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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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「今回は恐らく神殿にお世話になり、そこで寝泊まり
することになるでしょう。シンシア達が着くまでは
巫女達がユーリ様のお世話をするはずです。」

大声殿下からの勅令書だというあの紙を持って来た
シェラさんにそのままさっきから私は向こうへ行く
打ち合わせと説明を受けている。

「慣れないだろうけど少しだけ我慢してねユーリ。
シンシア達が着くまでの辛抱だから。」

そう言ったリオン様が私の髪を撫でる。

「は、はい」

そう、なぜか説明を聞く私はリオン様の膝の間に
座らされていた。

「あの、落ち着かないんですけど。」

普通に座って話を聞かせて欲しい。だけどリオン様は

「まあまあ」

とか言ってお構いなしだ。そんな私達をシェラさんは
羨ましげに見ながら話を続ける。

「イリヤ殿下の指示を受けてユリウス副団長の他に
宮廷魔導士団と騎士団からは五人ずつを選び、すでに
彼らは準備を終えて出発しています。オレとユーリ様
が向こうに着くまでには更に詳しい下調べも済ませて
くれているはずですから、詳しい作戦については
それを聞いてから決めましょう」

ユリウス副団長もさきほど出立したようです、と
リオン様にも説明している。

ユリウスさん、ついさっきまでここでリオン様達に
報告をしていたはずなのにもう出たの?大忙しだ。
それだけ大変な事態だと言うことだろうけど。

「向こうへ着くまでは馬で二日ほどかかりますが、
オレ達の出発が多少遅れていてもダーヴィゼルドへも
使ったあの脚の速い馬ならば先行したユリウス副団長
達にそう遅れることもなく着くはずです。」

ですからそう慌てずにお支度をして下さいね。と
シェラさんは私に微笑む。

行く道も山の中というよりもわりと平坦な整備された
街道を行くらしいので、ダーヴィゼルドの時のように
馬の上で休みながらの強行軍をしなくて良いと言う。

私の着替えやら何やらお世話道具一式を持った
シンシアさんやマリーさんはそんな私達の後から
馬車で来るそうだ。

そして神殿で寝泊まりする私は神官さん達の宿舎
みたいな所にお世話になる。

神官さんや巫女さんが男女別れて寝起きをするそこは
さすがに男性のシェラさんがいつものように気軽に
入って来ておはようからおやすみまで私の世話をする
わけにはいかないらしい。

護衛だからという理由で、男の子だけどエル君だけ
特別に私の泊まる場所への出入りが許されたという。

「オレがお世話をせず他人の手にユーリ様を預け
なければならないなど心配でなりません。彼女ら
ではユーリ様にお出しする朝のお茶一つ取っても
お好みの温度でなど出せないでしょうし、お目覚め
を促すためのお手を揉みほぐすマッサージにも快適な
強弱などつけられないでしょう。」

そうシェラさんは首を振って心から残念そうにして
いるけど。

「そもそも非常事態で行くのにそんな過剰なお世話は
望んでませんからね⁉︎」

そういえばシェラさんに朝のお世話をされながら
鏡の前に座っている時、毎回出てくるお茶はいつも
熱すぎずぬるすぎずのちょうどいい温度だったなと
そのセリフで思い出しながら文句を言う。

シェラさんは言われなければ気付かないそんな
細やかな気配りに本当に長けている。

だけどリオン様の目の前でそんな事を言ったら私が
他の場所へ視察に行くと、シンシアさん達じゃなく
シェラさんにいつも朝からお世話をされているように
誤解される。

・・・あれ?誤解じゃないのかな?シンシアさん達
がいようがいまいがお世話されてる?

よく分からなくなったけど、これだけは言える。

膝の間に私を座らせているリオン様が羨ましいから
そんな余計な事を言って、二人でいる時はいつも
自分が朝から私にくっ付いていますよと言う主張と
言うか対抗意識だ。

恐れもせずによくリオン様にしれっとそんな事を
言えるなあとある意味感心する。

もしここにユリウスさんがいたら真っ青になって
この二人を見ているところだ。

「今回の件が終わるまでは私情を挟まないんじゃ
なかったのかな?」

私が分かるくらいだから当然リオン様にもそれが
伝わっているだろう。

背後に座っているから顔は見えないけど何となく
リオン様の微笑みが黒く深くなったような気がする。

だけどシェラさんはしれっと

「申し訳ありません。残念に思う気持ちが出過ぎて
しまいました」

なんて、全然申し訳なさそうに言って続ける。

「今回はヨナス神の力が相手ということもあり、
ダーヴィゼルドでの例も踏まえてオレ達だけで
対処が難しい場合は魔導士団長にも協力を頼んで
あります。」

「シグウェルさんも来てくれるんですか?」

そうなら心強いんだけどなあ。そう思った私に
いえ、とシェラさんは首を振った。

「さすがに王都を不在にさせるわけには行きません
ので、必要な時はユリウス副団長に連絡を取って
もらい魔法陣で魔道具や魔石を転送してもらうつもり
です。ちなみに万が一に備えてユーリ様が大きく
慣れるあの飲料も、すでにユリウス副団長が向こうへ
持ち込んでおりますよ。」

「出来ればそれは最終手段にしたいですねぇ・・・」

大きくなってグノーデルさんの力が使えればヨナスの
影響を無くすことなんて簡単だろうけど、如何せん
周りに与える被害が大き過ぎる。

ダーヴィゼルドは山の中だったし、コーンウェルでは
城壁はあったけど人がいなくて民家もない場所だった
から山に大穴を開けても更地を谷間にしてしまっても
そこに住む人達に迷惑はかかってなかったけど。

だけど今回は小さいとはいえ集落の中にある神殿が
目的地だ。

さすがにそこに大穴を開けるのはまずいだろう。

「大きくなるかどうかは状況を見てからにします」

さすがになりふり構っていられないほどなら仕方ない
けど、そうでなければ今の姿のままで何とかしたい。

そう言った私をシェラさんはじっと見つめる。

「あの燃える星の輝きのように美しい金の瞳を
見られないかと期待しておりますが、それは余程の
時でなければないと言うのが少し残念ですね。」

「むしろそんな事になればよほど深刻な事態だって
ことですから期待なんかしないで下さいね⁉︎
そんな深刻な事態にしない為に行くんですよ?」

念を押せば、私に怒られるのが嬉しいのかもの凄く 
良い笑顔で申し訳ありませんと謝られる。

さっきリオン様に全然申し訳なさそうじゃない心の
こもっていない謝罪をしたのとえらい違いだ。

「・・・ちゃんと私の言うこと聞いてくださいね?」

なんだか心配になってきた。もう一度さらに念を
押したけど、分かっておりますよとシェラさんには
良い笑顔で返されて、私の後ろでレジナスさんが

「この胡散臭い笑顔に騙されるなよユーリ」

と呟いた忠告が聞こえた。



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