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番外編
お風呂に介助はいりません! 1
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「うーん、やっぱり力にムラがあるんですよねぇ・・・」
奥の院でリーモの木に手をかざしながら私は唸った。
エリス様の事件で倒れて一年眠り、目覚めて半年。
いまだに私の癒しや豊穣の力は完全に回復していない。
リオン様達との結婚式もついこの間、無事終えた。
だからこの後に控えている四人それぞれとの休暇を過ごしたらそろそろ本格的に癒し子としてまた頑張りたいんだけど。
でも私の力はまだ戻り切っていなくて、大きな力だと1日に一回、小さめの力なら1日に二、三回使えるのがいいところだ。
今日も練習で王宮の元陛下のナジムート様のところの羊三頭をもっふもふにして、帰りがけに見かけた足を引きずって怪我をしているらしい野良猫を治してあげたら、今はリーモの木に果実をつけれないでいる。
と、そこへシェラさんがやって来た。
「ユーリ様、そろそろ中へ戻りませんか?夕食の時間も近いですし、その前にリオン殿下との休暇に持参するお洋服の確認もお願い致します。」
「え?シェラさんが選んだんですか?すぐに確かめます!」
大丈夫かな。特に夜着とか下着とか。
いつぞやリオネルに持って行ったリオン様が選んだっていう夜着にもシェラさんが一枚噛んでたみたいだし、今回もちゃんと調べないと。
急いで戻ろうとしたら、足元の草が濡れていたらしくずるっとすべった。
「わっ‼︎」
ここでキャア、とかいう可愛い悲鳴が出ないのが我ながら残念なところだ。
そう思いながら慌てて足を踏ん張る。
そうしたらグキッと右足首を捻って転び掛けた。
「「ユーリ様!」」
すかさずエル君とシェラさんの二人が手を伸ばしてくれて転ばずにすむ。
「ありがとうございます、二人のおかげで助かりました!」
そう笑えばエル君は
「まだ体力も戻り切っていないんじゃないですか?まさかこんなところで転びかけるとは思ってませんでした。・・・足、ひねりましたよね?」
とチラリと私の足元を見やった。
「オレがお運びしますよ」
シェラさんはすかさず私をお姫様抱っこする。
「ユーリ様、ご自分で治せますか?」
運ばれながらそう聞かれたけど今日はもう無理だ。
だってさっきリーモの実も実らせることが出来なかったんだもん。
そう説明すれば
「では一晩だけ我慢なさってくださいね。明日になればまた魔力が回復して治癒の力を使えるのでしょう?それとも今からユリウスか他の回復魔法を使える宮廷魔導士を誰か呼んで来ましょうか?」
シェラさんにはそんな提案をされたけど・・・。
「いえ、ユリウスさんも忙しいでしょうし、他の魔導士さんも私を治すのに力を使うくらいならそれよりも他のことを優先させて欲しいです!」
首を振って遠慮する。たかが私の捻挫程度を治すくらいならその力はもっと有意義なことに使って欲しい。
ユリウスさんだって、私との休暇を取るために前倒しで仕事を片付けているシグウェルさんに付き合って忙しいのにそれをわざわざ呼びつけるのは申し訳ないし。
「殿下やレジナスが知ったら心配しますよ」
そう言われたけど一晩の我慢だ。明日になれば自分で治せるしそれに・・・。
「どうせリオン様達は今日も忙しくて帰って来るのは深夜でしょう?私と顔を合わせるのは明日の朝ですから、それまでには自分で治しちゃうんで内緒にしておいて下さい!」
とシェラさんにお願いする。
シグウェルさんだけでなくリオン様やレジナスさんも、私と三週間の休暇を取るためにやっぱり前倒しした仕事のあれこれで結婚式が終わってからずっと忙しくしている。
・・・まあそうなると普段と全く変わらずに朝の世話から始まって朝食も夕食も私と一緒にとっているシェラさんが謎なんだけど。
シェラさんも忙しくないのかなと一度聞いたら
「オレの遠征任務に関わってきそうな案件はユーリ様の伴侶になる以前、とっくの昔にほぼ全て潰してありますからね。ですからよほど緊急の任務でも入らない限りずっとお側にいられますよ。」
至極当然といった雰囲気でしれっと言われてしまった。いつの間に。
そんなに前から色々動いていたとか用意周到過ぎる。
・・・そんなわけでリオン様達が多忙で姿を見せない分、私と二人で過ごす時間が増えてシェラさんはずっと上機嫌だ。
まあ順番的にシェラさんとの休暇までだいぶ時間が空くので、今のうちに二人だけで過ごすのも悪くないのかな?とあれこれと嬉しそうに私の世話を焼くシェラさんに黙って付き合っている。
「やはり少し腫れていますね。無理せずなるべくご自分では歩かないようにして下さい。」
室内に戻ってから、ソファに座る私の足首を慎重に手に取って診てくれたシェラさんにそう言われた。
「そんな大げさな」
「これ以上悪化させたらその分使う癒しの力も増えるでしょう?そうしたら他のことに力を使いたい時にうまくいかないかもしれませんよ。」
結局は安静にしているのが自分のためにも他の人達のためにもなるということらしい。
「幸いにも奥の院は段差も少なく移動にご負担はかかりにくい造りですから、ユーリ様がそれほど気を遣わなくてもいいとは思いますが・・・」
そう言いながらもシェラさんは夕食のテーブルへの移動や着替えなど、トイレ以外は世話をする気満々だ。
そしてシンシアさんやマリーさんも、式まで挙げて晴れて正式に伴侶になったシェラさんがそうすると言えば全ておまかせして微笑ましく見守っているだけだ。
「お食事もオレが膝に座らせて食べさせてさしあげますからね。」
にこやかにそんなことまで言われたけど、
「いやシェラさん、私が怪我をしたのは足であって手は無事です!ご飯まで食べさせる必要はないんですよ?老人介護ですか」
私の捻挫に便乗して構いたいだけなのが丸わかりだ。
「自立心旺盛で人にあまり頼ることのないユーリ様ですからね、せめてこんな時くらいは頼りにしていただきたいものです。」
鼻歌混じりであっという間に私の足首に包帯を巻いてしまったシェラさんは私の断りもどこ吹く風だ。
「もう小さい子じゃないんですからホント、そこまでする必要はないんですよ・・・」
「オレの存在意義を奪うようなそんな悲しいことは仰らないでいただきたいですねぇ」
と、そんなやり取りをしている私達を見ていたシンシアさんが失礼致します、と断りを入れるとシェラさんへこそこそと何かを囁いた。
・・・ん?
「ああ、なるほどそれはいいですね。ぜひおまかせください」
「お願い致します」
私には聞こえない何がしかのやり取りの後、シェラさんは嬉しそうに頷いてシンシアさんは丁寧に頭を下げている。
「なんですか、シェラさんに何をお願いしたんですか?」
教えて下さい!とシンシアさんを見れば
「どうしてもユーリ様のお世話をしたいようですので、私どもの仕事の一部をシェラザード様にお願い致しました。それほど大した仕事ではありませんよ。」
にこりと微笑まれた。
あまりにシェラさんがごねるのでそれを見兼ねたんだろうか。
一体どんな仕事を頼んだのかな?と思って聞こうとしたら丁度そこへリース君達が夕食の準備が整ったと呼びに来た。
「今日はユーリ様のお好きなシチューですよ!トランタニア領の放牧地にいるあの濃厚なお乳を出す牛から絞った牛乳が使われてます!」
「えー、本当ですか⁉︎やったあ、嬉しい‼︎」
リース君の言った牛とは私に伴侶が出来たと聞いたヒルダ様が氷瀑竜の骨やら何やらと一緒に送ってくれた乳牛だ。
それはリース君達を助けるきっかけになったトランタニア領の訪問で作った牧場予定地に預けることになっていたけど、私が寝ている一年の間にそこもすっかり整備され、今は牛や羊、ヤギ達が放牧されている。
おかげで濃厚なミルクで作った生クリームからチーズにデザートまで色々と堪能させてもらっている。
その乳牛のミルクから作られたシチューもとてもおいしいのだ。
それにすっかり気を取られてしまって、結局シンシアさんがシェラさんに何のお手伝いを頼んだのかは聞きそびれてしまった。
そうしておいしい夕食をしっかりと味わって、少し休んでいるとマリーさんがお風呂の案内をしに来た。
奥の院にはその広さや外に見える景色によって趣きが異なる幾つかのお風呂がある。
その時によって違うお風呂を楽しめる贅沢な仕様だ。さすが王宮。
「今日はユーリ様も足を痛めておられますから、お部屋に備え付けのお風呂にしますね。シンシアさんが先に行って湯浴み着を準備してくれていますよ。」
そう言うマリーさんの手を借りながら、自分の寝室から扉を二つほど隔てた場所にあるお風呂と脱衣所へ向かう。
病弱だったリオン様のお母様、アルマ様のために作られていた寝室を改装した私の部屋には元々段差がなく広く浅めの浴槽を持つお風呂が備え付けてあって、そこは内装を少し変えたけどそのまま残してあった。
こうして怪我をしてみるとそのバリアフリーな作りのお風呂のありがたみも良く分かる。
脱衣所ではシンシアさんがいつものように湯浴み着を手に待っていてくれて着替えをする。
今日はノースリーブの前見頃を交差させて左側を紐で結ぶタイプの、膝上までの白い薄手のチュニックみたいな湯浴み着だ。
ズボンのない上着だけのノースリーブ型の作務衣みたいだなあと思いながら着替えれば、突然背後からシェラさんの声がかかった。
「着替え終わりましたかユーリ様。それでは浴室へお運び致しますよ」
「はい⁉︎」
びっくりして反射的に振り向けば、裸で腰にタオルを巻いただけのシェラさんがにこにこと立っていた。
はだか。・・・裸⁉︎
「なっ、なんでシェラさんがここに⁉︎」
今までシェラさんに入浴の手伝いをしてもらったことはない。
今この場にシェラさんがいるというだけでもあり得ないシチュエーションなのに、更に裸とかもっとあり得ない。
え?一体何が起こっているの?
呆気に取られて突っ立っている私の横でシンシアさんが、
「ではシェラザード様、後はよろしくお願い致します。石鹸やお湯に足す精油は中に準備してありますし、後でお飲み物もお届けしますので」
と丁寧に頭を下げ、マリーさんも
「ユーリ様、お二人の時間を楽しんで下さいね!」
ウフフと含み笑いをしながらシンシアさんと一緒にその場から去る。
いやちょっと待ってマリーさん、その意味深な含み笑いは何を想像した⁉︎
二人は私が止める間もなく言いたい事だけ言ってあっという間にいなくなってしまった。
そして脱衣所には私とシェラさんだけが取り残される。
すると呆気に取られていた私をひょいとお姫様抱っこしたシェラさんは
「ではお風呂のお手伝いをさせていただきますからね。」
といつも以上に色気を滲ませて、嬉しそうに輝くばかりの微笑みで私を見つめて来た。
・・・うん、夢でも見てるのかな?
奥の院でリーモの木に手をかざしながら私は唸った。
エリス様の事件で倒れて一年眠り、目覚めて半年。
いまだに私の癒しや豊穣の力は完全に回復していない。
リオン様達との結婚式もついこの間、無事終えた。
だからこの後に控えている四人それぞれとの休暇を過ごしたらそろそろ本格的に癒し子としてまた頑張りたいんだけど。
でも私の力はまだ戻り切っていなくて、大きな力だと1日に一回、小さめの力なら1日に二、三回使えるのがいいところだ。
今日も練習で王宮の元陛下のナジムート様のところの羊三頭をもっふもふにして、帰りがけに見かけた足を引きずって怪我をしているらしい野良猫を治してあげたら、今はリーモの木に果実をつけれないでいる。
と、そこへシェラさんがやって来た。
「ユーリ様、そろそろ中へ戻りませんか?夕食の時間も近いですし、その前にリオン殿下との休暇に持参するお洋服の確認もお願い致します。」
「え?シェラさんが選んだんですか?すぐに確かめます!」
大丈夫かな。特に夜着とか下着とか。
いつぞやリオネルに持って行ったリオン様が選んだっていう夜着にもシェラさんが一枚噛んでたみたいだし、今回もちゃんと調べないと。
急いで戻ろうとしたら、足元の草が濡れていたらしくずるっとすべった。
「わっ‼︎」
ここでキャア、とかいう可愛い悲鳴が出ないのが我ながら残念なところだ。
そう思いながら慌てて足を踏ん張る。
そうしたらグキッと右足首を捻って転び掛けた。
「「ユーリ様!」」
すかさずエル君とシェラさんの二人が手を伸ばしてくれて転ばずにすむ。
「ありがとうございます、二人のおかげで助かりました!」
そう笑えばエル君は
「まだ体力も戻り切っていないんじゃないですか?まさかこんなところで転びかけるとは思ってませんでした。・・・足、ひねりましたよね?」
とチラリと私の足元を見やった。
「オレがお運びしますよ」
シェラさんはすかさず私をお姫様抱っこする。
「ユーリ様、ご自分で治せますか?」
運ばれながらそう聞かれたけど今日はもう無理だ。
だってさっきリーモの実も実らせることが出来なかったんだもん。
そう説明すれば
「では一晩だけ我慢なさってくださいね。明日になればまた魔力が回復して治癒の力を使えるのでしょう?それとも今からユリウスか他の回復魔法を使える宮廷魔導士を誰か呼んで来ましょうか?」
シェラさんにはそんな提案をされたけど・・・。
「いえ、ユリウスさんも忙しいでしょうし、他の魔導士さんも私を治すのに力を使うくらいならそれよりも他のことを優先させて欲しいです!」
首を振って遠慮する。たかが私の捻挫程度を治すくらいならその力はもっと有意義なことに使って欲しい。
ユリウスさんだって、私との休暇を取るために前倒しで仕事を片付けているシグウェルさんに付き合って忙しいのにそれをわざわざ呼びつけるのは申し訳ないし。
「殿下やレジナスが知ったら心配しますよ」
そう言われたけど一晩の我慢だ。明日になれば自分で治せるしそれに・・・。
「どうせリオン様達は今日も忙しくて帰って来るのは深夜でしょう?私と顔を合わせるのは明日の朝ですから、それまでには自分で治しちゃうんで内緒にしておいて下さい!」
とシェラさんにお願いする。
シグウェルさんだけでなくリオン様やレジナスさんも、私と三週間の休暇を取るためにやっぱり前倒しした仕事のあれこれで結婚式が終わってからずっと忙しくしている。
・・・まあそうなると普段と全く変わらずに朝の世話から始まって朝食も夕食も私と一緒にとっているシェラさんが謎なんだけど。
シェラさんも忙しくないのかなと一度聞いたら
「オレの遠征任務に関わってきそうな案件はユーリ様の伴侶になる以前、とっくの昔にほぼ全て潰してありますからね。ですからよほど緊急の任務でも入らない限りずっとお側にいられますよ。」
至極当然といった雰囲気でしれっと言われてしまった。いつの間に。
そんなに前から色々動いていたとか用意周到過ぎる。
・・・そんなわけでリオン様達が多忙で姿を見せない分、私と二人で過ごす時間が増えてシェラさんはずっと上機嫌だ。
まあ順番的にシェラさんとの休暇までだいぶ時間が空くので、今のうちに二人だけで過ごすのも悪くないのかな?とあれこれと嬉しそうに私の世話を焼くシェラさんに黙って付き合っている。
「やはり少し腫れていますね。無理せずなるべくご自分では歩かないようにして下さい。」
室内に戻ってから、ソファに座る私の足首を慎重に手に取って診てくれたシェラさんにそう言われた。
「そんな大げさな」
「これ以上悪化させたらその分使う癒しの力も増えるでしょう?そうしたら他のことに力を使いたい時にうまくいかないかもしれませんよ。」
結局は安静にしているのが自分のためにも他の人達のためにもなるということらしい。
「幸いにも奥の院は段差も少なく移動にご負担はかかりにくい造りですから、ユーリ様がそれほど気を遣わなくてもいいとは思いますが・・・」
そう言いながらもシェラさんは夕食のテーブルへの移動や着替えなど、トイレ以外は世話をする気満々だ。
そしてシンシアさんやマリーさんも、式まで挙げて晴れて正式に伴侶になったシェラさんがそうすると言えば全ておまかせして微笑ましく見守っているだけだ。
「お食事もオレが膝に座らせて食べさせてさしあげますからね。」
にこやかにそんなことまで言われたけど、
「いやシェラさん、私が怪我をしたのは足であって手は無事です!ご飯まで食べさせる必要はないんですよ?老人介護ですか」
私の捻挫に便乗して構いたいだけなのが丸わかりだ。
「自立心旺盛で人にあまり頼ることのないユーリ様ですからね、せめてこんな時くらいは頼りにしていただきたいものです。」
鼻歌混じりであっという間に私の足首に包帯を巻いてしまったシェラさんは私の断りもどこ吹く風だ。
「もう小さい子じゃないんですからホント、そこまでする必要はないんですよ・・・」
「オレの存在意義を奪うようなそんな悲しいことは仰らないでいただきたいですねぇ」
と、そんなやり取りをしている私達を見ていたシンシアさんが失礼致します、と断りを入れるとシェラさんへこそこそと何かを囁いた。
・・・ん?
「ああ、なるほどそれはいいですね。ぜひおまかせください」
「お願い致します」
私には聞こえない何がしかのやり取りの後、シェラさんは嬉しそうに頷いてシンシアさんは丁寧に頭を下げている。
「なんですか、シェラさんに何をお願いしたんですか?」
教えて下さい!とシンシアさんを見れば
「どうしてもユーリ様のお世話をしたいようですので、私どもの仕事の一部をシェラザード様にお願い致しました。それほど大した仕事ではありませんよ。」
にこりと微笑まれた。
あまりにシェラさんがごねるのでそれを見兼ねたんだろうか。
一体どんな仕事を頼んだのかな?と思って聞こうとしたら丁度そこへリース君達が夕食の準備が整ったと呼びに来た。
「今日はユーリ様のお好きなシチューですよ!トランタニア領の放牧地にいるあの濃厚なお乳を出す牛から絞った牛乳が使われてます!」
「えー、本当ですか⁉︎やったあ、嬉しい‼︎」
リース君の言った牛とは私に伴侶が出来たと聞いたヒルダ様が氷瀑竜の骨やら何やらと一緒に送ってくれた乳牛だ。
それはリース君達を助けるきっかけになったトランタニア領の訪問で作った牧場予定地に預けることになっていたけど、私が寝ている一年の間にそこもすっかり整備され、今は牛や羊、ヤギ達が放牧されている。
おかげで濃厚なミルクで作った生クリームからチーズにデザートまで色々と堪能させてもらっている。
その乳牛のミルクから作られたシチューもとてもおいしいのだ。
それにすっかり気を取られてしまって、結局シンシアさんがシェラさんに何のお手伝いを頼んだのかは聞きそびれてしまった。
そうしておいしい夕食をしっかりと味わって、少し休んでいるとマリーさんがお風呂の案内をしに来た。
奥の院にはその広さや外に見える景色によって趣きが異なる幾つかのお風呂がある。
その時によって違うお風呂を楽しめる贅沢な仕様だ。さすが王宮。
「今日はユーリ様も足を痛めておられますから、お部屋に備え付けのお風呂にしますね。シンシアさんが先に行って湯浴み着を準備してくれていますよ。」
そう言うマリーさんの手を借りながら、自分の寝室から扉を二つほど隔てた場所にあるお風呂と脱衣所へ向かう。
病弱だったリオン様のお母様、アルマ様のために作られていた寝室を改装した私の部屋には元々段差がなく広く浅めの浴槽を持つお風呂が備え付けてあって、そこは内装を少し変えたけどそのまま残してあった。
こうして怪我をしてみるとそのバリアフリーな作りのお風呂のありがたみも良く分かる。
脱衣所ではシンシアさんがいつものように湯浴み着を手に待っていてくれて着替えをする。
今日はノースリーブの前見頃を交差させて左側を紐で結ぶタイプの、膝上までの白い薄手のチュニックみたいな湯浴み着だ。
ズボンのない上着だけのノースリーブ型の作務衣みたいだなあと思いながら着替えれば、突然背後からシェラさんの声がかかった。
「着替え終わりましたかユーリ様。それでは浴室へお運び致しますよ」
「はい⁉︎」
びっくりして反射的に振り向けば、裸で腰にタオルを巻いただけのシェラさんがにこにこと立っていた。
はだか。・・・裸⁉︎
「なっ、なんでシェラさんがここに⁉︎」
今までシェラさんに入浴の手伝いをしてもらったことはない。
今この場にシェラさんがいるというだけでもあり得ないシチュエーションなのに、更に裸とかもっとあり得ない。
え?一体何が起こっているの?
呆気に取られて突っ立っている私の横でシンシアさんが、
「ではシェラザード様、後はよろしくお願い致します。石鹸やお湯に足す精油は中に準備してありますし、後でお飲み物もお届けしますので」
と丁寧に頭を下げ、マリーさんも
「ユーリ様、お二人の時間を楽しんで下さいね!」
ウフフと含み笑いをしながらシンシアさんと一緒にその場から去る。
いやちょっと待ってマリーさん、その意味深な含み笑いは何を想像した⁉︎
二人は私が止める間もなく言いたい事だけ言ってあっという間にいなくなってしまった。
そして脱衣所には私とシェラさんだけが取り残される。
すると呆気に取られていた私をひょいとお姫様抱っこしたシェラさんは
「ではお風呂のお手伝いをさせていただきますからね。」
といつも以上に色気を滲ませて、嬉しそうに輝くばかりの微笑みで私を見つめて来た。
・・・うん、夢でも見てるのかな?
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