【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera

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第十八章 ふしぎの海のユーリ

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シェラさんに連れられて坂道を登れば、立派な
石造りの門構えとそこから伸びる同じような石造りの
長い壁が現れた。

「ここは昔、海の魔物から町を守るための要衝だった
ところです。この防壁と門はその名残りですね。
館を守るのにちょうど良いのでそのまま残しておいて
あります。」

そのまま中へ進めば鮮やかな色とりどりの花が植えて
ある花壇が目に飛び込んでくる。

「王都近郊では見られない珍しい植生のものも
取り揃えて植えましたからね、きちんと根付くまで
もうすこしかかりますがその時にはもっとユーリ様の
目を楽しませてくれるでしょう。」

「丈夫に育つように加護を付けますか?」

せっかくこんなに綺麗に植えてくれたんだから
潮風にも負けず綺麗に咲き続けるようにしてあげよう
かな、と思って言ったらとんでもない。とシェラさん
は首を振った。

「せっかくの休暇ですから。この三日間はなるべく
ユーリ様のお力は使わずに過ごしていただきたいと
思っております。そのために殿下も髪飾りを渡して
くださったのでしょう?」

そう言って私の横髪に触れる。

王都を出る前にリオン様がくれた、私の力がこもって
いるあの髪飾りだ。

「この先何度もここを訪れることになるのですから
様子を見てみて、もし育ちが悪いようであればその時
ユーリ様にはお力を借りようと思います。」

お気遣いありがとうございますとシェラさんが
微笑んだ時だった。

足元に微かな振動を感じた。

抱き上げられている私が気付くくらいだから当然
シェラさんもエル君も気付いている。

「地震?」

火山が近くにあるわけでもないのに珍しい。
不思議に思っていれば、私以外の二人は少し深刻そう
な顔をしていた。

「この地域でそれはあり得ません。考えられるのは
魔物の影響ですが・・・」

だけど魔物も長い間この地域では姿を見ていないと
いう話だったよね?

もしかして例の歌で人を誘い出す魔物だろうか。

そう考えている間にも、振動はすでに収まってしまい
今は静かなものだ。

空を飛ぶ海鳥の鳴く声と波の音しかしない。

辺りを見回しても周りは海と・・・この島の対岸に
リオネルの港町が見えているだけだ。

「私達のいるお屋敷はここから見えないんですね?」

眼下にはお屋敷と港のちょうど境目になるようにあの
入り江が見えている。

私達がお世話になっているお屋敷はその入り江の
向こう側みたいだ。

今頃シグウェルさん達はその入り江を調べに行って
いるはずだけど・・・。

「あれ?」

その入り江が一瞬光ったような気がする。

「どうかされましたかユーリ様。」

入り江を見つめる私にシェラさんもそちらを見た。

「今あそこの入り江が光ったような・・・
えっ⁉︎」

話しながら見つめていた入り江の一部ががらりと
崩れたのが見えた。小さな土煙が上がっている。

「えっ、あそこって今シグウェルさん達がいるんじゃ
ないですか⁉︎」

慌ててシェラさんの腕の中から伸び上がって見て
みるけどよく分からない。

慌てる私と対照的にエル君は

「大丈夫です。崩れたのは外側のほんの一部のよう
です。万が一、入り口付近が崩れたとしてもあの
魔導士団長ならすぐに出て来れると思います。」

と冷静だ。

「閉じ込められている可能性が・・・⁉︎」

「最悪の場合です。そういう事態も想定して僕らは
動くので心配はいりません。むしろ心配なのはこの
リオネルの町で・・・」

エル君が話している途中、見つめていた入り江の
海側の方・・・つまり洞窟があるとすればその
入り口付近が外に向かって小さく爆発するように
土煙を吐き出したのが見えた。

「・・・ほら、大丈夫でしょう?あれは多分、
魔導士団長か副団長のどちらかが魔法で入り口を
こじ開けたんだと思います。」

「魔導士団長にしては随分と手加減しましたね。
彼なら入り江ごと吹き飛ばしてもおかしくないと
思うのですが。」

シェラさんも入り江を見ながら平然としているけど。

「いや、おかしいでしょう⁉︎休暇に来ただけなのに
調査だからって町の入り江を一つ吹き飛ばすとか
絶対にダメですよ‼︎」

この二人はシグウェルさんのやらかしに慣れ過ぎて
いてこの程度じゃ何とも思わないらしい。

まあ確かに、国中の魔導士の力を奪ったような人が
やったにしてはかわいい方に入るかも知れないけど。

ダメですよ!と声を上げた私にでも、とエル君は
小首を傾げた。

「あの団長ならもっと派手に入り江を吹き飛ばし
周囲の漁業にも被害を出してリオネルの町に損害を
与えていてもおかしくないです。僕はそっちの方を
心配していたので、この程度で済んで良かったのでは
ないですか?」

「そうですよ。恐らく休暇中のユーリ様に余計な心配
をかけないよう、彼も手加減したのだと思いますよ」

エル君の言葉にシェラさんも頷いた。

そりゃリオネルの町に被害がないのが一番だけど
普通の下調べ的な調査で町の地形を若干変えるとか
普通はないから。

「と、とにかくシグウェルさん達が気になるので
一度戻りましょうか。今度また後でゆっくりここを
見せて下さいね!」

せっかく連れて来てもらったのに結局庭を見ただけで
終わってしまった。

申し訳なく思ったけどシェラさんは気にする風でも
なくいいんですよと笑っている。

「ユーリ様と二人で出掛けることに意味があります
のでどうかお気になさらず。館の中はまだ完成して
おりませんでしたし、次にここを訪れる時はより
完璧な形でユーリ様にお目にかけますから。」

そう言われてさっそくお屋敷へと戻ることにした。

さっき感じた振動も、シグウェルさんが魔法を
使ったせいなんだろうか。

大丈夫だとは思うけど入り江が崩れて怪我でも
してなければいいなと心配して戻れば、

「いやあヒドイ目にあったっす!」

埃で汚れて水浴びをしたらしいユリウスさんが、
まだ濡れている頭からタオルをかぶって私達を
迎えてくれた。

「ユリウスさん!やっぱりさっきの入り江が崩れた
のは二人に関係あるんですか?」

「あれ、もしかして島からも見えてたっすか?
え?まさかそのせいで戻ってきちゃいました?」

こくりと頷けば、「うわあ申し訳ないことをした
っす!」と頭を下げられた。

「何かの影が見えたって言って団長が威嚇用に軽い
魔法を使ったんすけどそれが思ったより威力があって
崩れちゃったんすよ。あそこを壊すつもりはなかった
んすけど結局塞がった入り口を壊さないと洞窟の
中から出てこれなかったんで半壊っす!」

あれじゃ威嚇じゃなくて攻撃魔法っすよ、と呆れて
いるユリウスさんのところにシグウェルさんは
いない。

「シグウェルさんはどうしたんですか?」

「一応あの入り江の中の洞窟から持ち帰ったものを
調べてるみたいっす。それにしても地元の人達が
信仰に使ってる場所を半壊させるとか・・・
休暇なのに始末書書かなきゃいけないし、崩落で
海に何かしら変化があってもし漁獲量に影響したら
補償問題になるっすよ・・・!」

考えられる最悪の事態のあらゆるパターンを想定した
らしいユリウスさんが嫌そうな顔をした。

さすが、シグウェルさんの尻拭いに手慣れている。

エル君達は人が被害を受けるような最悪の事態が
起きないように考えて行動してるけど、ユリウスさん
はシグウェルさんが他人に迷惑をかけた場合の最悪の
事態を想定して動いてるんだなと思うとそのあまりの
違いに何というか・・・ご愁傷様です、という気分に
なった。

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