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番外編

暇を持て余した貴族の優雅な遊び 4

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「それで結局、リオン様とシェラさんは二人でプリシラさんのお店を手伝ってきたんですか。」

目の前に並べられた色とりどりのケーキを前に、目移りしながら私はリオン様にそう尋ねた。

「そうだよ、なかなか面白かったね。普段視察に行けない地方から来ている人達の話も聞けたし、今どんなドレスが流行っているかなんていうのも知れたし。今度ユーリにもプレゼントするね。」

にこにこと教えてくれるリオン様は本当に楽しそうだ。

「いえそんな、ドレスはプレゼントされて着ていないものがまだまだあるからいいですよ!とりあえず今は目の前のケーキが一番です‼︎」

どれもおいしそう、と迷っていればリオン様の膝の上にひょいと抱え直される。

そう、いつものように私はまたリオン様の膝に乗せられていた。

王都の視察で手土産のケーキだけでなくお土産話もあるから、ケーキは夕食後にゆっくり食べようねと言われて楽しみにしていたら、マリーさんがケーキをテーブルに並べ始めたのに気を取られた一瞬の隙に確保されてしまった。

これはもう、ケーキを食べさせられるところまで覚悟しなければならない。

しかも大きくなってしまった今はリオン様の膝の上に真っ直ぐ座っても膝の間に座ってもその視界を塞いでしまうのでその膝の上に横座りだ。

そうすればリオン様の視界を全て塞ぐことはないけれど、おかげで姿勢を安定させるためには常に私の片手か両手はリオン様に添えていなければならない。

そうなると常に私の体の半分はリオン様に寄りかかってくっつくことになり、その顔も近いところによく見えるので気恥ずかしさも増す。

だけどリオン様は今までと違って私から掴まってこなければならない上に常に私の横顔も見えるその座り方が気に入ったらしく、今まで以上に膝の上に私を座らせたがっている。

「さて、どれから食べるか決めたかな?どんなにプリシラ嬢のお店でお茶を振る舞い挨拶の口付けをしても、僕が食べ物を口に運んであげるのはユーリだけだからね。」

とそんな事までうそぶかれた。相変わらず口の上手い王子様だ。

「べっ、別に一人でも食べられますから!」

「この状態で?強がっちゃって」

くすりと笑われる。

そりゃまあそうだけど、そもそも膝の上で横座りなんて態勢でなければ一人で食べられないことにはなっていない。

だから降ります!と電車の降車宣言よろしく声を上げたのにああダメだよ、と逆にきつく抱きしめられて私の悪あがきで終わってしまった。

そしてそんな私達を見たマリーさんが「まあ、相変わらず仲がよろしくて素敵ですね」とか何とか言って席を外してしまう。

いや、いちゃついていたわけでもそれを見せつけていたわけでもなく私は本気で一人で座って食べたかったんですけど・・・。

腑に落ちないまま、仕方なく諦めて別の話題をリオン様に振った。

「それで、プリシラさんのお店から盗まれた物とかはすぐに戻ってくるんですか?」

「裁判の進捗状況次第だけど、少し時間はかかるかもね。レジナスとシェラが取り調べに立ち会っているから、本人からの調書を取るのや前科については早く分かるだろうけど、前科が多ければその分判決まで時間がかかるし」

あの二人が立ち会っているなら仕事は早そうだけど・・・前科?

「前科があるんですか?」

「王都から遠く離れたどこかの領地でそこの貴族の執事長をやっていたらしいんだけど、そこでも横領や賄賂の受け取りをしていたらしい。頃合いを見て、病気と偽って辞めたみたいだけどね。まだざっとシェラが調べただけだけど、同じような事を他でもしていたらしいよ。」

それは判決まで時間がかかりそうだ。

「プリシラさんも大変ですね・・・。」

盗まれた物は証拠品として当分の間戻って来ないから、お店の内装を整えるためにはそれが返ってくるのを待つより買う方が早いけど余計な出費がかかる。

引き抜かれた従業員は、反省してまた働きたいと言っているみたいなので再教育の上でまた働いてもらうみたいだけど。

「そこまで大変そうでもないよ」

「え?」

プリシラさんに同情した私に、ケーキの一つを引き寄せながらリオン様が笑った。

「香油だけでなく僕の淹れた紅茶やあの時に使ったのと同じモデルのティーセットまでちゃっかり売っているし、それに」

その時の会話を思い出しながらええと、と教えてくれる。

「僕やシェラのおかげで新しい業態の店舗のアイデアが浮かんだって言っていたね。ただ案内してお茶やお菓子の世話をする執事みたいな形ではなくて、今回の僕みたいに一つ一つのテーブルについてお茶や会話を一緒に楽しむ形?とか」

「えっ」

行ったことはないからよく分からないけど、それはちょっと、なんだか、ホストクラブめいているような・・・?え?大丈夫?

ぽかんとした私の顔が面白かったのか、リオン様はイチゴのケーキを切り分けてそれを私の口元に運びながら

「ユーリも試しに体験してみる?プリシラ嬢の店まで行くのは人目について大変だから、ここで僕やシェラがユーリの両隣に座って接待するよ?ほら、こんな風にケーキを食べさせてあげながらその手を取って褒めてあげる。」

そう言って目を細めた。

フォークの上に差し出されたケーキを一口頬張って咀嚼しながら、いやそれこそまるでホストクラブ・・・と突っ込みたくなるのを我慢する。

「け、結構です!・・・あ、そうだ休暇の行き先‼︎」

「うん?」

なんだかリオン様の雰囲気が妖しくなったので、もっとケーキをくれと催促しながら慌てて話を変えた。

「新婚休暇の行き先です!まだ決めてませんでしたよね?」

「ああ、どこにするか決めた?」

「ノイエ領にします‼︎」

勢い込んで言った私にリオン様はそんな近くでいいの?と聞いてきた。

新婚休暇は、もし私にどこか行きたいところがあったらそこを優先するとリオン様は言ってくれていたので結婚式を挙げることが決まってからずっと考えていた。

ちなみにレジナスさんとは山深い僻地にあるけど様々な温泉で有名な温泉郷へ、シグウェルさんとはシグウェルさんの実家のあるユールヴァルト領へ、シェラさんとはリオネルの港町にあるあの無人島へ行くことになっている。

唯一リオン様との出掛け先だけが未定だったのだ。

忙しい人だしあまり王都から離れた遠くまで行くのもなあ、と思っていたところにこのマールの果樹園で作られたフルーツを使ったケーキを見て思いついた。

「ノイエ領は魔力の多い土地なので私の魔力回復にも効果があるかも知れません!それに選女の泉でイリューディアさんにお祈りもしたいし、あそこの建物の温泉、お昼は入りましたけど夜に入ったことはないので。夜もそこから見える星や夜景が綺麗だって確かユリウスさんが言ってました!それに途中でマールの町に立ち寄れば果物狩りも楽しめます、近場でもきっと楽しいですよ!」

そう、結局は行く場所の距離が大事ではなくそこで誰と過ごすかが重要なのだから。

リオン様と一緒ならきっとどこに行っても楽しい休暇になるだろう。

そう思いながら話せばリオン様は、

「ふうん・・・。そうだね、ユーリの方から僕と一緒に夜のお風呂を楽しみたいと言ってくるとは思わなかったけどそれはいい考えだ。」

と瞳を笑ませた。

「え?誰もそんなことは言ってないし、一緒に入るなんてのも・・・」

その前に泉のこととか果物狩りの話もしたよね?それなのに夜のお風呂の話題以外はなかったことにされている。

「どうせどこに行ってもしばらくの間は部屋から出ることもないだろうしね。結局はどこに行っても一緒、ってことならどこに行くかよりも相手がユーリだってことの方が大事だよね。」

「え?」

言ってることはさっき私が思っていたことと一緒なのにリオン様の話していることの方には何だか不穏な雰囲気が漂っている。

「口元にクリームがついているよユーリ」

リオン様の不穏な呟きについて問いただそうとしたら誤魔化すように口元をぺろりと舐められてそのまま口付けられる。

「ご、誤魔化さないでください!今なんか変なことを・・・!」

「変なことなんか何も言ってないよ、休暇が楽しみだねって話をしただけだから。」

そう言ってまた一口分のケーキを私の口に入れたリオン様は早く休みになるといいね、と艶めいた声色で囁くと私の首筋にもう一つ口付けを落としたのだった。



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