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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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誓いの言葉には口付けでお返しを。

そう言われてあっという間に口付けられ、背後で
軽やかな鐘の音がするのを聞きながら反射的に目を
つぶっていた。

すると優しく重なっていた唇を離したシェラさんが
ため息のような吐息をもらして

「ユーリ様」

となぜか話しかけて来る。

も、もういいのかな?びっくりしたぁ!と目を開けば
まだ目の前にあの色気ダダ漏れの顔があった。近い。

何かと思って見上げれば、

「目を開けていてください。あなたのその美しい瞳を
見たまま口付けたいです。」

そう言われて両脇に手を差し入れられると軽々と
持ち上げられた。

途端に視界が高くなって私の方がシェラさんを
見下ろすような格好になる。

突然のことに驚いたまま目を見開いていれば、
にっこりと嬉しそうに微笑まれる。

「そうです、そのままで。」

持ち上げられた私の体はそのままぐっと鐘へとまた
押し付けられて下から口付けられた。

あの金色の瞳が熱を帯びて潤んだように私を見つめて
いる。それはまるできらきら輝く星の光を間近で
見ているみたいだった。

私が今どんな顔をしているのかは分からないけど、
唇を重ねたままこちらを見つめているシェラさんの
目は嬉しそうに三日月の形に笑んでいる。

角度を変えて啄むように、軽い口付けを何度かされて
いや、もういいんじゃないかな⁉︎恥ずかしくて目を
開けてられないんですけど!とぎゅっと目を閉じよう
としたらぐいと更に鐘に体を押し付けられた。

そのまま深い口付けに変わり「なんで!」と抗議を
するようにシェラさんを見れば、その目がダメ
ですよ。と言っているのが分かった。

身じろぐ私の後ろで鐘がカラカラ、と不規則で
軽やかな音を立てている。

か、鐘に加護を付けるはずだったのにどうして
こうなったんだっけ・・・⁉︎

なんというか、シェラさんがその身に纏っている
色気通りにまるで酔いそうなほど巧みな口付けの
せいで頭がぼうっとする。

すると息継ぎが下手くそで苦しそうな私を見て限界
だと思ったのか、ようやくシェラさんが口付けから
解放してくれた。

・・・解放してくれたのは口付けからだけで、まだ
しっかりと抱え上げられたまま至近距離で下から
見上げられているけど。

くたんと力が抜けてまるでぬいぐるみみたいに
持ち上げられている私に、

「溢れんばかりのオレの嬉しい気持ちをこの程度の
口付けでしかお返しできない己の不甲斐なさを情け
なく思います。」

とシェラさんは微笑みながらも申し訳なさそうに
恐ろしいことを言った。

色気を溢れさせながら目を伏せるようにして話す
その様子は、いっそ照れているようにすら見える。

この程度・・・⁉︎あと何その態度。

「いっ、いやいやあの、不甲斐ないとかこの程度とか
そうして自分を卑下するのはシェラさんの悪いクセ
ですよ、もっと自信を持って・・・!」

なぜかよく分からない謎の励ましをしてしまった。

多分コーンウェル領で勇者様の結界付きの場所に
踏み込むのを躊躇したシェラさんを見た時に謎の
責任感が生まれて「励まさなきゃ!」って思った時
から、私の中ではシェラさんが落ち込んだり自分を
卑下している時は反射的に励ますモードになって
しまったのかも。

するとシェラさんは私の言葉にパッと顔を輝かせ

「お気に召していただけましたか?それは良かった、
その美しい瞳とお顔をオレにもっと見せて下さい。」

そう言ってまた口付けられた。いや、おかわりは
もう結構なんですけど!

私の謎の励ましはシェラさんをけしかけるだけの
ただのヤブヘビになってしまった。

誰が気に入ったからまた口付けてって言った?と
突っ込むわけにも、もう結構です!と止めるわけにも
いかない。

なにしろ何か言おうとして口を開けばすかさずそこへ
シェラさんの舌が入り込んで来て訳が分からなく
されてしまうのだから。

しかもタチの悪いことにレジナスさんと違って我を
忘れて歯止めが効かなくなっているんじゃなくて
確信犯の犯行だ。

私をジッと見つめながら反応を伺って、苦しそうに
見えたり限界だと思えば僅かに唇を離し息をさせては
また口付けられる。

ホントに厄介な人だ、受け入れなきゃ良かったかな
・・・⁉︎と一瞬思いかけたところで今度こそようやく
シェラさんの口付けから解放された。

ぐったりとシェラさんの肩に手を回したまま力なく
抱き着いてしまう。

多分このまま下ろされても足に力が入らなくて
立てない気がする。

シェラさんもそれが分かっているのか、体を預けて
いる私を優しく抱き締めながらあやすように背中を
ポンポンと叩いていた。

さっき泣いてしまったシェラさんを私が励ますように
背中を叩いたのとちょうど真逆だ。私も泣きたい。

「ひ、ひどいです・・・!まだやる事が残っている
のに。」

「申し訳ありません。あまりに嬉しかったもので。
オレが支えますから、このまま鐘に加護を付けられ
ませんか?」

そう言われてチラリと鐘を振り返る。

そちらに手を伸ばせば、触れやすいように縦抱きの
姿勢へとシェラさんが私の体を持ち替えてくれた。

やれやれ、やっときちんと自分の仕事ができる。

抱き抱えられたまま体をひねり、ぺたりと鐘に両手
と額を付けて目を閉じる。

・・・鳴り響く鐘の音がみんなの心を癒し、ヨナスの
古神殿までその音が届きますように。そしてその音は
悪いものを寄せ付けず、祓ってくれますように。

そう願い力を込めた。

この鐘はここを訪れた信者さん達が記念に祈りを
こめて鳴らしたり、結婚の誓いの時に使うみたい
だからきっと幸せそうな澄んだ音色になるだろう。

そんな事を考えていたら、なぜかさっき拾った花びら
を手に私を見つめてきたシェラさんを思い出して
しまった。結婚の誓いというのを考えてしまったから
だろうか。と、

「ユーリ様、鐘が金色に包まれて頭上から薄桃色の
花びらが舞い落ちてきておりますよ。なんて美しい」

シェラさんの声がした。慌てて目を開ければ確かに、
ちょうどいつものように金色の光が消えていくのに
あわせてどこからか降り注ぐピンク色の花びらも
溶けるように消えていくところだった。

だから私の力は思ったことが単純に反映され過ぎ
なんだってば。

「綺麗ですがなぜ花が降って来たのでしょう?」と
シェラさんは不思議そうにしているけど言えない。

力を使った時にシェラさんのことが頭に浮かんだ
からだなんて。

「とりあえず終わりました!おやつを食べに戻り
ましょう‼︎」

誤魔化すように声を上げる。
だけどなぜかシェラさんはその場から動かない。

また何かを考えている。
え、今度は何?

縦抱っこされた腕の中、思わず身構えていると

「やはり・・・」

ぽつりとシェラさんが呟いた。

「やはり証人が欲しいですね。」




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