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番外編

お風呂に介助はいりません! 6

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「・・・だからね、制限や縛りがどうとかそういう問題じゃないんだよ!」

・・・あれ、何だろう?リオン様の声がする。

ぼんやりと瞬きながら私は目を開けた。私、寝ている?

「申し訳ありません、これでも手加減したつもりでしたが」

シェラさんの声も聞こえる。

でしょ⁉︎君とユーリの体力差、分かってる?」

「使ったのは指だけでしたし最後まではいたしておりませんし」

「ゆっ・・・指だけとか、そういう問題でもないんだってば‼︎そもそも最後までは、って言うけど何も知らない未経験のユーリにほぼ全ての事をさせちゃったんじゃないか、可哀想に‼︎」

「教える愉しみを奪ってしまいましたか?申し訳ありません」

「謝って欲しいのはそこじゃないんだけど⁉︎」

どうやらシェラさんがリオン様に怒られているみたいだ。一体何ごと?

「・・・リオン様?」

ゆっくりと声のする方へ顔を傾ければ、私の額から固く絞られた冷たいタオルがぽとりと落ちた。なんだこれ?

「ユーリ⁉︎良かった、目が覚めたんだね!大丈夫?気持ち悪くない⁉︎水は飲む?」

リオン様が私の額から落ちたタオルをもう一度乗せ直した。

気持ち悪い・・・?そう言われれば。

「なんだか少し頭が痛いような・・・?」

そんな気がする。そもそも私、なんで寝てるんだっけ?

そうしたら、ベッドサイドにかじりついて私の手を取ってくれているリオン様の向こう側に、床に直接正座してこちらをにこにこと見つめるシェラさんがいた。

「お目覚めになられて何よりです」

「何よりじゃないよ、そんな人ごとみたいに‼︎そもそもは君が・・・っ‼︎」

シェラさんの声がけにリオン様が振り向いてまた怒りかけたけど、途中でハッとして言葉を飲み込んだ。

シェラさんが?シェラさんのせいで私がこうなったってこと?

「えーと・・・?」

自分の記憶を辿る。ベッドの中で身動きをしたら右足がズキンと痛んだ。

あ、そうだ。足をくじいて、それでお風呂を手伝うって言ってシェラさんが・・・。

そこまで思い出したら、後はもう芋づる式だった。

お風呂の中でのあれやこれやの記憶がぶわっと蘇る。

そのままみるみる赤くなった私を見たリオン様はため息をついた。

「思い出しちゃった?シェラのせいで軽く湯当たりしたんだよ。深夜だし、ルルー達に看病を頼むのも忍びないからね、今レジナスが症状を和らげる薬草を取りに行ってくれてる。もう少しの我慢だよ。」

ということは、床に正座しているシェラさんはリオン様からの説教の途中だったのか。自業自得だ。

ていうか深夜って。どれだけ長くお風呂場にいたんだろう。

いやそりゃああれだけ色々なことをしたりされたりしたんだから時間は経っているんだろうけど。

・・・色々と。

男の人の裸をまともに見たのも初めてだったのに・・・っていうか、言うほどシェラさんの裸そのものもちゃんと見ていない。

むしろしっかり見てしまったのはシェラさんのアレだけだ。

それなのに、初心者の私にいきなりあんなに色々な行為をするのってどうなんだろう⁉︎

しかもさっきのリオン様の話ぶりと、レジナスさんも薬草を取りに行っているところから二人とも私とシェラさんがお風呂で何をしていたか知ってるってことだ。

「さっ、最悪・・・‼︎」

心配してくれているリオン様の顔も恥ずかしさのあまり見られなくなって、頭まで布団をかぶる。

「ユーリ⁉︎君、湯当たりしたんだからそんな風に布団にこもるのは暑くなるから良くないよ⁉︎」

リオン様はぐいと布団を引いて私の顔をそこから出そうとするけどとんでもない。

あんな恥ずかしいことをした後で、私が何をしたか知っている人とどんな顔をして話せばいいのか分からない。

「大丈夫ですよユーリ様。貴重な癒しの力を使って消さなくてもいいように、跡が残るような口付けはどこにもしておりませんから。その他にも隠したり消さなければいけないような跡はどこにもつけておりませんので、お姿を見せても恥ずかしくありませんよ。」

シェラさんが全然違う方向からアシストしてきた。誰もそんな心配はしていない。リオン様の前で何てことを言うんだろうか。

「シェラさん⁉︎」

「ちょっとシェラ⁉︎」

布団の中からくぐもった叫び声を上げた私とリオン様の声が重なる。

「仲がよろしいですね、羨ましい」

シェラさんは正座をしたまま飄々としている。

リオン様は布団をかぶったまま出てこない私の背中を宥めるようにその上から優しく撫でてくれている。

「・・・大丈夫、シェラが悪いっていうのは全部分かっているから。ね、ほら顔を見せて。のぼせた後なのにそんな風に布団にこもったまま興奮したらまた倒れてしまうよ?外の冷たい空気を吸って。」

僕を心配させないで。そう言ったリオン様に、一年半前にエリス様の件で泣かせるくらい心配をかけてしまったのを思い出す。

仕方なく羞恥心に目が潤んだまま、そっと布団の隙間から顔を覗かせた。

「・・・おっ、お風呂であんな事したとかリオン様に知られて、呆れられたんじゃないかって恥ずかしいんですけど・・・⁉︎」

見上げた私にそれまで微笑んでくれていたリオン様はウッと声を詰まらせて何故かその目元がほんのりと赤くなった。

「呆れたりなんかしないさ。でも、うん、今はちょっとそんな目で見つめないで欲しいかな・・・」

誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべて私の目に滲んだ涙を拭ってくれたリオン様と、なぜか視線が合わない。

「・・・リオン様?」

やっぱり呆れてるんだろうか。

するとそのリオン様の背後からシェラさんが声を掛けてきた。

「ユーリ様、そんなに色っぽいお顔で殿下を見つめるのはやめてあげて下さい。オレがユーリ様といたした事は全て報告済みですので、今そのようなお顔で誘われると色々とまずいです。」

「いたしたって何ですか!ぜ、全部⁉︎」

「ユーリ様の弱いところやよろこんだところなども含めての全部を報告済みです」

「ウソでしょう⁉︎」

思わず布団から顔を出してまた叫んでしまった。その拍子に頭がずきりと痛む。

「あ痛った・・・!」

頭を抑えるとリオン様が慌ててユーリ⁉︎と頬に触れてきた。

ぱちりと視線がかち合えば、さっきよりもリオン様のその顔がもっと赤くなっているような気がする。

ダメだ、恥ずかしい。

「・・・!うぅ~・・・っ」

年甲斐もなく、あの10歳の姿の頃のように泣きそうになってしまった。

「だ、大丈夫だから!」

私のその様子に慌てたようにリオン様は布団ごと抱き締める。

「もうほんとシェラ、これ以上余計なことは言わないでくれる⁉︎ちゃんと反省してよね‼︎」

ぽんぽんと私の背中を抱いてゆっくりと揺らし、小さい子をあやすようにしながらリオン様はシェラさんをまた叱った。

「反省しているからこうしてずっと床に座っているのですが・・・」

「ウソだぁ、ぜっ、全然懲りてないぃ~・・・‼︎」

一応しおらしい態度で話しているシェラさんに涙目になりながら思わず突っ込みを入れてしまう。

全部話したって何それ。伴侶だから?伴侶は平等だからとかまた言い出すつもり?ということは、まさか今この場にいないシグウェルさんにまでお風呂場で私があんな痴態を晒した事を話すつもり?

心の中でぐるぐるとそんな事を考えていたらリオン様が、

「ああ、うん・・・。シェラの性格なら多分そうするだろうね・・・」

と答えた。エスパーか。私の心の中を読んだのかとびっくりして見つめたら、

「全部声に出てたよ・・・」

気まずそうに言われた。ひぃっ!恥の上塗りだ。

「も、もうシェラさんなんか嫌いです‼︎」

「おや何ですか突然、お可愛らしい。」

私の抗議も全然気にしていない。それどころか、

「そんな愛らしいお顔で目を潤ませて嫌いと言われると堪りませんね、ぜひオレを見つめてもう一度言っていただけませんか?もしかすると押し倒してしまいたくなるかも知れませんが。」

とおかしな事を言い出す始末だ。

「絶対にイヤ‼︎」

抱きしめてくれているリオン様に縋り付いて顔を見せないようにしてそう叫べば、リオン様に

「そうだね、シェラはもう僕らの新婚休暇が始まるまで遠ざけておこうね。足首を痛めているというのも聞いているから、明日はシェラじゃなくて僕がユーリを手伝うからね。」

そうなだめられたけど。

手伝う?まさかまた入浴も⁉︎それだけは絶対にダメだ。

こうなったらなりふり構っていられない。

明日の朝、朝イチで自分に癒しの力を使って早く捻挫を治さないと。

「結構ですっ!もうお風呂に介助はいりません‼︎」

リオン様には悪いけど力一杯断った。

・・・この時はそのまま忘れてしまったけど、お風呂でシェラさんにあれこれされた私の体が変な気がしたのは気のせいでも気持ちが良かったからというだけでもなかった。

リオン様達と愛を交歓する中での私の痛みや辛さを和らげ、体力の差をまるで補うかのようなそれが実はどうやらイリューディアさんの加護の力らしいと分かるのはリオン様との新婚休暇でのことで、それはまた今回とは別の話になる。





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