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番外編
冒険の書 4
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「ー・・・どうですかユーリ様、この書物の数!素晴らしいでしょう?門外不出の手記や手紙もたくさんありますし、勇者様に関するこれだけの量の関連書籍は王宮図書館や資料室にも、王族の書斎にもありませんよ!」
ほえー・・・と大量の本が天井まで綺麗に納められた小さな図書館みたいな部屋をぐるりと見渡した私はその量に圧倒された。
私の前には両手を広げて誇らしげにあれこれと説明をしてくれているセディさんと、それを呆れたように書棚に寄りかかって眺めているシグウェルさんがいる。
ここはユールヴァルト領のシグウェルさんの実家だ。
リオン様達との結婚式の後、それぞれと過ごす休暇のうちシグウェルさんとの時間の前半はユールヴァルト領を訪問することに二人で話し合って決めていた。
到着早々に一族あげての大歓迎を受けるとそのまま前にシグウェルさんがちらっと言っていたようにユールヴァルト家のしきたりに従った三日三晩に渡る盛大な結婚式へとなだれ込んだ。
そして到着して四日目の今日、やっとお屋敷の中とかあちこちを見学させてもらっている。
個人的に気になっていたキリウ・ユールヴァルトの手記や手紙、残した書籍についてはその全てが勇者様に関する記録と共にこの部屋に詰まっていると案内してくれたセディさんは得意げだ。
ここにある大量の書物の量を見ても過去の世界のキリウさんは本当に勇者様・・・レンさんのことを大事にしてくれていたように見える。
たった一人でこの世界に降り立った時、そんな風に自分の背中を支えてくれる人がいるありがたさは今の私も良く分かる。
そして過去で実際にあの二人に出会い言葉を交わしたからだろうか。
文献や伝説の存在としてではなく生身の人間として短い時間だけど関わったおかげで、あの二人が私やレニ様と出会う前、出会った後、どんな風に過ごしていたのかも気になっていた。
「こんなにたくさんあるとどれから読めばいいのか迷いますねぇ・・・。やっぱりキリウさんの手記ですか?」
きょろきょろしていた私にセディさんはそれなら、と一冊の本を取り出した。
「これはどうでしょう?勇者様が国を平定して王位についた後、国のあちこちをキリウ・ユールヴァルトと巡って魔物退治をした冒険譚です!この書物を素地にした冒険の書、と呼ばれる書物が国内に流通していてそこに書いてあるような野営をして魔獣料理を作り、温泉につかるという勇者様の追体験をするのも人気なんですよ。確かナジムート前陛下も愛読されていたはずです!あと他にも」
「おい、話が長過ぎる。それはまだ続くのか?」
勇者様大好きで話の止まらないセディさんにシグウェルさんが呆れる。
いつも冷たいアメジストの瞳がより冷たい氷の刃のようにセディさんを鋭く射抜いているけど、慣れっこなのか当のセディさんはどこ吹く風と言った雰囲気だ。
それに業を煮やしたのか、シグウェルさんはセディさんが私に手渡そうとしていた本をパッと取り上げると私の手の届かない書棚の高い所へ隠してしまった。
「何するんですかシグウェルさん!」
せっかく面白そうな本だったのに。
ぴょんぴょん飛んで書棚に手を伸ばせばその手を取られる。
「君、それを読み始めたら絶対夜が更けても読み終わるまでずっと夢中になっているだろう?」
「そうかもしれないですね・・・?」
「じゃあ俺との時間はどうなる」
「え?」
「せっかくの休暇だというのに二人きりで過ごせずにもう三日も無駄にしているんだぞ?」
その言葉に何を言われているのか意味を掴みかねてパチクリと瞬いてしまった。
シグウェルさんの後ろではセディさんが、
「坊ちゃま、本家の伝統ある由緒正しい儀式を無駄呼ばわりだなんてご先祖様が泣きますよ!」
と注意しているけどそれは綺麗に無視して私に続ける。
「俺と一緒に夜を過ごすのに、その間もずっと読書をするつもりか?こっちは全くその気はないんだが。」
そう言われ、んぐっ!と言葉に詰まって頬が熱を持つ。
そ、それは今夜は君を寝かせないぜ、的な意味合いの?
「・・・結婚式で食べた金毛大羊のサシミは美味かっただろう?」
赤くなった私を見てシグウェルさんはなぜか急に話を変えた。
「あ、ハイそうですね。ホタテのお刺身をもっと甘く濃い味にしたみたいで口の中でとろけておいしかったです・・・」
「この三日間、毎日たくさん食べていたな?」
「す、すいません貴重なものなのに。あんまりにもおいしくてついおかわりを・・・」
「君、知っているか?あれは滋養強壮に優れていて精力剤的な効果もあるからああいう場で出されるんだ。」
「⁉︎」
私の顔が更に赤くなったのをシグウェルさんは面白そうに目を細めて見ている。
そうしてそっと私の耳の側に口を寄せるとセディさんに聞こえないように囁いた。
「君は体力がないからな。あれをたくさん食べておいて悪いことはない。ああ、俺のことは心配するな。魔法実験で徹夜にも慣れているし君も知っているように魔導士は基礎体力も大事だからその辺も俺はずば抜けている。」
何しろ君の召喚の儀を一人で支え切るだけの体力はあるからな、と言うと耳たぶに口付けてシグウェルさんは離れる。
や、やめてやめて!
脳内にここ6週間、リオン様とレジナスさんのそれぞれと過ごした休暇の思い出が蘇る。
何というか、それはもう大変だったのだ。その、夜の営み的な意味で。
あんまり考えないようにしていたけど、まさかここでもそうなるの?
この後にはまだ・・・というか、もしかすると一番面倒くさそうなシェラさんも控えているのに。
こ、怖っ‼︎そして何が怖いって私のこの体だ。
イリューディアさんが作ってくれたこの体はその加護もあって特別製だけど、それはただ丈夫で魔力枯渇にも強いだけだと思っていた。
それがここにきてそれ以外の特徴もあることに気付いてしまった。
その・・・何というか、ぶっちゃけていうと快楽に弱い。普段は何ともないのに、そういう雰囲気になるとアレなのだ。
それにあんまり痛みも感じないし、っていうか痛いとか疲れたとか思うとまるでリオン様の自己回復のように体が淡く光っては無意識に回復魔法を自分にかけてしまう。
初めてそれに気付いたのはリオン様と夜を過ごした時だった。
リオン様は面白そうに、
『それってやっぱり愛と慈しみの女神であるイリューディア神様からの贈り物なんじゃないの?』
とか言ってじゃあこれは?とかこういうのは?とかあれこれやりたい放題された。
勘弁して欲しい。しかもそれは多分四人の中でも情報共有されている。
レジナスさんにも
『なるほどリオン様の話していた通りだな』
と訳の分からない納得の仕方をされて大変な休暇だった上、シェラさんにも
『オレとの休暇の時もぜひ飽きるまで毎日朝までお付き合いくださいね、一緒に朝日を見ましょう』
と恐ろしい犯行予告をされている。
そんな風に四人だけでも手に負えないのに一体勇者様は七人も奥さんがいてホントどうしていたんだろう。
どうにかこの爛れた生活から抜け出す方法はないものか。ヒントが欲しい。
その勇者様の冒険譚とやらには書いてないのかな⁉︎
やっぱり読みたい。
往生際悪く棚に手を伸ばせば、シグウェルさんに米俵のようにひょいと担ぎ上げられた。
「何するんですか!ちょ、この抱えられ方お腹が圧迫されて苦しいからやめて‼︎」
「君をこの部屋から遠ざけて別のことで気を逸らさないといけなそうだからな。このまま寝室まで運ぶ。」
「うそぉ‼︎」
「嘘じゃない。」
スタスタと歩くシグウェルさんに、セディさんも
「ああ、お部屋の方はいつでも快適にお過ごしいただけるようにしてありますから。後で着替えと軽食もお待ちしますね‼︎」
とサポートをする。
ま、まだ真っ昼間なんですけど⁉︎
「きっ、金毛大羊の移動を見に行く約束は⁉︎」
それも楽しみにこの領地を訪れたのに、まさか見に行けないの?と慌てれば
「そう焦るな。大移動は満月の夜だからあと四日ほどある。月光に照らされた金色に輝く羊の群れが移動する様は、まるで黄金の雲海が流れるのを見るようでそれは美しいぞ。期待していて損はない。」
そう言われた。それだけ聞けば夢のような光景で楽しみだけど。でも四日後⁉︎
「そ、それまではどう過ごすんですか?」
「それはごく普通に、新婚休暇の夫婦らしい過ごし方だな。殿下からも君の面白い体質については聞いている。ぜひ色々と試させてもらおう。」
あ、終わった。魔法実験に目のないシグウェルさんに私のこの知らなきゃ良かった体質は最悪の組み合わせだ。
これはリオン様達と同じかそれ以上のことになる。
イリューディアさん、よりによってこんなとんでもない隠し球の加護を付けてくれちゃってたとか・・・‼︎
どうにもならない悔し紛れの気持ちでシグウェルさんに抱えられたままキッと空を見上げたけど、そんな私が見上げた目の前では無情にも連れ込まれた寝室の扉が閉じられ鍵が掛けられたのだった。
ほえー・・・と大量の本が天井まで綺麗に納められた小さな図書館みたいな部屋をぐるりと見渡した私はその量に圧倒された。
私の前には両手を広げて誇らしげにあれこれと説明をしてくれているセディさんと、それを呆れたように書棚に寄りかかって眺めているシグウェルさんがいる。
ここはユールヴァルト領のシグウェルさんの実家だ。
リオン様達との結婚式の後、それぞれと過ごす休暇のうちシグウェルさんとの時間の前半はユールヴァルト領を訪問することに二人で話し合って決めていた。
到着早々に一族あげての大歓迎を受けるとそのまま前にシグウェルさんがちらっと言っていたようにユールヴァルト家のしきたりに従った三日三晩に渡る盛大な結婚式へとなだれ込んだ。
そして到着して四日目の今日、やっとお屋敷の中とかあちこちを見学させてもらっている。
個人的に気になっていたキリウ・ユールヴァルトの手記や手紙、残した書籍についてはその全てが勇者様に関する記録と共にこの部屋に詰まっていると案内してくれたセディさんは得意げだ。
ここにある大量の書物の量を見ても過去の世界のキリウさんは本当に勇者様・・・レンさんのことを大事にしてくれていたように見える。
たった一人でこの世界に降り立った時、そんな風に自分の背中を支えてくれる人がいるありがたさは今の私も良く分かる。
そして過去で実際にあの二人に出会い言葉を交わしたからだろうか。
文献や伝説の存在としてではなく生身の人間として短い時間だけど関わったおかげで、あの二人が私やレニ様と出会う前、出会った後、どんな風に過ごしていたのかも気になっていた。
「こんなにたくさんあるとどれから読めばいいのか迷いますねぇ・・・。やっぱりキリウさんの手記ですか?」
きょろきょろしていた私にセディさんはそれなら、と一冊の本を取り出した。
「これはどうでしょう?勇者様が国を平定して王位についた後、国のあちこちをキリウ・ユールヴァルトと巡って魔物退治をした冒険譚です!この書物を素地にした冒険の書、と呼ばれる書物が国内に流通していてそこに書いてあるような野営をして魔獣料理を作り、温泉につかるという勇者様の追体験をするのも人気なんですよ。確かナジムート前陛下も愛読されていたはずです!あと他にも」
「おい、話が長過ぎる。それはまだ続くのか?」
勇者様大好きで話の止まらないセディさんにシグウェルさんが呆れる。
いつも冷たいアメジストの瞳がより冷たい氷の刃のようにセディさんを鋭く射抜いているけど、慣れっこなのか当のセディさんはどこ吹く風と言った雰囲気だ。
それに業を煮やしたのか、シグウェルさんはセディさんが私に手渡そうとしていた本をパッと取り上げると私の手の届かない書棚の高い所へ隠してしまった。
「何するんですかシグウェルさん!」
せっかく面白そうな本だったのに。
ぴょんぴょん飛んで書棚に手を伸ばせばその手を取られる。
「君、それを読み始めたら絶対夜が更けても読み終わるまでずっと夢中になっているだろう?」
「そうかもしれないですね・・・?」
「じゃあ俺との時間はどうなる」
「え?」
「せっかくの休暇だというのに二人きりで過ごせずにもう三日も無駄にしているんだぞ?」
その言葉に何を言われているのか意味を掴みかねてパチクリと瞬いてしまった。
シグウェルさんの後ろではセディさんが、
「坊ちゃま、本家の伝統ある由緒正しい儀式を無駄呼ばわりだなんてご先祖様が泣きますよ!」
と注意しているけどそれは綺麗に無視して私に続ける。
「俺と一緒に夜を過ごすのに、その間もずっと読書をするつもりか?こっちは全くその気はないんだが。」
そう言われ、んぐっ!と言葉に詰まって頬が熱を持つ。
そ、それは今夜は君を寝かせないぜ、的な意味合いの?
「・・・結婚式で食べた金毛大羊のサシミは美味かっただろう?」
赤くなった私を見てシグウェルさんはなぜか急に話を変えた。
「あ、ハイそうですね。ホタテのお刺身をもっと甘く濃い味にしたみたいで口の中でとろけておいしかったです・・・」
「この三日間、毎日たくさん食べていたな?」
「す、すいません貴重なものなのに。あんまりにもおいしくてついおかわりを・・・」
「君、知っているか?あれは滋養強壮に優れていて精力剤的な効果もあるからああいう場で出されるんだ。」
「⁉︎」
私の顔が更に赤くなったのをシグウェルさんは面白そうに目を細めて見ている。
そうしてそっと私の耳の側に口を寄せるとセディさんに聞こえないように囁いた。
「君は体力がないからな。あれをたくさん食べておいて悪いことはない。ああ、俺のことは心配するな。魔法実験で徹夜にも慣れているし君も知っているように魔導士は基礎体力も大事だからその辺も俺はずば抜けている。」
何しろ君の召喚の儀を一人で支え切るだけの体力はあるからな、と言うと耳たぶに口付けてシグウェルさんは離れる。
や、やめてやめて!
脳内にここ6週間、リオン様とレジナスさんのそれぞれと過ごした休暇の思い出が蘇る。
何というか、それはもう大変だったのだ。その、夜の営み的な意味で。
あんまり考えないようにしていたけど、まさかここでもそうなるの?
この後にはまだ・・・というか、もしかすると一番面倒くさそうなシェラさんも控えているのに。
こ、怖っ‼︎そして何が怖いって私のこの体だ。
イリューディアさんが作ってくれたこの体はその加護もあって特別製だけど、それはただ丈夫で魔力枯渇にも強いだけだと思っていた。
それがここにきてそれ以外の特徴もあることに気付いてしまった。
その・・・何というか、ぶっちゃけていうと快楽に弱い。普段は何ともないのに、そういう雰囲気になるとアレなのだ。
それにあんまり痛みも感じないし、っていうか痛いとか疲れたとか思うとまるでリオン様の自己回復のように体が淡く光っては無意識に回復魔法を自分にかけてしまう。
初めてそれに気付いたのはリオン様と夜を過ごした時だった。
リオン様は面白そうに、
『それってやっぱり愛と慈しみの女神であるイリューディア神様からの贈り物なんじゃないの?』
とか言ってじゃあこれは?とかこういうのは?とかあれこれやりたい放題された。
勘弁して欲しい。しかもそれは多分四人の中でも情報共有されている。
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と恐ろしい犯行予告をされている。
そんな風に四人だけでも手に負えないのに一体勇者様は七人も奥さんがいてホントどうしていたんだろう。
どうにかこの爛れた生活から抜け出す方法はないものか。ヒントが欲しい。
その勇者様の冒険譚とやらには書いてないのかな⁉︎
やっぱり読みたい。
往生際悪く棚に手を伸ばせば、シグウェルさんに米俵のようにひょいと担ぎ上げられた。
「何するんですか!ちょ、この抱えられ方お腹が圧迫されて苦しいからやめて‼︎」
「君をこの部屋から遠ざけて別のことで気を逸らさないといけなそうだからな。このまま寝室まで運ぶ。」
「うそぉ‼︎」
「嘘じゃない。」
スタスタと歩くシグウェルさんに、セディさんも
「ああ、お部屋の方はいつでも快適にお過ごしいただけるようにしてありますから。後で着替えと軽食もお待ちしますね‼︎」
とサポートをする。
ま、まだ真っ昼間なんですけど⁉︎
「きっ、金毛大羊の移動を見に行く約束は⁉︎」
それも楽しみにこの領地を訪れたのに、まさか見に行けないの?と慌てれば
「そう焦るな。大移動は満月の夜だからあと四日ほどある。月光に照らされた金色に輝く羊の群れが移動する様は、まるで黄金の雲海が流れるのを見るようでそれは美しいぞ。期待していて損はない。」
そう言われた。それだけ聞けば夢のような光景で楽しみだけど。でも四日後⁉︎
「そ、それまではどう過ごすんですか?」
「それはごく普通に、新婚休暇の夫婦らしい過ごし方だな。殿下からも君の面白い体質については聞いている。ぜひ色々と試させてもらおう。」
あ、終わった。魔法実験に目のないシグウェルさんに私のこの知らなきゃ良かった体質は最悪の組み合わせだ。
これはリオン様達と同じかそれ以上のことになる。
イリューディアさん、よりによってこんなとんでもない隠し球の加護を付けてくれちゃってたとか・・・‼︎
どうにもならない悔し紛れの気持ちでシグウェルさんに抱えられたままキッと空を見上げたけど、そんな私が見上げた目の前では無情にも連れ込まれた寝室の扉が閉じられ鍵が掛けられたのだった。
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