418 / 776
閑話休題 会議は踊る
3
しおりを挟む
シェラとシグウェルの二人は今、風呂がどうとか
言う話をしている。
「ユーリ様は温泉がお好きですからね。島の建物は
砦として使われていただけあって見晴らしは良いです
しノイエ領のように最上階に露天風呂を備え付ければ
水平線から昇る朝日も楽しめるでしょう。」
そんな風に言ったシェラは「湯上がりで薔薇色に
染まり上気した肌のユーリ様に、オレが用意した
果実水を飲んでいただくのが今から楽しみです」と
言えばそれを受けて今度はシグウェルが
「それならば果樹園も必要になるだろう。ノイエ領
の叔父上に話し、潮風にも強い良い苗木を今のうちに
取り寄せ魔法で育てておいた方がいい。」
と返している。頼むからその半分でもいい、普段から
そうやってもっと真面目に働いてくれ。
そう思っていたのは俺だけではなかった。
リオン様が
「まさか君達がユーリのことでそんなにも意気投合
するとは思わなかったけど、その能力をどうして
もっと国のために使ってくれないんだい?言って
おくけど、休暇は労働の対価だよ?何だっけ、・・・
ああそうだ。ユーリも言っていたね。パンを得るには
自ら歩けというやつだ。働かなければ君達の考えて
いるユーリとの楽しい休暇はあげられないよ。」
そう釘を刺した。ユーリと休暇を楽しく過ごしたい
のなら、まずは己に与えられた任務や仕事をきちんと
こなせ、もっと働けということだ。
するとシェラはそんなリオン様に対してスッと目を
細めるとサイドテーブルに置いていた布切れを手に
取った。
それはさっき無人島に関する書類と一緒にシェラが
持ち込んだものだ。
「島の設備や開発についてはオレとシグウェル魔導士
団長におまかせ下さい。リオン殿下にはこちらを。」
「またそうやって話を逸らそうとして・・・。
駄目だよシェラ、人の注意はちゃんと聞いて」
「こちらはユーリ様に纏っていただく下着や夜着の
生地見本になります。」
説教モードに入ろうとしたリオン様にとんでもない
ことをシェラは言い出した。
「・・・え?」
「伴侶ともなれば夜のことも考えなければいけません
からね。お好きな手触りのものをお選びください。
ああ、ご安心ください。どの生地もユーリ様のお肌を
傷付けない柔らかで摩擦の少ないものばかりです。
デザインもご希望があれば遠慮なくお申し付けを。
ユーリ様のサイズはきちんと把握しておりますから、
丈の長さから肌の露出の具合まで全てご希望通りに
オレが仕立てますよ。」
おい。何を言っているんだ。なんでお前が夜着どころ
かユーリの下着まで仕立てようとする?
ユーリの体のサイズを把握している事といい、
言っていることが色々とおかしくないか?
シェラの言葉の意味を測りかねたリオン様も一瞬
ぽかんとすると、次の瞬間にはぱっと頬を染めた。
「何を言ってるんだい君は!そんな物を作ってユーリ
に渡したりしたら、一週間は口を聞いてもらえなく
なるよ⁉︎」
「ですが自分の思う可愛らしい姿のユーリ様を見て
みたくはありませんか?大丈夫です、ユーリ様の今の
お姿のサイズも大きくなられた時のサイズもどちらも
正確に把握しておりますので両方とも作れますよ?」
「だからなんでどっちとも把握してるのさ、しかも
下着までとか・・・!」
怒りからなのか羞恥のせいなのか赤くなったままの
リオン様に怒られてもシェラはめげない。
「ちなみに皆さんにお配りした資料の下から5枚目に
両方のお姿の時のユーリ様の身長と体重、スリー
サイズが書いてあります。これからユーリ様にドレス
などを贈る際にはぜひとも参考になさってください。
なお、伴侶としての公平性を保つためと情報の共有化
をはかるためにこうしてオレの知るユーリ様について
の情報をお教えしています。
良かったですねオレが伴侶の一人に加わって。そうで
なければ知らないことも多かったでしょう?」
感謝の押し売りまでし始めたその物言いは面白く
ないが、好奇心に負けて俺達は三人ともシェラに
渡された紙の束の下から5枚目を見てしまった。
そうすると今までに何度か目にした大きい姿のユーリ
を思い出してしまう。
書類に書かれている数字とあの美しい姿の豊かな胸や
細くくびれた腰が途端に艶めかしい現実感を持って
想像されて、なんとなく落ち着かない気分になって
しまった。
シグウェルなどは、
「なるほど視覚から入ってくる情報に数字が伴うと
具体性が増すな。有益な情報に感謝する。ちなみに
手首周りのサイズも分かるか?」
などと聞いている。
「おや、ブレスレットでも贈られますか?勿論
分かりますよ。書類では省略しましたがご希望で
あれば手首だけでなく、指や足首周りのサイズも
お教えしましょう。ユーリ様のあの細い足首に金の
アンクレットを嵌めて差し上げるのも伴侶の特権
らしい感じがして良いですね。」
スリーサイズどころかもっと細かいところまで知って
いるこいつが恐ろしい。しかもそれを今まで黙って
いたとか。
リオン様も俺の隣で「こんなの、伴侶になって
いなければタチの悪い付き纏いか狂信者になって
いただけじゃないか・・・」と呟いている。
だがシェラはきっぱりと反論する。
「お言葉ですが殿下、オレはユーリ様を愛する者と
して誰よりもその全てを知っておきたいだけです。
本当は伴侶になった今は騎士など辞めてしまい朝から
ユーリ様のお世話し、その私生活と健康をしっかりと
お守りしお支えして家庭に入りたいくらいなのです。
ですがそうしないのは、ひとえにユーリ様がそれを
望んでいらっしゃらないからです。」
そりゃそうだ。ユーリだって家庭内でこんな変質者
じみた奴に四六時中付き纏われていても困るだろう。
「お前は外に出て働いてそのおかしな思考を仕事に
向けているくらいが丁度いい。騎士でいろと言う
ユーリの考えは正しい。」
ため息をついてそう言えば、
「ですがオレは家庭的な男です。人には適材適所が
ありますからね。オレが家庭を守り財力のある殿下が
生活費を担い、武力に優れたあなたと魔力に優れた
シグウェル魔導士団長がユーリ様を危険からお守り
する。ね?四人ともそれぞれ適任な配置でしょう?」
などと訳の分からない言葉を返される。
何かあればすぐにキレて他人を血祭りに上げる奴の
どこが家庭的だ?
「お前・・・そんな事絶対ユーリに言うんじゃ
ないぞ。」
「なぜです?」
「騙されやすいユーリのことだ、お前の甘言に
うっかり騙されてお前が主夫になるのに頷くかも
知れない」
「それのどこが悪いのです?」
むしろ望むところですが、とシェラは小首を傾げて
いる。
「そんなことになったら俺達が働いている間も
お前だけがユーリと一緒にいて、共にする時間が
長くなるだろうが。それは不公平だと思わないのか」
「なんだ、ただの嫉妬ですか」
フッとシェラが鼻で笑う。
「それならあなたもさっさとユーリ様のお部屋の
向かいにでも寝室を移すべきです。そうすれば今まで
以上にユーリ様と言葉を交わし触れ合える時間が
増えるでしょうに。一応遠慮してオレはそこではない
部屋にしたんですよ?」
そう言われて言葉に詰まる。
確かに俺はユーリが奥の院に移ったのに合わせて
ここに住み始めたが、それはあくまでも護衛騎士と
してだった。
なのでいまだに奥の院でもユーリやリオン様達の
暮らす本館とは離れた、侍従や侍女達の寝起きして
いる別館の一角にある騎士用の部屋に住んでいる。
そんなシェラの指摘にリオン様も同意した。
「それもそうだね。ユーリに受け入れられるや否や
すぐにシェラが越してきたくらいなんだから、それ
よりも前にグノーデル神様のお墨付きで伴侶として
認められている君がまだ別館にいるのはおかしいよ。
いい機会だから君も越してくればいい。」
そう言いながらリオン様はシグウェルにも、
「君はどうする?いまだに奥の院に越して来ないけど
それでいいのかい?」
とついでに聞いている。だがシグウェルは、
「魔法実験で魔導士院に泊まり込むことも多いので
今のところはまだこのままで結構です。ユーリの顔が
見たくなればいつでも寝室に行き、その寝顔でも
見られれば徹夜のいい気分転換にもなりますし」
と言ってリオン様を慌てさせた。
「何を言ってるんだい⁉︎君が突然寝室に現れたら
ユーリが驚くし、寝顔を見る?そんな夜這いまがいの
行動が許されるわけないだろう⁉︎」
「伴侶がその相手の寝顔を見られなければ、他に誰が
そんな権利を有しているのですか?」
気を許して無防備な相手の寝顔を見られるのは
伴侶だからこそでは?とシグウェルは主張する。
それを受けて今度はシェラが、
「なるほど。本格的に夜を共に過ごすのはユーリ様
にはまだ早いですが、まずはその私的な空間に共に
いることやただの同衾から始めて慣れていただけば
数年後にはすんなりと事が運びそうですね。」
などと不穏なことを言い出した。何を言ってるんだ
お前は。
リオン様も
「シェラ、君まで一体何を」
と言いかけたがシェラは素知らぬふりで続ける。
「リオン殿下はユーリ様の体調が優れない時期に
同衾されていますし、オレもベッドは別でしたが
モリー公国ではユーリ様と同室でした。であれば
ここは一つ公平に、レジナスとシグウェル魔導士
団長にもそのような機会があっても良いのでは?」
ユーリのために島を買ったという話がとんでもない
方向へと捻じ曲がってしまった。
一体どうして・・・と突然ユーリの部屋の向かいに
住まいを移すことになった上に一気に同衾の話まで
進んで呆然とする。
そんなオレにシェラは呆れて、
「レジナス、せっかくオレがここまで話を進めて
あげたのにいつまでそうやって恐ろしい顔をしたまま
赤くなっているんですか?顔つきがおかしなことに
なっていますよ。さあ、夜は短いのです。さっさと
正気に戻ってください、話を進めますから」
「は?・・・え、いや・・・」
まさかこいつ、今日は最初からユーリと部屋を共に
するところまで話を進めようと思って俺達を集めた
のか?
伴侶に選ばれたばかりだというのに性急過ぎる
だろうが。
まだ話についていけていない俺を見たシェラが
にんまりと微笑む。
「ユーリ様には求婚の際、その身も心も下さいと
オレは言いましたからね。心を手に入れたなら次に
いただくものに向けては周到な準備が必要です、
何しろユーリ様は恥ずかしがり屋ですからね。その為
には今からきちんとした計画が必要ですし、伴侶に
なった順もオレはわきまえていますから。あなたは
オレに感謝するべきですよ。」
つまりは将来的にユーリと夜を共にするその時は、
順番は俺の後でいいとシェラは言っている。
・・・いや。いやいや、まだ早いだろう⁉︎
「お前なぁ・・・!」
叱ろうと口を開きかければシグウェルが
「なるほど理解した。ではやはり夜着から選んで
おいた方がいいか?」
とリオン様の前にあるさっきの生地見本に手を
伸ばしている。
こいつはこいつで順応力が高過ぎる、シェラを
勢い付かせる最悪な組み合わせだ。
そしてシグウェルにつられてリオン様まで思わず
「えっ、ちょっと待って。その淡い紅色の生地の
ものは僕がユーリにプレゼントしたいんだけど」
と慌てている。その様子を見たシェラは
「いいですね。では下着もそれに合わせた色合いの
ものにしましょう。」
と満足げに頷いた。すっかり奴のペースだ。
そして「こうしてユーリ様について気兼ねなく
話し合える伴侶のみの集まりとは素晴らしいもの
ですね。定期的に開きたいものです」などと言う。
・・・ユーリ、シェラを伴侶に決めるのはまだ
早かったんじゃないか?
目の前の騒ぎを眺めながら俺はユーリの選択に
今回ばかりは心の中でそっと異議を唱えたのだった。
言う話をしている。
「ユーリ様は温泉がお好きですからね。島の建物は
砦として使われていただけあって見晴らしは良いです
しノイエ領のように最上階に露天風呂を備え付ければ
水平線から昇る朝日も楽しめるでしょう。」
そんな風に言ったシェラは「湯上がりで薔薇色に
染まり上気した肌のユーリ様に、オレが用意した
果実水を飲んでいただくのが今から楽しみです」と
言えばそれを受けて今度はシグウェルが
「それならば果樹園も必要になるだろう。ノイエ領
の叔父上に話し、潮風にも強い良い苗木を今のうちに
取り寄せ魔法で育てておいた方がいい。」
と返している。頼むからその半分でもいい、普段から
そうやってもっと真面目に働いてくれ。
そう思っていたのは俺だけではなかった。
リオン様が
「まさか君達がユーリのことでそんなにも意気投合
するとは思わなかったけど、その能力をどうして
もっと国のために使ってくれないんだい?言って
おくけど、休暇は労働の対価だよ?何だっけ、・・・
ああそうだ。ユーリも言っていたね。パンを得るには
自ら歩けというやつだ。働かなければ君達の考えて
いるユーリとの楽しい休暇はあげられないよ。」
そう釘を刺した。ユーリと休暇を楽しく過ごしたい
のなら、まずは己に与えられた任務や仕事をきちんと
こなせ、もっと働けということだ。
するとシェラはそんなリオン様に対してスッと目を
細めるとサイドテーブルに置いていた布切れを手に
取った。
それはさっき無人島に関する書類と一緒にシェラが
持ち込んだものだ。
「島の設備や開発についてはオレとシグウェル魔導士
団長におまかせ下さい。リオン殿下にはこちらを。」
「またそうやって話を逸らそうとして・・・。
駄目だよシェラ、人の注意はちゃんと聞いて」
「こちらはユーリ様に纏っていただく下着や夜着の
生地見本になります。」
説教モードに入ろうとしたリオン様にとんでもない
ことをシェラは言い出した。
「・・・え?」
「伴侶ともなれば夜のことも考えなければいけません
からね。お好きな手触りのものをお選びください。
ああ、ご安心ください。どの生地もユーリ様のお肌を
傷付けない柔らかで摩擦の少ないものばかりです。
デザインもご希望があれば遠慮なくお申し付けを。
ユーリ様のサイズはきちんと把握しておりますから、
丈の長さから肌の露出の具合まで全てご希望通りに
オレが仕立てますよ。」
おい。何を言っているんだ。なんでお前が夜着どころ
かユーリの下着まで仕立てようとする?
ユーリの体のサイズを把握している事といい、
言っていることが色々とおかしくないか?
シェラの言葉の意味を測りかねたリオン様も一瞬
ぽかんとすると、次の瞬間にはぱっと頬を染めた。
「何を言ってるんだい君は!そんな物を作ってユーリ
に渡したりしたら、一週間は口を聞いてもらえなく
なるよ⁉︎」
「ですが自分の思う可愛らしい姿のユーリ様を見て
みたくはありませんか?大丈夫です、ユーリ様の今の
お姿のサイズも大きくなられた時のサイズもどちらも
正確に把握しておりますので両方とも作れますよ?」
「だからなんでどっちとも把握してるのさ、しかも
下着までとか・・・!」
怒りからなのか羞恥のせいなのか赤くなったままの
リオン様に怒られてもシェラはめげない。
「ちなみに皆さんにお配りした資料の下から5枚目に
両方のお姿の時のユーリ様の身長と体重、スリー
サイズが書いてあります。これからユーリ様にドレス
などを贈る際にはぜひとも参考になさってください。
なお、伴侶としての公平性を保つためと情報の共有化
をはかるためにこうしてオレの知るユーリ様について
の情報をお教えしています。
良かったですねオレが伴侶の一人に加わって。そうで
なければ知らないことも多かったでしょう?」
感謝の押し売りまでし始めたその物言いは面白く
ないが、好奇心に負けて俺達は三人ともシェラに
渡された紙の束の下から5枚目を見てしまった。
そうすると今までに何度か目にした大きい姿のユーリ
を思い出してしまう。
書類に書かれている数字とあの美しい姿の豊かな胸や
細くくびれた腰が途端に艶めかしい現実感を持って
想像されて、なんとなく落ち着かない気分になって
しまった。
シグウェルなどは、
「なるほど視覚から入ってくる情報に数字が伴うと
具体性が増すな。有益な情報に感謝する。ちなみに
手首周りのサイズも分かるか?」
などと聞いている。
「おや、ブレスレットでも贈られますか?勿論
分かりますよ。書類では省略しましたがご希望で
あれば手首だけでなく、指や足首周りのサイズも
お教えしましょう。ユーリ様のあの細い足首に金の
アンクレットを嵌めて差し上げるのも伴侶の特権
らしい感じがして良いですね。」
スリーサイズどころかもっと細かいところまで知って
いるこいつが恐ろしい。しかもそれを今まで黙って
いたとか。
リオン様も俺の隣で「こんなの、伴侶になって
いなければタチの悪い付き纏いか狂信者になって
いただけじゃないか・・・」と呟いている。
だがシェラはきっぱりと反論する。
「お言葉ですが殿下、オレはユーリ様を愛する者と
して誰よりもその全てを知っておきたいだけです。
本当は伴侶になった今は騎士など辞めてしまい朝から
ユーリ様のお世話し、その私生活と健康をしっかりと
お守りしお支えして家庭に入りたいくらいなのです。
ですがそうしないのは、ひとえにユーリ様がそれを
望んでいらっしゃらないからです。」
そりゃそうだ。ユーリだって家庭内でこんな変質者
じみた奴に四六時中付き纏われていても困るだろう。
「お前は外に出て働いてそのおかしな思考を仕事に
向けているくらいが丁度いい。騎士でいろと言う
ユーリの考えは正しい。」
ため息をついてそう言えば、
「ですがオレは家庭的な男です。人には適材適所が
ありますからね。オレが家庭を守り財力のある殿下が
生活費を担い、武力に優れたあなたと魔力に優れた
シグウェル魔導士団長がユーリ様を危険からお守り
する。ね?四人ともそれぞれ適任な配置でしょう?」
などと訳の分からない言葉を返される。
何かあればすぐにキレて他人を血祭りに上げる奴の
どこが家庭的だ?
「お前・・・そんな事絶対ユーリに言うんじゃ
ないぞ。」
「なぜです?」
「騙されやすいユーリのことだ、お前の甘言に
うっかり騙されてお前が主夫になるのに頷くかも
知れない」
「それのどこが悪いのです?」
むしろ望むところですが、とシェラは小首を傾げて
いる。
「そんなことになったら俺達が働いている間も
お前だけがユーリと一緒にいて、共にする時間が
長くなるだろうが。それは不公平だと思わないのか」
「なんだ、ただの嫉妬ですか」
フッとシェラが鼻で笑う。
「それならあなたもさっさとユーリ様のお部屋の
向かいにでも寝室を移すべきです。そうすれば今まで
以上にユーリ様と言葉を交わし触れ合える時間が
増えるでしょうに。一応遠慮してオレはそこではない
部屋にしたんですよ?」
そう言われて言葉に詰まる。
確かに俺はユーリが奥の院に移ったのに合わせて
ここに住み始めたが、それはあくまでも護衛騎士と
してだった。
なのでいまだに奥の院でもユーリやリオン様達の
暮らす本館とは離れた、侍従や侍女達の寝起きして
いる別館の一角にある騎士用の部屋に住んでいる。
そんなシェラの指摘にリオン様も同意した。
「それもそうだね。ユーリに受け入れられるや否や
すぐにシェラが越してきたくらいなんだから、それ
よりも前にグノーデル神様のお墨付きで伴侶として
認められている君がまだ別館にいるのはおかしいよ。
いい機会だから君も越してくればいい。」
そう言いながらリオン様はシグウェルにも、
「君はどうする?いまだに奥の院に越して来ないけど
それでいいのかい?」
とついでに聞いている。だがシグウェルは、
「魔法実験で魔導士院に泊まり込むことも多いので
今のところはまだこのままで結構です。ユーリの顔が
見たくなればいつでも寝室に行き、その寝顔でも
見られれば徹夜のいい気分転換にもなりますし」
と言ってリオン様を慌てさせた。
「何を言ってるんだい⁉︎君が突然寝室に現れたら
ユーリが驚くし、寝顔を見る?そんな夜這いまがいの
行動が許されるわけないだろう⁉︎」
「伴侶がその相手の寝顔を見られなければ、他に誰が
そんな権利を有しているのですか?」
気を許して無防備な相手の寝顔を見られるのは
伴侶だからこそでは?とシグウェルは主張する。
それを受けて今度はシェラが、
「なるほど。本格的に夜を共に過ごすのはユーリ様
にはまだ早いですが、まずはその私的な空間に共に
いることやただの同衾から始めて慣れていただけば
数年後にはすんなりと事が運びそうですね。」
などと不穏なことを言い出した。何を言ってるんだ
お前は。
リオン様も
「シェラ、君まで一体何を」
と言いかけたがシェラは素知らぬふりで続ける。
「リオン殿下はユーリ様の体調が優れない時期に
同衾されていますし、オレもベッドは別でしたが
モリー公国ではユーリ様と同室でした。であれば
ここは一つ公平に、レジナスとシグウェル魔導士
団長にもそのような機会があっても良いのでは?」
ユーリのために島を買ったという話がとんでもない
方向へと捻じ曲がってしまった。
一体どうして・・・と突然ユーリの部屋の向かいに
住まいを移すことになった上に一気に同衾の話まで
進んで呆然とする。
そんなオレにシェラは呆れて、
「レジナス、せっかくオレがここまで話を進めて
あげたのにいつまでそうやって恐ろしい顔をしたまま
赤くなっているんですか?顔つきがおかしなことに
なっていますよ。さあ、夜は短いのです。さっさと
正気に戻ってください、話を進めますから」
「は?・・・え、いや・・・」
まさかこいつ、今日は最初からユーリと部屋を共に
するところまで話を進めようと思って俺達を集めた
のか?
伴侶に選ばれたばかりだというのに性急過ぎる
だろうが。
まだ話についていけていない俺を見たシェラが
にんまりと微笑む。
「ユーリ様には求婚の際、その身も心も下さいと
オレは言いましたからね。心を手に入れたなら次に
いただくものに向けては周到な準備が必要です、
何しろユーリ様は恥ずかしがり屋ですからね。その為
には今からきちんとした計画が必要ですし、伴侶に
なった順もオレはわきまえていますから。あなたは
オレに感謝するべきですよ。」
つまりは将来的にユーリと夜を共にするその時は、
順番は俺の後でいいとシェラは言っている。
・・・いや。いやいや、まだ早いだろう⁉︎
「お前なぁ・・・!」
叱ろうと口を開きかければシグウェルが
「なるほど理解した。ではやはり夜着から選んで
おいた方がいいか?」
とリオン様の前にあるさっきの生地見本に手を
伸ばしている。
こいつはこいつで順応力が高過ぎる、シェラを
勢い付かせる最悪な組み合わせだ。
そしてシグウェルにつられてリオン様まで思わず
「えっ、ちょっと待って。その淡い紅色の生地の
ものは僕がユーリにプレゼントしたいんだけど」
と慌てている。その様子を見たシェラは
「いいですね。では下着もそれに合わせた色合いの
ものにしましょう。」
と満足げに頷いた。すっかり奴のペースだ。
そして「こうしてユーリ様について気兼ねなく
話し合える伴侶のみの集まりとは素晴らしいもの
ですね。定期的に開きたいものです」などと言う。
・・・ユーリ、シェラを伴侶に決めるのはまだ
早かったんじゃないか?
目の前の騒ぎを眺めながら俺はユーリの選択に
今回ばかりは心の中でそっと異議を唱えたのだった。
93
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる