戻れば、リオン様とレジナスさんは少し離れたところで鹿肉を切り分けながら何やら話していた。

小鍋の近くにはさっきレジナスさんが作ったかまどみたいな石組みがあって、その上には横に棒を渡せるようにしてあるから、きっとそこであの鹿肉を炙るんだろう。

更にその隣には焚き火がぱちぱちと燃えていて、すでにそこには肉の刺さった串が数本突き刺してある。

あれは鴨肉の焼き鳥かな?お肉の焼けるいい匂いが漂って来た。

じゃあ最初にリオン様が作っていた小鍋の中身は?とそちらも覗き込めば、さっきの野菜の他にこちらにもすでに鴨肉が投入されている。すごくいい匂い。

早く食べたい!とウキウキしていれば、そんな私の背後からエル君が

「ユーリ様、さっきのキノコ見せて下さい」

とせかしてきた。

「せっかちですねぇ、そんなに急がなくてもちゃんと見せますよ!ほら」

敷き物の上にころころとさっき採ってきた椎茸もどきを並べて見せる。

「リオン様が作っているあのスープに入れたらすごくおいしいと思うんですよね、二人が見てないうちにこっそりお鍋に足しちゃいましょうか?きっとおいしくなってリオン様達をビックリさせちゃいますよ~」

すごいよユーリ、おいしくなってる。そんな風にリオン様に言われる事を想像してエル君に話しかけた。

だけどエル君はそれらを手に取るとあの赤い瞳でじいっと見つめて、おもむろにその全てをサッとかき集めスタスタ歩き出す。

「・・・?」

どうしたのかな?と思っていたら、串焼きが刺してあるあの焚き火の真ん中に無情にもその全部をぽいっと投げ入れてしまった。

ゴウッ!と一際高く燃え上がった炎の色はなぜか青紫だ。

だけどそんな火柱が立ったのも一瞬で、その後はまた元のようにパチパチと静かな焚き火に戻る。

当然ながら私の採って来たキノコは跡形もなくなっていた。

「な、な、何するんですか突然!」

せっかくスープに入れようと思ったのに、と言った私をちらりと見たエル君は

「リオン殿下を殺すつもりですか」

と冷たく言った。・・・え?まさかあれ、やっぱり毒キノコだったの?どう見ても椎茸だったけど。

「食用のキノコに良く似てますけどあれは痺れ茸です。多量に取れば死ぬこともありますよ。第二王子殿下を毒殺するつもりですかユーリ様。」

「そんなぁ」

今回は自信があったのに。がっかりしていたらリオン様がやって来た。

「ユーリ、汲んできた水を小鍋に少し足してくれる?・・・どうかした?」

まだ名残惜しそうに焚き火を見つめていた私の様子に何かあったのかと聞かれる。

そこで採って来たキノコが食べられないからとエル君に焚き火で全部燃やされたことを話せば、

「・・・上がった炎の色が青紫だったんだよね?それは間違いなく毒キノコだったね・・・」

と気の毒そうな目で見られた。後からやって来て一緒に話を聞いていたレジナスさんにも、

「食用キノコと似てはいるが軸に比べて傘が大きすぎるなど見分けるコツはいくつかあるな。・・・まあユーリにはまだ少し難しかったんだろう」

と頷かれてしまった。く、悔しい。

いつか必ずちゃんとしたキノコを、と心に決めていればそんな私に二人は苦笑している。

「ほらユーリ、元気を出して。スープを味見してみる?キノコは入っていないけど充分おいしいよ。」

とリオン様に背中をぽんぽん叩かれ、レジナスさんにも

「鹿肉はあのかまどの上で炙るからもう少し時間がかかる。先に串焼きにした鴨を食べるか?鴨肉のソテーも作ってやろう」

とお肉で機嫌を取られた。エル君も、

「では僕が取り分けます。ほらユーリ様、キノコよりもお肉の方が好きでしょう?」

と促される。

「うう、食べます・・・」

そうして慰められ機嫌を取られながら食べたお肉は悔しいことに、キノコのことを忘れるくらい確かに美味しかった。

スープには野菜と鴨の旨みがしっかりと溶け込んでいるし、串焼きの鴨も脂が甘い。

持参した小さなフライパンみたいなスキレットの上で焼いた鴨肉の上に、食後のデザート用にでも持参していたらしいオレンジをレジナスさんがあの怪力で豪快にぎゅっと丸ごと握り潰した。

その果汁や果肉と鴨肉の脂や血の混ざったソースが出来れば、鴨肉のこっくりとした旨みにさっぱりした柑橘系のソースがよく合っている。

香ばしく焼けた鴨肉に複雑な味のソースが絡み合ったそれは、レジナスさんのワイルドな料理法とは真逆の繊細な味がしてすごくおいしい。

「レジナスの野営料理も久しぶりだけど相変わらずおいしいね」

リオン様はにこにこと嬉しそうだ。

そういえば騎士団の訓練を見学して野営料理をご馳走になったりしたけどレジナスさんにこうした野営料理を作ってもらうのは初めてかもしれない。

「俺にはこれくらいしか出来ませんから」

なんてレジナスさんは謙遜してるけどとんでもない。

敷き物の上にはリオン様が持参したワインやチーズに白パンまであるし、後から出来上がった鹿肉の炙り焼きも並べばレジナスさんの作った鴨肉のソテーも相まって、ただの野営料理じゃなくちょっとおしゃれなキャンプ飯みたいに豪華な昼食になった。

食後はリオン様の淹れてくれた紅茶を飲みながらゆっくりしていると、

「少し休んだらこの先をもうちょっと奥まで進んでみようか。綺麗な小川のそばにスミレの群生地があって、野イチゴも確かたくさんなっていたと思う。そこでおやつにしよう。日当たりも良い場所だし、そこでそのまま昼寝を楽しんでもいいね。」

と提案された。甘い揚げパンも持って来ているからそれに野イチゴを挟んで食べるとジャム入りのパンみたいでおいしいよ、と素晴らしいプレゼンまでリオン様はする。

さすが私のことをよく理解しているだけあって人の食い意地を的確に刺激して来る。

おいしそうです!と目を輝かせれば、それは良かった。と微笑んだリオン様は

「さて、それじゃあそろそろ片付けようか。ユーリはそのままお茶を飲んでいて。」

とレジナスさんと一緒に立ち上がった。エル君も手伝いますと申し出て、私以外の三人はてきぱきと動き出す。

うーん、いくら休暇といっても私だけこんなに何もしてなくていいんだろうか。

リオン様達は私と出掛けられただけで満足して料理をするのもそれを片付けるのも苦には思ってないみたいだけど。

私が今日したことといえばリオン様に頼まれた水汲みと毒キノコを採ったことだけだ。しかもそれは全部エル君に燃やされた。

これ、帰って話したら絶対シェラさんに「進歩しませんねぇ」とか言って面白がられちゃうんだろうなぁ・・・。

なんてことを考えていたら、ふと近くの草むらに目がいった。

黒々としてうっすらと白い斑点がある、傘の周りがひらひらとドレスの裾みたいに波打っているキノコだ。

・・・またキノコ。なんで私の目はこんなに目ざとくキノコを見つけてしまうんだろう。

近寄ってしゃがみ込み、まじまじとそれを観察する。

今回は見るからに毒キノコっぽい見た目だ。怪しい。だけど今までに見たことのない初めて見る種類だった。

だからエル君達にも見てもらおうと振り向いて声をかけた。

「すみませんエル君、ここに変わったキノコがあるんですけど見てもらっても・・・」

振り向いて、その拍子に触るつもりのなかったそのキノコについ触ってしまった。

そのままよろけてさらにしっかりとキノコに触ってしまう。

すると途端にキノコからぼわんと白い胞子がまるで煙のように舞い上がった。

「ユーリ様⁉︎」

それをちょうどエル君が目撃した。

胞子を浴びた私はハクション!というくしゃみが止まらない。

目も痒くてパチパチとまばたきをしながらくしゃみをしていれば、なんだか頭もボンヤリしてくるようだった。








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