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第十九章 聖女が街にやって来た

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銀の食器が触れ合う音、楽団の人達の奏でる優美な音楽、笑いさざめく人達の声。

晩餐会は滞りなく進んでいる。リオン様は隣に座るエリス様やその向こう側にいる陛下と会話をし、私はレジナスさん達にこれも食べろあれは食べたかと世話を焼かれていた。

まあなんて言うか私が食べ物を口に入れていたりリオン様がエリス様に話しかけているために、私とエリス様の会話がないのはそうやってわざと私達二人の接触を避けているような気がしないでもない。

でもこのままでいいのかな?

みんなは気を付けろって言うけどもう少し踏み込んで話してみたい気もする。

どうせなら私からも何か働きかけて話すきっかけくらいは・・・。

フォークを口に運びながらそんなことを思っていたら、

「・・・このお肉は随分とおいしいんですのね。脂がのっていて甘いのに後味もしつこくなくて。鴨でしょうか?」

エリス様の声にハッとした。食べ物の話なら私も当たり障りなく出来る。

打ち解けるチャンスかも、とリオン様の向こう側へ顔を覗かせて

「美味しいですよね!今日のためにノイエ領の御料場で育てている鴨の中でも良いものを選んだって聞きました。エリス様は鴨料理、お好きですか?」

勢い込んで話しかければ、突然エリス様に話を振った私にレジナスさんは驚いたのか飲もうとしてグラスに伸ばしかけていた手を止めた。

シェラさんやシグウェルさんも私は一体何を言い出したのかと思ったらしく、その視線を感じる。

だけどエリス様はお皿に乗った鴨肉を見つめたまま

「鴨といえば、リオン殿下は魔物討伐だけでなく鴨や鹿など狩りの腕前もかなりのものだとイリヤ皇太子殿下が自慢されておりました。ご兄弟の仲がよろしくて良いことですね。」

とリオン様へ微笑みかけた。

・・・うん。あれ?もしかして今の私の会話、微妙にスルーされた?気のせいかな⁉︎

リオン様もそう思ったのか、

「・・・そう言っていただけるのは嬉しいな。そういえばユーリやレジナスと遠乗りに行った王都郊外の湖にも鴨がいてそれを狩って食べたね。」

とエリス様へ頷くと私にも微笑んで見せた。

「そ、そうでした!あれもこの鴨肉に負けないくらい美味しかったですよね」

慌てて私も頷く。リオン様達と行った遠乗りというのはあれだ、シェラさんが買った無人島のあるリオネルの港町から帰って来てからの話だ。

するとエリス様は

「郊外の湖ですか?緑豊かで素晴らしい景色なのでしょうね。滞在中にぜひ訪れてみたいものですがいかがでしょうか。」

とリオン様を見つめた。あ、そこはやっぱり私じゃなくてリオン様と会話をするのね?

やっぱりさっきのは気のせいじゃなく無視されてたのかあ。うーん、ある意味すごく女子っぽい・・・!と逆に感心してしまった。

すると、多分目を丸くしていたんだろう私の表情がエリス様に見られるのはマズイと思ったのか、シグウェルさんが後ろから

「おい君、君がそっちを向いている間に君の好物が運ばれて来たぞ。食べなくていいのか?」

とリオン様の肩に手をかけ私とリオン様の間に身を乗り出すようにするとその視界を遮った。

「そうですよユーリ様、冷めないうちにオレが切り分けましょう。その可愛らしいお口を開けていただければ切り分けるだけでなく食べさせてあげますからね。」

シェラさんもそんな事を言って私の関心を料理に向けさせようとする。

いや何もそこまでして全力で私とエリス様の接触を避けなくても。

と、そこでエリス様が

「いかがです?ユーリ様もぜひご一緒しませんか?」

つい今しがたまで会話をスルーしていたのがウソのように私に話しかけてきた。

「え?」

「王都郊外の湖のお話です。ユーリ様もぜひ。それとも何かご予定でも?」

にっこりと微笑まれれば断る理由もない。

ご予定も何も、エリス様達が滞在中の私はじっと奥の院に引きこもっているだけなのだから。

「ええっと」

そこはリオン様の判断を仰ごうかな、とチラリとそちらを見ればその向こう側からアラム陛下が顔を見せた。

「ハッ、それはいい!ぜひとも私も同行させて欲しい。ルーシャ国ではどのような獲物が獲れるのか楽しみだ。どうだろうか殿下。エリスとユーリ様も親交を深められるし我々も狩りを楽しめる。」

そこまで言われてしまえばリオン様も断れない。

「・・・日程を調整しましょう」

そう答えるのが精一杯のようだった。

それを聞いたレジナスさんは俺が同行するから大丈夫だ、とこっそり私に囁いてリオン様へも頷いて見せていた。

シグウェルさんも「ユリウスの奴をつけるか?」と聞いてくれたけど大袈裟な気がする。

当然シェラさんも、オレも一緒に行きますよと笑ってみせてくれたけどなんかちょっとその目が笑っていない気がする。

えっ、まさか私の見てないとこでエリス様に危害を加えたりしないよね?

シェラさんはついて来ないでもらう方がいいんじゃないかな⁉︎

会話の無視から始まって最終的に何故か王都郊外の湖へ狩りを兼ねたピクニック的なものへ行くことになってしまったけど、その後は特にそれについて言及されることもなく晩餐会は進んだ。

ちなみにその後もデザートのシャーベットにかけるソースはフルーツとハチミツのどちらがいいか選ぶ段階で私がフルーツを薦めたのに対してエリス様はまたリオン様にどっちがお薦めか聞いていたけど・・・

私の声が小さくて聞こえていなかったに違いない、そういう事にしておこうと思う。

なんか私の隣でそれを見ていたレジナスさんがスプーンをくの字に曲げてしまって給仕さんに取り替えられていたり、背後ではシェラさんが

「あの両耳を貫通するような穴を開けて差し上げればユーリ様の美しいお声もよく聞こえるようになりますかねぇ」

と不穏な事を呟いていたり、シグウェルさんは

「むしろもう殿下を彼女に当てがった方がユーリにちょっかいを出されない可能性の方が高くないか?」

と再度リオン様のエリス様への色仕掛けを検討してしまったりと、私以外の周りがなんだか色々とアレだった。

そのおかげでかえって私の方が冷静になってしまったくらいだ。

エリス様に見えないように隣でリオン様も、ごめんねと言うようにこっそりと私の左手を握ってくれたのでそれだけでも充分だし。

何というかエリス様のそれは、女の子のかわいい嫉妬や当てつけみたいなものの上にリオン様の気持ちもそれに動かされていないのは分かっているから大丈夫。

平気ですよ。の気持ちを込めてリオン様の手をそっと握り返せば、それに気付いたリオン様は私を見つめて微笑んでくれた。

と、それを目ざとく見つけた陛下が

「お、なんだよリオン!ユーリちゃんの視線を独り占めしてんじゃねぇぞ、伴侶はお前だけじゃないんだからな!」

と大きな声でヤジを飛ばしたのですっかりいい雰囲気は台無しになっちゃったけど。

こういう若干デリカシーのないところが大声殿下と陛下は似てるよね⁉︎
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